炭素クレジットをブロックチェーン上で利用できるToucanとは

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今回は、炭素クレジットをブロックチェーン上で利用できるToucanについて、大手仮想通貨取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では仮想通貨コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。

目次

  1. Toucan(トゥーカン)とは
    1-1.Toucan(トゥーカン)の概要
    1-2.Toucan(トゥーカン)開発の背景
    1-3.Toucanをはじめとする「ReFi(リファイ)」の拡がり
  2. Toucan(トゥーカン)の仕組み
    2-1.カーボンブリッジとベースカーボンプール
    2-2.BCT(Base Carbon Tonne)とは
    2-3.NCT(Nature Carbon Tonne)とは
  3. 「Toucan(トゥーカン)」の特徴
    3-1.ローンチ以来さまざまな実績を残している
    3-2.オープンAPIを公開している
    3-3.個人に向けた販売が可能となった
    3-4.新たな市場の在り方を提案している
  4. まとめ

近年、気候変動問題などの観点から、世界中で「サステナビリティ(持続可能性)」への取り組みが活発化しています。

中でも、サステナビリティの代表的分野として知られる脱炭素においては、CO2をはじめとする温室効果ガスの削減効果(削減量や吸収量)を「カーボンクレジット(排出権)」として発行することで、他の企業や個人などとの間で取引できるようにする仕組みが拡がっています。

そんな中、スイスの非営利組織「Toucan(トゥーカン)」はカーボンクレジット市場におけるインフラストラクチャの構築に注力しており、ブロックチェーン技術を用いた新たな市場のかたちを提案しています。

そこで今回は、炭素クレジットをブロックチェーン上で利用できるToucanについて、その概要や仕組み、特徴などを詳しく解説していきます。

①Toucan(トゥーカン)とは

1-1.Toucan(トゥーカン)の概要

Toucan
「Toucan(トゥーカン)」とは、2021年10月18日に立ち上げられたスイスに拠点を構える非営利組織のことを指します。

Toucanでは主にブロックチェーン技術を駆使したカーボンクレジット市場におけるインフラストラクチャの構築を行っており、2050年までに人類がインターネットから排出するエネルギーを実質ゼロにするという目標を掲げ、さまざまなプロジェクト展開を行っています。Toucanは現在のカーボンクレジット市場について、効率の悪さや統一性のなさ、アクセス制限などといった多くの問題点が存在していることを挙げており、Web3.0の環境アセットにおけるインフラストラクチャを改善することで、これらの問題の解決を目指していきたいと説明しています。

Toucanはローンチ当初に「BCT(Base Carbon Tonne)」と呼ばれる最初のネイティブトークンを発行しており、このBCTはローンチ月に、2021年全体のボランタリーカーボン市場の約2倍の規模となる20億ドルもの取引量を達成するなど、大きな反響を呼びました。このように、Toucanはブロックチェーン技術を駆使することで、これまでのカーボンクレジット市場が抱えていた問題点を解消し、オンチェーンのカーボンクレジット市場をさらに盛り上げることに尽力しています。

1-2.Toucan(トゥーカン)開発の背景

ここでは、「Toucan(トゥーカン)」の開発に至った背景について解説していきます。

冒頭でも触れた通り、近年気候変動問題などの観点から、カーボンクレジット市場への注目が急速に高まっています。そもそもカーボンクレジットとは、CO2など温室効果ガスの排出削減量を売買可能にする仕組みです。主に企業がCO2排出量を相殺(カーボンオフセット)する際に用いられます。

企業が森林の保護や植林、省エネルギー機器導入などで生じた温室効果ガスの「削減量」を「クレジット(排出権)」として表し、取引できます。カーボンクレジットを購入することで排出量の一部を相殺して穴埋めすることが可能となっており、これを「カーボン・オフセット」と呼びます。この仕組みは特にヨーロッパを拠点とする企業の間で活発に取り入れられていますが、最近では日本国内においても導入の動きが拡がっています。

しかしその一方で、カーボンクレジット市場の問題点についてもさまざまな議論がなされています。

現在のカーボンクレジット市場では、国際機関が設定するルールに厳格なコンプライアンス市場(CCM)と民間が主導するボランタリー市場(VCM)の2種類があります。より高品質なクレジット、つまり信頼性のある計画や方法論によって裏付けされたクレジットを流通させることを目的として、海外では独立機関によるクレジットの測定や認証基準などで認証されたボランタリークレジット市場が拡大しています。

