近年は環境やサステナビリティに配慮した環境不動産に対する注目度も高まっています。投資家が不動産を環境面で評価しやすいよう、現代ではさまざまな評価制度が整備されています。
今回の記事では環境不動産の認証制度や事例、個人投資家が取り組める環境不動産への投資方法についてみていきましょう。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- 環境不動産の認証制度
1-1.ZEH/ZEB|エネルギー収支をゼロ以下にする住宅
1-2.BELS|日本独自のエネルギー収支に着目した住宅向け制度
1-3.DBJ Green Building認証|環境・社会へ配慮された不動産の評価制度
1-4.LEED|米国発の建物・敷地利用の環境性能の評価制度 - 環境不動産の事例
2-1.北海道深川市庁舎|新庁舎がZEB Readyを取得
2-2.日本ロレアル本社|LEED GOLD認証を取得
2-3.あべのハルカス|DBJ Green Building認証でプラチナを取得 - 個人投資家ができる環境不動産への取り組み
3-1.ZEH認証物件は個人でも取得余地が大きい
3-2.環境に配慮した不動産建設やリフォームを行う
3-3.環境不動産へ積極的に投資をおこなうファンドへ出資する - まとめ
1 環境不動産の認証制度
2023年時点、日本国内とグローバル双方においてさまざまな環境不動産の認証制度があります。今回はそのなかでも知名度や権威性の高い4つの制度について紹介していきます。環境不動産を評価するうえでの参考にしてください。
1-1 ZEH/ZEB|エネルギー収支をゼロ以下にする住宅
ZEHは「ゼロ・エミッション・ハウス」の略称、ZEBは「ゼロ・エミッション・ビルディング」であり、両者の違いは認定する不動産が「住宅」か「ビル」かという点になります。いずれも二酸化炭素をはじめとする地球温暖化の原因となるガスを出さない住宅の認定制度です。
しかし、現代社会において人が生活するためのエネルギーを一切使用しないのは現実的に不可能です。そのため、温暖化ガスの排出抑制と再生可能エネルギーによるクリーンなエネルギー産出を全て足し合わした時に、次の3つの観点によりエネルギー収支(消費量と産出量)をゼロ以下にできる不動産が認定されます。
- 省エネ
- 断熱
- エネルギー創出
「省エネ」はLEDの使用や消費電力の小さい空調システムなどを使用することで温暖化ガスを必要とするエネルギー使用を抑えるものです。また、「断熱」性能も加味されます。断熱性能が高い、すなわち夏に涼しく、冬に暖かい物件は冷暖房の使用を抑制できるからです。
最後に太陽光や風力など再生可能エネルギーでエネルギーを産出して使用すれば、電力を必要とする設備だったとしても温暖化ガスを排出せずに済みます。余剰電力が生じるなら、外部に売電することで間接的に温暖化ガスの抑制に役立ち防げます。
これらの効果を合計したときに、エネルギー収支をゼロ以下にできれば、ZEHの認定を受けられます。
なお、2022時点におけるZEH補助金の受給要件としては、次に紹介するBELSをはじめとした第三者認証を受ける必要がありました。環境省の公募要領に第三者認証として明記されている評価制度の例がBELSであるため、実務上はZEH認定を目指す事業の多くがBELSを取得します。
出所:環境省「ZEH支援事業 公募要領」
【関連記事】不動産×脱炭素の「ZEHマンション」に投資するには?ZEHデベロッパーも
1-2 BELS|日本独自のエネルギー収支に着目した住宅向け制度
BELSはBuilding-Housing Energy-efficiency Labeling Systemの略称です。省エネルギー性能の高さを5段階で評価する日本独自の制度で、一般社団法人 住宅性能評価・表示協会が運営しています。
BELSは「BEI」という計算式の数値をもとに、5段階の星で認定します。
BEI=(設計一次エネルギー消費量)÷(基準一次エネルギー消費量)
※分母・分子いずれも家電・OA機器分を除く
BEIは、基準に対してその不動産がどれだけエネルギー排出を抑えた省エネな建物であるかを表しています。従って、BEIが低いほど星が多くなり、高評価となります。
