小口から不動産に投資できる不動産小口化商品は、低リスクの運用が期待できる投資商品です。しかし、少額資金とはいえ運用による損失のリスクがあり、投資判断はその都度慎重に行っていきたいと言えます。
不動産小口化商品のリスクを知り、そのリスク対策のためには購入・投資前にできれば確認しておきたいポイントがあります。この記事では、不動産小口化商品の仕組みを簡単にみたうえで、不動産小口化商品のリスク、購入・投資前に確認しておきたいポイントについて解説していきます。
目次
- 不動産小口化商品とは
1-1.不動産特定共同事業法
1-2.不動産信託 - 不動産小口化商品のリスク・注意点
2-1.元本・分配金の変動リスク
2-2.流動性リスク
2-3.実物不動産投資と比較して利回りはやや低めになる
2-4.不動産投資ローンを利用できない
2-5.事業者の倒産リスク
2-6.任意組合型における注意点 - 不動産小口化商品の購入・投資前に確認しておきたいポイント
3-1.投資家のリスクヘッジがなされている商品であるかどうか
3-2.現金化の方法について確認しておく
3-3.事業者の財務状態を確認しておく
3-4.他の資産運用方法と比較検討する
3-5.資産運用の目的に合っているか確認する - まとめ
1.不動産小口化商品とは
不動産小口化商品とはどのような商品なのかをみていきましょう。不動産小口化商品の形式として「不動産特定共同事業(運営会社が不動産物件にそのまま投資し所有するもの)」と「不動産信託(信託受益権化した不動産に投資するもの)」があります。それぞれの仕組みや違いについて見ていきましょう。
1-1.不動産特定共同事業法
不動産小口化商品は、不動産投資の規模を小口化して出資者を募り、その資金を基に投資した不動産の賃料収入や売却益を投資額に応じて出資者に分配する商品です。主には不動産特定共同事業法に基づき、国や自治体に許可または登録した事業者がおこなうことができます。投資家保護のため、小口化して出資を募り運用、分配する際のスキームや、事業者の資本金額などの事業基盤を含めた規制が同法に定められています。
主な不動産小口化商品として、事業の形態や契約方法が異なる3つの類型があります。それが、任意組合型と匿名組合型、賃貸借型です。それぞれの類型の仕組みについてみていきましょう。
任意組合型
任意組合型は、不動産特定共同事業者が、各投資家と組合契約を締結して、不動産を共有して運用し、各投資家に共有持分に応じた収益配分をおこなう方式です。
任意組合型では、各投資家は、直接不動産を所有し、事業に参加することになります。そのため、不動産の運用に際して、投資家が意思決定権を持つのが原則です。ただし、業務執行者に委任することも可能です。
運用によって生じた利益は投資家に帰属し、税務上も、現物不動産を賃貸・売買する場合と同様に取り扱うことになります。ただし、損失が生じた場合は、損失についても投資家が分担割合に応じて負担することになります。
【関連記事】不動産小口化商品(任意組合型)のメリット・デメリットは?仕組みや注意点も
匿名組合型
匿名組合型は、不動産特定共同事業者が、各投資家と匿名組合契約を締結して出資を受け、不動産特定共同事業者が取得した不動産を運用し、得られた収益を各投資家に配分する方式です。
多くの場合、クラウドファンディングの仕組みを使ってウェブ上で出資者を募っていることから、「不動産投資型クラウドファンディング」と呼ばれています。匿名組合型では、不動産特定共同事業者が出資された資金や不動産を所有し、運用主体となります。各投資家には、意思決定権はありません。
運用によって生じた利益は不動産特定共同事業者に帰属し、各投資家における税務上の取扱いは、分配された利益のみ雑所得として課税対象となります。
【関連記事】不動産投資型クラウドファンディングを選ぶポイントは?
