近年は高耐久マンションで大規模修繕の頻度を少なくする「長周期化」を目指したマンションが増えています。
大規模修繕を長周期化すれば、修繕によるコストの削減や、CO2の削減効果が期待できます。また、住民の負担を軽減して住みやすい物件を提供することが可能です。
今回は高耐久マンションの特徴や大規模修繕を長周期化するメリット・デメリットについて紹介します。
目次
- 高耐久マンションとは?
1-1.大規模修繕の周期を18年程度に延伸
1-2.マンションの寿命が60年なら大規模修繕を1回減らせる
1-3.大規模修繕の長周期化の方法 - マンションの長周期化のメリット
2-1.住民・投資家の費用負担の軽減
2-2.住民のストレスの軽減
2-3.資源の節約やCO2削減にもつながる - マンションの長周期化のデメリット
3-1.見えない不具合が放置されるリスク
3-2.1回あたりの工事費用が高額化する可能性 - まとめ
1 高耐久マンションとは?
建物自体の耐用年数を長期化する取り組みは以前から行われていました。SDGsの考え方が広まる中で、マンションであれば60年程度は建て替えせずに使用できる物件が多くなっています。
最近はさらに一歩進んで、修繕の頻度を減らす「長周期化」を行なったマンションも散見されるようになりました。
1-1 大規模修繕の周期を18年程度に延伸
長周期化とは、使用する建材や建築技術の工夫により、修繕を頻繁に行わなくとも安全で快適な居住環境を維持できるようにすることです。
従来のマンションでは、大規模修繕の目安は12年程度となっていました。しかし足元では、18年程度は大規模修繕なしで建物を維持できる物件が出てきています。
1-2 マンションの寿命が60年なら大規模修繕を1回減らせる
もしマンションが建て替えせずに60年住める物件だった場合、12年周期では建て替えまでに4回の大規模修繕を行うことになります。もしさらに伸ばして72年使用する場合は5回です。
これに対して、18年周期にすれば、3回の大規模修繕で60年建物を維持できるようになります。72年使用する場合でも、やはり3回ですみます。このように、大規模修繕の長周期化は、建物のライフサイクルにおける修繕回数を減らす効果があるのです。
1-3 大規模修繕の長周期化の方法
マンションの修繕の長周期化では次のような箇所の施工を工夫して、実現します。例えば、三井不動産レジデンシャルでは下記のような工夫が行われています。
- 外壁:躯体の変形の影響を受けにくい素材
- 屋上:高反射塗料による蓄熱の防止
- シーリング:耐候性・耐久性に優れた素材の使用
※参照:三井不動産レジデンシャル ニュースリリース「~大規模修繕工事の長周期化をはかり、入居者様の負担を軽減~」
外壁については、有機接着剤を使用することで従来型のモルタルよりも躯体変形に強い構造を作ることができます。どんな物件でも経年と共に微妙な変形が起こりますが、適切な有機接着剤を使用すると躯体が変形しても外壁素材の剥離や剥落を抑えられるのです。
屋根は防水層の蓄熱が経年劣化につながります。太陽光の反射性を高めておくと屋根の蓄熱が減り、防水層の劣化が進みにくくなるのです。高反射塗料を使用することで、蓄熱を減らして劣化を遅らせることができます。
最後に、建材の隙間を埋めるために使用されるシーリングは、建物において劣化が進む原因となりがちです。一方で、今では20年超の耐候性・耐久性を持つシーリング材もあります。長周期化マンションでは、このような性能の良いシーリング材がしばしば使用されています。
2 マンションの長周期化のメリット
マンションの大規模修繕の周期を長くすることは、住民の負担やストレスの軽減、資源保護やCO2の削減といったメリットがあります。
2-1 住民・投資家の費用負担の軽減
分譲マンションの場合、大規模修繕の費用は住民が間接的に負担しています。住民が月々積み立てている修繕積立金を原資に、足りなければ追加で徴収するなどの対応をおこないます。なお、賃貸マンションの場合は投資家が負担しなければなりません。
大規模修繕の周期が長くなれば、マンションのライフサイクル全体の費用負担を軽減できます。
