アフォーダブルハウジングとは?アフォーダブル住宅の世界の事例も

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世界の様々な国や都市で、「アフォーダブルハウジング」という考え方や取り組みが進められています。一部の大都市圏などで住居費が高騰する中で、人々が安定した暮らしを長期で続けていくためには「手に入れやすい価格の住宅」を意味するアフォーダブル住宅の積極的な供給が望まれます。

SDGsのゴール11「住み続けられるまちづくり」の達成に向けてもアフォーダブル住宅は大きな役割を果たします。

海外で多様な取り組みが見られている一方で、日本でも「公営住宅」などの形で、すでにアフォーダブル住宅の供給は進められてきました。今後は空き家のアフォーダブルハウジングへの活用が期待されるところです。

この記事では、アフォーダブル住宅の考え方や事例、世界各国の取り組みについて紹介していきます。

目次

  1. アフォーダブルハウジングとは?
    1-1.アフォーダブルハウジングの基本的な考え方
    1-2.SDGsゴール11「住み続けられるまちづくり」達成のために
    1-3.住居費の高騰が顕著な都市が散見される
  2. アフォーダブルハウジングの具体的な取り組みパターンとは?
  3. アフォーダブルハウジングの事例5選
    3-1.モーテル転換条例|アメリカ、ロサンゼルス
    3-2.コミュニティ・プラス・プログラム|オーストラリア、ニュー・サウス・ウェールズ州
    3-3.住宅手当|デンマーク
    3-4.公営住宅の供給|日本を含む世界各地
    3-5.大企業による宅地開発|GAFAなど
  4. 日本では空き家をアフォーダブルハウジングに役立てる動きも
  5. まとめ

1 アフォーダブルハウジングとは?

アフォーダブルハウジングという概念や取り組みは、SDGsのゴール11「住み続けられる街づくり」の達成に向けた推進や、世界各地の都市部を中心とした住宅価格の高騰を背景に注目されています。まずは、基本的な定義や課題意識が高まっている背景についてみてみましょう。

1-1 アフォーダブルハウジングの基本的な考え方

アフォーダブル(affordable)とは「手ごろな価格」「手に入れやすい価格」という意味なので、アフォーダブルハウジングは「手ごろな価格で手に入る、もしくは住み続けられる住宅」ということになります。

いわゆるセーフティーネットの意味合いが強い低所得者をはじめとした住宅確保が困難な層に向けた住宅供給だけでなく、平均的な収入の方も含めた多くの市民が安定した生活を送れるような、適正価格の住宅を供給する取り組みです。

アフォーダビリティの考え方として、住居費(家賃・光熱費など)が所得の30%以内に収まることが望ましいとされていて、これを超えると住居費が安定した生活を送るうえでの負担となると考えられています。(※参考:アメリカ合衆国住宅都市開発省「Glossary of Terms to Affordable Housing」)

この水準に収まるような家賃および購入価格水準で手に入る住宅や、住宅を供給する取り組みをアフォーダブルハウジングと呼びます。

1-2 SDGsゴール11「住み続けられるまちづくり」達成のために

持続的に発展していける社会を形成するための目標をまとめたSDGsの中には「住み続けられるまちづくり」というゴールがあります。都市が健全に発展していくためには、そこに暮らす人々が、長期にわたり安定した生活を送れる状態にすることが大切であるためです。

住居費が高すぎると、人々は少々の収入状況やライフスタイルの変化により、その場所で生活を維持することが難しくなります。そのような都市は頻繁に人が入れ替わることになるため、SDGsのゴール11を満たさなくなるのです。

アフォーダブルハウジングとは、住居費が高すぎる地域や都市において、SDGsゴール11の達成に向けた重要な取り組みの一つとなっています。

1-3 住居費の高騰が顕著な都市が散見される

米国のシンクタンクであるリンカーン土地政策研究所は、2018年に世界200都市を対象に住宅のアフォーダビリティ(入手のしやすさ)を調査し、「Housing Affordability in a Global Perspective」にてまとめています。

同レポート内では「住宅価格は年間所得の3倍以内がアフォーダビリティの目安」としていますが、世界200都市の住宅価格と所得の倍率の中央値は4.9で、90%以上の都市が3.0を上回っている状況でした。

このように都市部ではグローバルに住宅価格が高騰し、平均的な所得の層でもゆとりのある安定した生活が送りにくくなっています。このような状況を変えるために、アフォーダブルハウジングという取り組みが進められているのです。

2 アフォーダブルハウジングの具体的な取り組みのパターンとは?

平均的もしくはそれ以下の所得層が快適な住宅を手ごろな価格で得られるようになる取り組みは、全般的にアフォーダブルハウジングとみなされるため、その取り組み方法はさまざまです。

このあと具体的な事例については紹介していきますが、2023年7月時点では次のようなパターンが見られます。

  • 空き家や不使用施設の活用
  • 土地の区画変更や有効活用
  • 資金供給
  • 公営住宅の供給
  • 宅地開発

市場原理のもとで、高所得層の居住や投資資金の流入などによって都市部の住宅は高騰しがちなため、世界各地で多面的なアプローチによって住宅のアフォーダビリティを高める取り組みがすすめられているのです。

3 アフォーダブルハウジングの事例5選

住宅価格の高騰が顕著な世界の大都市圏では、すでにアフォーダブルハウジングに関するさまざま取り組みが進められています。ここからは世界各地の先進的な事例をみていきましょう。

3-1 モーテル転換条例|アメリカ、ロサンゼルス

米カリフォルニア州にある大都市ロサンゼルスは、住宅価格の高騰により、ホームレスの発生や社会復帰が困難になっている現状を踏まえて、モーテル転換条例を2018年に制定しています。

