シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社は「不動産投資家が気候変動に対して真の影響をもたらすことが可能な理由とは?」のタイトルで8月27日に発表したレポートで、「建設・不動産セクターは世界における炭素の主要な排出源。これは不動産の投資家が気候変動に対して多大な変化を与えることができる存在であることを意味する」という主張を展開している。
全世界の二酸化炭素排出量の38%(英国では42%)は建設・不動産セクターから発生している。不動産からの炭素排出削減は、利益を享受するためにコストがかかると一部の投資家の間では考えられているが、シュローダーは異を唱える。「効率性の評価が高い建物は、通常、賃料水準が高く、ランニングのコストが低く、テナントにとって魅力的であり、全体的な収益の向上に繋がる」という理由だ。
温室効果ガスや二酸化炭素(CO2)の排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにするという概念を指す「ネット・ゼロ」は、気候変動そのものと気候変動が引き起こす環境破壊を抑制させるために必要な手段として、世界的なスローガンになりつつある。多くの国の政府が炭素排出量を削減することを主要な取組として位置付けており、今後、数年間で温室効果ガス排出をネット・ゼロにすることを約束している。先日、気候変動によって発生する潜在的なコストが再び話題になり、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、最新の報告書で具体的な行動を促している。同社はこうした動きを「不動産投資家にとって考慮すべき事項」と強調する。
通常、変化を生み出すための主な原動力は、排出量を削減するための法律や規制を通じて国家レベルで策定される。一方、企業および従業員レベルでの意識を高めることを目的としたイニシアチブとして、国連グローバル・コンパクト(Act Nowキャンペーン)がある。アマゾンが共同設立し、調印した気候変動に関する誓約はこれをさらに一歩進めたものだ。気候変動に関する誓約は2040年までに企業や組織が事業全体でネット・ゼロとなることを求めており、パリ協定の達成目標を10年前倒しして、2040年までにネット・ゼロ・カーボンを達成するという大胆な目標を掲げている。結果、ますます多くの企業が、事業領域全般において炭素排出とサステナビリティに関する目標を積極的に設定するようになり、ロンドン中心部にある既存オフィス物件(2030年まで賃貸契約を結んでいる物件)のうち、約130万㎡以上が、現時点でネット・ゼロを約束した企業または「科学的根拠に基づく目標」に署名した企業によって賃借されている。
最新の調査によると、サステナブルなオフィスは、サイクル全体を通じて高い賃料水準、リース速度の改善、低い空室率を組み合わせることで、具体的に経済的メリットを得ることが可能で、サステナビリティを戦略の目的とする不動産投資家は、その恩恵を享受することができる。反対に、不動産投資においてサステナビリティへの取組みが急速に拡大しているため「何もしないことは選択肢になり得ない」状況になりつつある。立地やタイプを問わず、居住者や不動産投資家、もしくは法的にサステナビリティ基準を満たさない資産は、老朽化資産または座礁資産と見做され、資産価値が影響を受けると同社は厳しく予測する。
欧州の金融業界でのサステナビリティ開示規制(SFDR)は、サステイナブル投資に関するEUの規制基準として2021年3月に適用が始まり、投資マネージャーおよび機関投資家は、世界規模の気候危機を回避し、あらゆる場所で高まる不平等についての問題を克服するための行動の必要性を受け入れた。「このような変化はプライベート市場にとって大きなチャンス。英国における2030年に向けた目標に貢献するため、不動産投資家はセクター全体において前向きな変化を推進する立場にある。ESGの目的と投資家のインセンティブは完全に一致しており、サステイナブルな投資戦略には、その投資サイクル中に達成できる多くの経済的利益があるだろう」と同社。
コストを回避して静観するか、変化を起こせるチャンスととらえ行動するか。日本の不動産投資家も選択肢として意識しておくべきだろう。
【関連サイト】シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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