不動産鑑定におけるESG指標とは?7つのポイントから解説

※ このページには広告・PRが含まれています

不動産業界においても、ESGやSDGsへの配慮を踏まえた取り組みが活発化しています。国土交通省では不動産鑑定に反映させるための検討も行っており、不動産価値にESG指標を反映させる動きは今後も大きくなっていく可能性は高いと考えられます。

ESG指標が不動産鑑定に導入されることは、社会全体をより良くする効果が期待される一方で、どのようなESG指標が導入されるのか気になる方も多いでしょう。2023年8月時点では検討段階にあり評価項目などが決定しているわけではありませんが、国土交通省では不動産鑑定評価におけるESG配慮に係る評価の指針について検討中の項目を公開しています。

そこで今回は、不動産鑑定におけるESGへの配慮に対する評価について、2023年8月時点の情報をもとに7つのポイントから解説していきます。

目次

  1. 不動産鑑定とは
    1-1.不動産鑑定が用いられるシーン
    1-2.不動産鑑定評価の基本的なプロセス
    1-3.不動産鑑定における価格形成要因
  2. ESGを考慮した不動産鑑定を行う際の留意点
    2-1.一般的要因
    2-2.地域要因(宅地地域)
    2-3.個別的要因(宅地地域)
  3. 不動産鑑定に反映されると考えられるESGへの配慮
    3-1.環境不動産
    3-2.ビルの性能
    3-3.災害対策
    3-4.地域社会・経済への寄与
    3-5.ライフサイクルマネジメント(LCM)
    3-6.ESG関連認証制度
    3-7.社会的インパクト不動産
  4. まとめ

1 不動産鑑定とは

不動産鑑定とは、土地や一戸建て、マンションなどの不動産の価値を金額で表すことです。不動産に価格をつけるには不動産会社などが行う不動産査定という方法もありますが、鑑定士の行う不動産鑑定は法的な効力を持つという特徴があります。具体的に見ていきましょう。

1-1 不動産鑑定が用いられるシーン

不動産市場での売買に用いるために査定によって価格をつけることができますが、不動産鑑定は法的な効力を持つ点が異なります。そのため下記のように、裁判所や公的機関といった公共性の高いシーンにおいて不動産の価値を証明する際に用いられます。

  • 公示地価、基準地価の算定根拠
  • 固定資産税や相続税の課税基準の算定根拠
  • 不動産を扱う裁判における価格の根拠
  • 公的機関が所有している不動産を競売する際の基準価格の算定
  • 金融機関が不動産に対して行う担保の評価
  • 公的機関や企業が行う不動産の売買価格(参考価格)
  • 相続や離婚の際など財産分与時の価格の根拠、など

1-2 不動産鑑定評価の基本的なプロセス

不動産鑑定は、下記の過程に則って行います。

  1. 鑑定評価の基本的事項の確定
  2. 対象不動産の確認
  3. 資料の検討及び価格 形成要因の分析
  4. 鑑定評価の手法の適用
  5. 試算価格又は試算賃料の調整および鑑定評価額の決定

※参照:国土交通省「不動産鑑定評価におけるESG配慮に係る評価に関する検討業務」より抜粋

鑑定が終わり、鑑定評価額が決定すると、不動産鑑定評価書が発行されます。

1-3 不動産鑑定における価格形成要因

不動産鑑定では、登記簿謄本や位置略図などのほか、取引事例などの資料から価格の評価作業を行います。この際、不動産の「効用」及び「相対的稀少性」並びに不動産に対する「有効需要」の3者に影響を与えるのを価格形成要因と言います。

国土交通省が定めた「不動産鑑定評価基準」では、価格形成要因には「一般的要因」「地域要因」「個別的要因」の3つがあるとし、それぞれを下記のように定義しています。

一般的要因とは、一般経済社会における不動産のあり方及びその価格の水準に影響を与える要因をいう。
地域要因とは、一般的要因の相関結合によって規模、構成の内容、機能等にわたる各地域の特性を形成し、その地域に属する不動産の価格の形成に全般的な影響を与える要因をいう。
個別的要因とは、不動産に個別性を生じさせ、その価格を個別的に形成する要因をいう。

※引用:国土交通省「不動産鑑定評価基準」より抜粋

それぞれをさらに詳細に分類したのが下記の表です。

価格形成要因 構成要素
一般的要因 自然的要因、社会的要因、経済的要因、行政的要因
地域要因 宅地地域:日照、温度、湿度、風向き、上下水道、ガス等の供給・処理施設の状態、情報通信基盤の整備の状態、など
商業地域:顧客及び従業員の交通手段の状態、営業の種別及び競争の状態、駐車施設の整備の状態、など
個別的要因 間口、奥行、地積、形状、高低、接面街路の系統及び連続性、交通施設との接近の程度、土壌汚染の有無及びその状態、など

