不動産投資のスタイルの一つに古民家再生投資があります。全国に増加しつつある空き家を活用して、入居者を募ったり、インバウンド需要を捉えて宿泊施設などを提供する投資手法です。
物件取得コストの安さや社会貢献性の高さなどが魅力である一方で、ローン審査のハードルが高くなる点などには注意が必要です。この記事では古民家再生投資の社会的意義やメリットやデメリットについて紹介していきます。
目次
- 古民家再生による不動産投資とは?
1-1.増加傾向の空き家を再利用する不動産投資
1-2.さまざまな古民家再生投資の戦略
1-3.ESGや地域活性化などの投資意義 - 古民家再生投資のメリット
2-1.物件の調達費用を抑制できる
2-2.築年数による価値や収益の低下が起こりにくい
2-3.補助金が活用できる可能性がある
2-4.社会貢献と投資を両立できる - 古民家再生投資の注意点やデメリット
3-1.リフォーム費用がかかる
3-2.ローン交渉が難航する可能性
3-3.減価償却の計上期間が短い
3-4.不動産投資の中ではリスク高めな投資手法 - まとめ
1 古民家再生による不動産投資とは?
古民家再生の不動産投資は、空き家となった住宅をリフォームしたうえで貸家や宿泊施設として経営し、賃料や宿泊料を得て収益化を図る手法です。地域活性化などの社会貢献と、投資収益の獲得を両立できます。まず、古民家再生投資の特徴を紹介します。
1-1 増加傾向の空き家を再利用する不動産投資
古民家再生投資とは、全国の空き家を再利用して取り組む不動産投資のことです。
総務省の統計によると空き家は増加傾向にあり、平成30年時点で全国の空き家数は846万戸に達しています。さらに、住宅総数に占める空き家率も増加傾向です。少子高齢化と人口減少が進む中、今後も更なる空き家の増加が懸念されます。
日本の空き家数及び空き家率の推移
このような中、増え続ける空き家を再利用しようとする取り組みが盛んになってきています。古民家を現代風の住宅にリフォームしたり、逆にあえて古民家の趣を残したりして賃貸に出す方法もあれば、インバウンド需要などを捉えて民泊・宿泊施設とする方法もあります。
古民家再生投資は、空き家という資源の再利用や過疎地域の活性化などの社会貢献と、割安な物件を活用した投資収益の獲得を両立できる投資手法です。政府や自治体が古民家再生投資を後押しする動きも見られ、さまざまな補助金制度を活用できる場合もあります。
1-2 さまざまな古民家再生投資の戦略
古民家再生投資を検討する時には、事業のスキームを整理しておくことが大切です。特にリフォームの方針と、物件の利用方針は明確にしておきましょう。
まず物件のデザインですが、一つは居住需要を獲得しやすくする為に現代風のデザインと設備にアレンジする方法が考えられます。耐震工事に加えて水回りやセキュリティ面、時にはソーラーなど再生可能エネルギー設備の設置など、築浅物件と競争できるレベルの設備を導入します。外観については、現代の技術なら一見古民家とはわからないモダンなデザインにアレンジすることも可能です。
一方で、あえて古民家の趣を残して古民家暮らしをコンセプトに売り出す戦略も考えられます。耐震工事など国の制度や利用者の安全性に関わる工事はなおも必要ですが、古き良き見た目を残す方向性でリフォームをすることで、元の素材を活かして需要を募ることができます。
事業の運営方法にもいくつか選択肢があります。シンプルなのはいわゆる貸家もしくは賃貸物件として入居者を募り、賃料収入を得る方法です。ターゲットは日本人や日本に長期滞在する人となります。
また、コロナ禍の正常化が進む中インバウンド需要の復調も期待できるため、宿泊施設としての運営も有力な選択肢の一つとなるでしょう。この場合は日本に訪れる外国人旅行客が主なターゲットとなります。そのほか、リモートワーカー・旅行者をターゲットとした宿泊兼作業スペースのサブスクサービスに物件を登録・加盟して収益基盤を作る戦略も考えられます。
1-3 ESGや地域活性化などの投資意義
古民家再生投資は収益性だけでなく、ESGもしくは社会貢献などの投資意義を重視して取り組む人も少なくありません。
