カーボンニュートラル・脱炭素に向けたアパート経営の炭素貯蔵効果とは?

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近年、地球温暖化への対策の一環として、脱炭素化という考え方や取り組みが推進されています。さらに一歩進んで、カーボンニュートラルという考え方も広まってきています。

カーボンニュートラルとは、CO2排出を絶対値でゼロにするのは不可能であるとの前提の下、CO2の排出抑制と同時に、再生可能エネルギーによるエネルギー産出などを通じてCO2削減に貢献し、排出量と削減量をネットして実質的なCO2の排出量をゼロ以下にしようとする取り組みです。

2023年時点、日本では2050年のカーボンニュートラル達成を目指しています。その中で、不動産業界においてもカーボンニュートラルへの貢献が検討されています。例えば、木造アパート経営においては、炭素の貯蔵効果や、太陽光発電の活用、ZEH-M基準の充足などによりカーボンニュートラルへの貢献が可能です。

今回はカーボンニュートラルの日本における考え方や、木造アパート経営におけるカーボンニュートラルのポイントを紹介していきます。

目次

  1. 日本におけるカーボンニュートラル・脱炭素化の推進
    1-1.菅政権が2050年までのカーボンニュートラル達成を目標として掲げる
    1-2.カーボンニュートラル達成に向けた具体的なプロセス
  2. 不動産投資におけるカーボンニュートラル関連の政策の方向性
    2-1.住宅・建築物における省エネ対策の強化
    2-2.再生可能エネルギーの導入拡大
    2-3.吸収源対策(木材の利用拡大)
  3. アパート経営でできるカーボンニュートラルの推進
    3-1.木造アパートの炭素貯蔵効果
    3-2.太陽光発電の設置による再生可能エネルギー産出の拡大
    3-3.新築アパートでZEH-M要件を満たせば補助金を受給できることも
  4. まとめ

1 日本におけるカーボンニュートラル・脱炭素化の推進

カーボンニュートラルとは、CO2をはじめとした温室効果ガスの排出量から吸収量を引いたガスの量をゼロ以下に抑える取り組みのことで、近年ではこれが実質的な脱炭素化と考えられています。

まずはカーボンニュートラル・脱炭素化に関する日本の取り組みと、不動産投資との関連性についてみていきましょう。

1-1 菅政権が2050年までのカーボンニュートラル達成を目標として掲げる

2020年の菅政権において、2050年までにカーボンニュートラルを達成するための取り組みを進めると発表しました。現代社会において、温室効果ガスは主にエネルギーの産出や使用を通じて発生しており、経済産業省の試算によるとメタンガスなど温室効果ガス全般で85%、CO2で93%がエネルギー分野から排出されているとしています。

エネルギーの産出・使用に伴う温室効果ガス排出の抑制が最優先に掲げられ、特に重点的に対策が策定されました。2018年時点では、下記の通り10.6億トンのCO2が排出されていると試算されており、これを2030年までに9.3億トンに減らす目標です。

その後排出抑制と一部残ったCO2の吸収や貯蔵を通じて、2050年にカーボンニュートラルの達成することを目標としています。

※出典:経済産業省「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた需要側の取組

1-2 カーボンニュートラル達成に向けた具体的なプロセス

エネルギーの産出・使用に伴う温室効果ガス排出の抑制が最優先に掲げられ、具体的には、次の4つの手法を組み合わせて、カーボンニュートラルを推進する方針です。

  • 燃料における化石燃料の使用削減
  • 再生可能エネルギーの普及による化石燃料由来の発電の削減
  • 植物を活用したCO2の吸収・貯蔵
  • CO2の回収や貯蔵・再利用

部門別の炭素排出量の内訳と今後の目標

まず、民間・産業では膨大なガスや石油などの化石燃料を使用していますが、電化することで、直接的な化石燃料の使用量を抑えます。同様に2023年時点では発電所にて多くの化石燃料を消費していますが、これについても太陽光、風力などの再生可能エネルギーに置き換えることも重要です。

