障害者にもやさしい賃貸住宅経営のポイントは?住宅セーフティネット制度の解説も

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賃貸住宅経営を行う際、保証会社や管理会社、もしくはオーナーの経営判断によって入居者の審査を行います。

このような入居審査は経営上のトラブルを回避するためにも重要ですが、審査によって住宅を借りるのが難しい住宅確保要配慮者へのフォローについても、日本全体の社会的課題として大切なポイントです。

また、障害者にもやさしい賃貸住宅経営は、社会貢献活動としてだけでなく人口減少が続く日本において空室対策になるという経営上のメリットもあります。受け入れのポイントを押さえ、対策を検討されてみると良いでしょう。

そこで今回のコラムでは、障害者の方も住みやすい賃貸住宅のポイントについて紹介します。また、障害者・高齢者向け賃貸住宅が利用できる住宅セーフティネット制度についても解説します。

※「障がい者」の表記について
視覚障害を持つ方が記事を音声ブラウザで読む場合に「さわりがいしゃ(障がい者)」と読み上げられる場合があるため、本記事では「障害者」と表記させて頂いております。

目次

  1. 障害を持つ方の住居問題
  2. 障害者にもやさしい賃貸住宅経営のポイント
    2-1.建物の入口から室内までの段差が少ない
    2-2.床がすべらないような工夫をしている
    2-3.手すりがついている
    2-4.壁紙は床材との違いがはっきりわかる色にする
    2-5.キッチンの高さが低くなっている
    2-6.一定のリフォーム・改修について許可する
  3. 住宅セーフティネット制度とは
    3-1.住宅セーフティネット制度の概要
    3-2.住宅セーフティネット制度を活用するメリット
    3-3.セーフティネット住宅情報提供システムへの登録手順
  4. まとめ

1 障害を持つ方の住居問題

内閣府の「令和元年版 障害者白書」によると、2018年時点での日本国内の障害者数は2006年からの12年間で約300万人が増加しており、936.6万人となっています。つまり、国民の8%が何らかの障害を持っていることになります。

障害者を持つ方が増えている要因としては、高齢化によって障害を持つ高齢者が増えていること、環境化学物質の摂取などによって発達障害が引き起こされたケースが増えていることなどが考えられています。

また、東京都では障害を持つ方の住居の割合を平成30年度東京都福祉保健基礎調査「障害者の生活実態」で公表しており、賃貸住宅に住む方の割合は下記のようになっています。

障害の種類 持ち家 借家・賃貸住宅 福祉施設 その他・無回答
身体障害者 63.7% 33.9% 0.9% 1.4%
知的障害者 53.4% 32.8% 11.5% 2.3%
精神障害者 39.5% 57.6% 1.4% 1.4%

※参照:平成30年度東京都福祉保健基礎調査「障害者の生活実態」より抜粋

障害を持つ方が借家や賃貸住宅で暮らす割合は全体の30〜50%程度となっており、賃貸住宅に対する入居需要があることがわかります。

しかし、障害者は健常者と比較して就労機会を得られないケースも未だ多く、住宅を借りるのが難しい住宅確保要配慮者とされています。このような社会課題の解決に向けて、障害者の方でも入居しやすい賃貸住宅が求められているのです。

また、障害を持つ方が増えていることから、賃貸物件に障害を持つ方の受け入れ体制を整えておくことは将来に向けた有効な空室対策にもなり得ます。一度入居すると退去するまでの期間は長くなる傾向があるといったメリットもあります。

2 障害者にもやさしい賃貸住宅経営のポイント

障害者といっても、車椅子での移動が必要な方もいれば、身体的な問題がなく健常者と変わらない生活をしている方もいます。そのため絶対にこうしなければならないといった考え方ではなく、入居需要にあわせて柔軟な対応が必要になります。具体的なポイントを紹介しますが、できる範囲で対応するようにしましょう。

2-1 建物の入口から室内までの段差が少ない

まずは、建物を出入りする際に気になるのが段差です。段差が大きいと、転倒するリスクが高くなるからです。

区分マンションを活用した賃貸物件の場合、建物の入り口にスロープが設けられているか確認してみましょう。スロープが無い場合は、管理組合を通して設備導入を提言する方法も検討できます。

一棟アパートや一棟マンションを経営している場合はオーナーの意思でスロープの設備導入を決定することが可能です。建物の入り口に段差があるのであれば、段差を解消することを検討しましょう。

