セーフティネットとしても注目される低所得者向け賃貸住宅経営の課題は?不動産投資家にできる取り組みも

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人口減少に伴い空き家が増え続けている中で、今後の公共住宅の供給は横ばいもしくは微減が想定されます。このような日本の状況のなかで、低所得者の方や高齢者の方などは安価で快適な住居を確保するのが難しくなっている実態があります。

国や自治体は民間事業において住宅確保要配慮者への住宅供給を促進するために、公共住宅の供給と並行して補助金や支援事業を展開しています。また空き家の再活用についても、各自治体さまざまな制度を整備しています。こうした制度をうまく活用すれば、個人の不動産投資家でもセーフティネット拡充への貢献が可能です。

今回は日本国内の空き家や公営住宅の現状を踏まえ、低所得者の方のセーフティネットとして期待される賃貸住宅の課題について解説します。個人投資家が出来る取り組みについても紹介するので、こちらもご参考ください。

目次

  1. 空き家や公営住宅の現状
    1-1.空き家の増加と公営住宅の減少
    1-2.一様に賃貸需要が減少しているわけではない
    1-3.官民連携によるセーフティネットの拡充が進められている
  2. 低所得者向け住宅セーフティネットの課題
    2-1.人口動態の変化による高齢者向け住宅ストック拡充の必要性
    2-2.高齢者向け住宅供給に課題
    2-3.低所得者の住居費抑制と居住環境改善に課題
    2-4.住宅確保要配慮者の入居ハードルの高さ
  3. セーフティネット拡充に個人投資家が貢献できること
    3-1.制度をうまく活用して低所得者・高齢者向けの賃貸住宅の提供を
    3-2.空き家を活用した低所得者向け住宅の供給も一案
  4. まとめ

1 空き家や公営住宅の現状

低所得者向けの賃貸の賃貸住宅の現状を考えるうえで、空き家の状況や公営住宅・共同住宅のストック状況を捉えておく必要があります。低所得者をはじめとした住宅確保要配慮者(住宅確保が難しく、配慮が必要な方。低所得者、被災者、高齢者、障がい者、子育て世帯など)向けの住宅供給において公営住宅・共同住宅が大きな役割を果たすからです。

1-1 空き家の増加と公営住宅の減少

少子高齢化を背景に、全国で見ると空き家率は着実に増加傾向です。

全国の空き家数と空き家率の推移


出所:国土交通省「空き家政策の現状と課題及び検討の方向性

このような状況下で、民間対比で家賃が低い傾向にある公営住宅の供給をいたずらに増やすと、民間の不動産経営の圧迫要因となりかねません。

今後も空き家の急激な減少や賃貸需要の回復は期待できないため、公営住宅の供給戸数も平成17年ごろを境に減少傾向となっています。今後も大幅な供給増は期待しにくい状況です。

全国の公営住宅の供給戸数


出所:国土交通省「社会資本整備審議会 住宅宅地分科会 新たな住宅セーフティネット検討小委員会 参考資料

新規の公営住宅の供給が進みにくい中で、公営住宅の老朽化も課題です。すでに全国の公営住宅の60%が築30年を経過しています。老朽化する中で賃貸需要も見込みにくいとなれば、老朽化住宅の廃棄が進むにつれて今後ますます公営住宅のストック減少に拍車がかかる可能性もあります。

1-2 一様に賃貸需要が減少しているわけではない

全国で見ればここまで紹介した通り、人口減少により賃貸需要が低下すると懸念され、公営住宅のストック減少は一見合理的であるように見えます。

しかし、賃貸需要には地域差がある点に留意しなければなりません。人口流入の継続や、平均的な賃料の高止まりを背景に、首都圏をはじめとした大都市圏では引き続き公営住宅の賃貸需要が根強い状況です。例えば、公営住宅の応募倍率は東京で22倍以上にもなり、公営住宅の入居希望者の多くが入居できていない状態となっています。

都市圏および全国の公営住宅の応募倍率


出所:国土交通省「社会資本整備審議会 住宅宅地分科会 新たな住宅セーフティネット検討小委員会 参考資料

また、高齢化が進む中で、高齢化の居住率が上昇傾向にある点にも着目すべきです。近年では公営住宅居住者の過半数が高齢者となっています。

公共住宅入居者の高齢者比率の推移


出所:国土交通省「社会資本整備審議会 住宅宅地分科会 新たな住宅セーフティネット検討小委員会 参考資料

公営住宅の減少は、都市部を中心に低所得者や高齢者などの住居面でのセーフティネットの脆弱化につながると懸念されます。

1-3 官民連携によるセーフティネットの拡充が進められている

公営住宅だけで低所得者・高齢者向けに充分な住居を提供しづらい市場環境がある中で、国土交通省は民間事業者の住宅ストック拡充の支援も進めています。

例えば、地域優良賃貸住宅制度では周辺の不動産市場を阻害しない程度に家賃の低廉化補助をおこなうことができます。

低廉化を実施するかどうかは地方公共団体で判断することができ、平成27年度の場合は約半数の49%の地方公共団体が賃貸住宅のオーナーに補助を行っていました。

平成27年度末時点では地域優良賃貸住宅に認定された物件において、全国平均で低廉化前の家賃が7.5万円だったのに対して、平成27年度末時点で平均2.8万円の支援を行い、平均4.7万円で提供されていました。

