ESG不動産投資の関連指標「ZEH」「BELS」「GRESB」「LEED」の違いは?

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さまざまな領域でESGに対する意識が高まる中、不動産投資においてもESGに対する取り組みを評価に加える動きが活発化しています。不動産投資におけるESG評価では、独自の評価指標をしばしば参照します。

特に多くの投資家が活用している不動産関連のESG評価指標は「ZEH」「BELS」「GRESB」「LEED」4つです。今回は、こちらの4つの指標についてそれぞれの違いを紹介していきます。

目次

  1. 「ZEH」はエネルギー収支をゼロ以下にする住宅
    1-1.ZEHのESG不動産投資における活用法
  2. 「BELS」は省エネルギー性能の高い建物の認定制度
    2-1.BELSのESG不動産投資における活用法
  3. 「GRESB」は企業やファンドの運営状況も加味して評価
    3-1.GRESBのESG不動産投資における活用法
  4. 「LEED」は建物と敷地利用の環境性能を評価
    4-1.LEEDのESG不動産投資における活用法
  5. まとめ

1 「ZEH」はエネルギー収支をゼロ以下にする住宅

ZEHは「ゼロ・エミッション・ハウス」の略で、地球温暖化の原因となるガスを排出しない、もしくは産出において二酸化炭素を排出するようなエネルギーを一切使わない家を意味します。

実際には一切エネルギーを使わないのは不可能なので、次の3つのプロセスを経て、エネルギー収支(消費量と産出量)をゼロ以下にできる住宅が認定されます。

  • 省エネ
  • 断熱
  • エネルギー創出

LED照明や熱効率の良い給湯システム、消費電力の小さい空調システムなどを導入する「省エネ」や、建物の構造を工夫し冷暖房の使用頻度や使用量を抑制する「断熱」はいずれもエネルギー消費の削減に寄与するものです。

さらに太陽光や風力など再生可能エネルギーの発電設備を敷地内の屋上や余剰スペースを活用して設置しエネルギーを創出します。省エネとエネルギー創出によりエネルギー収支をゼロ以下にできれば、ZEHの認定を受けられます。

ZEHはHが「ハウス=家」を意味するように、主に居住施設に適用される指標です。ただしアパートやマンションについてもZEHの適用を受けられる、主に賃貸住宅や戸建てを保有して不動産投資を行う人にとっては重要な指標です。

なお、ZEHの考え方自体は海外にもありますが、この後紹介する認定制度や補助金は日本の環境省が独自におこなっている制度となっています。

1-1 ZEHのESG不動産投資における活用法

ZEHは賃貸住宅を活用して不動産投資を行う人にとって、次のような形で活用すれば、ESGに貢献しながら、不動産投資の収益性を高めたり、長期的に賃貸ニーズを見込めるようになる可能性があります。

  • 新築時に補助金取得を目指す
  • 環境に優しい中古物件を探す手掛かりにする
  • ZEH認定をアピールして入居者を募る
  • 再生可能エネルギーの売電料金を得る

ZEHのうち、集合住宅を対象としたZEH-Mの認定を受けたマンションや低層住宅および戸建て建設において事業者に補助金を支給する制度があります。補助金を活用して実質的に物件の建築コストを引き下げられます。(※参照:一般社団法人環境共創イニシアチブ「令和4年度 環境省によるZEH補助金」)

なお、2022時点ではZEH補助金を受給するためには、次に紹介するBELSをはじめとした第三者認証を受ける必要があります。環境省の公募要領に明記されている第三者認証がBELSであるため、実務上はZEH認定を目指す事業のほとんどがBELSを取得します。

また、中古物件を取得する際にESGに貢献すべく環境性能の高い物件を探す場合も、ZEH認定の有無が物件探しの手掛かりとなります。

エネルギー収支がゼロ以下であることを意味する「ZEH」は環境に優しい物件として入居希望者にもアピールできます。近年は環境意識の高い人も増えてきましたので、ZEH取得は入居者を獲得するうえで役に立つでしょう。

最後に、ZEH物件には太陽光発電など再生可能エネルギーの発電設備が設置されています。同設備の有効活用すれば、売電料金の獲得により収益性を高めることも可能です。

2 「BELS」は省エネルギー性能の高い建物の認定制度

BELSはBuilding-Housing Energy-efficiency Labeling Systemの略称で、省エネルギー性能の高い建物を5段階評価で認定する制度です。一般社団法人 住宅性能評価・表示協会が運営している日本独自のものとなっています。

