今回は、Web3.0とDAOをテーマに事業を行うFracton Ventures株式会社の中村翔太 氏から寄稿いただいたコラムをご紹介します。
目次
NFTは、主にEthereumを始めとしたスマートコントラクトプラットフォームを中心に普及・発展していきましたが、スマートコントラクトを実行する機能は存在しないBitcoinにおいてNFTプロトコルOrdinalsが登場しました。Ordinalsで生成されるNFTは、スマートコントラクトとは異なる方法で唯一性を確保しています。
今回は、Bitcoinを基盤としたNFTの仕組みやOrdinalsが登場したことに対するBitcoin界隈の意見を踏まえ、その将来性を考察します。
ビットコイン上のNFTプロトコル「Ordinals」とは
Ordinalsとは、Casey Rodarmor氏によって作成されたNFTプロトコルです。厳密にいうとドキュメントでは、Bitcoinブロックチェーンに固有のデジタルアーティファクトとされています。
仕組みとしては、個々の「satoshi」を追跡・移動できるようにするためのsatoshiのナンバリングが基礎となっており、これらの番号は序数(ordinal number)と呼ばれ、採掘された順に番号付けされ、Taprootアップグレード(※)を利用することで、トランザクションの入力からトランザクションの出力へ先入れ先出しで転送されます。これにより、NFT、セキュリティトークン、アカウント、ステーブルコインなどの任意の資産を安定した識別子としてsatoshiに関連付けることができます。つまり、Ordinalsとは「Bitcoinの最小単位であるsatoshiに通し番号をつけ、取引によって使われたサトシを追跡するためのプロトコル」と説明することができます。
※2021年11月に開始されたアップグレード。よりプライベートで安全な取引を促進し、スケーラビリティも向上させるものとなっており、取引の処理方法を変更する一連の変更から構成される。これにより、Bitcoinのブロックチェーンで新しい機能性を実現するのにも役立つ。
Ethereum上のNFTの性質と比較
Bitcoin上のNFTとEthereum上のNFTとではどのような性質の違いがあるのかについて「カスタマイズ性」「コンテンツの所在」「安全性」「希少性」の4つ観点から比較していきます。
カスタマイズ性
Ethereum上のNFTは主にERC721という規格をベースとしてコントラクトのオーナーが削除(burn)するなど、コントラクトをカスタマイズすることが可能です。
一方で、Ordinalsで作成されたNFTの作成者または所有者は、NFTの仕様をカスタマイズする方法はなく、既定の規格をそのまま利用することになります。Ethereum上のNFTもOrdinalによって作成されたNFTと同様に仕様の変更をせずに利用することは可能ですが、一般的なNFTユーザーにとってはどのNFTが仕様を変更せずに作成しているのかやカスタマイズされて作成されたのかについては、NFTを利用する際にはほとんど気に止めないでしょう。
コンテンツの所在
Ethereum上のNFTのコンテンツは必ずしもオンチェーンで管理される訳ではなく、IPFSやArweaveなどのプラットフォームや、従来の完全集中型のWebサーバーに保管されている場合もあります。
一方で、Ordinalsで作成されるNFTは全てオンチェーンで完結しています。これは、オフチェーンのデータを参照する術がないことを意味し、コンテンツが失われることがありません。これにより、NFTの耐久性は向上し、作成時にコンテンツのサイズに比例した料金を支払う必要があるため、希少性が高まることが期待できます。
安全性
Ethereum上のNFTは、エンドユーザーのセキュリティ脆弱性を抱えており、トランザクションのブラインドサイン、ユーザーのNFTに対するサードパーティアプリの無制限な権限付与や複雑で予測不可能なスマートコントラクトとのやり取りなどの問題があります。
一方で、Ordinalsでは、Bitcoinの取引モデルを継承しており、ユーザーは署名する前に取引によって譲渡される碑文を正確に確認することができます。これにより、取引所やマーケットプレイスなどの第三者がユーザーに代わって碑文を譲渡することを許可する必要はありません。
希少性
Ethereum上のNFTは、1回のトランザクションで実質的に無限のミントすることができるため、本質的に希少性が低く、したがって価値も低くなる可能性があります。
一方で、Ordinalsでは、NFTの作成、転送、保存にはBitcoinが必要です。これは表面的にはマイナス面のように見えますが、デジタル アーティファクトの存在意義は、希少であり価値があることです。これは、生産時のコストによる裏付けと実質的に供給量を絞ることで価値を保つことを意味しています。
上記の通り、Bitcoin上のNFTは拡張性や利便性、供給量の調整などの点ではEthereum上のNFTに劣るものの、Bitcoinネットワーク内で完結しているという性質上、耐久性、安全性や希少性という観点からは非常に優れていると言えるでしょう。
Bitcoin界隈の声と将来について
本プロトコルが登場したことで、Bitcoin界隈では賛否両論の意見が見受けられました。
前提として、Bitcoinネットワークの稼働目的は、貨幣の分散化であり、他のすべてのユースケースは、Ordinalsを含め、二次的なものであると一般的に言われています。賛成派の意見としては「エコシステムをさらに成長させる、前向きでいい方法」としています。一方で、反対派の意見としては「ネットワーク上のブロックスペースを占領し、取引手数料をより高価にする恐れがある」と一部のBitcoinマキシマリストが反対しています。また、この反対意見の背景として「世界中のあらゆるPoWのクォーラムシステムを1つのデータセットに積み上げることはスケールしない」とフォーラム上で議論されてたことも影響しています。
上述した通り、反対派の意見として、ネットワーク上のブロックスペースを占領し、取引手数料をより高価にする恐れがあるというのは、Ordinalsの登場により影響が現れ始めています。下記の図では、Ordinalsが話題になり始めた2023年2月4日のトランザクション手数料の蓄積額を表しており2,552,183ドルを蓄積し、料金・収益ダッシュボードで2位に到達し、2023年初頭以来の最高額を記録しました。
これは一見、ネットワークの取引手数料向上により利便性が低下してしまったかのように見えますが、Ordinalsの登場により、手数料市場が補強されたという側面も持ちます。というのも、Bitcoinは今後2140年まで続く半減期を通して、マイニング報酬の減少により、マイナーのモチベーション低下が懸念されており、離脱によるネットワークの存亡を脅かすかもしれないという課題を抱えています。それに対して、マイナーのモチベーションを保つための解決策として強固な手数料市場を築くことが必要とされています。その点を踏まえると、Ordinalsのようなプロトコルはネットワークを支えるためには必要な存在であるとも言えるでしょう。
まとめ
今回は、Bitcoinを基盤としたNFTプロトコルOrdinalsの概要についてEthereum基盤のNFTと比較をしながら論じ、Ordinalsの登場がBitcoin界隈にとってどのような影響を及ぼすかについて考察しました。Ordinalsのような新規のプロトコルの誕生はBitcoinに限らず、一長一短の側面を含まれるので、各々のプロトコルが何に重きを置くことが、プロトコルの成長や維持に大きく貢献できると考えられます。
ディスクレーマー:なお、NFTと呼ばれる属性の内、発行種類や発行形式によって法令上の扱いが異なる場合がございます。詳しくはブロックチェーン・暗号資産分野にお詳しい弁護士などにご確認ください。
【参照記事】Twitter – Casey Rodarmor
【参照記事】Digital Artifacts
Fracton Ventures株式会社
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