ただし、エネルギーの置き換えだけでは2050年時点にCO2の排出をゼロにはできない見通しです。そのため、都市部を中心に植林・木材を増やすことで、CO2の吸収・貯蔵を促進する取り組みも合わせて進められる計画です。

最後に、地下空間など外気に漏れるリスクのない場所にCO2を圧縮、貯蔵する「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)」と、さらに回収したCO2の再利用を意味する「CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)」といった技術が2023年時点で開発中です。2050年までにはこうした人工的なCO2の回収・貯蔵・再利用の技術を実用化し、CO2の削減を加速させる見通しとなっています。

2 不動産投資におけるカーボンニュートラル関連の政策の方向性

日本全体のカーボンニュートラル達成に向けて、不動産分野でも貢献する余地は大きいとみられています。

ここからは、日本の不動産分野に今後期待される3つの脱炭素化に向けた取り組み方針について、主なものを紹介します。

2-1 住宅・建築物における省エネ対策の強化

まず、これから建設する住宅および建造物の省エネ性能の強化を推進する方針です。具体的には6つのカテゴリでまとめられています。

  1. 省エネ性能の底上げ
  2. 省エネ性能のボリュームゾーンのレベルアップ
  3. より高い省エネ性能を実現するトップアップの取組
  4. 機器・建材トップランナー制度の強化等による機器・建材の性能向上
  5. 省エネ性能表示の取組
  6. 既存ストック対策としての省エネ改修のあり方・進め方

引用:国土交通省「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方の概要

① 省エネ性能の底上げ

「① 省エネ性能の底上げ」では、2025年までに住宅の省エネ基準への適合を義務化する方針を掲げています。

省エネ基準とは、「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」(建築物省エネ法)に定められたもので、日本全国の気候条件などを加味しながら、外皮性能と住宅全体で使用するエネルギー量などにより基準を設定しています。

また、省エネ基準を段階的な引き上げも検討事項になっています。大規模建築物から開始し、徐々に一般住宅の基準も引き上げる予定です。また、2030年までには、省エネ基準をZEH/ZEB水準まで引き上げる目標も掲げられています。

このZEH/ZEB基準は、家もしくはビル全体のエネルギー消費と太陽光発電などによるエネルギー収支がゼロになることを目指した指標です。同指標を達成する物件が増えれば、不動産セクターにおけるカーボンニュートラルが大きく前進することになります。

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②省エネ性能のボリュームゾーンのレベルアップ

「②省エネ性能のボリュームゾーンのレベルアップ」においては、まず、先に紹介した通常の省エネ基準より厳しい規定となっている、長期優良住宅、低炭素建築物等の認定基準を、省エネ基準に先行してZEH/ZEB基準まで引き上げる方針です。これを推進するためにZEH/ZEB適合の住宅やビル建設の支援継続や充実化も見込まれています。

③より高い省エネ性能を実現するトップアップの取組

さらに「③より高い省エネ性能を実現するトップアップの取組」では、ZEHよりも基準の厳しいZEH+適合住宅や、建設・使用・廃棄のサイクルの中でトータルのCO2の収支をマイナスにすることを目指すLCCM(Life Cycle Carbon Minus)住宅などの普及を推進するとしています。

④機器・建材トップランナー制度の強化等による機器・建材の性能向上

また「④機器・建材トップランナー制度の強化等による機器・建材の性能向上」とあります。建設にかかる機器・建材を進化させることで資源消費の抑制や工期を短縮し、CO2排出を抑えたり、ここまで紹介した省エネ性能やZEB/ZEH水準の住宅を増やそうとする狙いです。

⑤省エネ性能表示の取組

「⑤省エネ性能表示の取組」では、特に新築の住宅及び建築物の販売や賃貸において、省エネ性能表示の義務化を目指すものです。なおこの方針に沿って、2021年月より建物の省エネ性能について、建築士から施主への説明が義務化されています。