地域優良賃貸住宅の物件は民間事業者が運営することも念頭に収入超過後も継続居住が可能とすることで、収入超過による転出が頻発しないよう配慮もされています。

また、住宅確保要配慮者専用賃貸住宅改修事業は、バリアフリーや間取りの整備、耐震工事など、住宅確保要配慮者向けに快適な住環境を整備して賃貸事業を行う場合に、改修工事の補助を受けられる仕組みです。オーナーはこれらの補助を受けることで住環境の整備のためのコストを抑制し、住宅確保要配慮者を募るために必要な整備を行うことができます。

2 低所得者向け住宅セーフティネットの課題

官民が連携して低所得者向けや高齢者向けの住宅セーフティネットの拡充が進められているものの、日本の人口動態や充分に適応しきれているとはいえません。まだまだ低所得者・高齢者向け住宅には解決するべき課題が存在します。

2-1 人口動態の変化による高齢者向け住宅ストック拡充の必要性

日本では少子高齢化に伴う人口減少が今後継続する見通しです。人口全体が減少し、住宅需要が減ると見込まれる一方で、高齢者向けには充分な住宅ストックを維持しなければなりません。

2010年時点の人口と今後の推移予測


出所:内閣府「第1章 第1節 1 (2)将来推計人口でみる50年後の日本

住宅ストック全体は横這い~微減させながらも、高齢者向けのストックは充実させていく必要があります。更にその中で、低所得者が安心して暮らせる住宅の供給も継続することが重要になります。

2-2 高齢者向け住宅供給に課題

今後、高齢者は特に単身世帯において増加が想定されます。こうした世帯は生涯にわたり単身で寿命を全うすると考えられることから、生涯住み続けられる賃貸住宅の拡充が必要です。

こうした状況を受けて、政府は「終身建物賃貸借事業」を展開しています。これは、高齢者世帯が終身にわたり安心して賃貸住宅に住み続けられる仕組みです。賃貸契約が建物の老朽化など特別な事情を除いて、借家人が生きている限り存続し、死亡した時に終了するものです。

しかし、同制度は賃貸期間が借主の寿命に依存するため不確実になるなど、貸主にとっては負担の大きい制度です。そのため、認可実績は平成28年時点で1万件弱にとどまり、増え続ける高齢者に対して充分なセーフティネットとして機能しているとは言い難い状況といえます。

終身建物賃貸借事業認定件数の推移


出所:国土交通省「終身建物賃貸借事業の概要と実績

2-3 低所得者の住居費抑制と居住環境改善に課題

官民連携の制度はあるものの、現時点では低所得者向けのセーフティネットは充分とは言えない状況です。

例えば、年間収入と家賃の関係性を見てみると、年収300万円を下回ったところから、家賃負担率が37.3%を超える「高家賃負担」の世帯が急増します。これは低所得者が家計を安定維持できる低廉家賃の物件が不足していることを意味します。

また、低所得者向け住宅は相対的に最低居住面積未満の物件の割合が多く、居住環境も課題です。低廉な家賃で最低限以上の居住環境を維持した物件の拡充が必要な状況といえるでしょう。

年収帯別の高家賃負担世帯および最低居住面積未満の世帯の比率


出所:国土交通省「社会資本整備審議会 住宅宅地分科会 新たな住宅セーフティネット検討小委員会 参考資料

2-4 住宅確保要配慮者の入居ハードルの高さ

低所得者や高齢者など本来積極的に住宅を確保しなければならない「住宅確保要配慮者」は家賃負担が厳しいという点以外でも、賃貸入居のハードルが高い傾向にあります。

一つはオーナーによる入居制限です。オーナーの中には高齢者や障がい者や外国人など、住宅確保要配慮者の入居に拒否感を示す人もおり、実際に入居制限をかけているケースも見られています。

また、賃貸を借りるときには、多くの場合保証人が必要ですが、核家族化の中で実際に保証人を見つけるのが難しい人が増え、現実には保証会社による保証を活用する人が増えています。

保証会社は保証可否を決めるために審査を行いますが、ここでも高齢者や生活保護受給者などの住宅確保要配慮者が審査落ちするケースもあります。

【関連記事】不動産投資で外国人入居者の受け入れのメリット・注意点は?不動産会社の対応事例も
【関連記事】高齢者を受け入れる不動産投資のポイントは?自治体のサポート事例も