2 ESGを考慮した不動産鑑定を行う際の留意点

2021年3月に国土交通省が公表した「不動産鑑定評価におけるESG配慮に係る評価に関する検討業務」では、不動産開発の際に企業やオフィスビルなどが行うESGやSDGsへの配慮が不動産価値にどのように影響するか考察しています。

また、ESGを考慮した鑑定評価を行う上での留意点も挙げています。価格形成要因である「一般的要因」「地域要因」「個別的要因」に分けて、詳しく見ていきましょう。

2-1 一般的要因

一般的要因は、評価額を算出する際に考慮する世の中の情勢や社会的背景などです。「自然的要因」「社会的要因」「経済的要因」「行政的要因」の4つに分けて、下記の点で検討が必要だとしています。

要因の種類 留意点
自然的要因 気象の状態(気候変動の状況)、地球温暖化、災害リスクの増減など
社会的要因 情報化の進展、生活様式の状態(安全性、快適性、利便性等)、働き方改革等(オフィスやマンション等の設備や共用部分に求められる水準に影響)
経済的要因 投資環境(年金、保険会社等機関投資家、ファンド、個人)、ファイナンス環境(金融機関、社債等)、保険事業者、格付け機関、評価機関、企業会計制度、企業活動―技術革新及び産業構造の状態、省エネ建物の需要の増減など
行政的要因 防災等に関する規制、不動産に関する税制(エコ減税、危険地域における住宅減税不適用など)

2-2 地域要因(宅地地域)

一方、地域要因とは、不動産の属する地域が不動産の価値に与える影響のことです。ESGを考慮した不動産鑑定を行う際には、下記の点を留意すべきとしています。

  • スマートシティ、SDGs未来都市、SDGsモデル都市等の指定、自治体の動き
  • 水害、がけ崩れ、活断層等、災害発生の可能性、地盤、土壌汚染等、建物の安全性を考慮した立地選好
  • 地域社会、経済への寄与(廃棄物発生の予防、再生資源の利用促進等)
  • 生物多様性や生態系の保全と回復への貢献、取り組み、など
  • 省エネ産業誘致等行政上の助成
  • 土壌汚染規制の程度、など

2-3 個別的要因(宅地地域)

個別的要因は、「土地」「建物」「建物及びその敷地」に分けて考えられます。例えば、土地の形状や日照・通風、土地が接している道路との位置関係や道の幅、土壌汚染の有無などが価格に影響を及ぼすことになります。

不動産鑑定の際にESGを考慮する場合、下記の点に留意すべきと指摘されています。

要因の種類 留意点
土地に関する個別的要因 災害リスクへの対応状況(水害、がけ崩れ、地盤の状態)、土壌汚染、地下埋設物、産業廃棄物
建物に関する個別的要因 (ⅰ)E(Environment)関連
・省エネルギー性能
・再生可能エネルギーの使用の状況
・外部データによる費用効率性の検証体制、など
(ⅱ)S(Society)関連
・健康、快適性等の状態(空間・内装、音、光、熱・空気、リフレッシュ、運動)
・耐震性、耐火性等建物の性能
・利便性の状態(移動空間・コミュニケーション、情報通信)
・有害な物質の使用の有無及びその状態
・コロナ対応(換気性などの感染症対応)、など
建物及びその敷地に関する個別的要因 ・修繕計画、管理計画の良否として、ビルメンテナンス(BM)、コンストラクションマネジメント(CM)、リーシングマネジメント(LM)を内容とするプロパティマネジメント(広義)や、ファシリティマネジメント(自用の場合はワークプレイスマネジメントを含む)におけるESGの配慮が挙げられる。
・上記S(社会)について配慮したマネジメントとしては、BCP対策の状況(計画有無、訓練等)がある。
・個別所有物件のガバナンスG(Governance)要因としては、透明性、コンプライアンス、内部統制の確保、情報開示体制(非財務情報の開示)など所有者としてのガバナンスを踏まえたうえで下記が挙げられる。
・AM-PM、PM-(BM、CM、LM)等、利益相反の防止体制
・効率化のための管理体制(品質に応じた管理コストの適正化、効率化)
・(認証制度)ISO41001(ファシリティマネジメント)の取得状況、など

