ジェントリフィケーションは、もともと相対的に不動産価格の低かった地域が、資本の流入や再開発、高所得者の流入などによって高付加価値な地域となることです。都市が発展していくきっかけとなる一方で、もともと住んでいた人々が地域外に追いやられるなど、ジェントリフィケーションには様々な課題も存在します。
今回の記事では不動産投資の活性化とジェントリフィケーションの関係性や課題について紹介していきます。
目次
- ジェントリフィケーションの特徴と課題
1-1.ジェントリフィケーションとは?
1-2.ジェントリフィケーションの効果
1-3.ジェントリフィケーションの課題 - 不動産投資がジェントリフィケーションを誘発する背景
2-1.不動産売買の活性化が価格高騰を誘発
2-2.「利便性」を尺度とした付加価値の向上
2-3.投資家の資金流入による不動産の更新 - 個人投資家がジェントリフィケーションをふまえて考慮・検討すべきこと
3-1.自治体の都市計画や地域振興の方針を確認
3-2.低所得者向けの快適でリーズナブルな居住地の提供 - まとめ
1 ジェントリフィケーションの特徴と課題
相対的に不動産価格の低い地域が発展する一つのプロセスであるジェントリフィケーションは、都市の発展に寄与する一方で、課題も存在します。
1-1 ジェントリフィケーションとは?
ジェントリフィケーション(Gentrification)とは、相対的に不動産価格の低い地域が、さまざまな要因によって高級化・ブランド化する現象のことを指します。古くは高所得者や上流階級の人々が移り住み、質の高い住居に物件をリフォーム・リノベーションしたり、その地域で積極的に消費活動を行なう中で商業が発展したりして不動産価値が上昇し、家賃や物価が高騰するプロセスがしばしばみられました。
現代の日本では、不動産投資家の参入による不動産価格の高騰や、大規模な再開発に伴う街のブランド化、高付加価値化などがジェントリフィケーションを引き起こすケースが散見されます。
1-2 ジェントリフィケーションの効果
ジェントリフィケーションは社会課題の一つとして紹介されることが多くありますが、本質的には地域の発展プロセスの一形態であり、次のような効果があります。
- 地域の活性化
- 住環境の改善
- 安全性の向上
- 地域の魅力が向上
ジェントリフィケーションが進み地域が発展すれば、地域の価値や魅力が高まり、地域に新たな人々やビジネスが集まります。地域の活性化が促進され、文化的・経済的な発展が期待されます。
また、地域にある住居や商業施設などの開発が進みます。さらに公共施設が充実化したり、道路の整備などが進んだりすることも。ジェントリフィケーションが進むことで、住民の生活環境が向上します。
地域の安全性の向上につながることもジェントリフィケーションの良い側面です。不動産価格の低い地域の中には治安の悪い地域も存在します。高級住宅や商業施設の進出により住民の経済的な余裕が高まり、また住宅・施設のセキュリティ水準が向上することによって、地域の犯罪が減少する場合があるのです。
最後に、快適な住環境、質の高い商業施設や公共施設、そして治安の良さが複合的に作用して、その地域の魅力が向上します。地域のビジネス需要や入居需要、投資需要が高まる中で、資産価値の向上も期待できます。
1-3 ジェントリフィケーションの課題
ジェントリフィケーションには、次のような課題が存在します。
- 住居の高騰
- 社会的格差の課題
- 地域に根付いた文化の喪失
- 新旧の住民間の不和
「高級化」がジェントリフィケーションの定義の一部をなしているため、必然的にジェントリフィケーションが起こる地域は家賃や物価が高騰します。その結果、元々住んでいた低所得者層が他地域に追い出されることも少なくありません。追い出された住民は新たな住居を探さなければならなくなりますし、ホームレスの増加原因にもなります。
また、高所得者層と低所得者層の間の格差が拡大する原因となることもあります。高所得者は現代的で快適な住居環境で暮らすことができる一方で、追い出された低所得者層の住居環境がかえって悪化するリスクもあります。その地域や都市において高所得者が優位に立ちやすい不公平な社会が形成される温床となりうるのです。
元々の住民が退去することで伝統的な文化を知る人がいなくなったり、再開発や建て替えの過程で伝統的な施設や建造物が失われたりすることで、その地域の文化や歴史的背景が失われるケースもありえます。結果的に、意図せざる形で新たな住民が持ち込んだ文化への同化が進んでしまうことになります。
その地域に残った住民が一定数いる場合には、新たに移り住んできた人々との間でトラブルが発生することも。新たな住民がその地域の慣習や文化を拒んで不和を生んだり、旧来の住民から差別的な扱いを受けることがあります。
逆に新住民がマジョリティとなる場合には元々いた住民が差別や偏見にさらされるリスクもあります。このように、元々の住民がその地域にうまく残ったとしても、ジェントリフィケーションの課題が露呈する場合があるのです。
ジェントリフィケーションが進む地域では、以上のような課題にうまく対処しながら、地域発展を目指すことが大切です。
2 不動産投資がジェントリフィケーションを誘発する背景
ジェントリフィケーションの発生原因はさまざまですが、不動産投資の活性化もジェントリフィケーションを誘発する一つの要因となりえます。続いては不動産投資とジェントリフィケーションの関連性についてみていきましょう。
2-1 不動産売買の活性化が価格高騰を誘発
ジェントリフィケーションは、再開発などによって先に不動産がアップデートされて起こる場合と、不動産価格の高騰により結果的に高所得者層が増えたり、その地域の平均所得が向上したりして起こる場合があります。
さて、不動産投資の活性化は、このうち後者のプロセスでジェントリフィケーションを引き起こします。特定の地域において不動産投資家の参入が促進され、物件が活発に売買されたとしましょう。不動産価格は「需給」の影響を多分に受けて価格が変動するため、このような「買いたい人」が多い地域の不動産価格には上昇圧力がかかるのです。