BELSのランク
ランク | 住宅 | 非住宅1* | 非住宅2* |
---|---|---|---|
★★★★★ | 0.8 | 0.6 | 0.7 |
★★★★ | 0.85 | 0.7 | 0.75 |
★★★ | 0.9 | 0.8 | 0.8 |
★★ | 1.0 | 1.0 | 1.0 |
★ | 1.1 | 1.1 | 1.1 |
※非住宅1は事務所・学校・工場など、非住宅2はホテル・病院・飲食店・百貨店・集会所など
※出所:一般社団法人 住宅性能評価・表示協会 「BELS評価業務方法書」
「非住宅」の項目があるように、BELSは商業施設・公共施設などの不動産でも評価を受けられます。なお、一つ星が付与されるのは既存建造物のみで、新築は二つ星以上の基準を満たすことが、BELS認証を受ける最低条件です。
なお、BELSは省エネの基準であり、エネルギー収支をゼロにしなくても一定の認定を受ける余地があります。再生可能エネルギーによるエネルギー創出の要件などがないことも踏まえると、ZEHは実質的にBELSの上位互換として機能しています。
1-3 DBJ Green Building認証|環境・社会へ配慮された不動産の評価制度
DBJ Green Building認証は、日本政策投資銀行が2011年に創設した認証制度です。実際の認証業務は一般財団法人 日本不動産研究所が行っています。環境・社会への配慮のレベルについて、次の5の視点から評価しています。
- Energy&Resources:建物の環境性能
- Amenity:テナント利用者の快適性
- Community&Diversity:多様性や周辺環境への配慮
- Partnership:ステークホルダーとの協働
- Resilience:危機に対する対応力
※出所:日本政策投資銀行「DBJ Green Building認証」
現在では上記の視点を総合的に評価して星1つ〜5つの5段階評価となっています。また5つ星から順番に「Platinum(プラチナ)」、「Gold(ゴールド)」、「Silver(シルバー)」、「Bronze(ブロンズ)」「Certified(認定)」という認証をそれぞれ付与しています。
現在はオフィスビル、ロジスティクス(倉庫などの物流施設)、リテール(小売店)、レジデンス(住宅)の4種類のプロパティに対して評価を行っています。
1-4 LEED|米国発の建物・敷地利用の環境性能の評価制度
LEED(Leadership in Energy and Environmental Design)は米国グリーンビルディング協会が運営する環境性能の高い不動産の認定制度です。
建物と敷地全体の活用状況を評価しているのが特徴で、不動産全体の環境性能を把握できます。米国発祥の評価制度ですが、世界各国の不動産が認定を受けています。日本はやや認定数において他国より出遅れていましたが、足元は徐々に増加していて、2021年時点で累計197のプロジェクトが認定されています。
開発内容に応じて細かく6つの認定システムに分かれているのが特徴です。
LEED認定プログラム
プログラム | 対象 |
---|---|
BD+C | 大規模な商業施設・公共施設の新築・改修 |
ID+C | 商業施設や宿泊施設などの内装 |
O+M | 既存ビルの運用やメンテナンス |
ND | 近隣開発 |
HOMES | 住宅・中低層の集合住宅 |
Cities and Communities | 都市計画や地域コミュニティ開発 |
※出所:GREEN BUILDING JAPAN「LEED 認証システム」
それぞれのプログラムについて、以下の項目における環境性能の高さをスコア化します。
- 統合的プロセス
- 立地と交通
- 敷地選定
- 水の利用
- エネルギーと大気
- 材料と資源
- 室内環境
- 革新性
- 地域別の重みづけ
※出所:GREEN BUILDING JAPAN「LEED とは」
各ポイントのスコア合計により、標準、シルバー、ゴールド、プラチナの認定を行います。世界各国の不動産において認定事例があるため、グローバル基準で環境不動産を評価できるのが特徴です。
【関連記事】不動産のサステナビリティ評価システム「LEED」の評価基準は?認証プロジェクトの事例も