3 セーフティネット拡充に個人投資家が貢献できること

低所得者が安心して快適に暮らせる住宅の整備はまだ充分とは言えません。一方で、政府や地方公共団体が整備している住宅確保要配慮者向けの住宅支援制度を活用すれば、個人投資家でもセーフティネット拡充に貢献することができます。

ここからは個人投資家が住宅確保要配慮者向け賃貸住宅事業を始めるうえでのポイントをみていきましょう。

3-1 制度をうまく活用して低所得者・高齢者向けの賃貸住宅の提供を

政府や地方公共団体が提供する住宅確保要配慮者向けの賃貸住宅支援制度を活用するのが、有効な選択肢の一つとなります。

地域優良賃貸住宅は地方公共団体別に設定している仕組みなので、要件は各自治体によって異なります。新たな住宅供給を認定していない場合もあるため、かならず各自治体で申請可否や要件を確認して検討してください。

一例として、下記は福岡県の認定物件の基準です。

福岡県の地域優良賃貸住宅の認定基準

  • 戸数 原則として、10戸以上
  • 床面積 原則として、50平方メートル以上125平方メートル以下
  • 構造 耐火構造又は準耐火構造の住宅であること
  • 建て方 共同建て又は長屋建て
  • 特定優良賃貸住宅の供給の促進に関する法律、地域優良賃貸住宅整備基準、福岡県地域優良賃貸住宅整備基準、福岡県福祉のまちづくり条例を満たすこと

出所:福岡県「地域優良賃貸住宅の制度概要について」(2023年2月時点)

特に家賃低廉の補助を受けられる自治体なら、一定額が自治体から補給されるため、オーナーの賃料収入を犠牲にすることなく低廉な家賃で賃貸経営ができます。

ただし、自治体によっては更新料や敷金・礼金などをゼロとしなければならない場合もあります。月々の賃料は補填されても、設備更新などに充当されることも多いこれらの資金を得られなくなる点には注意しましょう。

また、住宅確保要配慮者専用賃貸住宅改修事業は、特に高齢者や子育て世代向けに建設・リフォームした住宅に対して補助金を受けることができます。

100万円/戸の補助金が出る工事

  • バリアフリー改修工事
  • 耐震改修工事
  • 間取り変更工事
  • 防火・紹介対策工事
  • 子育て世帯対応改修工事

50万円/戸の補助金が出る工事

  • その他の工事

物件全体で1,000万円の補助金が出る工事

  • 子育て世帯対応改修工事において子育て支援施設を併設する改修工事を実施

これらの制度を活用して、高齢者や子育て世帯向けの住宅を供給することで、セーフティネット拡充に貢献できます。

3-2 空き家を活用した低所得者向け住宅の供給も一案

低所得者向けの住宅供給を不動産投資を通じておこなうときに、空き家を活用するのも有効な選択肢です。空き家が増え続けているなか、空き家を再活用しながら住宅確保に苦戦する層に住宅を提供できるため、二重の意味で社会貢献につながります。

空き家は物件価格が非常に低くなっているため、投資するときの初期費用を抑えながら投資にチャレンジできます。またコストを抑えることで競争力のある家賃を設定できます。

そのうえで、地域優良賃貸住宅の制度を活用してさらに低廉な家賃を導入すれば、住宅確保要配慮者向けの住居提供がしやすくなるでしょう。

その他、空き家の再活用について、独自の補助金制度や支援事業をおこなっている自治体もあります。例えば、令和4年の兵庫県では「空き家活用支援事業(令和4年度)」として空き家活用に対して、補助金を出す制度を展開しています。また、大阪市では令和4年の申請募集は終わっていますが、「空家利活用改修補助事業」を行なっていました。

来年度に制度が更新されれば、空き家の性能を向上する工事や地域まちづくりに資する工事に対して補助金を受けられます。ただし、この後紹介する空き家再活用の補助金と地域優良賃貸住宅の制度が併用できるかは、不動産経営を検討している地方公共団体に確認が必要です。

【関連記事】古民家再生投資のメリット・デメリットは?地域活性化の社会意義や投資の注意点も

4 まとめ

高齢化に伴う人口減少により空き家の増加とともに賃貸需要の減少が想定されるなか、公共の賃貸住宅の供給は今後も増えにくい可能性があります。

そのなかで低所得者や高齢者など、住宅確保要配慮者向けのセーフティネットが不充分という課題が発生しています。家賃負担の重さから、こうした層は検討できる物件が限られるうえ、大家や保証会社の意向で入居を断られるケースもあるのです。

空き家の再利用や諸制度をうまく活用することで、個人の不動産投資の枠組みの中でも、こうした課題への解決に貢献できます。今回の記事を参考に、住宅確保要配慮者のセーフティネット拡充につながる不動産運用について検討してみるのも良いでしょう。

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伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。