Nouns DAOの分裂とは?フォークの経緯とこれからを解説

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今回は、Web3.0とDAOをテーマに事業を行うFracton Ventures株式会社の寺本健人 氏から寄稿いただいたコラムをご紹介します。

目次

  1. フォークの顛末
  2. コミュニティ・フォークの是非

特色あるNFTコレクションの一つに、NounsというNFTシリーズがあります。Nouns NFTは縦横それぞれ32ピクセルで描画された画像を持ち、一つ一つの画像はあらかじめ決められた頭、顔、アクセサリーといったパーツをランダムに組み合わせて生成されます。ここまではよくあるジェネレーティブNFTコレクションの一つであるように思われるかもしれませんが、その大きな特徴は独特のコミュニティ拡大方法にあります。

Nouns NFTは1日に一つしか発行されないのです。数百から数万にのぼるNFTを一挙に販売することが多い通常のNFTプロジェクトとは異なり、Nouns NFTは24時間ごとにたった一つ新規発行され、その後24時間続くオークションの中で最も高い値を提示したコレクターに売却されます。この方法により、Nouns NFT保有者のコミュニティは非常にゆっくりと拡大していきます。実際にこの手法はNouns NFT保有者の多くを非常にアクティブなコミュニティ参加者にすることに成功し、その活発なコミュニティはNFT保有者だけにとどまらず、NFTエコシステム全体から注目されてきました。

そんなNouns NFTの保有者で構成されるNouns DAOが今、揺れています。自動で行われるNouns NFTの新規発行や販売代金の管理などNounsに関わる仕組みを司るコントラクトのアップグレード提案がなされたのを機に、Nouns DAOを分割(フォーク)することが紛糾した議論の末に決定し、実際に行われたからです。今回のフォークは単一のコミュニティ内の意見対立がどう展開していくかという点において、興味深い事例となりました。

フォークの顛末

事の発端は8月上旬にNouns DAOに提案されたコントラクトのアップグレード提案でした。DAOメンバーによって提出された提案の編集を可能にするなどいくつかの変更を中核となるコントラクトに加えるものでしたが、特に注目を浴びたのはDAO自体のフォークを可能にする機能を持たせるというものでした。というのも、この時はNouns NFTホルダーの間で意見の対立が表面化するようになっていたからです。

Nouns DAOは全体の方針として、Nounsエコシステムに資するソフトウェア開発などの試みについては積極的に資金を提供し、エコシステムを拡大させていくというスタンスをとっていました。それがNounsエコシステムやNounsというIPそのものを深化させることで、結果的にNouns DAOの価値向上につながると考えられたからです。実際に日本など世界各国でコミュニティイベントが開催されるなどしています。

ところで、こうした活動に対してDAOから供給される資金は、もともとNouns NFTをオークションで購入したコレクターが支払った購入代金が原資になっています。購入代金は全て自動的にDAOの資産アドレスに転送され、DAOが承認した活動などに対して支出されてきました。Nouns NFTはそのコミュニティの魅力や注目度に加え、1日1個しか発行されないため希少価値が高く、2021年10月の発行開始から現在まで一貫して数十〜数百ETHで販売されてきました。今年に入ってからの落札価格は数十ETHで推移するなど比較的低調ではあるものの、今年8月の時点では延べ30,000ETH近い資金がDAOに与えられている状況でした。

そこで問題になったのが、Nouns DAOが積極的に資金を支出し、コミュニティ拡大に努めることはNounsというIP、エコシステムの価値上昇に本当に寄与しているのかということです。NounsはNFTコミュニティの中でも特異な位置付けにあるとはいえ、NFTエコシステム自体の市況の移り変わりからは抜け出せず、22年には50~100ETHで落札されていたNFTが23年に入ってからは30ETH程度で落札されるケースが目につきます。コミュニティ活動を積極的に行ったとしてもコミュニティ全体、それを構成するNFTの価値に及ぶポジティブな影響は限定的であり、むしろDAOが保有するETHそのものがNFTの本質的価値なのではないかという考え方が出てきました。この考えに基づけば、DAOは不必要な支出を控えETHを蓄積していくことがコミュニティにとって最善ということになります。