このようなボランタリークレジット市場は2030年を目処として、2020年比でおよそ15倍を超える市場規模に成長する必要性があると言われていますが、その一方で市場の流動性やトレーサビリティの低さや、市場自体が閉鎖的であること、また炭素クレジットの多重カウントや詐欺などといったさまざまな問題を抱えています。

Toucanはこれらの問題の解決を目指して開発されたプロジェクトとなっており、ブロックチェーン・テクノロジーを駆使することで、複雑で分かりにくいカーボンクレジット市場をより透明性が高く、アクセスしやすいものへ変えていこうと取り組んでいます。

1-3.Toucanをはじめとする「ReFi(リファイ)」の拡がり

Toucanは、DeFi(分散型金融)に次ぐWeb3領域の次の革新分野「ReFi(リファイ)」を推進するプロジェクトとしてNoriやKlimaDAOなどと共に注目されています。

ReFiとは「Regenerative Finance」を略したもので、日本語では「再生金融」などと訳されます。ReFiはもともと、2015年に経済学者で哲学者のジョン・フラートン(John Fullerton)氏が「Regenerative Capitalism(リジェネラティブ・キャピタリズム)」という造語をつくったことから始まったと言われています。ジョン・フラートン氏は気候変動や資源不足をはじめとする世界規模の課題について、いつの時代においても「経済」が大きな原因の一つであると考えられていることにフォーカスし、どうすれば経済を原因ではなく「解決の糸口」として利用できるかを検討しました。

現在ではReFiはブロックチェーンを用いることで世界規模の環境問題や社会問題を解決することを目指すムーブメントを指す言葉としても知られます。分散性や透明性の高さ、またトークン化などといったブロックチェーン特有の要素を最大限に活用し、地球が抱えるさまざまな問題の解決を目指す新たな仕組みです。

今回紹介しているToucanのほか、カーボンクレジット市場における課題解決を目指すDeFiプロジェクト「KlimaDAO(クリマダオ)」など、ReFiに関連したプロジェクトは現在すでに多数リリースされており、それぞれ気候変動への対応や自然保護および生物多様性の支援などを目的として掲げ、より公平でサスティナブルな金融システムの構築を推進しています。このように、近年世界における環境問題や社会問題に特に大きな注目が集まっており、世界中のさまざまな企業や団体がReFiの概念をベースとしたプロジェクト展開を行っています。

②Toucan(トゥーカン)の仕組み

2-1.カーボンブリッジとベースカーボンプール

Toucanで「TCO2トークン(※)」を活用してクレジットのトークン化を行っていますが、TCO2トークンはオフセットの種類や量などによって価格がバラバラであるため、一般的な取引に用いるのは難しいと言われています。

アメリカの自主的カーボンクレジットプログラムを推進する非営利団体「Verra」が管理を行っている「カーボンレジストリー」に登録されているクレジットにおいて、発行されるNFTトークン。この仕組みは「カーボンブリッジ」と呼ばれる。

そこで、Toucanはベースカーボンプールを介して、TCO2トークンをカーボンオフセット1トンに値する「BCTトークン」に変換することで、流動性を確保しながらより取引しやすいアセットを生み出しています。Toucanの発表によると、BCTトークンを任意のタイミングでバーンすると、それに紐付いているカーボンが固定化されて流通から取り除かれるため、理論的な観点から見た場合、BCTの価格をさらに上昇させる効果があると言われています。

つまり、このような仕組みこそが、企業による二酸化炭素排出量を削減(=カーボンクレジット発行)のインセンティブにつながっていくと説明しています。

2-2.BCT(Base Carbon Tonne)とは

「BCT(Base Carbon Tonne)」とは、Toucanがローンチ後最初に発行したトークンです。ポリゴン(Polygon)チェーン上で展開されています。BCTは太陽光や風力、自然ベースなどといったすべてのカーボンクレジットを対象として発行されており、前述したTCO2トークンと一対一という割合で交換することが可能となっています。

なお、TCO2トークンとの交換の際には25%の手数料が適用されることが発表されており、この手数料は次のような用途で使用されるということです。

・5%:Toucanアソシエーション
主に、プロトコルの維持および改善のため。

・20%:地球のため
主に、プールの品質を向上させることを目的とした、低品質クレジットのバーンのため。また、BCTは「DEX(分散型取引所)」として知られる「SushiSwap(スシスワップ)において購入可能となっています。2023年1月19日時点での時価総額は約1,830.8万ドル(約23.4億円)、価格は1.03ドル(約132.21円)となっています。