⑥既存ストック対策としての省エネ改修のあり方・進め方

最後に「⑥既存ストック対策としての省エネ改修のあり方・進め方」では、国や自治体が連携して、既存建築物や住宅の省エネ改修を推進することが掲げられています。また、窓の改修や耐熱性能の改善、老朽化した物件の建て替え促進なども行う方針です。

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2-2 再生可能エネルギーの導入拡大

住宅の省エネ性能を高めるとともに、再生可能エネルギーの普及により化石燃料由来のエネルギー使用をおさえる取り組みも進められています。特に家屋の屋根に設置できる太陽光発電の普及に関する方針が多くを占めています。

  1. 太陽光発電の活用
  2. その他の再生可能エネルギー・未利用エネルギーの活用や面的な取組

引用:国土交通省「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方の概要

①太陽光発電の活用

「①太陽光発電の活用」では数多くの方針が示されています。全家屋への設置義務化という極端な方針も検討されましたが、これは推進するうえで課題が多いとの意見があり、まずは導入拡大を推進することでまとめられています。

なお、東京都では一歩進んで、2025年4月から大手ハウスメーカー施工の新築住宅では太陽光発電の設置が義務化される予定です。また、太陽光発電を普及させるために、ZEB/ZEH基準充足の住宅・ビル建築の補助・減税支援などを拡充する取り組みも推進します。

加えて、PPA(Power Purchase Agreement)モデルと呼ばれる仕組みの定着・普及も要件の一つに。これは、初期費用ゼロで太陽光発電を設置し、設置会社から太陽光で発電された電力を購入する仕組みです。導入すれば初期費用をかけずに太陽光発電を導入できるうえ、長期的な電気代の削減にもつながります。

②その他の再生可能エネルギー・未利用エネルギーの活用や面的な取組

他方「②その他の再生可能エネルギー・未利用エネルギーの活用や面的な取組」では、太陽熱の給湯・暖房への再利用が期待されています。太陽熱を効率的に再利用するシステムができれば、熱源に利用するエネルギーの使用を削減可能です。

また、集合住宅における電気や熱エネルギーの融通ができる仕組みの促進も掲げられています。集合住宅全体の再生可能エネルギーの産出・消費を一元管理すれば、一棟全体でのエネルギー収支を効率化できると期待されているのです。

2-3 吸収源対策(木材の利用拡大)

建材に木を使用すると、その木がCO2を吸収して、長期的にカーボンニュートラルに貢献することができます。そのため、住居においては木造建築の促進が要件の一つとなっているのです。

まず、 木造建築物の建築基準を合理化し、木造を選択しやすい仕組みに変えていく方針です。例えば従来は木材=燃えやすいとの前提から、耐火構造・準耐火構造において使用できない決まりがありました。

しかし、現在では木材を燃えにくい素材に加工する技術が進歩していることから、耐火性の高い建造物への使用余地が拡大しています。なお、一軒家だけでなく中高層住宅での木造建築も推進する方針です。

その他、木材は過去には自然破壊の温床となった時代もあった背景から、木材の安定調達や枠組みの整備や、地域材の積極的な活用による運搬コストも含めたLCCM性能評価の普及なども目指されています。

3 アパート経営でできるカーボンニュートラルの推進

ここまで紹介してきた国の方針をふまえて、アパート経営におけるカーボンニュートラルの着目ポイントを整理しました。アパートは木造で建築される物件が多いため、炭素の貯蔵効果が見込まれる点もポイントです。アパート経営は、不動産投資の中でもカーボンニュートラルへの貢献の余地が大きい投資の一つといえるでしょう。

