2022年12月に東京都議会は大手住宅メーカーが建設する新築住宅における太陽光パネルの設置を義務化しました。早速、太陽光パネルや蓄電池の設置を促進するための補助金制度も拡充されています。今後は太陽光パネル設置の事業促進や啓蒙活動なども進められる予定です。
不動産市場全体には短期的には大きなインパクトはない見通しですが、長期的には太陽光パネルの有無が物件の資産価値や中古市場における競争力の差を生む要因となると考えられます。
今回の記事では太陽光パネルの義務化をテーマに、東京の不動産市場に与える影響についての考察や導入の背景、今後の課題について解説します。
目次
- 東京都の新築住宅太陽光パネル義務化について
1-1.新築住宅の太陽光パネル設置義務化へ
1-2.太陽光パネルや蓄電池などの補助金の拡充
1-3.太陽光パネル設置義務化の背景 - 太陽光パネル義務化による不動産市場への影響は?
2-1.不動産市場全体への短期的な影響は限定的
2-2.当面は中古物件の差別化要素として寄与
2-3.長期的には中古物件の必需設備となる可能性も - 太陽光パネル普及への課題
3-1.災害リスクへの対策
3-2.メンテナンス・補修業者の受け皿は充分か
3-3.廃棄・リサイクルのシステム整備 - まとめ
1 東京都の新築住宅太陽光パネル義務化について
東京都は2025年4月に新築住宅の太陽光パネル設置を原則義務化する法案を採決しました。これに合わせて、東京都では太陽光や蓄電池の設置に対する補助金の拡充も行っています。
1-1 新築住宅の太陽光パネル設置義務化へ
2022年12月の東京都議会で、2025年4月に新築住宅の太陽光パネル設置を原則義務化する法案を可決しました。同法案では、大手住宅メーカーが建てる新築住宅について、太陽光パネル設置が義務化されます。具体的には、2023年1月時点では都内の年間住宅供給数が、延べ床ベースで合計2万平方メートル以上の業者が対象となる予定です。業者数で約50、新築住宅の約半数程度が該当すると見込まれています。
このほか、屋根の面積が狭い、北向きで効果が見込めない場合などには設置が見送られるケースが出てくると東京都は想定しています。
義務化されるのは太陽光パネルだけですが、同時に蓄電池やV2Hとよばれる電気自動車と住宅の一体運用に対する補助金も拡充されています。東京都としては蓄電池や電気自動車の利用促進も後押しするスタンスです。
太陽光で発電された電気は、自家利用することで電力会社から購入する電気代を低減させたり、売電することにより収入を得たりできます。補助金を活用すれば4kw程度の太陽光パネルの設置費用は6年程度で回収可能と、東京都は試算しています。
※出典:東京都環境局「太陽光発電設置 「解体新書」・Q&A」
1-2 太陽光パネルや蓄電池などの補助金の拡充
2025年4月を待たずに太陽光パネルの設置の促進や、蓄電池、電気自動車の一体運用による更なるエネルギー効率の改善を目指して、2023年1月にはさまざまな補助金の拡充が発表されています。
太陽光パネルに関する補助金
工事内容 | 補助内容 |
---|---|
新築住宅への設置 | [3kW以下の場合] 12万円/kW(上限36万円) [ただし3kWを超え3.6kW未満の場合] 一律36万円 [3.6kWを超える場合] 10万円/kW(50kW未満) |
既存住宅への設置 | [3kW以下の場合] 15万円/kW(上限45万円) [ただし3kWを超え3.75kW未満の場合] 一律45万円 [3.75kWを超える場合] 12万円/kW(50kW未満) |
パワーコンディショナの更新 | 10万円/台(ただし補助率は1/2) |
出所:東京都「(令和4年度)災害にも強く健康にも資する断熱・太陽光住宅普及拡大事業」
太陽光パネルを設置するだけでも補助金が受け取れます。なお、パワーコンディショナとは太陽光パネルで発電した電気を使用したり、売電できる形に変換したりする機材です。こちらの方が耐用年数が短い可能性があるため、同機材は更新の際にも補助がでます。
さらに、蓄電池の設置や、V2Hを実現すると、補助金が加算されます。
蓄電池やV2H設置による補助金
工事内容 | 補助内容 |
---|---|
