アパート経営において、入居審査をしっかりと行うことは家賃の滞納を防ぎ、入退去時の原状回復を適切に行うためにも重要なポイントとなります。
一方で、何らかの事情で働くことが難しい生活保護者の方などは住宅の審査に通ることが難しく、住宅選びの選択肢が少ないという問題があります。このような住宅を借りることが難しい方を「住宅確保要配慮者」と言い、社会課題の一つとなっているのです。
生活保護者の受け入れには社会的意義だけでなく、経営上でのメリットもあります。リスク対策をしっかりと行うことで、社会貢献と経営を両立できる手段ともなり得るのです。
本記事では、生活保護者の受け入れで押さえておきたい基本情報や注意点・トラブル対策などを解説していきます。
目次
- アパート経営で押さえておきたい生活保護者の基本情報
1-1.生活保護とは?
1-2.生活保護の受給者は55%以上が高齢者 - アパート経営で生活保護者を受け入れるメリット
2-1.長期的に安定した家賃収入を見込める
2-2.地方の駐車スペースがない物件でも入居を見込める
2-3.住宅扶助の代理納付で家賃滞納を防げる
2-4.ケースワーカーと相談が可能 - アパート経営で生活保護者を受け入れる注意点
3-1.福祉事務所などの連携が必須
3-2.過半数が高齢者のため特有のリスクが伴う
3-3.生活保護者10万人あたりの自殺率は全国平均の2倍以上
3-4.入居者が逮捕されるケースも - アパート経営で生活保護者の入居を受け入れる際に必要な準備・手順
4-1.生活保護者に強い不動産業者へ依頼
4-2.入居審査
4-3.ケースワーカーとの相談
4-4.生活保護者に慣れている管理会社へ依頼 - まとめ
1.アパート経営で押さえておきたい生活保護者の基本情報
1-1.生活保護とは?
生活保護とは、憲法で定められている「健康的で文化的な最低限度の生活」を保障するための制度です。条件を満たすことで、最低限生きていくために必要な費用を国から補償してもらえる制度となります。
生活保護を受け取るための大まかな流れとしては、主に以下の4ステップとなります。
- 福祉事務所での相談
- ケースワーカーの家庭訪問
- 扶養調査と金融機関への調査
- 審査の通知・受給
ケースワーカーの家庭訪問では、最低限度の生活を行うために不必要な貴金属や高級車などの資産を所有していないか調査を実施されます。また家庭訪問と同時に扶養調査と金融機関への調査が実施され、現在の貯金や借入残高などを調べます。
審査の結果はおよそ14日以内に通知され、直近の支給日から保護費の支給が開始されます。最低限度の金銭支給となる生活保護者は家賃の未払いリスクを謙遜する大家も多いため、審査が厳しく賃貸の受け入れ先が少ないのもアパート経営者は注目したいポイントです。
※参照:東京都福祉保健局「生活保護制度とはどのような制度ですか。」
1-2.生活保護の受給者は55%以上が高齢者
生活保護受給者の内訳は、厚生労働省によると令和4年3月時点で過半数の56%が65歳以上の高齢者という結果が報告されています。
生活保護者の受給者全体の人数は令和4年時点で約200万人のため、生活保護者の高齢者は110万人相当となります。また65歳以上の高齢者は平成7年ごろの約30万人に対し、令和4年には110万人と3.5倍近くに増加しています。
今後も少子高齢化社会をむかえる日本では、更なる高齢者層の生活保護者の増加が想定されるでしょう。また高齢者の入居希望者は認知症による近隣トラブルや事故、孤独死によるリスクを抱えていることから、審査が厳しく受け入れ先が不足しているのも実情です。
そのため、アパート経営において高齢の生活保護者を受け入れることで、令和4年時点でおよそ110万人に及ぶ賃貸希望者への賃貸需要を期待することができます。
2.アパート経営で生活保護者を受け入れるメリット
2-1.長期的に家賃収入を見込める
生活保護者は過半数が高齢者という属性から入居できる賃貸に限りがあるため、長期的な入居を見込めるメリットがあります。特に高齢者の入居者を認めない家主も数多く、高齢の生活保護者は若い世代と比較すると入居審査が厳しい実情を抱えています。
そのため、賃貸を探すのに苦労している高齢者も数多く、一度入居すると入居期間が長期になりやすいのも、アパート経営における経営側のメリットと言えるでしょう。入居者が退去するたびに発生する、原状回復や不動産仲介手数料も無視できない出費です。