ESGへの配慮は価格形成要因である一般的要因、地域要因、個別的要因のすべてにおいて関連があるとしています。そのため、ESGに関して配慮されていないビルは価値がマイナスされることになりうるとも指摘しています。

3 不動産鑑定に反映されると考えられるESGへの配慮

建物を建てる際にESGに配慮するポイントは数多くありますが、不動産鑑定評価への反映に向けてこれまで国土交通省が検討してきた資料をもとに7つのポイントを紹介していきます。

3-1 環境不動産

省エネルギー基準を満たすなど環境性能が高い不動産は、環境不動産とも呼ばれます。主な構成要素は下記になります。

  • 資源を再利用した建築方法
  • 高い耐震・耐災害性能
  • 省エネルギーを実現する躯体構造
  • 再生可能エネルギーの導入
  • 水・資源利用の効率化
  • 周辺の自然環境への融合、など

これらの要素はESG評価を高めるという目的だけでなく、ビル運営のランニングコストが下がることに期待が持て、鑑定評価は高くなると考えられます。

具体的な例としては、「不動産鑑定評価基準に関する実務指針 -平成26年不動産鑑定評価基準改正部分について-」で、下記のように記されています。

省エネルギー対策の設備としては、LED照明、自然採光システム、空調負荷や自然換気・自然採光システム等の設備が挙げられる。

ただし、前述した国土交通省の「不動産鑑定評価におけるESG配慮に係る評価に関する検討業務」では、導入するだけではなく、設備投資の減価償却費などとの兼ね合いにより、総合的にコストダウンになるかも検討される必要があると指摘しています。

3-2 ビルの性能

ビルの基本的な性能には、健康性・快適性、利便性、安全性があり、不動産の価値に影響を与えます。それぞれの構成要素は下記にようになっています。

ビルの性能 構成要素
健康性・快適性 空間・内装、音、光、熱・空気、リフレッシュ、運動
利便性 アクセス性、移動空間・コミュニケーション、情報通信
安全性 建物耐震性(PMLなど)、有害物質、水質、セキュリティ、コロナ対応(換気など)

※参照:国土交通省「不動産鑑定評価におけるESG配慮に係る評価に関する検討業務」より抜粋

CASBEEウェルネスオフィス評価認証」の評価項目と同様のものがありますが、これらへの配慮をしているビルは鑑定評価が高くなると考えられます。例えば、音であれば、集中して作業ができるよう遮音された空間が確保されている、などが評価対象になります。

安全性に関しては耐震性やセキュリティなどが注目されますが、コロナ禍を経て、今後も水質や換気性能などの重要性が増してくる可能性もあるでしょう。

3-3 災害対策

近年、自然災害の発生などで水害や崖崩れ、地盤沈下などが多発しており、不動産鑑定評価においてもリスクの把握及び対策が求められています。ハザードマップなどを活用してリスク判断を行うほか、非常用電源の確保といった対策も重要です。

ビルや企業などによる災害対策やBCP対策への取り組みが広がっていますが、「 ResReal(レジリアル)」という認証制度も注目されています。

レジリアルとは「不動産分野におけるレジリエンス検討委員会(D-ismプロジェクト)」が2023年1月27日に創設した、不動産の自然災害に対するレジリエンス(弾性力や回復力)を定量化および可視化する認証制度です。高潮や地震、津波、土砂災害、噴火、猛暑など、不動産ごとの災害に対するレジリエンスをスコア化し、スコアに応じて5段階評価の認証が与えられます。

3-4 地域社会・経済への寄与

不動産は建物単独ではなく地域性の観点からESGへの貢献が可能です。例えば、各自治体では日本国内でもスマートシティに関するプロジェクトが進められています。

また、雇用機会の創出や福祉施設への参画といった直接的な地域貢献に加えて、公共機能の充実につながるさまざまな施策も注目されています。その一つがアフォーダブル住宅への投資です。

アフォーダブル(affordable)とは「手ごろな価格」「手に入れやすい価格」という意味なので、アフォーダブルハウジングは「手ごろな価格で手に入る、もしくは住み続けられる住宅」ということになります。

日本ではRennovaterという企業が、空き家を活用したアフォーダブルハウジングの活性化を目指しています。同社は投資家から資金調達し、空き家をリノベーションさせ、それを住宅入手困難者などに賃貸物件として提供する事業を展開しています。

同社の取り組みは、日本で課題となっている空き家の減少に役立つとともに、住居確保が難しい層への住居提供にも貢献しています。

【関連記事】アフォーダブルハウジングとは?アフォーダブル住宅の世界の事例も

3-5 ライフサイクルマネジメント(LCM)

