不動産のサステナビリティ評価システム「LEED」の評価基準は?認証プロジェクトの事例も

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他のさまざまな業種と同様に、不動産においてもESG評価の重要性が高まっています。投資家や入居を検討する企業・個人が物件の持続性を強く意識するようになり、ESG評価の取得は不動産の運営上においても重要な指標の一つになってきています。

近年取得事例が増えている不動産のESG評価システムの一つに、米国発の持続性評価システムである「LEED」があります。米国を中心にグローバルに高い信頼を得ており、日本でも取得事例が増えてきている評価システムです。この記事ではLEEDの仕組みや評価制度、日本での認証事例などを紹介します。

目次

  1. 不動産の持続可能性評価システム「LEED」とは?
    1-1.「LEED」は建物と敷地双方の環境性能を多様な尺度で評価
    1-2.LEED の普及状況
    1-3.LEEDを取得する意義とは?
  2. LEEDの評価システム
    2-1.6つの認証システム
    2-2.12つの評価項目
    2-3.LEEDの認証ランク
  3. LEEDの日本の認定状況と認証プロジェクト事例
    3-1.日本の認証状況
    3-2.飯野海運本社|日本で初めてのプラチナ獲得
    3-3.DPL流山IV|大型物流施設でのゴールド獲得券
  4. まとめ

1 不動産の持続可能性評価システム「LEED」とは?

LEEDは米国の非営利団体である「USGBC(米国グリーンビルディング協会)」が運営している、不動産の持続可能性を評価するシステムです。まずはLEEDの基本的な特徴や取得する意義を紹介していきます。

1-1 「LEED」は建物と敷地双方の環境性能を多様な尺度で評価

LEEDは米国グリーンビルディング協会が運営する環境性能の高い不動産の認定制度で、LEEDとはLeadership in Energy and Environmental Designの略です。建物本体だけでなく敷地全体の活用状況が評価項目となっています。

認証は建物および敷地の特性や評価するポイントによって6つのシステムに分かれています。(うち一つは都市・地域全体に与えられるものなので、物件単位で取得可能なものは実質5つ)さまざまなカテゴリーの不動産の持続性に対する評価が可能なシステムとなっているのも特徴です。

また、新築の物件だけでなく、既存建築物の改修によって評価を受けることもできます。さらに、物件の運用やメンテナンスの質の高さ、敷地全体の開発によるコミュニティ形成や地域活性化など、建物の構造以外の部分におけるESGへの貢献度の高さも評価します。

このように、建物自体および敷地の利用状況や、運営状況など多面的な視点で不動産の持続性評価をする評価制度となっています。

※出典:Green Building Japan

1-2 LEED の普及状況

アメリカ発祥の評価制度であることもあり、特にアメリカで認証取得が進んでいます。

LEED認証件数上位5ヵ国と全世界の認証件数

件数
アメリカ合衆国 76,603
中華人民共和国 3,765
カナダ 1,486
インド 1,171
サウジアラビア 904
日本 201
全世界合計 93,612

※出所:GREEN BUILDING JAPAN「LEEDとは」2022年3月時点

米国では認証件数が約7.7万件と圧倒的に多く、そのほかでは中国、カナダ、インドが続いてます。その他の国では、2022年3月時点の件数はまだ少ないものの、全世界で認証の動きは着実に広がっており、全世界の認証実績は約9.4万件にも上ります。なお、日本の認証件数は201件です。

1-3 LEEDを取得する意義とは?

LEEDを取得することで、不動産の環境性能や社会貢献性の高さをアピールすることができます。

現代では投資家、住民や施設利用者の多くが物件のESGへの貢献度の高さを意識しており、投資家や企業によっては、物件のESG性能を投資先や入居先の評価項目としている場合も少なくありません。

そのような潮流の中で、LEED認証を受けることが物件の資産価値の維持や高い稼働率につながると期待できます。特に米国では、民間企業だけでなく官公庁の建物でもLEED取得を推進する動きが見られており、権威の高い評価システムとなっています。

米国外での取得件数はまだ成長過程ではあるものの、米国および全世界で着実に取得実績が増えつつあることから、他の不動産との差別化の目的で先んじて取得する動きもみられます。日本の物件が取得する場合も、ESGに対する先進的な取り組みとしてのブランディングや、競合との差別化の観点で高い効果を発揮するでしょう。

2 LEEDの評価システム

LEEDはさまざまな不動産の物件自体の持続性に加えて、不動産の運営や都市開発の評価まで対応しています。評価対象のカテゴリごとに6つのプログラムに分かれていて、かつ評価軸が12個あります。