2-3.NCT(Nature Carbon Tonne)とは

Toucanでは前述したBCTトークンのほかに、「NCT(Nature Carbon Tonne)」の発行も行っています。NCTとはBCTが発行された後に登場したトークンで、2012年以降の方法で作成されたカーボンクレジットのみを対象とするアセットとなっています。ポリゴンチェーン上のERC-20規格トークンとして発行されているNCTは、BCTと同じようにTCO2トークンと一対一という割合で交換することができるようになっているほか、SushiSwapのポリゴンチェーンにおいて購入することが可能です。

なお、TCO2トークンとの交換の際には10%の手数料が適用されることが発表されており、この手数料は次のような用途で使用されるということです。

・5%:Toucanアソシエーション
主に、プロトコルの維持および改善のため。

・5%:地球のため
主に、プールの品質を向上させることを目的とした、低品質クレジットのバーンのため。実際、2022年6月17日にはNCTプールから3,000トンを超える炭素が完全に廃棄されたという報告があり、大きな話題となりました。これはドイツの300人分の排出量に相当するとされており、Toucanの気候変動対策への取り組みが着々と進んでいることが証明される結果となりました。

また、2022年8月には「DeFi(分散型金融)」プロジェクト「Aave(アーべ)」が手がける分散型ソーシャルメディア向けのプラットフォーム「Lens Protocol(レンズ・プロトコル)」において、NCTが利用できるようになったと報告されています。

このように、NCTはその利便性の高さから、今後もさらにそのユースケースを拡大していくことが予想されています。

③「Toucan(トゥーカン)」の特徴

3-1.ローンチ以来さまざまな実績を残している

Toucanは2021年10月18日のローンチ以来、さまざまな実績を残していることで知られています。具体的には、2,000万トン以上の炭素がブリッジされたほか、5万トン以上の二酸化炭素削減を達成しています。

またこのほかにも、50を超える気候変動関連のプロジェクトがトークン化されたほか、炭素の取引量は40億ドル以上を突破しているなど、カーボンクレジット市場の活性化に大きく寄与しています。

3-2.オープンAPIを公開している

Toucanは公式ウェブサイトにおいて、既存のプロダクトや新しいアイデアをベースとして誰もがプロジェクトの構築を行うことができるオープンAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)を公開しています。

また、デベロッパーに向けたリソースなどをまとめたドキュメントのほか、独自のSDK(ソフトウェア開発キット)なども提供されているため、誰もが比較的簡単にReFiのシステムを構築することが可能となっています。

3-3.個人に向けた販売が可能となった

これまでカーボンクレジットは基本的に企業間における取引が主流となっており、その仕組み上、個人への販売は頻繁に行われてきませんでした。

しかし、Toucanはカーボンクレジットをトークン化することによって、個人に向けても販売できるシステムを創り出しました。これによって、カーボンクレジット市場における需要に対しての供給が不足し、カーボンクレジットの価値がさらに高まることが期待されるだけでなく、その結果として、企業の排出削減努力がより促されることとなり、地球環境問題の早期解決が見込まれるというわけです。

このほかにも、カーボンクレジットを購入した個人投資家は、その価値の高まりによる金銭的なリターンも期待できるなど、市場全体を通して多くのメリットを享受することが可能となります。

3-4.新たな市場の在り方を提案している

Toucanでは、炭素クレジットを前述したBCTやNCTというオンチェーンのネイティブトークンとして発行することによって、新たなカーボンクレジット市場の在り方を提案しています。

具体的には、炭素クレジットをトークン化することによって実際の気候変動ソリューションを既存のプロジェクトまたはプロトコルに直接統合することが可能となるため、デベロッパーはオープンAPIを利用して自由にプロジェクトを構築し、市場の活性化を図るためのさまざまな取り組みを実施できるようになるというわけです。

このように、Toucanはこれまで閉鎖的だと言われてきたカーボンクレジット市場を、よりオープンな市場へと発展させることに尽力しています。

④まとめ

Toucanはこれまで企業間での取引が主流であった炭素クレジットをトークン化することによって、企業だけでなく個人もブロックチェーン上において自由に取引できるシステムを構築しています。

また、カーボンに紐付けられているトークンをバーンすることによってトークンの価格をさらに上昇させる仕組みが採用されているため、新たな投資方法としても注目を集めています。Toucanが発行しているBCTトークンやNCTトークンは今後もさらに多くのプロジェクトにおいて利用が進んでいくとみられており、カーボンニュートラル普及に向けて、ブロックチェーンを利用した動きがどのように出てくるのか注目です。

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中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12