蓄電池の設置 | [太陽光4kW以上と蓄電池設置の場合]
一住戸あたり次のうち、いずれか小さい額(最大1,500万円) ①蓄電池容量:15万円/kWh (※) ②太陽光発電設備容量:30万円/kW [太陽光4kW未満と蓄電池をあわせて設置、又は蓄電池のみ設置の場合] 15万円/kWh (※) 最大120万円/戸 (※ 5kWh未満の場合は19万円/kWh、5kWh以上6.34kWh未満の場合は一律95万円) なお、いずれの場合も負担率は3/4まで |
V2H | 最大50万円で負担率は最大1/2まで |
V2H(太陽光、V2HおよびEV/PHVが揃う場合) | 最大100万円 負担率は実費全額 |
パワーコンディショナの更新 | 10万円/台(ただし補助率は1/2) |
出所:東京都「(令和4年度)災害にも強く健康にも資する断熱・太陽光住宅普及拡大事業」
また、今後以下のような取り組みも行われる見通しです。
- リースなどを活用した初期費用ゼロスキームへの補助
- 住宅用太陽光パネルのリサイクル促進
- 事業者への制度施行に向けた着実な準備に対する支援・先行的取組へのインセンティブ
付加 - 総合相談窓口の設置
- 新制度の普及啓発
- 事業者への制度施行に向けた着実な準備に対する啓発支援
購入者と住宅メーカー双方が太陽光パネルの設置を促進できるよう、さまざまな施策が打たれる予定です。補助金だけでなく、制度の普及や問い合わせへの対応窓口の設置、機器の設置やメンテナンス技術の底上げなどの啓発活動も予定されています。
1-3 太陽光パネル設置義務化の背景
日本は2021年4月に、2030年度までに温室効果ガスを2013年度対比46%削減する目標を掲げました。東京都は日本全体の目標達成に貢献するために、2030年度までに温室効果ガスの排出を2030年度までに半減させる「カーボンハーフ」を掲げています。(※参照:東京都環境局「2030年カーボンハーフに向けた取組の加速」)
住宅における太陽光パネルの普及は化石燃料由来の電力消費の大幅な抑制につながるため、温室効果ガスの排出抑制に大きな効果があります。しかし、住宅用太陽光発電の普及率は2018年時点で10%程度と、充分に普及したとは言えない状況です。東京都の新築における太陽光パネルの設置義務化は、太陽光パネルの普及を加速し、カーボンハーフを達成するための重要政策なのです。
東京都の小池都知事は「屋根が発電するのが当たり前という機運を醸成したい」「都民・事業者と一体となって太陽光発電ムーブメントを加速していく」と述べ、一般住宅における太陽光パネルの普及を強力に推進する考えです。
2 太陽光パネル義務化による不動産市場への影響は?
太陽光パネル義務化は賃貸住宅にも適用される見通しです。また太陽光設置にかかる補助金は賃貸事業にも活用できるため、戸建て・集合住宅問わず今後は東京都の物件における太陽光パネルの設置比率が高まっていくと考えられます。
ここからは東京都で太陽光パネルが普及することに伴う、不動産市場への影響をまとめました。
2-1 不動産市場全体への短期的な影響は限定的
まず、短期的には不動産市場全体への大きな影響はないと見られています。義務化されるのは大手メーカーが建設した新築住宅のみなので、住宅全体で見れば、1年あたりで太陽光パネルが確実に設置されるのは数%程度です。
住宅市場全体で見ればゆるやかに太陽光パネルの設置率が増えていくため、直ちに不動産市場が太陽光パネルの設置義務化によって動意づくことは考えにくいでしょう。
太陽光パネルの設置に伴うコスト増が住宅消費を冷やす影響は少々ありますが、2023年時点の東京都が想定するスキームでは、太陽光パネルの設置に伴うコストは補助金を加味すると数十万円程度です。
さらに今後リースなどによる設置費用ゼロスキームがさらに普及すれば、住宅購入者へのインパクトはさほど大きくないため、不動産市況悪化させるほどの需要減退にはつながらないと考えられます。
2-2 当面は中古物件の差別化要素として寄与
今後新築や築浅から太陽光パネル付きの物件が増えていくものの、市場のほとんどの物件が太陽光パネル付きという状況になるまでには十年以上の年数がかかるでしょう。その間においては太陽光パネル付きの中古物件はそれ以外の物件対比で競争力を持ち、資産価値も高くなりやすいと考えられます。