このようにしてコミュニティ内で資金使途について対立が起こる中、提起されたのが前述のフォーク機能を含むコントラクトアップグレード提案です。しかも、今回提案されたフォーク機能は単に発行済みNouns NFTの一部を現在のNouns DAOから切り離すというようなものではなく、フォークに賛同したDAOメンバーの保有するNouns NFTの数に応じて、Nouns DAO内に蓄積されたETH等の資産も一定割合がフォーク先のDAOに移転されるというものだったのです。

加えて、フォーク先のDAOではデフォルトで各NFT保有者に”ragequit”する権限が与えられます。ragequitとは元々ネットゲーム用語で「キレ落ち」、つまりオンライン対戦中に怒って回線を切断し、勝負を投げてしまうことを指します。DAOの文脈ではDAO内の多数派が結託して少数派の不利益になるような提案を数に物を言わせて通すような状況になった場合に備え、個々人がDAOの承認を得ることなく自分がDAOに持つ持分を引き出し、直ちにDAOから離脱することができる機能を指します。

フォークが成立するとフォーク先のDAOは一定量のトークンを元のNouns DAOから持ち出すことができ、かつフォーク先のDAOメンバーはいつでもNFTをDAOに返却するのと引き換えにDAOの資産の払い戻しを受けられるとなれば、Nouns DAOの現在の運営方針に不満を持つメンバーがフォーク先のDAOを介して一気にコミュニティから離脱してしまい、Nouns DAOが資金面でもメンバーの規模の面でも大きく縮小してしまう上、DAOが完全に分裂することになりコミュニティ印象も悪化します。こうした懸念から当初コントラクトのアップグレード提案はNounsプロジェクトの創設者が持つ拒否権で強制的にキャンセルされるなど混乱したものの、紆余曲折を経て最終的には3回目の提案でこのアップグレードは可決・実行されました。

そして、大方の予想通り1回目のフォークが提案され、発行済みNouns NFTの半分超にあたる472個のNouns NFTがフォークに参加しました。フォークが成立する最低ラインである20%以上の賛成を得たためフォークが実行され、フォークに参加したメンバーにはフォーク先DAOのための新たなNFTが発行され、元のNouns DAOから16,757ETHのほか複数のトークンがフォーク先のDAOに移転されました。

既にフォーク先のDAOではメンバーが次々とragequit権限を行使し、新たに受け取ったNFTをDAOに返却するのと引き換えにDAOが保有するトークンの一部を受け取り、DAOから離脱しています。返却されたNFTの数は9月26日の時点で270個超にのぼり、フォーク先のDAOは継続組織の前提(ゴーイング・コンサーン)が成立しない清算状態の組織になっていることが伺えます。

コミュニティ・フォークの是非

このようにしてNouns DAOではフォークが成立し、元の積極財政を掲げていたDAOにはフォーク前の半分以下となる約13,000ETHが残され、フォーク先のDAOに移行したNFTホルダーは続々とNFTを手放してトークンを手にDAOを離れています。

今回のフォークは見方によっては、元のDAOに残った者が不利益を受け、フォークに参加した者が利益を手にしたとも読めるでしょう。積極財政を掲げていた元のDAOは支出できる手元資金の半分以上を失ったばかりか、コミュニティの印象悪化とも戦わなければなりません。他方、フォークされたDAOのメンバーは現在の二次流通価格よりも若干高い水準でトークンを受け取ってDAOを抜けることができ、元々のNFTの取得価格によってはETH建の当時の価格よりも多くのETHを受け取ることができるケースも見られます。

参照:Etherscan

それでは、Nounsコミュニティ全体にとってフォークは良い選択肢だったのでしょうか。筆者は、率直に言って今回のフォークはコミュニティから退出する者を利する動きであり、残るコミュニティにとっては悪手だったと考えています。さらに、コミュニティの20%以上の賛成という制限があるとはいえフォークという手段でコミュニティを退出する選択肢ができたことで、オークションにおいて過去の平均販売価格を上回る水準でNFTを落札することが忌避されるようになり、価格の天井として将来的なNounsコミュニティの発展に向けた大きな障害となることが想定されます。
残されたNounsコミュニティは1日1回の発行メカニズムやファウンダーチームへの分配システムを見直すなどして、コミュニティメンバーの信認を取り戻す改革を迫られるでしょう。

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Fracton Ventures株式会社

当社では世の中をWeb3.0の世界に誘うことを目的に、Web3.0とDAOをテーマに事業を行っています。NFT×音楽の分野では、音楽分野のアーティスト、マネジメント、レーベルなどとNFTを活用した新しい体験を図るプロジェクトを行っています。