今回は、Web3.0とDAOをテーマに事業を行うFracton Ventures株式会社の寺本健人 氏から寄稿いただいたコラムをご紹介します。
目次
読者の皆さんはReFi(再生金融)というと、何を思い浮かべるでしょうか。ReFiとは地球環境や貧困問題など、社会全体で取り組むべき課題に対してブロックチェーンを活用した解決を模索するムーブメントのことですので、例えば温室効果ガス(GHG)排出権取引所やアフリカなど特定地域に的を絞った貸し付けプログラムなどがReFiプロトコルに該当するでしょう。
こうした金融に関わるプロトコルが多いのは、既にパブリックブロックチェーン上にDeFi(分散型金融)という分野が発達しているためです。ブロックチェーン上の資産をトークンという形で交換したり融通したりするための仕組みは過去数年で研究・実装が大きく進んでいるため、それをReFi分野に応用しやすかったというのは1つの理由として挙げられるでしょう。また資産がやり取りされるとき、そのための市場を提供するプロトコルは交換された資産の数%をスマートコントラクトレベルで手数料として徴収することもできるため、ReFiの中でも金融領域はビジネスとして収益化しやすい分野です。
では、金融領域とは直接関係のない分野で活動するReFiプロトコルにはどのようなものがあるのでしょうか。ReFiとは「再生金融」の別称ですから、ReFiの非金融領域というのは一見矛盾しているようにも見えます。しかしながら実際には、炭素排出量取引といった金融色が強いプロトコルの正常な運営・規模拡大を支えるインフラを担うプロジェクトが数多く存在しており、これらのプロジェクトも広義ではReFiに携わるエコシステムの一員ということができるでしょう。
本稿ではReFiプロジェクトのデータを収集し公開するReFi DAOが発行したニュースレター”ReFi DAO Roundup”で取り上げられたプロジェクトを中心に、ReFiを支えるインフラを紹介していきます。
カーボンアカウンティング
カーボンアカウンティングとは、排出された炭素量を追跡・特定する試みのことです。企業や国家が適切な排出削減目標を掲げ、行動に移すには、炭素排出量をできるだけ正確に計測し、その後も削減の取り組みの成果を明らかにするためにモニタリングを継続する必要があります。しかしながら、現時点では排出量のモニタリングや計算・検証プロセスは国によって異なり明確な国際基準が存在しないため、別々の基準によって計測された排出量を比較するのは現実的ではない面があります。
この課題に対応する枠組みを作っているのがBlockchain for Climateという団体です。この団体はBITMOというトークンを1度の取引で複数個を送信できるNFT規格であるERC-1155形式で発行する取り組みを行なっています。BITMOトークンは1トークンあたり1トンのCO2排出削減効果を意味します。
この取り組みは国ごとに温室効果ガス削減目標を設定・更新することを定め、2016年に日本を含む175カ国が署名したパリ協定から着想を得ています。パリ協定の中でも重要な条項として、6条2項に定められた協力的アプローチ(Cooperative Approach)があります。この中に「国際的に移転された緩和成果」(Internationally Transferred Mitigation Outcomes、ITMOs)という考え方があり、これは主に先進国が他国で行ったグリーン開発プロジェクトによって削減された炭素排出量の一部を自国の排出削減成果に算入することを認めるというものです。先に述べたように、パリ協定の全ての批准国には各国が決定する削減目標(Nationally Determined Contribution、NDC)を達成する努力が求められるため、特に削減目標が高い先進国は積極的に海外でプロジェクトを行い、この枠組みを活用するインセンティブが生じています。
緩和成果をプロジェクト実施国とホスト国でどのように分配するかについては、現時点では国ごとに成果算出方法にばらつきがあることから、国ごとに個別調整を行うよう定められています。しかし排出削減量測定のための単位がそもそも国によって異なるなど、この枠組みを積極的に活用するためのハードルはかなり高いのが現状です。
そこで提案されたのがBITMOです。パリ協定で導入されたITMOsという概念をもじった名称(BはBlockchainから)を持つこのトークンは1トークン=1トンの排出削減量というのが明確に定められているため、国家間の取引でもスムーズに利用可能です。協力的アプローチで国外におけるプロジェクトが行われた後、プロジェクト実施国とホスト国の間でパブリックチェーン上でBITMOを移転することによって、透明性ある形で明快な削減量移転を行うというのがBlockchain for Climateが提案するソリューションとなっています。このプロジェクトは2021年にイギリス・グラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)の記者会見セッションでソリューションを紹介する機会を得ています。