ライフサイクルマネジメントとは、安全かつ快適な建物を維持・保存するために定期的なメンテナンスや修繕工事などを長期的に計画することです。主に診断、分析評価、計画作成、実施といった要素で構成され、無理・無駄のない管理・運用を行いつつ、戦略的に建物の資産価値を維持・向上させるために重要視されるようになっています。

適切なライフサイクルマネジメントで建物の保全を行うことは、コストを抑えながら耐用年数を伸ばすことにもつながります。

【関連記事】サステナブルに「住み繋ぐ」には?マンション×SDGsの観点から考える資産管理のあり方【取材あり】
【関連記事】次世代に受け継ぎやすい住宅の特徴は?長寿命住宅の制度や間取りのポイントも

3-6 ESG関連認証制度

CASBEE評価認証制度

国土交通省住宅局の支援のもと産官学共同プロジェクトとして開発された認証制度です。省エネなどの環境配慮や室内の快適性、景観への配慮などの建物の総合的な環境性能が評価対象です。

【関連記事】不動産投資のサステナビリティ指標「GRESB」の評価基準は?参加企業やREIT(リート)の銘柄も

BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)

建築物省エネ法に基づいて創設された公的制度です。国が定める建築物エネルギー消費性能基準に基づく一次エネルギー消費量が評価・検証されます。

【関連記事】ESG不動産投資の関連指標「ZEH」「BELS」「GRESB」「LEED」の違いは?

CASBEEウェルネスオフィス評価認証

主にビルなどの建物内で働く人が、健康で生産的に活動するための環境性能を評価する認証制度です。建物で働く人の健康性、快適性の維持・増進を支援する建物の仕様、性能、取り組みを評価することで、知的生産性の向上や安全・安心に関する要素も評価されます。

3-7 社会的インパクト不動産

国土交通省が2023年3月に公表した「「社会的インパクト不動産」の実践ガイダンス(ダイジェスト版)」では、社会的インパクト不動は下記のように定義されています。

社会とともにある「不動産」には、企業等が中長期にわたる適切なマネジメントを通じて、ヒト・地域・地球の課題解決に取り組むことで、「社会的インパクト(※)」を創出し、地球環境保全も含めた社会の価値創造に貢献するとともに、不動産の価値向上と企業の持続的成長を図ることが期待されている。(このような不動産を「社会的インパクト不動産」と定義する。)
※取組の結果として生じた最終的な変化・効果のことをインパクトという。そのうち社会的効果を有するものを「社会的インパクト」という。

「社会的インパクト不動産」とは、少子高齢化や自然災害、遊休不動産の増加といった社会課題について解決を目指す不動産として期待されるものです。社会課題を4段階に分け、それぞれ不動産による対策の例を下記のように整理しています。

段階 評価項目の例
①安全・尊厳(命や暮らし、尊厳が守られる社会) バリアフリー設備の設置、子育て支援施設や高齢者向け住宅などの整備及び支援の提供、耐震性の確保、水害への備え、など
②心身の健康(身体的・精神的・社会的に良好な状態を維持できる社会) 医療施設・薬局の整備、救急用設備(AED等)の設置、水質の安全確保、感染症対策の実施、など
③豊かな経済(意欲や能力を発揮できる経済的に豊かな社会) 生産性向上に配慮したオフィス環境整備、デジタルインフラの整備、地域産材の使用、在宅勤務に適した住環境の整備、など
④魅力ある地域(地域の魅力や特色が生かされた将来にわたって活力ある社会) 空き家・空き店舗の活用や除却、緑化や緑地・親水空間の整備・保全、教育施設と教育の提供、など

まとめ

不動産鑑定において、どのようなESGへの配慮が評価されるかについて紹介しました。2023年8月時点では検討段階にあり評価項目などが決定しているわけではありませんが、長期的な視点で不動産を評価する重要指標として、将来の不動産市場に大きく影響を与える可能性があります。

また、ESG指標が不動産鑑定に導入されることは、地域社会の活性化や不動産の長寿命化、多様性に配慮した居住空間の快適性の向上など、社会全体をより良くする効果が期待されるものです。不動産業界にどのような影響を与えていくのか、注視していきたいポイントと言えるでしょう。

The following two tabs change content below.

倉岡 明広

経済学部経済学科卒業後、出版社や編集プロダクション勤務などを経てフリーライターとして独立。雑誌や新聞、インターネットを中心に記事を執筆しています。初心者が抱く不動産投資の疑問や質問を解決できるよう丁寧な記事を執筆していきます。