2 環境不動産の事例
続いては、ここまで紹介した認証制度でも高い評価を受けている環境不動産の事例について3つ紹介します。
2-1 北海道深川市庁舎|新庁舎がZEB Readyを取得
北海道の内陸部にある深川市では、2023年に竣工予定の新庁舎(いわゆる市役所)にてZEB Readyを取得しています。ZEB Readyは一次エネルギーベースでの消費量を基準対比で50%以上削減する物件に認証されるもので、同庁舎の場合は54%の削減に成功しています。
具体的には次のような手法を組み合わせて、認証に足るエネルギー消費の削減を実現しています。
- 屋根の太陽光発電・蓄電池設置
- 高効率な熱源機器の使用
- 地中熱を利用した熱源
- 床吹き出し空調による高効率な換気と放射熱を利用した冷暖房
- LED照明と自然採光の導入
- 断熱性能の高いガラス・サッシ使用
- エネルギー効率化システムBEMSの導入
ZEB Readyの認証を受けたことで深川市庁舎の建設プロジェクトは環境省の補助事業に採択され、5.6億円の補助金取得にも成功しています。地方で財源が限られている状況において、財政負担の軽減にも役立っているのです。
※出典:北海道深川市「庁舎整備」
2-2 日本ロレアル本社|LEED GOLD認証を取得
グローバル企業であるロレアルグループの日本法人である「日本ロレアル」の本社が2023年2月に米国の認証制度であるLEEDの「ID+C(商業施設や宿泊施設などの内装の部門)」においてGOLD認証を取得しました。同ビルは次の3つのポイントで高い評価を得ています
- 人の安全性・健康・ウェルビーイングへの配慮
- 地球環境への配慮
- 入居ビルオーナーとの連携
「人の安全性・健康・ウェルビーイングへの配慮」ではロレアルが独自に定めるグローバル基準に従って高レベルな感染症対策が施されています。さらにLEDによる調光や眺望など、働く人のウェルビーイングに配慮しているのも特徴です。
「地球環境への配慮」では、専有部内天井・床・壁の59.67%を再利用材で建設する、水使用量をLEED対比50.47%削減する、省エネ・節水性能の高い設備を使用するなど、資源の節約を意識したビル建設・管理がなされている点が評価されました。
最後に「入居ビルオーナーとの連携」では東京ガス不動産との連携が評価されています。例えば、同社との協力によりテナント内カフェにて発生する生ごみのバイオガス化リサイクルを実現するなど、東京ガスグループの強みを活かして、さらに環境性能を高めています。
※出典:日本ロレアル株式会社「日本ロレアル本社オフィス 「LEED GOLD®認証」を取得」
2-3 あべのハルカス|DBJ Green Building認証でプラチナを取得
あべのハルカスは近鉄グループが大阪市に建設した複合型の超高層ビルです。地上300メートルの高さを持ち、竣工当時は日本一の高さとなっていました。テナントには百貨店、ホテル、オフィスのほか美術館、保育園、大学などさまざまな施設が入居しています。
あべのハルカスは4つのポイントが高く評価され、プラチナ認証に至っています。一つ目は環境性能で、当時としては最新鋭の技術でCO2削減を実現しています。環境性能については国土交通省住宅・建築物省 CO2 推進モデル事業にも指定されており、補助金もおこなっています。
二つ目はアクセスと利便性の高さです。鉄道7路線と直結しているうえ、多様なテナントが入居しており、オフィスとして高いアメニティを提供している点が高く評価されました。三つめは文化的な空間である点で、美術館や屋上庭園などが入居している点が決め手となっています。最後に四つ目として、あべのハルカスがある大阪市阿倍野区と協働して、地域全体の活性化に貢献している点についても高い評価を受けています。
サステナビリティが重視される昨今においては、省エネ・CO2削減といった単なる環境性能にとどまらず、社会的・文化的な付加価値の高い不動産がさらに高く評価される傾向にあるのです。
※出典:近畿日本鉄道株式会社「ニュースリリース」(2011年8月2日)
3 個人投資家ができる環境不動産への取り組み