賃貸借型
賃貸借型は、各投資家が、不動産の共有持分権を購入し、不動産特定共同事業者と賃貸借契約や賃貸委任契約を締結して、運営業務を委託する方式です。なお、不動産投資型クラウドファンディング市場において賃貸型の商品は非常に少なく、一般の方にとって投資できる機会が限られています。
事業者は不動産を運用するのみで、所有しないのが特徴です。投資家は不動産の運用に際して意思決定権を持ち、全責任を負うことになります。運用によって生じた利益は投資家に帰属し、税務上も、現物不動産を賃貸・売買する場合と同様に取り扱うことになります。
1-2.不動産信託
不動産信託とは、不動産の運営・管理を信託銀行などに委託(信託)して、信託報酬を支払う代わりに受益権を受け取るという運用スキームです。不動産の収益をそのまま投資家等に分配するには前述した不動産特定共同事業法(不特法)の制限を受けることになりますが、不動産信託では収益を受益権化(有価証券化)することにより、不特法の制限を受けない運用が可能となっています。
登記名義が信託会社になるので営業者が倒産しても物件が差し押さえられるリスクがなく、また対象物件についても信託会社の厳しい審査を通過しているため、投資家としてはこれらの点も判断材料の一つになるメリットがあります。
このような不動産の信託受益権がデジタル証券化されたものを不動産ST(セキュリティ・トークン)といい、近年ではブロックチェーンの仕組みを活用した新しい投資商品として注目されています。個別の不動産を証券化した商品も多く登場しており、上場REITのように相場の影響を受けず、不動産のパフォーマンスに連動したリターンを期待できるという点もメリットです。
野村證券の「不動産ST(セキュリティ・トークン)」
野村證券の不動産ST(セキュリティ・トークン)は、不動産の証券化によって、個人では難しかった大型の不動産へ小口投資ができる不動産投資サービスです。ブロックチェーン技術を利用しており、分散型台帳上で権利の記録・移転がされている点が従来の不動産ファンドとの大きな違いとなっています。
予定分配利回りは3.0%~4.5%、最低投資額は100万円/1口です。2023年以降は100億円前後の大規模なファンド組成を行うなどの運用実績があり、主なアセットマネージャーとしては、りそな銀行、三井物産デジタル・アセットマネジメント、ケネディクス・インベストメント・パートナーズなどが参画しています。
野村證券の不動産ST(セキュリティ・トークン)に投資するには、野村證券に証券口座を開設し、野村證券オンラインサービスから募集中の銘柄を購入する流れとなります。
2.不動産小口化商品のリスク・注意点
不動産小口化商品のリスクや注意点として、次のような点が挙げられます。
- 元本・分配金の変動リスク
- 流動性リスク
- 実物不動産投資よりも低利回りになる
- ローンを受けることができないリスク
- 事業者の倒産リスク
以下、それぞれについて詳しくみていきましょう。
2-1.元本・分配金の変動リスク
不動産小口化商品の収益源は現物不動産であるため、現物不動産に投資した場合と同様、投資した不動産の価格やその不動産から得られる家賃収入が変動するリスクがあります。運用中には、大規模修繕や災害等の予期しない費用が発生するおそれもあります。
このような不動産小口化商品の現物不動産に関連する経済状況の変化によっては、予定された元本や分配金が減少するリスクがあるといえます。ただし、投資先の現物不動産や不動産小口化商品の仕組みによっては、投資家のリスクを抑えることが可能です。
2-2.流動性リスク
不動産小口化商品を契約の途中で現金化したい場合、売買するような一般的な市場はなく、流動性が低いのがリスクといえます。
ただし、現金化する方法がまったくないわけではありません。考えられる方法としては、自ら購入者を見付けるか、事業者に新たな組合員を紹介してもらうか、あるいは、事業者へ売却する、という方法があります。
2-3.実物不動産投資と比較して利回りはやや低めになる
不動産小口化商品では、投資対象の不動産の管理・運営・運用判断について、事業者に委任しておこなうことが多いでしょう。
そのため、投資家が受け取る利益は、運用収益から事業者の手数料を差し引かれた分となり、投資資金に対して得られる利回りが低くなる傾向があります。
現物不動産に、同額の資金を投資する場合には、より高い利回りを得られることが多く、運用資金を高利回りで運用できる機会を失ってしまう機会損失が発生する可能性があります。
2-4.不動産投資ローンを利用できない
不動産小口化商品は、基本的に融資対象とならず、不動産小口化商品に投資する場合、現金投資となり、ローンによるレバレッジ効果を活用して資産拡大することができなくなります。
現物不動産であれば、投資対象の不動産を担保に差し入れることで不動産投資ローンを受けて、手持ち現金以上の資産に投資、運用することができます。同額の現金を投資するにあたり、ローンによるレバレッジ効果を活用する場合と比べて、資産拡大のスピードが遅くなることがリスクといえるでしょう。
2-5.事業者の倒産リスク
不動産小口化商品は、基本的に投資家が投資不動産の管理・運営・運用等を事業者に任せることになりますが、その事業者が倒産した場合、投資を継続することができなくなるリスクがあります。
このような場合、投資用の不動産を売却して商品に出資している各投資家に資金を分配し、解散するか、他の事業者に事業を引き継いでもらう方法があります。いずれにしても、予期しない手間や費用がかかったり、想定通りに売却できなかったりして、投資家には悪影響が生じるでしょう。
