不動産投資で知っておきたい「建築物の省エネ性能表示制度」のポイントは?

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建築物省エネ法をもとに、2024年4月から建築物の省エネ性能表示の制度がはじまります。

特に新築の販売・賃貸では、表示がない場合は勧告等が行われる予定のため、省エネの情報を集めたラベル表示が進むでしょう。今後、賃貸住宅経営を行う不動産投資家が入居者をうまく集めるためには、省エネ性能の高い物件で経営を行うことがより重要となります。

この記事では不動産投資の観点で見た「建築物の省エネ性能表示制度」のポイントを紹介していきます。

目次

  1. 「建築物の省エネ性能表示制度」とは?
    1-1.2024年4月より施行予定
    1-2.新築以外の既存建築物(中古物件)は勧告などの対象外
    1-3.表示をする責任は建築物の販売・賃貸業者に生じる
    1-4.新築販売の際には所定のラベルの表示が必要に
  2. 住宅の省エネ性能ラベルの主な記載内容
    2-1.エネルギー消費性能
    2-2.断熱性能
    2-3.目安光熱費
    2-4.ZEH水準、ネットゼロエネルギー
    2-5.BELS
  3. 「建築物の省エネ性能表示制度」で不動産投資の何が変わるか
    3-1.買い手は省エネ性能を軸に物件選びをしやすくなる
    3-2.
    3-3.
    建設費や物件価格の上昇要因となる可能性も
  4. まとめ

1 「建築物の省エネ性能表示制度」とは?

2024年4月から、建物の販売や賃貸において省エネ性能の表示が努力義務化される予定です。物件の省エネ性能を建物の購入者や入居者が正確に理解できるよう、明示していかなければなりません。

また、新築の販売時には、省エネ性能が分かるラベルを貼り付ける必要があります。まずは建築物の省エネ性能表示制度について簡単にまとめました。

1-1 2024年4月より施行予定

新しい制度は、2024年4月から実施予定で、販売や賃貸時に建物に次の様なルールが適用されます。

  1. 省エネ性能の努力義務に関し表示ルールを新たに告示
  2. 告示に従って表示しない事業者への勧告等の措置

建物の購入検討者や入居者などが、省エネ性能を正確に把握できるようにルールの整備を行っています。

1-2.新築以外の既存建築物(中古物件)は勧告などの対象外

省エネ性能表示制度では、省エネ性能の表示ルールを守らない事業社へ勧告を行って是正を図る方針です。ただし当面は、勧告については2024年4月以降に販売・広告される新築の販売・賃貸に対してのみ実施する予定となっています。

新築以外の既存建築物(中古物件)は勧告などの対象外となっており、実質的に義務化はされていません。しかし、表示は推奨されており、本制度が省エネ性能が高い住宅・建築物の供給が促進される市場づくりを目的としていることからも、導入検討しておきたいポイントとなるでしょう。

1-3 表示をする責任は建築物の販売・賃貸業者に生じる

今回の制度では、省エネ性能の表示する努力義務を負うのは、物件を賃貸・販売する事業者となります。不動産の賃貸や販売においては次のようなさまざまな関係者がいます。

  • 設計者
  • 施工業者
  • 販売・賃貸事業者
  • 仲介業者
  • 管理会社

これらの関係者の中で、中段の「販売・賃貸事業者」が表示するために準備を進める必要があります。施工業者や仲介会社・管理会社は、直接的には性能表示の努力義務を負いません。

ただし、販売・賃貸業者が正当に性能を表示し、広告などで買い手に発信するためには、施工業者や管理会社との連携が必要な場合もしばしばあるでしょう。

1-4 新築販売の際には所定のラベルの表示が必要に

2024年4月以降に確認申請を行った新築物件を販売・賃貸する際には、性能がまとめられたラベルを広告などに表示しなければなりません。詳細は次の章で詳しく紹介しますが、ラベルには次の様な内容がまとめられています。

  • エネルギー消費性能
  • 断熱性能
  • 目安光熱費

なお、実質的に義務化されるのは2024年4月以降に販売・広告される新築物件だけですが、2024年4月以前に確認申請を行った物件についても、省エネ性能が判明している場合は同様に表示が推奨されています。

参考:国土交通省「新しい「建築物の省エネ性能表示制度」が始まります!

2 住宅の省エネ性能ラベルの主な記載内容

省エネ性能を示すラベルの表示内容は、今回の制度においてフォーマットが指定されました。利用者は、それぞれの物件の省エネ性能を公平に比較できるようになったのです。

ここからは、ラベルの表示内容について紹介します。不動産の購入や賃貸における物件選びの参考にしてください。

参考:国土交通省「新しい「建築物の省エネ性能表示制度」が始まります!