ESGにおいては特に「S(Social:社会)」における貢献が大きいと期待されています。少子高齢化による人口減少が進む日本において、空き家発生による地域の衰退は重大な課題です。また、不審者が空き家が住み着くことによる治安の悪化なども懸念されます。
空き家を再利用することで、その地域に人が住めば、過疎対策の一環になります。魅力的な住居や宿泊施設が供給されれば、街の活性化や魅力向上になることも。不審者が潜むリスクの低減にもつながります。
また、「E(Environment:環境)」の側面でも一定の貢献が期待されます。リフォームの方針にもよるものの、空き家は基盤などがすでにできあがっている分、新築するよりも資源を使用せずに住居や宿泊施設を供給できます。そのため、空き家再利用は資源の有効活用になるのです。そこに再生可能エネルギーなどを搭載すれば、環境性能の高い施設の供給にも貢献できるでしょう。
2 古民家再生投資のメリット
古民家再生投資では、物件の調達費用を抑制できる、築年数によるキャッシュフロー低下の影響を受けにくい、補助金を活用できるなどの多数のメリットがあります。古民家再生投資のメリットを詳しくみていきましょう。
2-1 物件の調達費用を抑制できる
古民家再生投資では、物件は空き家を購入することになります。上物の価値はほとんどゼロであるケースが多く、地方の過疎地であれば土地自体の価値も低くなっているケースが多いです。
自治体や所有者が空き家の処分に困っているケースも少なからずあり、市場価格よりもさらに割安の価格で調達できる可能性もあるでしょう。補助金などを活用すれば、諸経費を除いて物件取得にかかる費用は実質的にゼロに近くなる場合もあります。
2-2 築年数の経過による物件価格の下落幅が少ない
不動産の建物部分の価格は築年数の経過により徐々に減少していきます。古民家は取得時点で築年数が経過しているため、築年数の経過による不動産価格の減少幅が小さく、資産価値が大きく目減りしにくいという点もメリットです。
また、築年数の経過による物件の下落幅と比較して、賃料相場の下落率はゆるやかです。最新の設備の導入などにより住環境を整えて、現代的なデザインとすることで、築年数が経過していても賃料収入を得る方法もありますし、あえて古民家の趣を残すかたちで経営すれば、古さが付加価値になることもあります。
また、都市部の古民家では、新築よりもむしろ長期の賃料収入を見通しやすくなる可能性もあります。都市部は賃貸需要が見込みやすく、古民家であれば築年数による賃料下落リスクも小さいためです。
2-3 補助金が活用できる可能性がある
空き家の再利用に関連して、国及び自治体においてさまざまな補助金制度があるため、立地や物件の購入方法、リフォーム方針などによって活用できます。効率よく活用すれば物件調達やリフォーム費用を下げることができるでしょう。
例えば、令和4年の兵庫県では「空き家活用支援事業(令和4年度)」として一軒家や共同住宅の改修に補助金を出す制度を展開しています。また、大阪市では「空家利活用改修補助事業」を行なっており、空き家の性能を向上する工事や地域まちづくりに資する工事に対して補助金を受けることが可能でした。
補助金は国及び自治体が多岐にわたる制度を出していますが、期間が限定されていたり、補助金の総額が決まっているケースもあります。古民家再生投資を検討する時に活用可能な補助金を調べておきましょう。そして、購入地域・物件を検討する中で、補助金の経済効果も加味しながら投資戦略を考えてみると良いでしょう。
2-4 社会貢献と投資を両立できる
投資家の中には、収益性だけでなく社会貢献や付加価値の高さを重視して投資判断をする人も少なくありません。古民家再生投資はここまで紹介したとおり、不動産投資の中でも環境改善や地域活性など、社会貢献性の高い手法の一つです。
古民家再生投資はオーナー個人の方針を運営に反映させることができる、事業性の高い投資方法でもあります。社会的意義を意識した運営を行うことで、入居者の方の生活、また周辺地域への良い影響を与えられる可能性が大きいということは、古民家再生投資の大きなメリットの一つと言えます。
3 古民家再生投資の注意点やデメリット
古民家再生投資には高額なリフォーム費用がかかることやローン交渉がしづらいことなどのデメリットがあります。また、減価償却による経費計上の期間が短い点、不動産投資の中ではリスクの高い投資となる点にも注意しましょう。