個人投資家として環境不動産へ投資してサステナビリティに貢献する方法はいくつか存在します。自分で環境認証を受けている物件を所有して投資する方法、認証を受けずとも太陽光発電を設置するなどして環境に優しい物件へ投資する方法、環境不動産へ積極的に投資をおこなうファンドへ出資する方法などがあります。
3-1 ZEH認証物件は個人でも取得余地が大きい
ここまで紹介した認証制度のうち、ZEHについては個人の住宅やアパートの認証をおこなうものです。そのため、投資用賃貸アパートなどでZEHを取得することはできます。特に新築アパートや区分マンションの中には、ZEH~ZEH Orientedのいずれかに認証されている投資物件も増えてきています。
投資用物件の販売会社としては、ZEH認定物件を販売することが環境配慮に対するアピールとなるため、ZEH認定物件を受けた物件の販売については積極的に広告・宣伝が打たれる傾向にあります。環境認証を受けた物件へ自ら投資したい人は、ZEH認証の投資用物件を探してみるのが近道です。
例えば、東京都内を中心に投資用マンションを供給している不動産投資会社の「株式会社グローバル・リンク・マネジメント」があります。同社では、「アルテシモ中野(仮称)」(鉄筋コンクリート造地上11階建て)というZEHマンションが2023年に竣工予定としています。BELSで最高位の5つ星を取得し、同社開発物件として初めてZEH-M Orientedも取得しています。
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3-2 環境に配慮した不動産建設やリフォームを行う
環境不動産は「認証を受けなければ全く貢献できない」という性質のものではありません。たとえ認証取得までは至らずとも、個人が賃貸経営をするうえで環境に配慮する方法はいくつもあります。新築建設や購入、もしくは所有物件のリフォームにおいて、つぎの点を検討してみましょう。
- 太陽光発電など再生可能エネルギー施設の設置
- 断熱性能の高い壁の使用
- LEDなど環境負荷のかからない照明
- 自然採光を多く取り入れ、照明が必要な時間を自然に短縮
こうした工夫を施せば、環境に配慮した不動産での経営が実現します。またこれらの対策を取り入れれば、売電収入の獲得や省エネに伴う光熱費の圧縮につながり、住環境も改善します。オーナーや入居者にとってのメリットも大きいので、まずは手軽にできる範囲から環境へ配慮した不動産での賃貸経営を検討されていくと良いでしょう。
【関連記事】社会貢献と収益の両立へ。アパート経営でできるSDGs・サステナビリティの取り組みは?
3-3 環境不動産へ積極的に投資をおこなうファンドへ出資する
自分で環境不動産を保有するのが難しい場合は、ファンド投資を通じて環境不動産の発展に貢献するのも一案です。東証に上場していて柔軟に売買ができるJ-REITにおいては、DBJ Green Building認証やLEEDを取得している物件へ積極的に投資しているファンドもあります。
例えば森ヒルズリート投資法人では、2021年8月2日時点で、93.5%(取得価格ベース)の物件が何らかのグリーンビル認証を取得していました。(※参照:森ヒルズリート投資法人「環境への取り組み」)
間接的ではありますが、ファンド投資を活用することで、個人では手を出せないような大規模な環境配慮型のビルなどへの投資も可能です。
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まとめ
国内外でさまざまな環境認証制度が発展しつつある中、不動産の環境性能に着目して投資をおこなう動きが積極化しています。今後も、環境認証を取得した環境不動産がさらに増えていくでしょう。
個人投資家でもZEH認証を受けた賃貸物件への投資は可能です。また、環境認証を受けていなくとも、再生可能エネルギーの活用などにより、環境に資する不動産経営を実践する方法はあります。ファンド投資を通じて、オフィスビルなど大規模な環境不動産へ投資するのも一つの選択肢です。自分にとってやりやすい方法で、環境不動産への投資にチャレンジしてみましょう。
伊藤 圭佑
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