2-1 エネルギー消費性能

エネルギー消費に関する性能、言い換えれば省エネ性能を星の数で表します。星が多い方が性能が高いことを意味するものです。太陽光発電などの再生可能エネルギーの設備がない場合は0~4つ星の5段階、設備がある場合は0~6の7段階となります。

なお、再生可能エネルギーによる星の加算効果は、他の省エネ性能と異なるロゴで表現されます。再生可能エネルギー自体の効果の高さが確認できるよう、工夫されているのも特徴です。

2-2 断熱性能

「建物からの熱の逃げにくさ」と「建物への日射熱の入りやすさ」を勘案して評価される断熱性能の高さを、1~7の7段階で示しています。

家のマークで表現されていて、数が多いほど断熱性能が多いことを意味しています。ちなみに、国が定める省エネ基準を達成する水準がレベル4です。また、レベル5以上はZEH水準を達成するうえで必要な基準です。

2-3 目安光熱費

目安となる光熱費を、年額で試算して掲載しています。こちらは上記にあげた住宅の省エネ性能・断熱性能と全国一律の燃料等の単価を元に計算したものです。

実際の光熱費は使用条件や設備などによって変わってくるものの、住む場合の光熱費を物件同士で比較しやすい制度となっています。

2-4 ZEH水準、ネットゼロエネルギー

ZEH水準は、2030年以降に新築住宅が目指す性能の目標水準です。同水準が達成されていたら該当箇所にチェックが付きます。なお、エネルギー消費性能3以上かつ断熱性能5以上の建物が対象です。

また、ネット・ゼロ・エネルギーという項目もあります。ZEHを達成した上で、太陽光発電の売電も含めて年間のエネルギー収支が一定基準以下となった場合に達成となり、チェックマークがつきます。

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2-5 BELS

第三者機関のBELSの審査を受けて、省エネ認定を受けた場合には評価内容が下段に記載されます。BELSの評価は、省エネ性能のレベルに応じて5段階の星で行われ、ラベルには評価内容に加えて評価実施日が記載されます。

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3 「建築物の省エネ性能表示制度」で不動産投資の何が変わるか

省エネ性能の表示が普及すれば、買い手は建物の省エネ性能を公平に比較検討できるようになるでしょう。さらに、販売業者・賃貸業者は省エネ性能に着目して物件の性能を高める工夫を積極的に進めると期待されます。

3-1 買い手は省エネ性能を軸に物件選びをしやすくなる

同制度の大きなメリットとしては、専門的で難しい印象のある省エネ性能を、買い手が比較検討しやすくなることにあります。省エネに関する指標やデータは多岐にわたり、時に読み解くためには建造物やエネルギーに関する専門知識も必要です。

今回の省エネ性能の表示制度では、主要な性能が星や家マークなどで端的に表されています。多くの物件で省エネ性能が記載されるようになれば、新築購入者・賃貸の入居者は省エネ性能を物件間で比較検討しやすくなるでしょう。

投資家の視点で見れば、投資物件を購入するときには、自分も買い手として省エネ性能を簡単に確認できます。また、物件を貸し出すときには、省エネ性能の高さが入居者募集する際のセールスポイントの一つとなるでしょう。

3-2 不動産市場で省エネ性能が重要な指標になる可能性も

省エネ性能が可視化されれば、不動産関連業者は省エネ性能の高い物件を積極的に供給するようになります。

これまでより省エネ性能の比較検討が容易になる分、性能の低い物件は徐々に選ばれなくなる可能性があります。新築で不動産投資を始める際には、省エネ性能の高い物件を取得・建設して、競争力を維持することが重要です。

中古物件の省エネ性能表示は、新築より緩いルールとなっています。しかし、新築の省エネ性能が明示されるにつれて、省エネ性能がわからない中古物件の需要が減少し、都市全体として省エネ性能の向上が進む、という可能性もあるでしょう。

投資家の中には、取得コストを抑える目的で中古物件を検討する方も多くいます。中古物件に投資する場合にも省エネ性能に配慮して、ほかの物件に劣後しないように注意しましょう。

3-3 建設費や物件価格の上昇要因となる可能性も

注意点としては、業界全体で高い省エネ性能を求めた結果、建設コストが増大する点です。基本的に性能の高い建材を使用や、省エネに寄与する設備を設置すれば、他の住宅と比べて追加的なコストが発生します。

省エネ性能表示の実質的な義務化により、あらゆる業者が高い省エネ性能の備わった物件ばかりを供給すれば、不動産全体の価格上昇要因となります。過度にこの傾向が進めば、不動産投資のハードルが高くなってしまう恐れもあるのです。

不動産業界や建設業界では、高性能でリーズナブルな建材を普及される工夫や、建設費を抑える工夫が求められます。また、政府が省エネ性能の高い住宅の購入に対して補助制度を導入するのも、有効な手立てとなるでしょう。

4 まとめ

建物の省エネ性能の表示が義務化されると、新築の建造物を中心にエネルギー消費性能や断熱性能といった省エネにつながる性能を簡単に確認できます。

専門的な知識がなくても、省エネ性能を複数の建物で比較して、優れた性能の住宅購入や賃貸が可能です。そのため、多くの人が住宅購入・入居に際して省エネ性能を積極的に比較検討するようになる可能性があります。

実質的に義務化されるのは2024年4月以降に販売・広告される新築物件だけであり、中古物件においては義務化されていません。しかし、市場に多くの省エネ性能表示が増えることで、競争力を失っていくというリスクはあると考えられます。

「省エネ性能表示制度」では、省エネ性能が高い住宅・建築物の供給が促進されることが期待されています。物件選びの際に省エネ性能が重要な指標となっていく未来に備え、留意しておきたいポイントと言えるでしょう。

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伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。