マンションを購入する方の中には、「将来のマンションの資産性はどうなるだろう」と不安に感じたり、また「常に変動する不動産の資産性をどのように評価していけば良いか」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
RC・SRC造で建築されるマンションは他の不動産と比較して規模も大きく、長期的に使用されることが期待されています。このような特徴は社会全体の持続可能性を追及するSDGsの観点からも影響が大きく、昨今の政府主導の法改正や民間事業者の事業方針の両面から、マンションの資産性を検証する際に大きく影響がある分野となってきています。
そこで本記事では、ホームインスペクション・マンション管理組合向けコンサルティングを行う「株式会社さくら事務所」の不動産セミナーへの取材を通じて、SDGsの観点から考えるマンションの資産管理のあり方、マンションを次世代へサステナブルに住み繋いでいく方法についてご紹介します。
株式会社さくら事務所
株式会社さくら事務所は、1999年に長嶋 修(ながしま おさむ)氏が創業した、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社です。
2022年10月からはマンション管理組合を対象に、大規模修繕工事の施工会社選定をサポートするサービス「修繕参謀」の提供を開始しており、従来の完全サポート型の大規模修繕サポートのサービス形態に加えて、予算が少なくても専門家によるコンサルティングを受けられることが可能になっています。
目次
- マンションの永住意識の変化と建物管理の重要性
- マンション×SDGsの観点から考える3つのポイント
2-1.管理計画認定制度
2-2.高耐久マンション・大規模修繕の長周期化
2-3.マンションの資産性向上におけるダイバーシティ - マンション×SDGsの観点から見た、マンションの管理方式
- マンション管理組合向けコンサルティングを行う「株式会社さくら事務所」へインタビュ-
4-1.住民の様々な意見を取り入れたダイバーシティを進めることで、マンションのターゲット層が不明瞭になってしまい、入居需要が減少してしまうリスクはありますか?
4-2.マンション管理にダイバーシティの良い部分を積極的に運営に組み込むには、どのような対策が重要になりますか?
4-3.第三者管理方式を採用することによって、マンションの資産性に繋がる可能性はありますか? - まとめ
1.マンションの永住意識の変化と建物管理の重要性
国土交通省の「平成30年度マンション総合調査結果」において「永住するつもり」が過去最高の62.8%となり、マンションの永住意識は非常に高い水準になっています。
このような永住意識の高まりからは、過去よりもマンションの耐久性の高さや、適したメンテナンス(長期修繕計画)、また時代に合わせた居住快適性が求められてくるようになっていると考えられます。
しかし、複数の所有者がいるマンションにおいては、一人のマンションオーナーの意見で管理方針を決めることができません。また、中には、管理組合が適切に機能しておらず管理不全になっているケースもあります。
マンションの管理組合によってどのような建物管理が行われているのか、また適切な長期修繕計画が設定されているかどうかによって、将来のマンションの持続可能性に差が生まれてきているのです。
2.マンション×SDGsの観点から考える3つのポイント
SDGsの観点からマンションの資産管理を考えるポイントとしては、主に以下の3つが挙げられます。
- 管理計画認定制度
- 高耐久マンション・大規模修繕の長中期化
- マンションの資産性向上におけるダイバーシティ
2-1.管理計画認定制度
「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」が改正され、2022年4月には「マンション管理計画認定制度」が創設されています。(※参照:「マンション管理・再生ポータルサイト」)
マンションの管理計画が一定の基準を満たす場合に、適切な管理計画を持つマンションとして認定を受けることができる制度です。2023年7月末までに、全政令指定都市で管理計画認定制度が開始される予定となっています。
制度の創設以前は、管理組合の自主的な管理に委ねられている状況でしたが、地方公共団体が積極的に関与できるようになっています。また適正に管理されたマンションとして市場において評価されるという期待、マンション長寿命化促進税制の活用による税効果など、マンションオーナーへ寄与するメリットも多くあります。(※参照:国土交通省「マンション長寿命化促進税制」)
一方、管理計画認定制度の導入には課題もあります。例えば、認定制度の認定要件を満たすために適切な修繕積立金が再設定されると、従来よりも保有するコストが高くなってしまうケースも多くあります。将来のメリットが可視化されていない中で目の前のコスト感に反対されてしまう意見もあり、なかなか導入が進んでいないという状況も見られているのです。
管理計画認定制度に適応していることが中古市場で評価されるかどうかについては、中古売買で発行される「管理に係る重要事項調査報告書」に認定の有無が記載されはじめ、市場にどのような影響を及ぼすのかを注視する必要があります。このような背景からも、管理組合認定制度の普及は2024年度以降が予想されています。
2-2.高耐久マンション・大規模修繕の長周期化
災害や劣化による損傷に強い高耐久マンションは、大規模修繕の周期を長期化し、コスト低減と環境負荷を減らすメリットがあります。例えば、一般的な大規模修繕の周期としては12年になりますが、これを18年周期にした場合、60年間で2回分の大規模修繕を減らすことができます。
大規模修繕は多くの資材を必要とし、また資材の運搬や作業にも多くのエネルギーを使用します。高耐久マンションの普及により大規模修繕を長期化し、コスト面・環境面の両面から貢献することに繋がるのです。
ただし、高耐久マンションは修繕時に高耐久な防水工法などを活用するため、従来のマンションよりも多くの費用を必要とし、短期的にはコストアップになります。短期目線だけでなく60年など長期の視点からコストが比較され、市場から評価されるようになることが今後の課題と言えます。
