近年取り組みが積極化しているダイバーシティは、SDGsを実現するうえで欠かせない考え方の一つです。企業経営や社会形成の枠組みの中で意識されることが多い取り組みですが、不動産経営の領域で貢献する方法もいくつかあります。
不動産経営でダイバーシティを推進することで、様々な属性の方の住居確保を行いやすくなったり、安心して暮らせる世の中の形成に役立ちます。今回は不動産経営におけるダイバーシティの取り組みについて紹介します。
目次
- 不動産経営とダイバーシティ
1-1.ダイバーシティは人間の多様性を尊重すること
1-2.不動産経営のダイバーシティとは?
1-3.ダイバーシティを推進するメリット - 不動産経営におけるダイバーシティの取り組み5選
2-1.入居審査条件の緩和
2-2.外国人が契約しやすい物件に
2-3.性別に関わらず住みやすい物件に
2-4.高齢者やハンディキャップを負う方にやさしい物件に
2-5.住居確保が難しい方向けの住宅を提供する方法も - まとめ
1 不動産経営とダイバーシティ
ダイバーシティとは日本語で「多様性」を意味する言葉で、近年グローバルにダイバーシティを重視する動きが企業や社会で広がっています。
今後は、不動産経営においてもダイバーシティへの配慮が求められる時代になるでしょう。なお、ダイバーシティへの取り組みには、不動産オーナーにとってのメリットも存在します。
1-1 ダイバーシティは人間の多様な属性を尊重すること
本来ダイバーシティは、あらゆるものの「多様性」に使用される単語ですが、近年は枕詞なしで「ダイバーシティ」というと、人間の属性の多様性を尊重する取り組みを指すようになりました。
ダイバーシティの取り組みが進んでいるのはアメリカです。1950〜60年代に公民権運動でアフリカ系アメリカ人を中心とした差別解消の運動が進められた頃から、この意識が芽生え、発展してきています。
日本でもグローバル化や女性の社会進出が進む中で、急速にダイバーシティを重視する取り組みが広まってきています。
SDGsの土台となる考え方として、持続可能で多様性のある社会に向けて「誰ひとり取り残さない」というものがあります。このSDGsの目的と結びつく形で、ダイバーシティがさらに重視される時代になってきているのです。ダイバーシティの推進は差別のない世の中の形成につながるため、SDGsを達成していくうえで欠かせない取り組みです。
1-2 不動産経営のダイバーシティとは?
不動産経営においてもダイバーシティへ配慮する取り組みが求められる時代になっています。賃貸住宅による不動産経営の場合は、まず、入居者の多様性を推進することが第一です。
たとえば、次のような属性によって入居しにくくなる障壁をできるだけ取り除くことが求められます。
- 人種
- 国籍
- 性別
- 年齢
- ハンディキャップの有無
- 経済力
特定の属性の方が住みにくくなる原因を取り除くという貢献方法のほか、社会的な弱者に置かれがちな方をターゲットとして能動的に住居を提供する方法もあります。
1-3 ダイバーシティを推進するメリット
ダイバーシティを推進することは、長期的に見ると不動産オーナーにも次のようなメリットがあります。
- 賃貸需要を獲得しやすい
- 資産価値を維持しやすい
- 社会貢献につながる
ダイバーシティを推進すると、それだけ入居者のターゲットとできる層が広がることを意味します。例えば外国人にも住みやすい物件とすることで、日本人だけでなく、訪日外国人をターゲットとすることができる為、より入居者を獲得しやすくなるでしょう。
また、長期的に見るとダイバーシティに配慮した物件は相対的に資産価値を高く保てる可能性があります。例えば高齢者に配慮したバリアフリー住宅は、今後日本がさらに高齢化が進んでも入居需要を維持しやすいため、資産価値も高く評価される可能性があります。
最後に、不動産経営を通じて社会貢献が可能になります。社会貢献するためにボランティアなどに取り組む方も世の中には多く存在しますが、不動産経営とダイバーシティを組み合わせれば、投資収益の獲得と社会貢献を両立できます。
長期的な視点に立ち、ダイバーシティを意識した不動産経営を検討してみてください。
2 不動産経営におけるダイバーシティの取り組み5選
人それぞれの属性によって住居に寄せられるニーズは異なるため、画一的な方法でダイバーシティを進めていくことは容易なことではありません。まずは不動産経営におけるダイバーシティの取り組み例を確認し、実施できそうな方法を検討していくことも大切なポイントです。
ここでは、不動産経営でも検討しやすいダイバーシティの取り組み例を5つご紹介します。
2-1 入居審査条件の緩和
入居審査をしっかりと行うことは家賃の滞納を防ぎ、入退去時の原状回復を適切に行うためにも重要なポイントとなります。しかし、ダイバーシティを意識した不動産経営では、入居審査で不必要な制限をかけて、不合理に入居希望者を断ってしまわないように注意が必要です。
まずは管理会社とも協力して、審査における不必要な制限を緩めることから始めると良いでしょう。
ただし、悩ましいのは「経済力への配慮」です。所得が少ないがゆえに住居の確保が難しい方への住宅提供を行っていると、経営を継続できなくなってしまう可能性もあるでしょう。賃料を支払えない方の受け入れは、長期的な不動産経営の観点からは不健全です。
