不動産投資のサステナビリティ指標「GRESB」の評価基準は?参加企業やREIT(リート)の銘柄も

※ このページには広告・PRが含まれています

他のさまざまな領域と同様に不動産業界でもESGに対する取り組みが積極的に進められています。不動産投資における投資判断などに役立てる目的で、現在では不動産会社や物件、運用ファンドなどのESGに対する取り組みの高さを評価する指標が複数運営されています。

今回紹介する「GRESB」はその一つで、2009年から運用が開始され、2022年現在では日本を含め世界各国の多くの不動産会社やREITなどのファンドなどが参画している指標です。今回はGRESBの概要や評価尺度、そして企業およびREITの参加状況を紹介します。

目次

  1. 不動産投資のサステナビリティ指標「GRESB(グレスビー、グレスブ)」とは?
    1-1.GRESBは不動産領域のESG指標の一つ
    1-2.GRESBの二つの特徴
  2. 不動産投資に関連が深いGRESBの評価基準
    2-1.GRESBの二つの評価尺度
    2-2.マネジメントコンポーネント
    2-3.パフォーマンスコンポーネント
  3. GRESBに参加している日本企業・REIT(リート)は?
    3-1.日本の参加企業・REIT数は年々増加傾向
    3-2.日本の不動産業界のGRESBのレーティングは改善傾向
  4. まとめ

1 不動産投資のサステナビリティ指標「GRESB(グレスビー、グレスブ)」とは?

2000年代頃からE(環境)、S(社会)、G(ガバナンス・企業統治)に対する課題解決に貢献するESGの取り組みが積極化しています。

不動産投資においてもこの潮流に乗る形で、不動産事業や企業のESGへの取り組みを評価し、投資判断に役立てる機運が高まりました。そのような機運の中で不動産業界のESGに対するパフォーマンスを投資家が評価するためとして形成されたのがGRESB(グレスビー、グレスブ)です。

1-1 GRESBは不動産領域のESG指標の一つ

ESGの取り組みの質の高さを評価するシステムがあれば、より簡単にそして透明度高くESGの考え方を不動産投資に取り入れることができるとの発想から、2022年時点では不動産におけるESG評価制度がいくつか運営されています。

GRESBもその一つで、2009年に欧州の年金基金が中心となって設立したものです。なお、こちらは「Global Real Estate Sustainability Benchmark(グローバル不動産サステイナビリティ・ベンチマーク)」の略で、カタカナ読みする場合はグレスビー、グレスブと読みます。

GRESBは企業やREITをはじめとした不動産投資ファンドのESGに対する取り組みを年次で評価し、レーティングを公表しています。国際的なESG評価のベンチマークの一つとして機能し、不動産会社やファンドのESGに対する評価情報を共有・比較するためのプラットフォームとなっています。

※参照:GRESB

1-2 GRESBの二つの特徴

不動産評価の尺度には、このほかにも米国の「LEED」や「WELL」、日本国内だと「CASBEE」などが存在します。これらも既に不動産投資におけるESG投資尺度として活用されていますが、他の不動産評価尺度と比較したとき、GRESBには大きな特徴が二つあります。

一つはGRESBの評価は、会社やREIT単位で行われることです。他の評価は不動産物件単位で行われる形となっているため、組織全体のESGの取り組み状況を評価するGRESBとは性質が異なります。

投資家のスタンスにもよりますが、不動産専業の投資家でない場合、不動産投資を直接物件を購入しておこなうとは限らず、不動産企業に投資する場合や、複数の不動産が組み入れられるREITに投資する場合も少なくありません。GRESBはそのような投資家にとって不動産投資を行ううえで参考となる評価システムとなっています。

また、もう一つの特徴は、GRESBは主に投資家によって運営されている点です。欧州の年金基金によって立ち上げられた同評価制度では、世界中の機関投資家がESGに対する評価をおこないます。日本では日本政策投資銀行(DBJ)や年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などが評価に参加しています。

他の不動産評価尺度が物件のESG評価という側面が強いのに対して、GRESBの評価項目は投資家目線で構成されており、投資判断をするうえで参考としやすい設計となっているのです。

2 不動産投資に関連が深いGRESBの評価基準

GRESBには大きく分けて「GRESBリアルエステイト」と「GRESBインフラストラクチャー」の2種類があります。前者は不動産関係、後者はインフラ建設に関する事業者が評価対象です。

ここからは不動産投資を考えるうえで関わりが深く、評価される側を意味する参加者も多いGRESBリアルエステイトの評価基準について紹介していきます。

2-1 GRESBの二つの評価尺度

GRESBの評価は大きく二つの尺度によっておこなわれます。

GRESBの評価尺度

  • マネジメントコンポーネント(MP:Management & Policy)
  • パフォーマンスコンポーネント(IM:Implementation & Measurement)

最終評価は5段階の星によるレーティングで、評価の高かった企業やファンドから20%刻みでつけられます。たとえば上位20%が5スター、次の20%が4スターといった具合です。また、両方で上位50%以上の評価を得た企業やファンドはグリーンスターの称号が与えられます。

単なる不動産自体のESGパフォーマンスだけでなく、企業やファンドの経営状況やESGに対する取り組み状況まで把握できるのが、GRESBの特徴です。ここからは二つの評価尺度の基準についてさらに詳しくみていきましょう。