マンションの修繕においては修繕施工をするための足場の形成にコストがかかります。修繕の回数が減れば足場の組立・解体の手間がまるまる1回減るので、大規模修繕の回数を減らすことによるコスト削減効果は小さくないのです。
2-2 住民のストレスの軽減
大規模修繕となると、一回の修繕にまとまった期間がかかります。着工から竣工の間で、およそ3カ月~半年かかるのが一つの目安です。
施工期間の大部分にわたって足場が組まれビニールシートやネットなどで覆われた状態のマンションで、住民は長期間生活しなければなりません。施工内容によっては、共用設備の一部が使えない期間が発生する可能性もあります。
そのため大規模修繕は、少なからず住民にとって不便でストレスのかかる作業となります。賃貸の場合は不便を嫌って転居する住民が出るリスクもあるでしょう。
大規模修繕を長周期化すれば、このように住民にストレスのかかる局面を減らせます。賃貸マンションの場合には、空室を増やすリスクの低減にもつながるのです。
2-3 資源の節約やCO2削減にもつながる
マンションの大規模修繕を一度行うと、建材や塗料などを消費するため、多くの資源を使用します。また、建材の製造過程や、施工中の重機の使用などにより大量の化石燃料を使うため、直接的・間接的にCO2排出の原因にもなっています。
使用する建材の量やCO2の排出量も、大規模修繕の回数を減らせばそれだけ抑えられます。そのため大規模修繕の長周期化は資源保護やCO2の排出削減にもつながるのです。
3 マンションの長周期化のデメリット
マンションの大規模修繕の周期を長くすると、見えない不具合が放置されるリスクや、一回当たりの工事費用が高額化するなどのデメリットが考えられます。
3-1 見えない不具合が放置されるリスク
大規模修繕をするときには必然的にいまの壁や塗料をはがして交換したり、劣化した部分を修繕したりする中で、不具合があれば状況に合わせて適切な対応がなされます。
大規模修繕の間隔を長くすることによって、普段の表面的なチェックやメンテナンスでは見つからない内部の不具合が、より長期にわたり放置されるリスクがあります。
高耐久マンションは、基本的に不具合が起きにくい耐久力のある設計にはなっているものの、気候変動や災害、住民の過失による汚損・破損などのさまざまな不確実要因がある中で、リスクを100%回避することはできません。
長周期化するマンションでは、普段の物件管理やメンテナンス、こまめな修繕をより一層しっかりと行っていく必要があるでしょう。
3-2 1回あたりの工事費用が高額化する可能性
高耐久マンションでは、修繕周期を遅らせるために、大規模修繕のために耐久性の高い建材を使用しなければなりません。必然的に品質の高い製品を使用することになるため、施工時の材料費が高額になってしまいます。
建設時点の見込みでは、1回あたりの修繕コストの上昇より、修繕回数が減ることによるコスト削減効果の方が高いと期待できるからこそ、高耐久マンションの建設が行われています。
しかし、将来資源価格が高騰して想定外に高耐久マンションの修繕コストが高くなり、当初期待していたコスト削減効果が発揮されないリスクはゼロとは言えません。
まとめ
建物のライフサイクルを見据えて資源保護やCO2の削減といった効果を追求する動きが見られる中で、高耐久化によって大規模修繕を長周期化するマンションの建設が広がっています。
大規模修繕の周期が12年から18年に延びれば、60年で1回程度は大規模修繕の回数を減らすことができます。大規模修繕の費用は分譲マンションであれば住民の負担ですが、賃貸マンションの場合は投資家の負担となります。
一回当たりの修繕費用が上振れするリスクには留意が必要ではあるものの、高耐久マンションで投資を行えば、長い目で見たときの将来の修繕コストの軽減につながる可能性があります。
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伊藤 圭佑
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