物件購入から始めるのであれば、安価な物件を仕入れたうえで、賃料を抑えて賃貸経営を行うというのが一つの選択肢となります。その他、自治体が補助している生活保護者の受け入れによって、家賃回収の見込みを立てるなどの方法もあります。
【関連記事】アパート経営、生活保護者の入居受け入れで必要な準備・手順は?注意点やトラブル対策も
2-2 外国人が契約しやすい物件に
外国人が賃貸探しに苦労するケースは少なくありません。言語が伝わらないという問題のほか、収入の証明が難しい、連帯保証人を用意できないなどの問題が背景にあります。ダイバーシティの観点からは、外国人でも日本人と変わらずに暮らせる住居を提供することが大切です。
次のような工夫をすると、外国人でも住みやすくなります。
- 契約書や管理会社の外国語対応(英語・中国語など)
- 連帯保証人の免除
- 収入証明を柔軟に(日本での就労証明でOKとするなど)
- 室内の照明スイッチ・コンロ・避難器具など設備の説明書の外国語併記
外国人と契約できるようになれば客付けのターゲットを増やせるため、入居者を獲得しやすくなります。オーナーにとってのメリットのある対策といえるでしょう。
【関連記事】不動産投資で外国人入居者の受け入れのメリット・注意点は?不動産会社の対応事例も
【関連記事】外国人入居者向けの賃貸保証会社は?11社の比較・言語対応の有無も紹介
2-3 性別に関わらず住みやすい物件に
男性、女性、性的マイノリティの方も、それを理由に入居を断らないように注意が必要です。さらに一歩進んで、どのような性別の方でも安心して住みやすい物件にするのが良いと言えるでしょう。
例えば、入居審査で性別を差別していなくとも、セキュリティ面の不安から男性しか住んでいないというケースもあります。女性が安心して住める物件という意味では、セキュリティ面に気を配るのが大切です。例えば、次のような工夫が考えられます。
- 施設入り口のオートロック
- 防犯カメラ
- 室内全体として明るい照明
- 複層ガラスやシャッターの設置
- 宅配ボックス
- ホームセキュリティサービスの導入
また、これらは性別に限らず日々の生活を便利にしてくれる設備です。特にコロナ禍を経てインターネットを介した宅配・通販サービスが浸透した背景もあり、宅配ボックスの需要は増えています。入居率を改善させる効果も期待できるため、導入を検討されてみると良いでしょう。
2-4 高齢者やハンディキャップを負う方にやさしい物件に
年齢によって分け隔てない住宅、ハンディキャップを負う方にとってやさしい住宅を提供することも、ダイバーシティへの一つの貢献の形です。
日本では高齢化社会が今後も進むと想定されることから、将来にわたり入居者を獲得する上で、高齢者を意識した住まいづくりは経営上のメリットも大きいと言えるでしょう。
高齢者やハンディキャップを負う方への対応という意味ではバリアフリー対策を行うことが有効です。施設内の段差の排除や手すりの設置、引き戸を多くするなどのリフォームを検討しましょう。
3階以上の物件についてはエレベーターの設置も一つの方法です。なお、2階建てでも設置は可能ですが、費用対効果の面で難しいケースも多いでしょう。
また、高齢者向けの対策という意味でも、先に紹介したセキュリティサービスは有効です。そのほか、温度変化が少ない高気密・高断熱な住宅の方が、高齢者の方が健康を維持する上では適しています。大規模修繕の際などに、断熱性や気密性を高めるリフォームを、合わせて検討してみましょう。
【関連記事】高齢者を受け入れる不動産投資のポイントは?自治体のサポート事例も
2-5 住居確保が難しい方向けの住宅を提供する方法も
さらに一歩進んで、住居確保が難しい方をメインターゲットとして賃貸経営を行う方法もあります。
2023年時点で、国では「住宅セーフティネット制度」をおこなっています。条件を満たし、かつ低所得者や高齢者などの住宅確保要配慮者を拒まない住宅を同制度に登録すると、入居者の家賃の補助や改修時の助成などを受けることが可能です。(※参照:国土交通省「住宅セーフティネット制度について」)
また、近年はサ高住向けの物件を保有したり、既存物件をリフォームしたりして、高齢者向けに特化した賃貸経営を行うケースも見られます。他の賃貸経営と比べるとリフォームなどにコストがかかるものの、介護事業者に一棟貸しできるため、事業者の経営が継続している間の固定収入が見込めます。
以上のように、住宅確保が難しい方々をターゲットとした住宅を提供するのも、ダイバーシティへの取り組みの一つのあり方といえるでしょう。
【関連記事】障害者にもやさしい賃貸住宅経営のポイントは?住宅セーフティネット制度の解説も
【関連記事】少子高齢化で注目される「サ高住ファンド」の仕組みは?投資のメリット・デメリットも
まとめ
多くの企業が積極的に推進するダイバーシティですが、不動産経営においても長期的な視点でメリットがあります。
ダイバーシティに配慮した不動産経営は、入居者需要の獲得や資産価値の維持などオーナーのメリットだけでなく、社会にとってベネフィットがある取り組みです。
すべての対策を完璧に行うのは容易ではありませんが、物件のエリアや構造、資金状況に合わせて、将来のターゲット層を広げることは経営判断としても有効な選択肢と言えます。住宅確保が難しい方でも安心して暮らせる世の中を目指して、検討しやすい取り組みから始めてみましょう。
伊藤 圭佑
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