不動産価格が上がれば、そこには所得水準の高い人が流入し、逆に低所得者は生計が立たなくなって退去します。高所得者が物件を更新したり、住民のニーズを満たす商業施設などが進出したりして、ジェントリフィケーションが加速する可能性があります。
2-2 「利便性」を尺度とした付加価値の向上
不動産投資においては「駅に近い」「周辺に商業施設が多い」など、周辺の利便性を尺度とした「立地」が投資需要の高さに大きな影響を及ぼします。しかし、利便性の良い地域が昔から同じく利便性がよく、価値が高かったとは限りません。そのため近年の開発や新たな交通網の開通などにより利便性が急改善した地域は、急激に投資需要が高まり不動産価格が向上する場合があります。
また、そもそも利便性を尺度とした「立地」が不動産の付加価値の重要な決定要素となったのは比較的近現代に入ってからの話です。日本全体を見渡せば、利便性が低い地域でも伝統的に有力者が多く住んでいたり、逆に交通網のアクセスが良いのに不動産価格が低いままだったりする地域も見られます。
そこに不動産投資家が積極的に参入すると、利便性に基づく「立地」の良さが着目されて、付加価値が一気に高まることになります。アクセスが良いが不動産価格が低いまま放置されている地域に投資需要が集中すれば、不動産価格が急騰して、ジェントリフィケーションが促進されるでしょう。
2-3 投資家の資金流入による不動産の更新
多くの投資家は自分の物件がスムーズに収益を産み出すように、積極的な投資をおこないます。居住用の不動産でいえば、最新鋭の設備を兼ね備えた新築物件を建設したり、中古物件をリノベーションして便利にしたりします。資産価値が高まったのちは、高い収益を得るために賃料の引き上げをおこないます。
またオフィスや商業施設についても、投資が促進されれば、テナントを獲得するために付加価値の高い建物を建設したり、リノベーションしたり、時には周辺の道路や設備を再開発したりします。法人であればオフィスビルのような大規模物件への一棟投資を行い、個人でも区分投資やファンド投資を通じて特定地域の物件の付加価値向上に貢献する場合もあります。
このように潤沢な投資資金が流入すれば、新築・中古を問わずその地域の不動産がアップデートされます。付加価値の向上により賃料水準や不動産価格が引き上げられれば、ジェントリフィケーションが加速されるでしょう。
3 個人投資家がジェントリフィケーションをふまえて考慮・検討すべきこと
不動産価格の低い地域が発展する過程では、ジェントリフィケーション自体を回避するのは困難です。そのため、できるだけ弊害を抑えながら、新旧の住民が共生していける地域社会を形成するよう工夫していくことが大切です。
ジェントリフィケーションに対する対策は、自治体が地域全体で取り組むべきものではありますが、個人投資家として次のような工夫をすることで、地域の健全な発展を後押しするのも一案です。
3-1 自治体の都市計画や地域振興の方針を確認
ジェントリフィケーションを起こしつつも都市が健全に発展していくためには、自治体による能動的な政策実行が不可欠です。そのため個人投資家としてまずすべきことは、健全な都市発展を後押しする政策を推進する自治体を選んで、その地域で投資を行なうことです。
例えば、自治体の政策に次のような特徴があれば、ジェントリフィケーションへの対策に積極であると判断できます。
- 地域振興に積極的である
- 計画的で健全な発展を促す開発を行なっている
- 低所得者向けのサポートや安価でも住みよい居住地やセーフティネットの整備を進めている
- 伝統的な文化の保護に積極的である
- 新旧の住民がうまく強調した健全なコミュニティの形成を推進している
このように、自治体が主導していくべきポイントは多数あります。必要十分で賛同できる政策を行なっている自治体で不動産投資を行なうことで、ジェントリフィケーションによりネガティブな影響を受ける住民を発生させることなく、都市の発展に貢献できるでしょう。
3-2 低所得者向けの快適でリーズナブルな居住地の提供
ジェントリフィケーションの緩和に直接貢献する方法としては、低所得者向けに質の高い住居を提供する方法があります。
日本政府および各自治体は「地域優良賃貸住宅」という住宅確保要配慮者(低所得者や高齢者などが該当)向けの賃貸住宅事業を行なっています。住宅確保に支障がある住民に対する住居提供を主目的としている事業で、条件を満たせば補助金の支給なども受けられます。(※参照:国土交通省「地域優良賃貸住宅制度」)
また、空き家を活用して安価で快適な住居を提供するのも一つの方向性です。古い物件の趣を残しながらリノベーションして住居提供するなどすれば、文化や伝統を守りながらジェントリフィケーションの弊害の緩和に貢献できます。空き家活用についても自治体によっては補助金が支給される場合もあります。
低所得者向けのセーフティネットを目的とした不動産投資については、こちらの記事で詳しく紹介しているので、あわせて読んでみてください。
【関連記事】セーフティネットとしても注目される低所得者向け賃貸住宅経営の課題は?不動産投資家にできる取り組みも
まとめ
もともと不動産価格の低かった地域が高級化するジェントリフィケーションは地域の発展において重要なプロセスの一つである一方で、旧来の住民が追い出されるなどさまざまな弊害も存在します。まずは、ジェントリフィケーションのメリットと課題について理解しておきましょう。
個人の投資家としてはまず、健全な発展を推進する地域での投資を積極的におこなうようにしましょう。また、より直接的にジェントリフィケーションの課題解決に貢献したいなら、低所得者向けのセーフティネットを不動産投資の側面から提供する方法もあります。
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伊藤 圭佑
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