一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12)に解説していただきました。
目次
- ファーストリテイリングとは
1-1. ファーストリテイリングの概要
1-2. ファーストリテイリングの事業内容 - ファーストリテイリングのサステナビリティに関する取り組み
2-1. 基本的な考え方
2-2. 2030年に向けた具体的目標 - ファーストリテイリングのサステナビリティの具体的な推進内容
3-1. 商品と販売を通じた新たな価値創造
3-2. サプライチェーンにおける人権・労働環境の尊重
3-3. 環境への配慮
3-4. コミュニティとの共生:難民支援の取り組み
3-5. 従業員の幸せ
3-6. 正しい経営(ガバナンス) - まとめ
企業活動を通じた持続可能な社会の実現が求められる中、アパレル業界では特に環境負荷や人権問題への対応が喫緊の課題となっています。「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」を企業理念に掲げるファーストリテイリングは、この課題に対してサプライチェーン全体での取り組みを加速させています。
同社は「People」「Planet」「Community」の3つの軸で、古着の循環活用や環境配慮型素材の採用を進めるとともに、サプライヤーとの協働を通じた人権尊重の取り組みを強化。2030年には使用素材の50%をリサイクル素材にするという目標を掲げ、アパレル産業全体のサステナビリティ向上を目指しています。
本記事では、ファーストリテイリングが目指すサステナブルな未来像と、その実現に向けた具体的な取り組みを、最新の動向を交えて紹介します。
1. ファーストリテイリングとは
1-1. ファーストリテイリングの概要
1984年の創業以来、「服を通して人々を幸せにする」という理念を掲げるファーストリテイリングは、カジュアルで高品質な衣料品を手頃な価格で提供する世界有数のアパレル企業グループです。2024年8月期第2四半期時点で、国内外に約3,600の店舗を展開し、売上高は約3兆円を誇ります。
特徴は、企画から生産、物流、販売までを一貫して手掛けるSPA(製造小売業)モデルの採用です。原材料の調達から店頭での販売まで、サプライチェーン全体でのビジネスプロセスの最適化を実現。高品質な商品を適正な価格で提供する体制を確立しています。
1-2. ファーストリテイリングの事業内容
グループの中核を担うのは以下のブランドです:
- ユニクロ
「LifeWear(究極の普段着)」をコンセプトに、高機能・高品質なベーシックウェアを展開。ヒートテックやエアリズムなど独自開発の機能性素材製品で知られる - GU(ジーユー)
最新トレンドを手頃な価格で提供するファストファッションブランド - Theory(セオリー)
ニューヨーク発のコンテンポラリーブランド。上質な素材とモダンなデザインで、グローバルに展開
これらに加え、PLST(プラステ)やComptoir des Cotonniers(コントワー・デ・コトニエ)など複数のブランドを展開。アパレル事業を軸に、デジタル化やサステナビリティへの取り組みを加速させています。
2. ファーストリテイリングのサステナビリティに関する取り組み
2-1. 基本的な考え方
ファーストリテイリングは「服のチカラを、社会のチカラに」というステートメントのもと、「People(人)」「Planet(地球環境)」「Community(地域社会)」の3つを重点テーマに掲げ、アパレル産業が直面する社会課題の解決に取り組んでいます。
特に注目すべきは、以下の6つの重点領域を特定し、それぞれに具体的な目標とコミットメントを設定している点です:
- 商品と販売を通じた新たな価値創造:環境配慮型素材の採用や、循環型ビジネスモデルの構築
- サプライチェーンの人権・労働環境:取引先との協働による人権デューデリジェンスの実施
- 環境への配慮:温室効果ガス排出削減、資源循環の促進
- コミュニティとの共存・共栄:地域社会との対話と課題解決への貢献
- 従業員の幸せ:多様性の尊重とインクルーシブな職場環境の実現
- 正しい経営(ガバナンス):透明性の高い経営体制の構築
2-2. 2030年に向けた具体的目標
同社は2030年に向けて以下のような具体的な数値目標を設定しています:
- CO2排出量: 2030年までに90%削減(2019年度比)
- リサイクル素材: 使用素材の50%をリサイクル素材に
- 取引先工場: 主要取引先工場における労働環境モニタリングの100%実施
- 衣料回収: 年間回収量を4,000万点に拡大
これらの目標達成に向け、サプライチェーン全体での取り組みを強化するとともに、ステークホルダーとの対話を通じた継続的な改善を進めています。
3. ファーストリテイリングのサステナビリティの具体的な推進内容
3-1. 商品と販売を通じた新たな価値創造
ファーストリテイリングは2030年までに全使用素材の50%をリサイクル素材にするという目標を掲げ、現在の使用比率8.5%(2023年度)から段階的な拡大を進めています。これまでに、高機能速乾ウェア「ドライEX」やヒートテックへのリサイクルポリエステルの導入、100%リサイクルポリエステルを使用した「ファーリーフリースジャケット」の展開、さらに2023年春夏からは天然繊維でもリサイクルコットンを採用するなど、着実に取り組みを広げています。
また、「LifeWear(究極の普段着)」の理念のもと、物理的および情緒的なサステナビリティを重視。高い耐久性と着心地の実現に加え、世界各地のR&Dセンターでの開発やトップデザイナーとの協業を通じて、長く愛用できる価値の創出を目指しています。さらに「RE.UNIQLO STUDIO」を16の国と地域で35店舗(2023年10月時点)展開し、リペアやリメイクを通じて顧客の大切な服を長く使い続けられるようサポートしています。
3-2. サプライチェーンにおける人権・労働環境の尊重