3-1 木造アパートの炭素貯蔵効果

国の方針でも「木造建築の推進」が掲げられていますが、これは木のままで建材として使用すると、そこにCO2が貯蔵されるからです。

生きている植物が光合成をおこなってCO2を吸収する仕組みをもつことはよく知られていますが、木材に加工された後でも吸収されたCO2が建材の中に残存します。

木造とその他の材質の住宅の炭素貯蔵量

※和歌山県 森林・林業局 林業振興課「地球温暖化防止と木材利用」を参照し筆者作成

他の素材では、加工過程で多くの炭素が放出されてしまうため、木材は他の材質よりも炭素の貯蔵量が多い傾向に。貯蔵量の多い木材を積極的に使用したほうが、建物のライフサイクル全体で見ると炭素の放出を抑えることができます。この考え方により、木造アパートはLCCM(Life Cycle Carbon Minus)を満たしやすいと期待されています。

3-2 太陽光発電の設置による再生可能エネルギー産出の拡大

これからのアパート経営においては、太陽光発電の設置も視野に入れたいところです。具体的な発電容量は建築条件や日照条件にもよってくるものの、屋上に太陽光発電を設置することで売電収入を獲得できます。

アパートに大家として自分も居住する区画がある場合は、その部分の電力消費に太陽光発電による電力を充当して電気代を削減することも可能です。

また、太陽光発電を設置することで、アパートのエネルギー収支ベースでの化石燃料の消費が実質的におさえられるため、カーボンニュートラルへの貢献ができるのです。太陽光を発電を通じて、収入の拡大と地球環境への貢献という二つを両立できる可能性があります。

なお、太陽光発電に関しては発電パネルの製品寿命が課題として取り上げられることがあります。太陽光パネルの製品寿命は約25~30年(法定耐用年数は17年)となっており、今後発生する廃棄物に対する地球環境への影響が指摘されています。

これに対し、環境省では「太陽光発電設備のリサイクル等の推進に向けたガイドライン」より、使用済再生可能エネルギー設備の解体・撤去、収集・運搬、処分の一連の工程に関する、リサイクルを含む適正処理の推進に向けたロードマップを策定しています。効率的なリサイクルの技術革新、リサイクルの義務化なども検討されており、今後も注視していきたいポイントになっています。

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3-3 新築アパートでZEH-M要件を満たせば補助金を受給できることも

賃貸物件の脱炭素基準としてZEH-Mが定められています。ZEH-Mでは、外皮(外壁や屋根など家の外側部分)の断熱性能と、一次エネルギーの削減率の基準が定められています。エネルギー消費については、再生可能エネルギー以外のエネルギー使用を基準値対比20%抑えたうえで、エネルギー使用量と、再生可能エネルギーによる産出量を0以下にしなければなりません。

その他、Nearly ZEH、ZEH Ready、ZEH Orientedといった基準があります。それぞれ、消費エネルギーと再生可能エネルギーによる産出量をネットしたあとの実質的なエネルギー使用量における、基準値対比で求められる削減幅が異なります。

アパート経営者の視点で見ると、特に新築を建設する場合には、ZEHに関わる補助金の獲得にもつながります。例えば令和3年度では1~3層の場合で、Nearly ZEH-M以上を充足するアパート建設においては、戸数×50万円の補助金が支給される仕組みでした。

補助金は毎年募集されており、国としては一般社団法人環境共創イニシアチブがおこなっています。2023年1月時点で2022年度の募集は終了しているので、2023年度以降の募集についてこまめに確認しましょう。

このほか、自治体ごとに個別の補助金を設定している場合もあります。アパート建設を予定している地域の補助金制度を確認されておくと良いでしょう。

4 まとめ

日本全体が2050年までのカーボンニュートラル、脱炭素社会の達成を目指す中で、不動産業界においてもさまざまな側面で脱炭素化に向けた変革が求められています。アパート経営者の視点で見れば、木材の積極的な利用や、太陽光発電の設置、ZEH-Mの要件充足などにより、カーボンニュートラルへの貢献が可能です。

太陽光発電による売電収入や補助金の獲得など、カーボンニュートラルの推進は投資家としてもメリットのある対策といえます。持続的な社会の形成に向けた日本の取り組みに対して、アパート経営の側面からの貢献を検討するのも一案です。

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伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。