12の評価軸の合計点を算出して、スコアの高い方から標準〜プラチナまでランク付けされる仕組みです。ここからはLEEDの評価システムについて詳しく紹介していきます。

2-1 6つの認証システム

LEEDは建物や敷地の用途、もしくは評価の着目点によって6つの認証システムに分かれています。ただし、そのうち一つ「Cities and Communities / シティー&コミュニティ」は都市や一定範囲の地域全体で取得するものであるため、民間プロジェクトで認定を受けられるのは実質5つです。

プロジェクトの性質によって最適な認証システムを申請することができるため、物件のタイプに関わらず公平に評価を受けられるよう配慮されたシステムです。また、新規物件や再開発だけでなく、既存物件や物件管理で認定を受けることもできます。

BD+C ─ Building Design and Construction / 建築設計および建設

新築及び大規模な改築をする際に認定される認定システムです。外装だけでなく、空調やインテリアを含む内装も評価には含まれます。ただし、オーナー工事で認定を受ける場合は、テナント入居者が行うインテリア工事は評価対象になりません。

次のような、さまざまなタイプの建物の評価が可能です。

  • 学校
  • 小売り(銀行、レストラン、アパレル、スーパーマーケット、アウトレットなど)
  • データセンター
  • 倉庫と流通センター
  • 宿泊施設
  • 医療関連施設

ID+C ─ Interior Design and Construction / インテリア設計および建設

インテリア、すなわち内装工事による環境性能やサステナビリティの改善状況を評価します。次の教育・商業施設のみが認証を受けられます。

  • 学校
  • オフィスなどの業務用スペース
  • 小売り
  • 宿泊施設

O+M ─ Building Operations and Maintenance / 既存ビルの運用とメンテナンス

既存建物の運用・管理状況を評価する認証システムです。稼働中の不動産の物件管理が環境に配慮されているか、居住者や利用者が快適に過ごせるように配慮されているか、地域貢献がみられるかなどといったESGへの貢献度の高さが評価されます。

次のように、規模の大きな様々な不動産において認証を受けることが可能です。

  • 既存ビル
  • 小売り
  • 学校
  • 宿泊施設
  • データセンター
  • 倉庫と流通センター

ND ─ Neighborhood Development / 近隣開発

新規の土地開発や再開発に適用されます。不動産開発であれば施設のタイプは特に限定されていません。開発によってESGの側面からの貢献が見られるか、物件の持続性が期待できるかなどが評価されます。完成前の物件か、完成間近から完成後3年以内の物件かで評価カテゴリがわかれています。

  • 予備認証:企画段階~75%まで完了している段階であれば申請可能
  • 最終認証:完成間近~完成後3年までに申請可能

HOMES ─ Homes / ホーム

戸建ておよび集合住宅の環境性能の高さなどを評価するシステムです。戸建てもしくは8階程度までの中層マンションがこの認証システムの範疇となります。

  • 戸建・低層共用住宅:戸建~3階以下の集合住宅
  • 中層共用住宅:4~8階の集合住宅

Cities and Communities / シティー & コミュニティ

都市や地域全体の持続性を評価するプログラムです。民間企業などが認証を受けるのは現実的ではないので、評価システムの紹介から除外されている場合もあります。

自然生態系、エネルギー、水、廃棄物、交通など住民のクオリティ・オブ・ライフにかかわるポイントを網羅的に評価する枠組みです。次の4通りの認証プログラムが選択できます。

  • プラン&デザイン(Plan and Design):新都市計画・コミュニティへの評価
  • 既存(Existing):既存の都市やコミュニティ・再開発地域への評価
  • シティー:州、郡、市(日本でいえば都道府県、市町村)等、公的に規定された行政単位
  • コミュニティ:街区や都市圏・エリアなど行政単位として区切られてない範囲

2-2 12つの評価項目

LEEDではそれぞれのプロジェクトについて、次の12の評価項目に従って評価を行います。各評価項目の合計点数によって認証の可否や認証ランクが決まっていきます。

LEEDの評価項目

項目 概要
統合的プロセス 企画段階から多様なメンバーが参画しているかなど
立地と交通 開発密度の高さ、生活エリアとして機能の充実性、アクセスの良さなど
材料と資源 持続可能な建築資材の使用や廃棄物の削減状況
水の利用 飲用水の消費削減
エネルギーと大気 エネルギーの効率的利用
敷地選定 生態系・資源への影響が少ない土地の選定
室内環境 空調や日射・眺望の良さ
革新性 先進的で優れた手法や設計を評価
地域別重み付け 地理的・気候的条件の違いを調整
立地選択と敷地利用 公共交通機関へのアクセス、オープンスペースの整備状況
近隣のパターンとデザイン コンパクトで、快適かつ機能が充実している、近隣コミュニティーへのアクセスの良い区画開発を評価
グリーンな近隣インフラと建築物 建築物とインフラストラクチャーの建設・運用による環境負荷の低減