ファーストリテイリングは2004年から「生産パートナーコードオブコンダクト」に基づくサプライチェーンの労働環境モニタリングを実施しています。2020年9月からは国際的な評価フレームワークSLCP(Social and Labor Convergence Program)を導入し、2023年8月末までにほぼすべての縫製工場と主要素材工場への適用を完了。2023年度は417件の評価を実施し、重大なコードオブコンダクト違反85件、極めて重大な違反14件を確認しています。
さらに2023年からは取り組みを紡績工場にも拡大し、特に移住労働者の処遇に関する基準を厳格化。14の評価対象工場のうち10工場で改善が確認されています。また、ユニクロとジーユーの一部商品ページへの縫製国情報の掲載を開始するなど、情報開示も強化しています。
これらの取り組みは「サプライチェーンの可視化」「生産拠点の多様化」「原材料調達管理の深化」という3つの柱に基づいて推進され、特に児童労働や強制労働といった重大な問題については、企業取引倫理委員会での対応を行う体制を整えています。
3-3. 環境への配慮
ファーストリテイリングは、2050年までの温室効果ガス(GHG)排出量実質ゼロを目指し、SBTイニシアティブ認定の中間目標として2030年度までに、店舗・主要オフィスでは2019年度比90%削減、ユニクロ・ジーユー商品関連では同20%削減を掲げています。
水資源管理においても、2025年までに縫製工場・素材工場の単位当たり使用量を2020年比で10%削減する目標を設定。2022年時点で49%の工場が目標を達成し、排水基準遵守率は99.7%に達しています。
これらの目標達成に向け、店舗では省エネ設備の導入や太陽光発電の活用を進める一方、主要工場では脱石炭化や再生可能エネルギーへの転換を推進。定期的な進捗確認を通じて、環境負荷低減の取り組みを着実に進めています。
3-4. コミュニティとの共生:難民支援の取り組み
ファーストリテイリングは2011年から難民の雇用支援を積極的に展開し、(公財)アジア福祉教育財団と連携して難民認定者への雇用機会を提供しています。2023年4月末時点で国内のユニクロとジーユーに53名の難民が勤務しており、実践研修や日本語クラスなどのサポートプログラムも整備しています。
また、著名アーティストとコラボレーションした「PEACE FOR ALL」チャリティTシャツプロジェクトを展開し、2023年11月末時点で8億円を超える売上を国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などに寄付。2006年から続くUNHCRとの連携では、累計約5,463万点の衣料支援や職業訓練を実施してきました。
さらに2013年からは「届けよう、服のチカラ」プログラムを通じて、学生参加型の衣料回収・支援活動を展開。次世代育成と難民支援の輪を広げる取り組みとして、UNHCRからも高い評価を受けています。
3-5. 従業員の幸せ
ファーストリテイリングは「グローバルワン・全員経営」の方針のもと、性別や国籍、宗教、年齢に関わらず全従業員に成長機会を提供しています。2030年度までに女性管理職比率50.0%、日本国籍以外の管理職比率80.0%という目標を掲げ、現時点でそれぞれ44.7%、56.4%まで達成しています。
2023年11月には人材の多様性確保に関する新方針を策定し、ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みを一層強化。社内人材育成機関FR-MICを通じたグローバル経営人材の育成や、年2回の「FRコンベンション」での経営方針・課題の共有など、組織的な人材開発を推進しています。
これらの取り組みを通じて、店舗販売員から高度専門人材まで、多様な人材が能力を最大限発揮できる環境づくりと、社会貢献活動を通じた従業員エンゲージメントの向上を目指しています。
3-6. 正しい経営(ガバナンス)
ファーストリテイリングは、取締役会の過半数を社外取締役で構成し、独立性と監督機能の強化を図っています。2023年8月期には年度予算やEコマース戦略などについて活発な議論が行われ、監査役会は社外監査役を含む6名体制で13回開催され、94.8%という高い出席率を記録しました。
ガバナンス体制は、人権委員会、リスクマネジメント委員会、サステナビリティ委員会、指名報酬アドバイザリー委員会など、目的別の委員会で構成。2023年8月期には労働環境や情報セキュリティリスクなど、事業運営上の重要課題について各委員会で具体的な議論が行われました。
また、内部統制システムの強化にも注力し、全従業員を対象とした年次コンプライアンス教育の実施や匿名での違反報告が可能なホットラインの設置など、「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」という理念の実現に向けた体制を整えています。
4. ファーストリテイリングが描くサステナブルな未来
ファーストリテイリングは、「People」「Planet」「Community」の3つの重点テーマに基づき、アパレル産業が直面する社会課題の解決に総合的にアプローチしています。2030年までに使用素材の50%をリサイクル素材にするという目標や、2050年までの温室効果ガス排出量実質ゼロの実現に向け、製品開発からサプライチェーン、店舗運営に至るまで具体的な取り組みを展開しています。
特に注目すべきは、環境配慮と人権尊重の両立を目指す姿勢です。SLCPの導入によるサプライチェーンの労働環境モニタリングの強化や、難民支援をはじめとする社会貢献活動の推進など、グローバル企業としての責任を積極的に果たしています。さらに、従業員の多様性確保や取締役会の監督機能強化など、組織としての持続可能性も重視しています。
これらの取り組みは、単なる企業の社会的責任としてではなく、アパレル産業全体の持続可能性向上に向けた戦略的な投資として位置付けられています。ファーストリテイリングは、環境・社会課題の解決と事業成長の両立を通じて、真にサステナブルな未来の実現を目指しています。
中島 翔
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