スロープを新たに設けるのが難しいようであれば、段差解消グッズなどで段差を解消することが可能です。市販されている段差プレートや車椅子用スロープなどであれば、大きな支出をしなくても導入することができます。

また建物内に階段がある場合は、すべり止めを用いたり、手すりを設けることなども検討されると良いでしょう。

2-2 床がすべらないような工夫をしている

足腰が弱かったり、手足に障害を持つ方の場合は、普段の生活の中でも転倒するなどの危険があります。住宅のバリアフリー化のためのガイドラインである国土交通省の「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」では、床のすべりについて下記のように記載しています。

床の滑りの指標として、JIS A 1454(高分子系張り床材試験方法)に定める床材の滑り性試験によって測定される滑り抵抗係数(C.S.R)を用いる。

※引用:国土交通省「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準

床材の抵抗係数に関して推奨値も示されていますが、厳密に守らなくても、例えばバスルームの床はすべりにくい床材を用いているユニットバスにしたり、室内をカーペット敷きにするといったことを検討されると良いでしょう。

2-3 手すりがついている

手すりがあると、転倒防止のほか、移動や歩行の補助になる、立ち座りがしやすい、ものがつかみやすくなる、といった効果があります。そのため、必要な箇所に手すりがついていることで、障害を持っている方でもより安全性が高まり、快適な生活に寄与することができます。

下記は、手すりがついていると喜ばれる代表的な箇所です。

  • 廊下:室内での移動がしやすくなる
  • バスルーム:バスルーム内でしゃがんだり、座ったりするのを補助することができる
  • 脱衣所:着替え時の片足立ちや、洗顔時に腰を屈めるときの補助になる
  • トイレ:便座に座ったり、立ったりするのを補助することができる
  • 玄関:靴を脱いだり、履いたりするときの補助になる
  • 寝室:寝たり、起きたりを補助することができる

このほかリビングなどにも手すりがあると便利です。また一棟アパートや一棟マンションの場合は、建物内の廊下や階段などにも手すりがあると移動する際に役立ちます。

2-4 壁紙は床材との違いがはっきりわかる色にする

住宅のバリアフリー化には「色のバリアフリー」という考え方も必要です。室内に色彩のコントラストを設けることによって、視力が低下している方の安全な移動につながります。

例えば、壁紙と床材の色が同じような場合、視力が衰えている方であれば間違ってぶつかってしまうこともあります。そのため床材がブラウン系であれば、壁紙ははっきりとしたホワイト色にするなどの配慮が必要なのです。

また、手すりの色と壁紙の色が似ている場合、手すりの位置が分かりづらいといったこともあります。さらに浴室と脱衣所の床の色が同じだと、境目がわからずにすべって転んでしまうことも考えられます。同系色でまとめていると統一感はありますが、障害者の方にとっては危険が潜んでいることにもなるため、室内の色の使い方も工夫するようにしましょう。

2-5 キッチンの高さが低くなっている

障害者の方向けに室内をリフォームする場合は、キッチンの高さにも配慮しましょう。キッチンの高さは多くのメーカーで「身長÷2+5センチ」を基準として紹介しています。

しかし、足腰が弱い障害者の方の場合、キッチンが高すぎると腰や肩が疲れてしまうこともあります。多くのメーカーでは、80センチ、85センチ、90センチの高さを用意していますが、迷ったら低めのキッチンにするようにしましょう。例えばUR賃貸住宅では、コンロの高さを使いやすい高さに調節した「高齢者等向け優良賃貸住宅」を用意しています。

また吊り戸棚は、踏み台がないと届かない場所に設置する場合、転倒や落下といった危険もあります。しまっていた物が落ちてきてケガをするリスクもあるため、設置するかどうか慎重に検討されると良いでしょう。

2-6 一定のリフォーム・改修について許可する

障害は個々人によって異なるため、自身の暮らしやすさに合わせてリフォームしたり、改修したりすることを許可するというのも障害者にとって思いやりのある賃貸住宅経営と言えます。主には下記のようなポイントです。

  • 室内灯のスイッチの位置を低くする
  • 玄関に補助椅子を設置する
  • 段差に目印のシールなどを貼付する
  • IHクッキングヒーターにする
  • バルコニーの出入り口の段差を解消する
  • ホームセキュリティを設置する、など

このようなソフト面でもサポートをすることで、入居期間が長くなることも想定され、長期間の安定的な経営につながります。

3 住宅セーフティネット制度とは

これまで、障害者にとってやさしい賃貸住宅経営について紹介しました。次に、障害を持つ方に入居してもらうために活用できる住宅セーフティネット制度について解説していきます。