同条例のもとでは、空室となっているモーテルを、ホームレスや障がいを持つ方向けに、社会復帰に向けた支援住宅や定住地を手に入れるまでの仮住まいとして提供する仕組みです。住宅価格が高騰すると安定した住居を確保できない人が増え、住居を失うと社会復帰のハードルも高くなります。

同条例はそうした問題を緩和するために、空いたモーテルを有効活用し、住宅のアフォーダビリティを高める取り組みなのです。

※出典:LOS ANGELES「GUIDELINES FOR PLAN CHECK AND PERMIT REQUIREMENTS FOR INTERIM MOTEL (HOTEL) CONVERSION PROJECTS

3-2 コミュニティ・プラス・プログラム|オーストラリア、ニュー・サウス・ウェールズ州

ニュー・サウス・ウェールズ州とはオーストラリアの最大都市シドニーがある州です。同都市での住宅価格の高騰が課題の一つであることから、州政府は「コミュニティ・プラス・プログラム」という公共政策をおこなっています。

都市内の地域で区画整理や再開発が必要な地域について政府主導で整備を進め、手ごろな価格で住宅を人々に提供しているのです。2023年時点では125,000戸以上の物件を管理しています。

「ニュー・サウス・ウェールズ住宅公社」が中心となって政府や民間業者とも連携しながら進められている政策です。

※出典:NSW「Land and Housing Corporation

3-3 住宅手当|デンマーク

日本で住宅手当というと企業が福利厚生の一環で支給するケースなどがみられますが、デンマークでは公的支援の一環として住宅手当制度が存在します。

次の3つのカテゴリから構成されています。

  1. 年金受給者(国民年金あるいは早期退職者年金制度の受給者)用
  2. 低所得者等を対象とした住宅手当
  3. 敷金ローンの貸付

参考:国立社会保障・人口問題研究所「No.25 デンマークにおける居住保障政策ー「自立」のための住宅セーフティネットー

世界的にみると、手当を受給している層が広いのがデンマークの政策の特徴で、低所得者だけでなく中所得者の住居確保や住まいの維持にも役立てられています。

3-4 公営住宅の供給|日本を含む世界各地

文章によってはアフォーダブルハウジング=公営住宅と訳される場合があるように、政府や公的機関が主導して公営住宅を供給する手法は、アフォーダブルハウジングにおいてしばしば取られる手法の一つです。

世界のさまざまな国や地域で同じような取り組みが行われていて、日本各地にある公営住宅もアフォーダブルハウジングと考えることができるでしょう。

海外では、たとえばイギリスにおいて積極的な公営住宅への投資が行われていて、2019年には121億ポンドの予算が公営住宅の新規建設が行われ、同年時点でイギリス全土で1,640億ポンド相当の公営住宅がありました。(※参照:GOV.UK「Global accounts 2019 published」)

ロンドンの中心部では約40〜50%が公営住宅を占めるなど、都心部では低〜中所得者層の重要な住宅確保の手段となっています。

3-5 大企業による宅地開発|GAFAなど

世界的な大手企業の一大拠点があると、それだけで人口が増え、不動産価格が高騰する場合があります。同企業や関連企業が高年収を支給するため、人々の購買力が上がっていくからです。

カリフォルニアのシリコンバレーにも見られるように、企業の発展とともに、極端にその地域だけ生活費が高くなる場合もあります。

GAFAに代表されるような米国の超大手企業の一部は、このような事態を改善しSDGsに貢献するために、本業とは関連性の薄いにもかかわらずアフォーダブル住宅の大規模開発に乗り出しています。

たとえばAmazonは、2021年にアフォーダブルハウジングの促進ために20億ドル(約2,080億円)のファンドを立ち上げました。本社などが所在するワシントン州シアトル近郊など、複数の箇所に計2万戸の住宅を整備する方針です。

同年までに米Apple(アップル)やフェイスブックも、カリフォルニア州住宅難解消に向け資金を投入すると発表していますし、Googleはサンフランシスコのベイエリアに、アフォーダブル住宅の開発に10億ドルを投じる方針を示しています。

※出典
Amazon:Amazon Launches $2 Billion Housing Equity Fund to Make Over 20,000 Affordable Homes Available for Families in Communities It Calls Home
Apple:Apple commits $2.5 billion to combat housing crisis in California
Meta(facebook):Facebook Commits $1 Billion and Partners with the State of California to Address Housing Affordability
Google:$1 billion for 20,000 Bay Area homes

4 日本では空き家をアフォーダブルハウジングに役立てる動きも

日本ではRennovaterという企業が、空き家を活用したアフォーダブルハウジングの活性化を目指しています。同社は投資家から資金調達し、空き家をリノベーションさせ、それを住宅入手困難者などに賃貸物件として提供する事業を展開しています。

同社の取り組みは、日本で課題となっている空き家の減少に役立つとともに、住居確保が難しい層への住居提供にも貢献しています。

投資家から資金を集めることでアフォーダブルハウジングのビジネスが活性化します。また、空き家投資を自前で行うのが難しいという投資家に対して、小口でリスクを抑えて投資する手段を提供する役割も果たしているのです。

まとめ

アフォーダブルハウジングは、住宅価格の高騰が著しい海外の都心部で特に広まった考え方です。

公営住宅の提供のほか、給付金や区画整理・再開発など、さまざまな手法でアフォーダブルハウジングが実践されています。低〜中所得者の方が安心して住宅を手に入れ、住み続けられる街を形成するうえで重要な取り組みです。

日本でもサステナビリティの観点から、アフォーダブルハウジングの推進が期待されるところです。すべての人が手ごろな価格で適切な住環境を整えることが出来れば、空き家問題の改善にも役立ち、住居の悩みを抱えている方が安心して暮らせる社会に繋がっていくと考えられます。

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伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。