不動産業界では、脱炭素化などに向けた取り組みが急拡大しています。中でもZEH(ゼッチ)は不動産領域における脱炭素に向けた対策の一つとして注目度が高く、戸建だけではなく集合住宅も支援の対象になったことからZEHマンションの開発も始まっています。
今回のコラムでは、不動産投資としてZEHマンションに投資する方法や、ZEHマンションを建築するデベロッパーについても紹介します。
目次
- ZEHマンションとは
1-1.ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の特徴
1-2.ZEHマンションの広がり
1-3.ZEHマンションのシリーズ別基準 - ZEHマンションを用いた不動産投資
2-1.不動産投資におけるZEHマンションの特徴
2-2.ZEHデベロッパーから物件を探す方法 - ZEHマンションを扱う不動産投資会社
3-1.グローバル・リンク・マネジメントの「アルテシモ中野(仮称)」 - まとめ
1 ZEHマンションとは
ZEHマンションとは、ZEHの基準に対応したマンションのことですが、具体的にどのようなマンションのことを指すのか、まずはZEHに関する基礎的な情報から確認していきましょう。
1-1 ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の特徴
ZEHとはNet Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)のことで、ゼッチと呼ばれています。エネルギー収支をゼロ以下にする住宅を意味しており、具体的には断熱性能を高めたり、エネルギー効率の高い設備を導入するなどで省エネ化する一方、太陽光発電などで創エネ(電気を作る取り組み)を行う住宅のことです。
住宅の省エネおよび省CO2化に向けた経済産業省、国土交通省、環境省による3省連携の取り組みで、経済産業省資源エネルギー庁のホームページでは下記のように定義しています。
ZEHとは、「外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギー等を導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支を正味でゼロとすることを目指した住宅」とする。
※引用:経済産業省資源エネルギー庁「ZEHの定義(改訂版)〈戸建住宅〉」
また、このZEHを導入することによって、次の3つのメリットがあるとしています。
- 経済性:高い断熱性能や高効率設備の利用により、月々の光熱費を低く抑えることができる。太陽光発電などで売電を行った場合は収入を得ることもできる。
- 快適・健康性:室温を一定に保ちやすく、快適な生活が送れることに加えて、ヒートショックによる心筋梗塞などの事故のリスクを軽減できる。
- レジリエンス:災害が発生した際に停電になっても、太陽光発電や蓄電池を活用することができる。
建築物を建てたり、人々が生活するには環境への悪影響が懸念される二酸化炭素を排出することになります。
一方、再生可能エネルギーを導入することで、脱炭素社会の実現に貢献する建造物を建てることができます。日本政府ではZEHの普及を進めており、不動産投資の領域にも広がりつつあります。
1-2 ZEHマンションの広がり
ZEHが日本国内で広がるきっかけとなったのは、2012年に開始したZEH住宅を取得する人や、既存の住宅をZEH化する人に対する補助金制度「ZEH支援事業」(執行団体:一般社団法人環境共創イニシアチブ)です。
その後、2016年に大手ハウスメーカーなどが一斉にZEHを取り入れた住宅を発表し、拡大していきます。経済産業省資源エネルギー庁などが発表した「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス実証事業調査発表会2021」によると、2020年度にハウスメーカーが新築した注文戸建て住宅のうち約56%がZEHとなっています。
このような流れの中で、2018年にはZEH支援事業が戸建住宅だけではなく、マンションなどの集合住宅に対象を拡大することになります。それがZEHマンションです。三井不動産や住友不動産、積水ハウスなどのデベロッパーなどでは、新たに開発するすべての物件でZEHマンションの基準の一つである「ZEH-M」仕様を標準化するといった方針も公表しています。
1-3 ZEHマンションのシリーズ別基準
ZEHマンションには評価する際の基準を設けており、建築するマンションを「外皮性能」と「省エネ性能」に合わせて「ZEH-M」「Nearly ZEH-M」「ZEH-M Ready」「ZEH-M Oriented」の4つにシリーズ分けしています。
これは集合住宅の規模が大きくなるに連れ、住宅の創エネによってエネルギー消費量をまかなうことが難しくなるためです。つまり、6階以上の集合住宅が対象となる「ZEH-M Oriented」の場合は省エネ率が20%、1〜3階が対象となる「ZEH-M」の場合は100%以上といったように、規模が大きくなると基準が緩和される仕組みになっています。
シリーズごとの主な違いは、下記のような住棟と住戸での省エネ率の違いです。
シリーズ | 住棟での省エネ率 | 住戸での省エネ率 | 住棟での評価における目指すべき水準 |
---|---|---|---|
ZEH-M | 100%以上 | 100%以上 | 1〜3階建 |
Nearly ZEH-M | 75%以上100%未満 | 75%以上100%未満 | 1〜3階建 |
ZEH-M Ready | 50%以上75%未満 | 50%以上75%未満 | 4〜5階建 |
ZEH-M Oriented | 20%以上 | 20%以上 | 6階以上 |
※参照:経済産業省資源エネルギー庁「 ZEHの定義(改訂版)〈集合住宅〉」より抜粋
なお、「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス実証事業調査発表会2021」では、2020年度のシリーズ別の棟数が公表されています。それによると、「ZEH-M」が88棟で36%、「Nearly ZEH-M」が122棟で49%、「ZEH-M Ready」が10棟で4%、「ZEH-M riented」が27棟で11%となっています。
