欧州連合(EU)の排出量取引制度(EU ETS)に廃棄物焼却施設を組み込むことで、2040年までに最大年間3,200万トンのCO₂排出削減と2万人超の雇用創出が可能になるとする調査結果を、オランダの調査機関CE Delftが6月19日に発表した。
同報告書は、Zero Waste EuropeおよびReloopの委託により作成されたもので、炭素価格の導入が廃棄物焼却抑制に与える影響を分析。EU ETSへの廃棄物焼却施設の追加を2028年から実施した場合、2030年には400万〜700万トン、2040年には1,800万〜3,200万トンのCO₂削減効果が見込まれるという。
こうした削減は、焼却処理にかかるコスト上昇によって実現される。例えば、2030年の予想ETS価格(トンあたり108ユーロ)では、焼却コストが1トンあたり74〜132ユーロ上昇。2040年には同184ユーロまで価格が上昇し、125〜225ユーロのコスト増が見込まれている。
企業の産業廃棄物に対しては特に強い削減圧力がかかるとされ、2030年には15〜28%、2040年には22〜41%の削減効果が見込まれる。一方、家庭ごみの削減率は2.8〜8.7%と限定的にとどまる。これは企業がコストに敏感で、合理的に廃棄物削減策を取るためと説明されている。
また、焼却前にプラスチックを分別する選別施設への投資も加速する可能性がある。スウェーデンでは、ETS導入後に実際に分離施設への投資が進んでおり、欧州全体で年間200万トンのCO₂削減につながる可能性があるという。
雇用面でもリサイクルは焼却よりも労働集約的であるため、2030年までに8,700〜1万6,400人、2040年には1万1,600〜2万1,700人の新規雇用が創出されると試算。市民の健康面でも、焼却灰の削減や有害物質排出の抑制による改善が期待されている。
Zero Waste Europeは今回の調査結果を受け、ETS導入に加えて以下の補完政策の導入を提言している:
- プラスチック製品への再生材使用の義務化
- 拡大生産者責任(EPR)制度の拡充
- 従量制ごみ処理料金(PAYT)の域内全域での導入
- 分別収集容器の料金引き下げなど
現時点でEU ETSは電力、製鉄、セメントなどの大規模排出施設を対象としており、都市ごみ焼却施設は対象外。欧州委員会は2026年までに廃棄物部門の組み込み是非を検討することになっており、今回の調査は今後の政策議論への影響が注目される。
【参照URL】Waste Incineration under the EU ETS

HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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