2-3.マンションの資産性向上におけるダイバーシティ
マンションの資産性とは、将来も多くの方から求められるかどうか、需要が見込めるマンションであるかによって決まります。つまり、時代の流れに応じて世代交代が行われ、売買が活発であることもマンションの資産性向上において重要になるのです。
マンションの世代交代が行われるために重要になる要素については、下記の3つのポイントがあります。
- 立地条件
- 不動産価格を維持向上するための管理
- 居住快適性を高める工夫
上記のうち、「居住快適性を高める工夫」についてはダイバーシティの観点が役立ちます。
従来マンション名義は世帯主である男性になっているケースも多く、管理組合の運営が男性主導で進められていることが一般的でした。しかし、男性主導で進めていると、女性目線の提案が行われないために、居住快適性が女性や時代のニーズに適していかない可能性があります。
世代交代が進めていくためには、多種多様な方の意見を取り入れながら住民同士で課題解決のコミュニケーションを図るということも大切な視点となります。
3.マンション×SDGsの観点から見た、マンションの管理方式
複数のオーナーがいるマンションの管理方式には、大きく分けて下記の二つの方法があります。
- 理事会方式:理事会は管理組合の業務を執行する機関。理事長が管理組合を代表して業務を執行する
- 第三者管理方式:第三者である外部の専門家が理事長として就任し、管理組合運営を執行する方法
第三者管理方式のメリットについては、区分所有者が組合運営の手間がかからず、また専門性がないためにムダな費用を支出してしまうことを防止できるという点が挙げられます。
一方、第三者管理方式では専門家へ支払う費用が発生し、また不適切に管理費を特定事業者に発注するなど「利益相反」の行為をするリスクはデメリットとなります。その他、第三者管理方式にした後で理事会方式に戻すことが非常に難しいという点も注意点です。
どちらの管理方式を選ぶか、という点はケースバイケースとなりますが、SDGsの観点から注目していきたいポイントとしては居住者が高齢化しているマンションです。理事会方式による管理組合が高齢化して適切なマンション管理を実施することが困難になったり、管理規約や細則などに適切に対応できなかったりなどが問題となることがあります。
専門家を入れて運営される第三者管理方式は、このような社会課題に対しても時代のニーズに合わせて適切に管理されることが期待されます。管理費とのバランスを取る必要はありますが、マンションの持続可能性を検証するうえで、管理組合の運営状況もポイントとなっています。
4.マンション管理組合向けコンサルティングを行う「株式会社さくら事務所」へインタビュ-
今回のさくら事務所の不動産セミナー取材の主題であった「マンション×SDGs」と資産管理の観点から、HEDGE GUIDEでは下記のインタビューを行い、それぞれ回答を頂きました。
4-1.住民の様々な意見を取り入れたダイバーシティを進めることで、マンションのターゲット層が不明瞭になってしまい、入居需要が減少してしまうリスクはありますか?
山本氏「入居者のターゲティングは、特に都心部の投資用マンションなどでは重要視されているポイントです。しかし、ダイバーシティによって様々な方の意見を取り入れることは、基本的にマンションの快適性を高めて住みやすくすることが目的であるため、ダイバーシティによって入居需要が減少してしまうといったリスクは想定されないと考えています。」
4-2.マンション管理にダイバーシティの良い部分を積極的に運営に組み込むには、どのような対策が重要になりますか?
山本氏「ダイバーシティをマンション管理に組み込む際に注意しておきたいポイントとしては、例えば、特定の方々だけが仲良しグループのようにイベントを行っているような印象を与えてしまうと、後から入った方が参加しづらくなってしまう、という懸念があります。
ダイバーシティに向けた取り組みについては、どのようにPRしていくかという点も重要です。サイネージで告知してみたり、管理組合のホームページ・アプリケーションを通して告知するなどのDX化を通じて、なじみやすい・参加しやすいように広報していくことが大切であると考えています。」
4-3.第三者管理方式を採用することによって、マンションの資産性に繋がる可能性はありますか?
土屋氏「理事会運営の手間がかからない分、第三者管理方式を特徴的なセールスポインにするというケースもあるでしょう。ただし、メリットだけでなくデメリットについてもしっかり認知してもらうことや、管理組合のホームページを通じて積極的に外部に情報発信するなどのブランド戦略も重要になると思います。
熱心に取り組む理事会方式であれば、マンションの資産性という観点では第三者管理と大きな違いは生まれないと考えられます。一方、組合の管理意識が低い場合でも一定以上の管理体制が期待できるという点は、第三者管理のメリットです。」
山本氏「どのような管理方式が適しているかは、マンションによって異なってきます。例えば、デベロッパー子会社が管理会社になっているマンションで、そのまま第三者管理として採用した場合、自社マンションのブランドイメージを高めるためにコスト意識が下がり、資産性を棄損してしまうリスクもあるでしょう。」
まとめ
長期的な使用が期待されるマンションの資産性は、短期的にではなく長期的な目線で検証することが大切です。このようなマンションの特性は、持続可能な世界を実現するSDGsの目標とも相性がよく、様々な施策が検討されています。
今回はさくら事務所の取材を通して、マンション×SDGsの観点から考える3つのポイント、適切な管理を行うための管理方式のとらえ方について解説してきました。サステナブルにマンションを住み繋いでいきたい方、マンション選びをSDGsの観点から検討していきたいと考える方の参考となれば幸いです。
HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム
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