炭素排出量に関わるデータ可視化に取り組むプロジェクトはこれだけではありません。Open Earthという団体が開発するカーボンプライシング(炭素に価格をつけ、その排出量に応じて企業などに支払い義務を課す考え方)のためのツールは個々の企業ごとに適切な「炭素の値付け」を算出することができ、これをブロックチェーン上で利用可能にしています。企業が排出する炭素によって現在から将来にわたって発生する社会的コストを考慮してその企業が排出する炭素の1トンあたり価格を決める考え方をインターナル(内部)カーボンプライシングといい、環境省の資料によると2020年3月の時点で世界全体で2000社超、日本国内でも250社超の企業がインターナルカーボンプライシングを導入している、あるいは導入予定となっています。
企業が自社の炭素価格を決める方法は同業他社との比較、外部価格の参照など複数ありますが、Open EarthのツールはResources for the Future Orgやカリフォルニア大学バークレー校などの研究者が開発した炭素に由来して将来発生する社会コストを算出するためのモデルを基にして炭素価格を算出します。
このモデルはChainlinkのオラクルを通じてオンチェーンでも利用可能となっており、ReFiプロトコルがこのツールを利用して企業の炭素価格を特定し、排出削減活動を加速するといった活用が想定されています。
実世界の情報の取得
ReFiをインフラ面で支えるプロジェクトには他に、実世界の状況を追跡し、ブロックチェーン上にそのデータを配信するというものがあります。現実世界で行われた排出削減活動によって生じたインパクトをブロックチェーン上で取引するには、オラクルを通じてそうしたデータをブロックチェーン上に持ち込まなければならないからです。またこのデータは信頼性が高く、できるだけリアルタイムに提供されることが望ましいといえます。
こうした課題に取り組むプロジェクトの一つがShamba Networkというプロジェクトです。Shambaは衛星データなどを活用して農地面積など地表の状態を計測するソリューションを開発しています。主にアフリカの地域ごとのセンシングデータが計測され、Chainlinkオラクル経由でブロックチェーン上に配信されています。ReFiプロトコルはこうしたデータを利用して区画の炭素排出量を計算することが可能になると見込まれています。
さらに、ブロックチェーンを利用した環境問題への取り組みを研究するAstralというグループはEthereum上のNFTのトークン規格であるERC-721に地理情報を埋め込んだGeoNFTというNFTを提唱しています。これを利用することで、例えば世界中を移動するタンカーが特定の地点に到達したタイミングでトランザクションを発生させるといった運用ができるとしており、ReFi分野でも航空機の航路データを取得して炭素排出量を算出したり、諸外国での開発プログラムに派遣された人員の排出削減への貢献量を測定したりといった活用方法が期待できます。
まとめ
ここまで、ReFiを支えるインフラとなるようなプロジェクトをいくつか見てきました。いずれも透明性のある現実世界のデータをブロックチェーンに持ち込み、他のReFiプロトコルが活用できるような形で提供するという点で共通していると言えるでしょう。
近年、日本やシンガポールをはじめとした各国でプライベートブロックチェーンを活用した炭素排出権取引所を設立する動きが相次いでいます。こうした取引所がブロックチェーンを採用する大きな理由は改ざん耐性があり後からデータを書き換えられないというところにありますが、チェーンが公開されておらず一般の利用者が取引を検証することはできないことから、ブロックチェーンの強みを生かすことができていないのではとの意見も上がっています。
パブリックブロックチェーン上で構築されたReFiは一般のユーザーでも公開された取引データを確認・検証できるという点でそうした取引所とも競えるポテンシャルがあります。しかし不特定多数のノードによって運営されるネットワーク上に存在するプロトコルであるからこそ、ReFiには信頼できる正確なデータが常時入手できることが必須なのです。そうした意味で、ReFiを支えるインフラの重要性は今後ますます増していくことになるでしょう。
今回ご紹介したものを含め、データインフラは依然として研究やテスト段階にあるものが多いですが、ReFiの普及に伴ってこの分野の社会実装も進むことが期待されます。
Fracton Ventures株式会社
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