また、生活保護者は家賃を自治体が補助しているため、入居者からの家賃交渉がほとんど発生しないのもポイントとなります。長期的な入居により、想定利回りの確度が高くなる点も、生活保護者を受け入れるメリットです。
2-2.地方の駐車スペースがない物件でも入居を見込める
生活保護者は受給条件として、特別な事情がない限り車を所有することができません。そのため、駐車スペースがアパートの周囲に無いような地方エリアなどの物件でも、生活保護者の方からの入居需要はあるといったケースもあります。
また高齢の生活保護者は階段がない1階部分が人気なため、不人気な一階部分の入居を見込む事も可能と言えます。生活保護者はエリアや階層の条件が悪くても、ニーズの違いから入居を見込めることがあるのです。
ただし、周囲に買い物ができる施設が徒歩圏内にあるなど、車が無くても生活ができる立地が求められる点に注意が必要です。
2-3.住宅扶助の代理納付で家賃滞納を防げる
住宅扶助の代理納付とは生活保護者が家賃分の資金を娯楽に充てないよう、直接保健福祉センターなどから大家に入金を行う仕組みとなります。
例えば、生活保護者がギャンブル依存などで受給金を使い込んでしまい、家賃が支払えなくなるケースもあります。そのようなリスクを防ぐために、一部の都道府県では直接保健福祉センターから家主へ住宅扶助の代理納付が行える仕組みを採用しています。
住宅扶助の代理納付制度を採用している一例としては、大阪市などがあげられます。
※参照:生活保護における「民間住宅家賃等の代理納付」とは
ただし、住宅扶助の代理納付は生活保護者の同意が必要であることに加えて、自治体によっては制度を利用できないケースがあるため注意が必要です。
2-4.ケースワーカーと相談が可能
通常の不動産経営では、アパート経営者が相談することができるパートナーは、基本的に不動産管理会社になります。
一方で生活保護者は福祉事務所に所属した公務員であるケースワーカーと呼ばれる担当者がついており、問題が発生した際には相談を行うことができます。
入居している生活保護者のトラブルが発生した際に、トラブル解決に向けて相談できる第三者がいるのも生活保護者を受け入れるメリットです。
アパート経営で生活保護者を受け入れる注意点
3-1.福祉事務所などの連携が必須
生活保護者を受け入れるためには、福祉事務所などの連携が必須になります。
管理業務を管理会社に任せてアパート経営を行いたい投資家にとっては、定期的にケースワーカーとやり取りを行う必要がある生活保護者は手間に感じる可能性もあるでしょう。
生活保護者を受け入れるためには、一般の入居者より手間が発生しやすい点に注意が必要です。
3-2.過半数が高齢者のため特有のリスクが伴う
生活保護者の過半数が高齢者という背景があり、若い世代の入居者では想定できないリスクを抱えてしまいます。高齢者の入居者で想定される代表的なリスクは、孤独死や認知症による近隣トラブルなどがあげられるでしょう。
特に孤独死は発見が遅れた場合には心理的・心理的瑕疵物件となるため、経営上の大きなダメージに繋がることもあります。また認知症により繰り返しトラブルが発生した場合には、大家の精神的・時間的な負荷が掛かるだけではなく、近隣住民の退去へと繋がってしまう恐れがあります。
生活保護者を受け入れる際には、高齢者特有のリスクを踏まえて対策を検討する必要があるでしょう。
ただし、病気などの自然死で速やかに遺体が発見された場合には、国土交通省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」では告知が必要ないとされています。
高齢の生活保護者を受け入れるリスク対策として見守りサービスや孤独死保険を活用するなど、対策を施すことでリスクを軽減することも可能です。
【関連記事】高齢者を受け入れる不動産投資のポイントは?自治体のサポート事例も
3-3.生活保護者10万人あたりの自殺率は全国平均の2倍以上
生活保護者10万人あたりの自殺率は全国平均の2倍以上と、自殺率が高いのも注意したい点です。背景の一つとして、生活保護者はうつ病や統合失調症など、精神疾患の割合が全国平均より高いという事情があります。
自殺が発生した物件は死後に速やかに遺体が発見された場合と異なり、心理的瑕疵物件と呼ばれ、賃貸契約の際に告知事項の説明を行う義務が発生します。自殺が発生した物件は長期間の入居が見込めないケースや、家賃相場より大幅に値段を下げることによる利回りの低下が想定されます。
3-4.入居者が逮捕されるケースも