BELSは「BEI」という計算式の数値をもとに、5段階の星で認定します。

BEI=(設計一次エネルギー消費量)÷(基準一次エネルギー消費量)
*分母・分子いずれも家電・OA機器分を除く

この数値の分子が低いほど基準値より、エネルギー消費量の少ない省エネな建物ということになるため、高い星が付与されます。

BELSのランク

ランク 住宅 非住宅1* 非住宅2*
★★★★★ 0.8 0.6 0.7
★★★★ 0.85 0.7 0.75
★★★ 0.9 0.8 0.8
★★ 1.0 1.0 1.0
1.1 1.1 1.1

※参照:一般社団法人 住宅性能評価・表示協会「BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)
*非住宅1は事務所・学校・工場など、非住宅2はホテル・病院・飲食店・百貨店・集会所など

非住宅の項目があることからわかるように、こちらはZEHと異なり、商業施設や公共施設などあらゆる建物が認定を受けられます。なお、一つ星は既存の建造物のみが認定を受けることができますが、新築は二つ星以上の基準を満たさなければ認定は受けられません。

また、ZEHの補助金を受けるために必要な第三者認証にBELSが当てはまるため、BELSを取得したうえでZEH補助金認定を目指す事業者も多くなっています。BELSは省エネルギーの性能評価であって、エネルギー創出やエネルギー収支の要件はないため、ZEHは事実上のBELSの上位互換として機能しています。

2-1 BELSのESG不動産投資における活用法

個人の不動産投資におけるBELSの活用方法は概ねZEHと同じですが、エネルギー創出の性能は関係ない点に注意が必要です。

  • 新築時にZEH補助金の要件を満たすために取得
  • 環境に優しい中古物件を探す手掛かりにする
  • 省エネ物件をアピールして入居者を募る

近年は再生可能エネルギーによる発電性能も加味されたZEH/ZEBの普及が進んでいるため、実態としてはBELSとZEHの認定を受けて補助金取得を目指すケースが多くみられます。

但し、再生可能エネルギー設備を物件に搭載すると、単なる省エネ性能よりも大幅に建築コストがかかるため、費用対効果を勘案してBELS認定のみを検討するのも一つの戦略となります。

中古物件を探すときに環境性能の高い物件を探すうえでもBELSの星の数が役立ちます。BELS認定の住宅では省エネで暮らすことができるため、住民は光熱費を節約できます。環境保護への貢献と、光熱費の削減といったポイントをアピールすれば、入居者を募るうえでも役に立つでしょう。

3 「GRESB」は企業やファンドの運営状況も加味して評価

GRESBは2009年に欧州の年金基金が中心となって設立したもので、「Global Real Estate Sustainability Benchmark(グローバル不動産サステイナビリティ・ベンチマーク)」の略です。

企業やREITをはじめとした不動産投資ファンドのESGに対する取り組みを年次で評価し、レーティングを公表しています。

GRESBの評価は、物件・建物単位ではなく会社やREIT単位で行われるため、組織全体のESGに対する取り組みや管理状況、リスクマネジメントなどが評価に加味されます。また、世界各国の機関投資家が評価しているため、投資家目線を意識した評価項目となっている点も大きな特徴といえるでしょう。

GRESBには大きく分けて「GRESBリアルエステイト」と「GRESBインフラストラクチャー」の2種類がありますが、不動産投資において着目すべきはGRESBリアルエステイトです。GRESBの評価は大きく二つの尺度によっておこなわれます。

GRESBの評価尺度

  • マネジメントコンポーネント(MP:Management & Policy)
  • パフォーマンスコンポーネント(IM:Implementation & Measurement)

マネジメントコンポーネントはESG経営の実施状況が評価されます。サステナビリティに関するポリシーの整備具合や運営・管理体制、情報開示の状況などが主な評価項目です。一時の取り組みだけでなく継続的な管理・情報開示状況まで評価されるため、高評価の高い企業にはESGへの持続的な貢献が期待できます。

パフォーマンスコンポーネントでは実績ベースでのESGへの貢献を評価します。こちらは、より不動産物件の性能にフォーカスした評価軸です。

最終評価は5段階の星によるレーティングで、評価の高かった企業・ファンドから5スターを最上位として、20%刻みでつけられます。また、マネジメント、パフォーマンスの両方のコンポーネントで上位50%以上の評価を得た企業やファンドにはグリーンスターの称号が与えられます。