2 ZEHマンションを用いた不動産投資
ZEHマンションの概要について把握できたところで、不動産投資としてZEHマンションに投資することについて紹介していきます。
2-1 不動産投資におけるZEHマンションの特徴
これまで紹介したように、ZEHマンションは環境性能に優れており、ESGの観点からも重要な位置を占めることも考えられます。ZEHマンションを用いた不動産投資にも波及し始めており、下記のようなメリットが想定できます。
- マンション投資を通じて社会貢献活動ができる
- 物件の快適性が向上し、高稼働が見込める
- 環境に配慮した生活を望む入居者のニーズを満たせる
- 競合物件との差別化ができる
- 金融機関からの融資が獲得しやすくなる
- 1棟物件の場合は売電収入が得られるケースもある、など
このようなZEHマンションを用いて不動産投資を始める方法について、次の項目で紹介していきます。
2-2 ZEHデベロッパーから物件を探す方法
ZEHを建てるには詳細な基準があるため、ZEHを導入したい事業者は事前に登録する仕組みになっています。この仕組みは2016年から始まっており、一戸建てを建てるハウスメーカーや工務店は「ZEHビルダー」として登録しています。
一方、マンションなどの集合住宅を建てるためには、事前に申請して「ZEHデベロッパー」として登録する必要があります。つまりZEHデベロッパーとして登録された事業者が建てたマンションのみ、ZEHマンションとして認められるということです。
つまり、ZEHデベロッパーの動向を調べることで、投資先となり得るZEHマンションを確認することができるのです。
このZEHデベロッパーは、「一般社団法人環境共創イニシアチブ」のホームページでも公開されており、法人名などや本社所在地などで検索することも可能です。「マンションデベロッパー等(D登録)」と「建築請負会社等(C登録)」の2つに区分されており、2022年10月27日時点ではそれぞれ次の事業者数が登録されています。
- 総件数:162件(重複含む)
- マンションデベロッパー等(D登録):109件
- 建築請負会社等(C登録):86件
下記の表は、知名度の高いZEHデベロッパーのZEHマンションに関する情報をまとめたものです。
デベロッパー | 関連サイト |
---|---|
近鉄不動産株式会社 | ZEH-M Oriented (ゼッチ・マンション・オリエンテッド)への取り組みについて |
住友不動産株式会社 | 「ZEH-M Oriented」を標準仕様化 |
積水ハウス株式会社 | 分譲マンション「グランドメゾン」2023年度にすべてZEH仕様に |
大和ハウス工業株式会社 | ZEH-M(ゼッチ・マンション:集合住宅のネット・ゼロ・エネルギー化) |
東急株式会社 | ZEH-M(ゼッチ・マンション)の普及に向けた取り組み |
長谷工コーポレーション | ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)への取り組み |
三井不動産レジデンシャル株式会社 | ZEHへの取り組みについて |
三菱地所レジデンス株式会社 | 業界初、電力のCO2排出量実質ゼロのZEHマンション誕生! |
物件を選ぶ際は、それぞれのホームページでZEHマンションの情報を公開しているので、不動産投資を行うことを見据えて物件を比較するといいでしょう。
なお、「ZEH支援事業」の執行団体である一般社団法人環境共創イニシアチブでは、ZEHマンションには「BELS及びZEH-Mマーク」の表示を求めています。そのため「BELS及びZEH-Mマーク」の表示の有無でも、ZEHマンションかどうかを判断することができます。
3 ZEHマンションを扱う不動産投資会社
前述したデベロッパーの他に、主に投資用マンションを供給する不動産投資会社もZEHマンションの開発を行っています。この項目では、ZEHマンションを扱う不動産投資会社について紹介していきます。
3-1 グローバル・リンク・マネジメントの「アルテシモ中野(仮称)」
株式会社グローバル・リンク・マネジメントは、東京都内を中心に投資用マンションを供給している不動産投資会社です。長期にわたって資産価値が継続するよう、「駅から徒歩10分圏内(駅からチカい)」「ターミナル駅まで30分前後(都心からチカい)」「高い地価(チカ)」の3チカ物件の開発に特化していることが特徴です。
また環境や社会への貢献に向けて、新たに企画・開発を手掛ける新築物件はBELS4つ星以上やZEH-M Orientedなどの環境対応を標準仕様とすることを宣言しています。
同社では、「アルテシモ中野(仮称)」(鉄筋コンクリート造地上11階建て)というZEHマンションが2023年に竣工予定としています。BELSで最高位の5つ星を取得し、同社開発物件として初めてZEH-M Orientedも取得しています。
メゾネットならではの開放感ある造りながら断熱性能を高めているほか、高効率の冷暖房施設やLED照明の採用などで、単位面積当たりの一次エネルギー消費量が26%程度削減される見通しとなっています。
まとめ
環境への負荷を軽減するために、脱炭素社会に向けた活動への注目度も高まっています。建設に伴う環境負荷が大きい不動産投資において、不動産投資を行う投資家にとっても、今後注視していきたいポイントと言えるでしょう。
投資的な観点からも、金融機関から融資を受けやすくなったり、入居者のニーズを満たせる可能性もあります。長期的な視点で投資判断を行う場合、環境負荷の少ない不動産への投資は一つの選択肢となり得ます。
今回のコラムでは、ZEHマンションに投資する方法や、ZEHマンションを扱う不動産投資会社も紹介しました。ZEHマンションへの投資をご検討の際は、ご参考ください。
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倉岡 明広
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