太陽光パネルがあればオーナーは売電収入が得ることができます。不動産経営における収入の拡大に役立つでしょう。
また、ESGの考えは個人にも浸透しつつあることから、環境負荷の小さい住宅を好んで選ぶ人は今後ますます増えていくと想定されます。そのためいち早く太陽光パネルを設置した物件は、入居者の獲得にもプラスに働くと期待されます。
2-3 長期的には中古物件の必需設備となる可能性も
東京都の政策がうまく進んで、太陽光パネル付きの物件が着実に増えていった場合は、いずれ太陽光パネルのない物件はそれだけで中古市場において不利に扱われる将来も考えられます。
近年でいえば、耐震性が劣る物件や、ユニットバスの物件など、設備や構造が旧式の物件は買い手・借り手が付きづらくなる場合があります。競合物件の多くが太陽光パネル付きとなれば、太陽光パネルのない物件が不利に評価されるようになっていく可能性もあるでしょう。
3 太陽光パネル普及への課題
太陽光パネルの義務化により、普及が進む見通しですが、太陽光パネル普及にはまだいくつか課題があります。今後こうした課題への対応策も期待されるところです。
3-1 災害リスクへの対策
日本はグローバルに見て災害が多い地域の一つです。震災や台風に加え、東京都は沿岸部なので津波・高波のリスクもあります。このうち震災や台風に伴う暴風は太陽光パネルにダメージを与えかねない災害です。
太陽光パネルのスキームは数十年にわたり一つの設備を使用し続けることが前提の設備なので、破損に伴う補修や交換が頻発すると、長期で見た時の収支が大幅に悪化するリスクもあります。
太陽光パネル所有者の多くは、基本的に保険加入などによりリスクヘッジをおこなうと想定されます。そのため、設置義務の対象となる新築住宅購入者をすべて賄えるだけの太陽光パネルの保険制度の整備が、今後の課題として期待されます。
3-2 メンテナンス・補修業者の受け皿は充分か
太陽光パネルが普及するに伴い、定期的なメンテナンスや補修を行う頻度が増大すると考えられます。毎年少なくとも数%ずつパネルが増え続ければ、それに対応するだけの専門業者も必要です。
東京都では太陽光パネルの普及に合わせて専門業者の育成も急務であると考えています。今後東京都では、太陽光パネルのメンテナンスや補修などの技術について普及活動を行う予定です。
一方で、こうした政策を発表するということは、裏を返すと「現在の産業基盤ではすべてのメンテナンス・補修ニーズにスムーズに対応しきれない可能性がある」という課題があることを示しています。
太陽光パネル義務化が迫る中で、今後太陽光パネルの急増に対応しきれるだけの専門業者の基盤が整うかどうかはまだ不透明な状況です。
3-3 廃棄・リサイクルのシステム整備
太陽光発電は、住宅が解体されたり、経年劣化したりすれば最終的には取り外されることになります。2023年時点では数千トン単位の太陽光発電が毎年廃棄されていますが、東京全体で太陽光パネルの設置が普及すれば、数十年後には膨大な量の太陽光パネルが不要となる見通しです。
すべてを廃棄させてしまっては別の環境問題を引き起こすため、太陽光パネルのリユースやリサイクルのスキームを整備していく必要があります。今後太陽光パネルのリユース・リサイクルの関連法案やルールづくり、連携スキームの整備などが期待されるところです。
4 まとめ
太陽光パネルの設置義務化は東京都の二酸化炭素排出の削減目標を達成するうえでの重要な政策の一つです。同政策どおり、今後は新築住宅における太陽光パネルの普及が進むと考えられます。
既存物件も含めて太陽光パネルが一般化するまでにはまだ当面時間がかかりそうですが、徐々に太陽光パネルの有無が、資産価値や売買価格の差別化要因となる可能性が想定されます。
太陽光パネルを設置しておけば、売電収入の獲得や対入居者の評価向上にプラスに働きます。先んじて太陽光パネル付きの物件で不動産経営をおこなうのも、選択肢の一つとして検討されてみるのも良いでしょう。
伊藤 圭佑
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