※参照:GRESB

3-1 GRESBのESG不動産投資における活用法

GRESBは不動産企業やREITへの投資を検討する投資家にとって特に有効な指標です。特にJ-REITにおいては多くのファンドが積極的に評価を取得していて、2022年12月時点では最上位の5つ星を獲得するファンドも出てきています。

J-REIT大手5法人のGRESBレーティング

J-REITファンド名 レーティング GreenStar取得状況
日本ビルファンド投資法人* 5Star
7年連続
日本プロロジスリート投資法人 5Star
8年連続
ジャパンリアルエステイト投資法人 5Star
8年連続
野村不動産マスターファンド投資法人 5Star
7年連続
日本都市ファンド投資法人 5Star 〇*
6年連続*

*2021年時点、無印の部分は2022年時点

REIT投資においてESGを意識して投資先を選別する場合には、投資物件だけでなく運営状況まで評価に含まれるGRESBを活用するのも一つの選択肢です。GRESBは国際的な評価尺度でありながら、多くのJ-REITが取得しているため、J-REIT同士の比較や投資先の選別においても活用しやすい評価制度となっています。

4 「LEED」は建物と敷地利用の環境性能を評価

LEEDは、米国グリーンビルディング協会が運営する環境性能の高い不動産の認定制度で、Leadership in Energy and Environmental Designの略です。建物本体に加えて、敷地全体の活用度合いも評価項目に含まれているのが特徴となっています。

米国発祥の評価制度ですが、現在では世界各国の不動産が認定を受けています。日本でも認証件数が徐々に増加していて、2022年12月時点で累計216件のプロジェクトが認定されています。本国アメリカでは2022年3月時点で約7.7万件ものプロジェクトが認定を受けています。(※参照:USGBC

開発内容に応じて、次のように6つの認定システムに分かれているのが特徴です。

LEED認定プログラム

プログラム 対象
BD+C 大規模な商業施設・公共施設の新築・改修
ID+C 商業施設や宿泊施設などの内装
O+M 既存ビルの運用やメンテナンス
ND 近隣開発
HOMES 住宅・中低層の集合住宅
Cities and Communities 都市計画や地域コミュニティ開発

それぞれのプログラムについて、以下の項目における環境性能の高さをスコア化します。

  • 統合的プロセス
  • 立地と交通
  • 敷地選定
  • 水の利用
  • エネルギーと大気
  • 材料と資源
  • 室内環境
  • 革新性
  • 地域別の重みづけ

それぞれのスコアの合計により、標準、シルバー、ゴールド、プラチナの認定を行います。世界中の不動産が認定を受けているため、グローバル基準で環境性能の高さを比較できるのが特徴です。

4-1 LEEDのESG不動産投資における活用法

LEEDはまだ日本の物件の取得例が少ないため、REITなどのファンドを通じた不動産投資をおこなう時に参考にするのがよいでしょう。ただし、LEEDは不動産の物件単位で認定を受けるものなので、ファンドに組み入れられている不動産の認定状況を参照することになります。

すなわち、LEEDには次のような活用法が考えられます。

  • J-REITでLEED認証物件へ投資するファンドを購入する
  • 海外REITに投資する投資信託などを選ぶ時に参照する

日本国内の認定事例がまだ少ないなかで、既に取得済の物件は環境性能の向上に対して、先進的な取り組みをおこなっている物件とみることができるでしょう。こうした物件へ投資するJ-REITを選択すれば、ESGに貢献するファンドに投資可能です。

また、海外REITは日本から直接投資するのが難しいこともあり、個人投資家が入手できる情報にも限りがあります。そのような中で海外REITのESGへの取り組みを評価するときに、ファンド投資先物件のLEED取得状況を参照するのも有効な手法の一つです。海外REITへ投資する投資信託を選んだり、評価したりするときなどに活用してみるとよいでしょう。

5 まとめ

不動産業界てESGへの関心が高まる中、ESGを評価する指標も複数運営されており、その中には国内のみで運営されているものと、グローバルに活用されているものがあります。

また、不動産物件を評価対象とするものと、組織体制まで評価する指標があるなど、それぞれが異なる特徴を持っています。運営地域や評価対象の違いを踏まえて、自分にあった指標を参考にすることが大切です。

自分の投資先や現物投資、ファンド投資などの投資手法の違いを踏まえて、それぞれに適した不動産のESG指標を活用しましょう。

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伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。