賃貸経営において考慮しなければいけないトラブル例の1つは、入居者が逮捕されることにより家賃支払いが滞るという問題です。生活保護は違法行為や犯罪行為を行った場合に実刑となった場合、実刑中は衣食住が保障されるため受給が打ち切りになります。
そのため、入居者が逮捕され実刑判決が下された場合には、家賃の支払いが滞ることが予想されるでしょう。また逮捕されたという理由だけで賃貸契約の解除は行えないため、保証会社を介していない入居者であれば家賃回収が困難になることが予想されます。
生活保護者を受け入れるためには、条件として保証会社の加入を必須にするといった対策が未然にトラブルを防ぐためのポイントです。
また保証会社を介している場合には未払分の家賃を回収し法的処置へ実行することができますが、残置物の撤去などの手間・費用が発生する恐れがある点も押さえておきたいポイントでしょう。
4.アパート経営で生活保護者の入居を受け入れる際に必要な準備・手順
4-1.生活保護者に強い不動産業者へ依頼
アパート経営で生活保護の入居者を受け入れるために検討したいのは、生活保護者に強い・得意な不動産業者の依頼となります。賃貸の入居希望者を探す不動産業者(客付業者)は、それぞれ得意な属性を持っているケースが殆どです。
やり取りに慣れていない不動産業者では、様々な手続きやトラブルリスクのある生活保護者の受け入れについては後回しにされてしまうなど、入居希望者が見つからない恐れがあります。
一方で生活保護者といった属性に慣れている業者であれば保健福祉センターとの繋がりを持っているため、スムーズな入居までの遂行を期待することができます。
また複数の入居希望者を募る必要があるアパート経営であれば、一度コネクションを持つと空室を埋めるための強い繋がりを期待することが可能です。
また、役所の近くにある不動産屋は車を所有できない生活保護者が相談する機会が多いため、生活保護者に慣れている業者である可能性があります。まずは相談を検討されてみるのも良いでしょう。
4-2.入居審査
生活保護者は年収や勤務先・勤務年数などの情報がないケースが多いため、通常の入居希望者のような審査を行うことができません。不動産仲介業者を利用した際には参考資料を受け取ることができるため、家賃を滞納する可能性が高い入居者は断るなどの判断が必要でしょう。
特に生活保護者の受け入れで参考にしたいのは入居希望者の人柄や性格などの部分です。生活保護の受給に至った経緯や転居の理由など、家賃の支払いに問題がない入居者かどうかを総合的に判断して審査を行う必要があるでしょう。
4-3.ケースワーカーとの相談
生活保護者は、一人一人にケースワーカーと呼ばれる担当者が付いています。そのため、生活保護者の問題行動などトラブルが発生した際には、ケースワーカーを通して相談を行うことも可能です。
本来であれば直接注意喚起を行う必要がある入居者と異なり、客観的な視線で介入できる第三者の存在は生活保護者を受け入れるメリットの1つです。また、入居時には住宅扶助の代理納付を行うための手続きなどの相談も、生活保護者のケースワーカーに相談することができます。
入居先が決まらないと困るのは担当しているケースワーカーも同様なので、相談に関しては親身になってくれるケースも多くあります。
4-4.生活保護者に慣れている管理会社へ依頼
生活保護者に慣れている管理会社であれば、保健福祉センターとのコネクションを持っている可能性が高いためスムーズなトラブル解消を期待することができます。
また生活保護者に慣れている管理会社は関連業者との結びつきも強いため、入居者受け入れに伴うコストを安くできる可能性があるのもポイントでしょう。
まとめ
アパート経営で生活保護者を受け入れる際に押さえておきたい基本情報などを解説しました。今後の日本国内では高齢者の生活保護者による需要がさらに増加することが予想されています。
既に高齢の生活保護者は110万人に達し、年々増加傾向にあります。社会課題の解決という側面だけでなく、アパート経営といった経営上の対策としても重要なポイントになってくると言えるでしょう。
ただし、生活保護者の受け入れには事前の準備や入居者への配慮が大切です。受け入れのメリットだけでなく注意点やリスクについても確認し、自身のアパート経営に取り入れることが出来るか検討されていくと良いでしょう。
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