3-1 住宅セーフティネット制度の概要

住宅セーフティネット制度とは「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」に基づいて整備された、住宅確保要配慮者が住宅を借りるための制度です。具体的には次の3つの仕組みがあります。

主な仕組み 内容
住宅確保要配慮者向け賃貸住宅の登録制度 ・住宅確保要配慮者の入居を断らない賃貸住宅を登録する制度
登録住宅の改修や入居者への経済的な支援 ・住宅をバリアフリー化する工事に対する経費の補助
・入居者に対する家賃補助
・家賃を滞納した場合の保証費用などの補助、など
住宅確保要配慮者に対する居住支援 ・賃貸住宅に関わる情報提供や相談などの生活支援、家賃債務保証などを行う居住支援活動を実施するNPO法人や社会福祉法人などを「居住支援法人」として都道府県が指定

なお、住宅セーフティネット制度で入居対象者となる住宅確保要配慮者とは、低額所得者、被災者(発災後3年以内)、高齢者、障害者、子育てをしている者、外国人などを指しています。

3-2 住宅セーフティネット制度を活用するメリット

住宅セーフティネット制度において、住宅確保要配慮者の入居を拒まない住宅として登録された住宅をセーフティネット住宅と呼びます。セーフティネット住宅として登録されると、「セーフネット住宅情報システム」で閲覧できるようになります。制度を利用して住宅を探している方が検索や閲覧ができるため、入居につながりやすくなるといったメリットがあります。

また登録基準を満たすために、バリアフリー化などの工事をする場合は工事費用などの支援を受けることができます。

セーフティネット住宅として登録する際の基準は、主に下記になります。

  • 規模:各住戸の床面積が25m2以上(キッチン、収納、浴室、シャワー室が共同の場合は18m2以上)
  • 設備:各住戸がキッチン、トイレ、収納、浴室またはシャワー室を備えていること(トイレ以外は、共同利用化の場合は各住戸に備えなくても良い)
  • 構造:新耐震基準に適合していること

こうしたハード面の基準のほか、賃貸条件として、家賃が周辺の相場と同等のもの、入居者を不当に制限しないことなども満たす必要があります。詳細は、一般財団法人住宅保証支援機構「住宅確保要配慮者専用賃貸住宅改修事業」で確認することができます。

なお、補助金の交付を申請するには、金融機関から融資の内諾を得た上で交付申請書を提出する必要があります。補助金の金額は改修工事に要する費用の1/3以内とし、補助対象戸数×50万円が上限となります(条件により補助対象戸数×100万円などのケースもあり)。

3-3 セーフティネット住宅情報提供システムへの登録手順

セーフティネット住宅としての基準が満たされており、セーフティネット住宅情報提供システムに登録したい場合は下記の流れで申請することになります。

  1. 都道府県や政令市などの登録窓口で事前確認を行う
  2. 事業者アカウント登録」でアカウントを登録する
  3. 登録情報を入力する
  4. 登録申請情報が審査され・公開される

セーフティネット住宅に登録すると、入居者を確保するのに下記のようなメリットが考えられます。

  • 入居者に対する家賃の補助
  • 家賃債務保証料の補助
  • 居住支援協議会からの入居支援
  • 都道府県などからの情報提供、など

これらによって障害を持つ方から入居先として選ばれる可能性が高まることが期待できます。

まとめ

障害を持つ方は収入面や必要な生活環境を整えることの難しさから、単身で賃貸契約が難しいケースがあります。高齢者・外国人などと同じく、住宅確保要配慮者として障害者向けの住宅供給が求められているのです。

障害を持つ方の受け入れは社会貢献活動としてだけでなく、人口減少が続く日本において空室対策になるという経営上のメリットもあります。障害者の受け入れに関する社会的な整備も進んでおり、工事費用が補助される、入居者確保につながる支援があるといった住宅セーフネット制度も用意されています。

障害者の入居を拒否しないセーフティネット住宅への登録は、広さや構造などの基準が満たされている必要がありますが、より暮らしやすい環境を整えることで、入居者確保がしやすくなり、さらに入居期間を長くする可能性を高めることもできます。本記事を参考に、どのような対策ができるか検討されてみると良いでしょう。

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倉岡 明広

経済学部経済学科卒業後、出版社や編集プロダクション勤務などを経てフリーライターとして独立。雑誌や新聞、インターネットを中心に記事を執筆しています。初心者が抱く不動産投資の疑問や質問を解決できるよう丁寧な記事を執筆していきます。