2023年3月は金融市場が波乱しました。アメリカでは引き続き、インフレ動向が大事な状況となっています。
市場の焦点は2つに分かれています。短期的な材料と中長期的な材料とに分けて考えるのがいいでしょう。
ここではプロトレーダーの筆者がCPIと、FOMC等を控えた市場環境をシナリオ別に解説します。
※本記事は2023年3月22日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- CPIの結果
- 市場環境における材料
2-1.短期的な市場環境
2-2.中長期的な材料 - 今後のドル円の動向は?
- まとめ
1.CPIの結果
最初にCPIの結果を解説します。
- 総合CPI:6.0%(予想6.0% 前回6.4%)
- コアCPI:5.5%(予想5.5% 前回5.6%)
※いずれも対前年比
CPIは予想通りとなりました。前回から低下していることから、市場に対するインパクトはなかったと考えていいでしょう。
しかしパウエル議長は、スーパーコアという指標に注目しています。スーパーコアとは住居費を除くサービス業の数値です。労働サービス業がインフレ抑制での一番の課題となっている中で、重要視されています。
スーパーコアは、消費者支出の半分以上を占めている項目です。低下してこないことをパウエル議長は懸念していました。
しかし今回のCPIの発表では3.7%まで低下していると計算されます。この数字の動き方はパウエル議長の今後の利上げ姿勢に影響が出てくるのではないかと考えられています。
CPIの数字を見る限りは、タカ派姿勢を強めるということはないと判断できるでしょう。しかし金融危機の問題が勃発したことによって、市場は大きく揺れ動いています。
CPIは中長期的にFRBの金融政策スタンスに影響を与える一つの材料となります。短期的には材料が現在異なっているという状況になっています。
2.市場環境における材料
2-1.短期的な市場環境
最初に短期的な市場環境について解説します。
2023年3月現在、市場ではシリコンバレー銀行の破綻をきっかけにアメリカの銀行が連鎖破綻し、クレディスイスがUBSに買収される話に連鎖してきています。リーマンショック以来の金融危機の兆候が出てきています。
アメリカでは政府が預金者保護を決定し、混乱を収束させようとしました。しかしその後の調査結果により、全米でも100行以上の銀行が有価証券評価損による大きなリスクを抱えているということが判明しました。まだまだ余談は許されない状況となっています。
クレディスイス等の話題を受けて、アメリカでは年内の大幅利下げも予想され、米国債金利も急低下の動きを見せています。2年金利を中心にリスクオフの展開が続いています。足元では、急低下の動きが激しくなっています。
プロトレーダーの筆者としては、景気後退は避けられないと考えています。アメリカでの景気後退は、遅かれ早かれ発生すると捉えておいた方がいいでしょう。
現金や金を購入する投資家フローが増えてきています。多くの投資家が、資金を現金に換え始めています。
金融セクターを中心にした混乱であり、銀行が苦しい状況に陥っていることが分かります。銀行の融資姿勢も厳しくなることが予想されます。資金の流動性が低下し、景気後退の材料となるでしょう。
これまでは金利低下は株高の材料でした。金利低下がインフレ期待を低下させ、FRBのタカ派姿勢の後退を連想させたためです。
しかし今回は景気後退を予測した金利低下です。株安と相関しているため、動きが若干異なると理解しておいた方がいいでしょう。
2-2.中長期的な材料
次に中長期的な材料について解説します。短期的には金融危機や、リーマンショック再来とも言われています。しかし危機はいずれ落ち着きを取り戻します。
ただし金融危機が収束した段階で、インフレが完全に抑制できているかは分かりません。実際にFRBのバランスシートを見ると、3月まではバランスシートが縮小していました。しかし3月以降に再度拡大に転じており、金融引き締めのスタンスが一旦低下していると判断できます。
この動きがさらに続けば、中央銀行はインフレを抑制したくなるでしょう。しかし短期的な混乱も抑えねばならず、舵取りを迫られています。簡単にインフレが抑制できるかは、まだ不透明な状況です。
ある程度金融セクターの混乱が収束すると、再度アメリカのインフレ動向に投資家の焦点が当たると想定されます。利上げのシナリオをチェックする上で、投資家の不安な心理的状況を映し出していることは押さえておきましょう。冷静な判断の中での動きというよりは、悲観的な予測をしている中での数字と言えます。
全体的に金利が低下する中、短期ゾーンと呼ばれる2年金利も大幅に低下しています。直近の利上げ予測が低下していることを示しています。短期金融市場で取引されているFF金利からも、年内に利上げから利下げに転じる予想が大幅に増加していることが分かります。
中長期的には金融セクターの動向もチェックしつつ、インフレ関連の経済指標はチェックしましょう。
3.今後のドル円の動向は?
今後のドル円を考える上で、短期と中長期、それぞれの材料を検討する必要があります。
まず短期的な金融セクターの混乱に関しては、クレディスイスがUBS買収されて、一旦混乱が収束するかが期待されています。しかしまだ解決までには至らず、リスクオンにはなりにくい展開となるでしょう。
日本円は昨年まで株安、円安の動きでした。しかし各国の利上げ見通しが大幅に低下する中で、日本と他国の政策金利の乖離が縮小する可能性があります。ドル円も円高方向に進行しやすいと考えるのが自然でしょう。
ただしプロトレーダーの筆者としては、年内にアメリカが大幅に利下げする予想を行き過ぎと考えています。急激な円高よりも、淡々とした戻り売りが出やすい環境と言えるでしょう。
中長期的な視点では、日本銀行の金融政策はまだまだ利上げスタンスを強めるような動きはありません。アメリカのインフレ動向が今回の混乱でも落ち着かなかった場合に、再度タカ派的なスタンスに回帰するとドル高方向で推移しやすくなります。
筆者は、ドル円が年末まで通して円高になるとは想定していません。どこかで一旦円高が終了し、再度円安方向で推移しやすい相場になると考えています。ドル円は短期的な材料で押し目を作った場合は、買い場と考えられるでしょう。
シナリオの修正を考えるタイミングは、短期的な混乱によってインフレ動向に変化が発生し、インフレが落ち着く兆しが出てきた場合です。インフレが落ち着けば、ドル円はレンジ内で推移する可能性があります。
4.まとめ
ドル円相場を、短期的と中長期的分けて解説しました。
短期的な混乱材料が発生した時は、一旦リスクは落としてトレードを行う必要があります。値動きが荒いタイミングでは、過度なリスクを取って大きなリターンを狙うことは控えましょう。
中島 翔
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