2-6.任意組合型における注意点
税法上の注意点・リスク
任意組合型の不動産小口化商品は、税務上は現物不動産を所有するのと同様の取扱いになるため、現物不動産に投資した場合と同様の税制メリットを享受することが可能です。例えば、相続時は不動産として税評価が為されるため、現金で保有している場合よりも評価額を2~3割程度は抑えることができる可能性があります。
一方、税法は毎年ごとに法改正が行われており、投資時点で適法だったものが新たに課税対象となる可能性があるという点に注意が必要です。
不動産小口化商品の中には現時点での税控除に焦点を当てたものも多く見られます。しかし、税務調査によって事業性が低いと判断されてしまう可能性があったり、投資実行のタイミングと相続が発生する時点で税法の解釈が異なる可能性もあるでしょう。
投資家の事業責任
任意組合型の大きな特徴の1つが、出資割合に対して無限責任を負うということです。例えば、出資額100万円、出資割合1%、1億5,000万円の債務が発生した場合、1億5,000万円×1%=150万円となり、出資額100万円に対して150万円の債務が発生することになります。
事業運営によって損失が生じた場合、出資金以上の債務を抱えてしまう可能性があります。任意組合型の不動産投資型クラウドファンディングを利用する場合、無限責任であることに注意が必要です。
3.不動産小口化商品の購入・投資前に確認しておきたいポイント
上述したような不動産小口化商品のリスクを踏まえたうえで、購入・投資前には次のようなポイントに注意するとよいでしょう。
- 投資家のリスクヘッジがなされている商品であるかどうか
- 現金化の方法について確認しておく
- 事業者の財務状態を確認しておく
- 他の資産運用方法と比較検討する
- 資産運用の目的に合っているか確認する
以下、それぞれについて詳しくみていきましょう。
3-1.投資家のリスクヘッジがなされている商品であるかどうか
不動産小口化商品は、投資家に還元される元本・分配金が変動するリスクがあります。ただし、不動産小口化商品の中には、賃料下落や収益減少のリスクはまず事業者が負担するような優先劣後構造などを採用して、投資家のリスクを抑えている商品もあります。
また、希少性の高い優良不動産を投資対象としている商品であれば、賃料下落や収益減少のリスク自体が低くなります。不動産小口化商品の購入・投資前には、このように、投資家のリスクヘッジがなされている商品であるかどうかを確認するようにしましょう。
3-2.現金化の方法について確認しておく
不動産小口化商品を、契約途中で現金化したい場合、事業者がどのようなサポートをしてくれるのか、確認しておきましょう。
不動産小口化商品を契約途中で現金化する場合、事業者に他の組合員などを紹介してもらったり、事業者に買い取ってもらったりすることが方法として考えられます。事業者がこのようなサポートをしてくれるのか、確認しておくとよいでしょう。
3-3.事業者の財務状態を確認しておく
不動産小口化商品は、その商品の販売事業者が倒産した場合、投資を継続することができなくなるリスクがあります。
不動産小口化商品を取り扱っている事業者がどのような事業者であるのか、不動産特定共同事業法の許可や登録を受けた事業者であるのか、そして、財務状態は健全なのかを確認しておくとよいでしょう。
3-4.他の資産運用方法と比較検討する
不動産小口化商品は、事業運営を投資家自らが行わない仕組み上、現物不動産に直接投資するケースよりも低利回りであることが多くなります。また、ローンのレバレッジを活用できないことからも、短期間で大きなリターンを得る投資方法ではありません。
反面、不動産小口化商品は事業者に管理・運営・運用のすべてを任せることができるというメリットもあります。その他、個人では投資が難しい大規模な商業施設・ホテル・物流不動産など、様々な不動産へ少額資金で投資できるという点もメリットと言えるでしょう。
より高利回りを得られる不動産投資などの他の資産運用方法と比較して、不動産小口化商品に投資することのメリット・デメリットを検討し、慎重に選択するようにしましょう。
3-5.資産運用の目的に合っているか確認する
ローンを受けることのできない不動産小口化商品は、自己資金の範囲でのみ資産を運用することになります。ローンによるレバレッジ効果を利用して資産拡大をしたいのであれば、現物不動産への投資を検討しましょう。
不動産小口化商品は、リスクを抑えるために少額の資金から不動産に投資したい方、様々な物件やファンドに分散投資をしたい投資家の方に向いているといえます。資産運用の目的に合った投資方法を選択することを検討しましょう。
まとめ
不動産小口化商品は、不動産特定共同事業法に基づき、不動産投資の規模を小口化して個人でも投資しやすくした商品です。元本・分配金の変動、流動性、低利回り、ローンを受けることができない、事業者の倒産可能性、などのリスク・注意点があります。
これらのリスクを踏まえ、投資家のリスクヘッジがなされている商品であるか、そして、契約途中で現金化したい場合、事業者がどのようなサポートをしてくれるのか、事業者の財務状態などを確認しておくとよいでしょう。
不動産小口化商品に限ったことではありませんが、他の資産運用との比較、資産運用の目的に合った方法であるかについても検討し、投資判断を行っていきましょう。
佐藤 永一郎
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