2-2 マネジメントコンポーネント

マネジメントコンポーネントはESG経営の実施状況が評価されます。サステナビリティに関するポリシーの整備具合や運営・管理体制、情報開示の状況などが主な評価項目です。一時の取り組みだけでなく継続的な管理や情報開示状況まで評価されるため、企業に持続的なESGの貢献を促す仕組みとなっています。

また、不動産物件にフォーカスすると見落とされがちな、従業員満足度やダイバーシティといった組織体としてのESGの質の高さも評価されるのが特徴です。

マネジメントコンポーネントの評価項目

評価項目 概要
リーダーシップ ESGの推進体制
目標の整備状況
ポリシー ESGポリシーの整備状況
報告 情報開示の透明性
過去の違反有無
リスクマネジメント 管理システム
ESGリスク要因の管理状況
ステークホルダーエンゲージメント 従業員満足度
健康管理
ダイバーシティ
サプライヤーのESG管理

※参照:GRESB「2022 Real Estate Assessment

2-3 パフォーマンスコンポーネント

パフォーマンスコンポーネントでは実際にESGに対する貢献度合いや、実績などを評価します。組織本体よりも運用している不動産物件のESG性能にフォーカスした評価軸となります。シンプルな環境性能に加えて、アセスメントの実施状況や、投資物件のグリーン認証の取得状況などが評価項目に含まれています。

パフォーマンスコンポーネントの評価項目

評価項目 概要
リスクアセスメント リスクアセスメントおよび
省エネ/水削減/廃棄物アセスメントの実施
リスク要因に対する改善施策の実施
目標設定 エネルギー、CO2排出量、水、廃棄物、ビル認証、データ把握などに対する目標設定など
テナント&コミュニティ テナントの満足度
ESG関連の工事規定
賃貸借契約の状況
周辺地域の評価
エネルギー エネルギーデータ管理状況
温室効果ガス
水使用
廃棄物
各種データの管理状況
データ管理&レビュー データ管理のレベル(第三者による確認有無など)
ビルディング認証 グリーンビル認証、エネルギー性能評価の取得状況

※参照:同上

3 GRESBに参加している日本企業・REIT(リート)は?

GRESBは日本・世界とも年々参加企業やREITが増加傾向にあります。例えば世界ではGRESBリアルエステイトの参加企業は2010年時点で198社だったところ、2015年に707社、2020年には1,229社まで増加しています。(※参照:一般社団法人グリーンビルディングジャパンGRESBとは」)

日本の企業やREITにおける参加社数も拡大しつつあり、更に評価も改善傾向にあるなど、不動産業界の各社がESGへの取り組みに積極的な現状が伺えます。ここからは日本のGRESBリアルエステイトの参加状況についてみていきましょう。

3-1 日本の参加企業・REIT数は年々増加傾向

2009年に設立した時点では、日本の不動産企業やREITのなかでGRESBの評価対象になっている先はありませんでした。2011年には初めてJ-REIT5社、REIT以外の不動産会社15社の計20社が評価対象となりました。

その後も年々増え続け、2021年時点ではJ-REITが55法人、不動産会社が54社が評価対象として参加しています。

日本の参加企業数・REIT数の推移

*各企業・REITの公表情報を基に筆者作成

特にJ-REITはGRESBへの積極的な参加が見られ、2021年9月1日時点では時価総額ベースで98.6%がGRESBの評価を受けています。ほとんどのJ-REITがGRESB評価を取得していることから、J-REIT投資においては、投資銘柄を比較検討するうえで、GRESBのレーティングを加味して考えるのが有効な投資判断の一つとなります。

3-2 日本の不動産業界のGRESBのレーティングは改善傾向

社数が増えているだけでなく、日本の不動産のGRESBの評価も改善傾向にあります。例えば、J-REITのGRESBのレーティングの平均は2017年時点では3.48でしたが、2021年には3.76まで改善しています。また、最上位の5Starを取得している法人も増えてきており、2021年では時価総額ベースで約30%に達しています。

特に大手のJ-REITについては多くの法人が5Starを獲得している状況です。

J-REIT大手5法人のGRESBレーティング

J-REITファンド名 レーティング GreenStar取得状況
日本ビルファンド投資法人 5Star** 〇**
7年連続**
日本プロロジスリート投資法人 5Star
8年連続
ジャパンリアルエステイト投資法人 5Star
8年連続
野村不動産マスターファンド投資法人 5Star
7年連続
日本都市ファンド投資法人 5Star 〇**
6年連続**

*各企業・REITの公表情報を基に筆者作成
**こちらの記号がついているデータは2021年時点。特記ないものは2022年時点

【関連記事】REIT(リート)銘柄を選ぶポイントは?人気ファンド3本も紹介

4 まとめ

不動産業界でESGへの取り組みが積極化する中で、現代ではさまざまな評価指標が運用されています。そのなかでGRESBは物件単体ではなく、不動産会社やJ-REITの組織全体のESGへの取り組み状況も評価に含めているのが特徴です。特にJ-REITへの投資や不動産企業の株式投資などを行っている人にとっては有効な評価指標となるでしょう。

GRESBへの参加法人数やレーティング状況をふまえると、ESGへの積極的な取り組みを進めているJ-REITが多数見られます。不動産投資を通じてESGへも貢献したいと考えている投資家は、GRESBを基準にJ-REIT投資をおこなうのも有効な選択肢の一つです。

The following two tabs change content below.

伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。