3-1 リフォーム費用がかかる
古民家を再生して投資に活用するためには、少なからずリフォーム費用がかかります。現代の耐震基準を満たしていない物件も多いため、リフォームは避けられないと考えておいた方が良いでしょう。
特に現代的なデザインや最新設備を導入する場合には大規模なリフォームとなり、中古物件を取得するのとそう変わらないコストとなる場合もあります。古民家の趣を残したまま再生する場合にも、現代の住民や旅行者を満足させるためには一定のリフォームが欠かせません。
古民家の構造を活かしながらリフォームをするには特殊な技術を要するため、施工可能な職人探しに苦労する可能性もあります。
3-2 ローン交渉が難航する可能性
古民家再生は基本的にリフォームの範疇に含まれるため、リフォームローンを活用することになります。リフォームローンの審査においては物件の担保価値や不動産投資としての収益性、本人の収入などが加味されます。
古民家を再生してから運用を始める場合、収益が発生するのはリフォーム完了後となるので、ローン審査の時点では収益性に対する不確実性が高いといえます。また、建物の資産価値が見込みづらいため、担保価値が低いと判断されるリスクもあるでしょう。
その分、過去の不動産投資の実績や、本人の収入などが審査において重要になります。過去に賃貸実績のある物件のリフォームなどと比較すると、ローン審査は厳しくなると想定されます。
3-3 減価償却の計上期間が短い
不動産投資では「減価償却費」による経費計上を行うことができます。不動産投資における減価償却は、建物部分の購入費用を法定耐用年数に応じて償却していきます。
しかし、古民家は購入時点で築年数が大幅に経過しており、法定耐用年数が切れてしまっている物件になります。法定耐用年数が切れた物件は法定耐用年数×0.2の期間のみの計上期間となるため、木造戸建ての場合は4年の計上期間しか残されていません。
また、建物の価格が非常に低いため、購入費用は減価償却の余地がほとんどない場合もあります。リフォーム費用が「資本的支出」とみなされる規模になれば、償却対象となりますが、通常のアパート・マンションの一棟取得と比較すると相対的に償却の余地は限定的となるケースが多いでしょう。
3-4 不動産投資の中ではリスク高めな投資手法
古民家再生投資は、投資する地域や古民家の状態によってはリスクの高い投資となります。
古民家は地方に多数あるため、必然的に地方でチャレンジするケースが多くなるでしょう。地域によっては過疎が進んでいて、立派な物件でも賃貸需要を集めるのが難しい場合もあります。宿泊施設として経営する場合は、今回のコロナ禍にも代表されるように社会情勢や景気動向に大きく左右されるリスクもあります。
また、古民家の状態を購入前に隅々まで調べることは難しいため、取得した後リフォームをしようとしたら、思わぬ不具合や修繕箇所が見つかり、想定より多額のリフォーム費用がかかってしまうリスクも考えられます。投資的な観点以外に、不動産の建築・修繕に対する深い知識が必要です。
古民家再生投資は割安な物件から安定収益を得られるチャンスがある投資手法ではありますが、全てを勘案すると不動産投資の中では相対的に手間がかかりやすく、リスクの高い手法といえます。古民家再生投資のリスクを充分に理解のうえ、資産や収入状況に余裕がある状態でチャレンジしましょう。
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4 まとめ
少子高齢化を背景とした人口減が進む日本において、空き家の増加トレンドは今後も継続する可能性があります。その中で、地域活性化や資源の再利用に資する古民家再生投資は、収益性だけでなく社会貢献にもつながる点がメリットと言える投資手法です。
一方、地方でチャレンジする場合には相対的にリスクが高い投資となる点や、ローン活用が難しくなるなどのデメリットには注意が必要です。古民家再生投資にチャレンジする際は、今回紹介したメリット・デメリットの両面について検討してみましょう。
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