建築物省エネ法は、建築物が備える省エネ基準について規定している法律です。2022年6月の改正によって、この建築物省エネ法の内容が大きく変わり、今後、不動産投資にも影響が及ぶ可能性があります。
本記事では、建築物省エネ法が不動産投資に与える影響と、改正の変更点、注意点について解説していきます。
目次
- 建築物省エネ法の概要と2022年6月改正の変更点
1-1.建築物省エネ法の省エネ基準
1-2.2022年6月の改正による変更点 - 建築物省エネ法の改正が不動産投資に与える影響と注意点
2-1.省エネ基準を満たすための建築コストのアップ
2-2.新築やリノベーション物件の利回り低下
2-3.市場における省エネ対応物件の差別化
2-4.省エネリフォームの費用対効果 - まとめ
1.建築物省エネ法の概要と2022年6月改正の変更点
建築物省エネ法が定める省エネ基準の概要と2022年6月の改正によって、今までとどのように変わるのかについて解説していきます。
※出典:「国土交通省説明参考資料」
1-1.建築物省エネ法の省エネ基準
建築物省エネ法では、建築物全体が備えるべき省エネ性能の基準として、一次エネルギー消費量基準と外皮基準の2つの省エネ基準を定めています。
一次エネルギー消費量基準とは、建築物の設計仕様について、空調エネルギー、換気エネルギー、照明エネルギー、給湯エネルギー、昇降機エネルギーなどの一次エネルギーの消費量を基準値以下に抑えることを求めるものです。
外皮基準では、室内と外気の熱の出入りのしやすさ及び、太陽日射の室内への入りやすさを指標化し、その基準値を以下に抑えることを求めています。
1-2.2022年6月の改正による変更点
2022年6月には、2050年カーボンニュートラル、2030年度温室効果ガス46%排出削減の実現を目標に、エネルギー消費量の約3割を占める建築物分野における省エネ対策を図る政策の一環として、建築物省エネ法の大幅改正がおこなわれています。
今般の改正で最も大きく変わるのは、省エネ基準適合義務の対象が拡大されることです。これまで、省エネ基準適合義務があるのは、300㎡以上の中規模・大規模の新築非住宅に限定されていましたが、今回の改正で、すべての新築住宅および新築非住宅について、省エネ基準適合義務が課せられることになります。
新築のみならず、増改築をおこなう場合も、その増改築部分については、省エネ基準適合義務が課せられることになります。
適合性判定は、建築確認申請の段階で、所管行政庁や省エネ判定機関がおこないます。省エネ基準に適合されていることの確認が完了次第、着工となります。なお、これらの改正は、2025年4月に施行が予定されています。
2.建築物省エネ法の改正が不動産投資に与える影響と注意点
2022年6月の建築物省エネ法の改正によって、2025年4月からすべての新築住宅に対して省エネ基準の適合義務が課せられます。そこで、今般の改正が、具体的に不動産投資にどのような影響を及ぼすのかについて考えていきましょう。
2-1.省エネ基準を満たすための建築コストのアップ
前述したように、2025年4月から、改正建築物省エネ法の施行が予定されています。今般の改正は、すべての新築住宅に対して、省エネ基準の適合義務を課すものです。
国土交通省では、省エネ基準に適合させるための建築費の追加コストとして、建築費総額に対し、小規模住宅では約4%、中規模~大規模住宅では、約1.3%~1.5%の増加を見込んでいます。このようなことから、新築収益物件では、省エネ基準を満たすための建築コスト増が予想されます。
2-2.新築やリノベーション物件の利回り低下
2025年4月以降、すべての新築物件で省エネ基準を満たす必要があることから、新築物件の建築コストの増加が見込まれています。
新築収益物件の建築コストの増加により、販売価格も上昇する可能性があります。賃料が同水準であれば、新築収益物件の利回りの低下につながる可能性があるといえるでしょう。
また、2025年4月施行の改正建築物省エネ法は、増改築部分についても省エネ基準を満たすことを要求しているため、リノベーション物件についても増改築コストが増加することが予想されます。リノベーション収益物件の販売価格が上昇し、賃料が同水準であればリノベーション収益物件の利回りについても、今後低下する可能性があります。
2-3.市場における省エネ対応物件の差別化
2025年4月以降、新築や増改築した物件はすべて省エネ基準を満たすことになり、市場には省エネ基準を満たした新築・増改築物件が出回ることになります。今後、中古物件であっても、省エネ基準を満たしているかどうかの表示が広まって来るようになる可能性もあります。
省エネ基準を満たすような物件は、入居者にとっては、断熱性が高く快適な居住環境であるだけでなく、光熱費も抑えることができるため、選ばれやすい物件であるといえるでしょう。そのような物件が市場に数多く出回るようになれば、省エネ基準を満たさない物件は入居者に選ばれにくくなり、収益力が落ちるようになります。
このように、将来の不動産投資市場において、省エネ対応物件であるかどうかが差別化の一つの要素になる可能性があるといえるでしょう。
2-4.省エネリフォームの費用対効果
前述したように、2025年4月以降の新築・増改築物件は基本的に省エネ基準に適合している物件となることから、不動産投資市場においても、省エネ基準をみたしているかどうかが、差別化の要素になる可能性があります。
現状、省エネ対応していない中古収益物件を所有しているオーナーや、中古収益物件を取得しようとしている不動産投資家が、省エネ基準に適合するようなリフォームを検討し始めるというケースもあると考えられます。
ただし、省エネ基準に適合するようなリフォームをおこなうには、相応の支出がかかるため、支出に見合った収益力の向上が見込めるかどうかは、慎重に検討する必要があるでしょう。
まとめ
建築物省エネ法の改正によって、2025年4月以降、すべての新築住宅に対して省エネ基準の適合義務が課せられます。これによって、建築コストがアップし、収益物件についても新築やリノベーション物件の利回りが低下する可能性があります。
将来的には、省エネ対応の物件であるかどうかという観点で、差別化される可能性もあります。省エネ対応していない物件の収益力が相対的に減退する可能性がありますが、費用対効果を考慮し、どのタイミングで実施をするか検討して行きましょう。
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佐藤 永一郎
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