※出所:GREEN BUILDING JAPAN「クレジット

2-3 LEEDの認証ランク

12の評価軸それぞれでポイント付けを行い、それらの合計点で認証可否を決定します。最低限認証を受けるためには合計で40点以上を獲得しなければいけません。また、ポイントの高さによって認証のレベル分けを行っています。

LEEDの認証のレベル

認証のレベル 合計ポイント
CERTIFIED(標準認証) 40−49
SILVER(シルバー) 50-59
GOLD(ゴールド) 60-79
PLATINUM(プラチナ) 80以上

※出所:GREEN BUILDING JAPAN「LEEDとは

3 LEEDの日本の認定状況と認証プロジェクト事例

日本におけるLEEDの認定事例はまだ多くはないものの、年々着実に増えてきています。特にサステナビリティに対する意識が高く、先進的なプロジェクトにおいては、他の不動産物件との差別化の目的でLEED認証を目指す場合もあります。

ここからは日本の認定状況と、認証プロジェクト事例について紹介します。

3-1 日本の認証状況

世界で見ればまだ日本のLEEDの認証件数は多いとは言えませんが、年々着実に増えてきています。2010年には10件しかなかった認証件数が、2021年には197件まで増えています。

日本におけるLEED取得件数の推移(単位:件)

日本のLEED取得件数
※出所:GREEN BUILDING JAPAN「LEEDとは」2022年2月時点

なお、さらに2022年3月にはあらたに4件追加され、累計認証件数は200件を突破しています。

3-2 飯野海運本社|日本で初めてのプラチナ獲得

千代田区内幸町の飯野ビルディング内にある飯野海運の本社オフィス、通称「飯野ビルディング」は2011年に日本で初めてプラチナ認証を獲得した不動産プロジェクトです。内装を対象とするコマーシャルインテリア部門で認証を得ています。地上27階地下5階建て、延べ床面積約10万4000m2、オフィスの基準階床面積は2355平方メートルです。

プロジェクトの特徴

  • LED照明の採用
  • デシカント空調の導入による効率的な湿度・温度調整
  • 2重構造のガラスによる断熱性能や自然換気性能
  • 100年間使える持続性他の高い設計

当時のスコアを見ると「エネルギーと大気」で38点満点中37点、「敷地選定」が21点で満点、「水の利用」も11点で満点を獲得していることなどが、総合点を押し上げています。

※参照:飯野海運株式会社「不動産業における環境保全

3-3 DPL流山IV|大型物流施設でのゴールド獲得

大和ハウス工業株式会社が手がけた東日本最大(2021年10月時点)のマルチテナント型物流施設です。2021年10月31日完成、翌日11月1日より稼働しています。流山インターチェンジから2.5kmの好アクセスでありながら、働く従業員の労働環境や周辺環境にも配慮した設計が評価されました。こちらは、ビルディングデザイン・アンド・コンストラクション部門でゴールド認証を取得しています。

DPL流山IからLEED認証を受けたDPL流山IVからなる「DPL流山プロジェクト」全体にわたって、円滑な通勤を実現するために、大和リビング株式会社が施設近郊の賃貸住宅の情報提供や、入居における諸経費優遇などを行っている点も特徴です。

プロジェクトの特徴

  • 従業員専用の保育施設やコンビニエンスストアを完備
  • 免震システムや非常用自家発電機など、BCP対応も万全
  • 「四季のひろば」による環境配慮と労働環境への配慮
  • 首都圏から東日本全域までアクセスしやすい好立地
  • ゾーンごとに5色の色わけをおこなったユニバーサルデザイン
  • 「DPL流山プロジェクト」全体の複数のテナント企業で柔軟に働ける「マルチ派遣」システムの導入

当プロジェクトは、「エネルギーと大気」において38点中31点を獲得したことがゴールド認証の原動力となっています。また「水の利用」において13点を獲得したことも後押しとなりました。

※参照:大和ハウス工業会部式会社「大型マルチテナント型物流施設「DPL流山Ⅳ」完成

4 まとめ

現代では不動産のESGや持続可能性を評価する指標は多数ありますが、LEEDは建物だけでなく、敷地全体やプロジェクト単位で評価を行うのが特徴です。さまざまなタイプの物件の評価が可能で、既存の建物の改修や管理も認証対象としています。

日本ではまだ認証件数が少ないプログラムでは、ESGに対する関心の高い先進的な不動産プロジェクトでは取得を進める動きも散見されます。REITやファンドを通じて不動産物件への投資を検討するときには、投資先にLEED取得物件がないかをみてみるのもよいでしょう。

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伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。