不動産の売却では、多額の納税が発生することがあります。譲渡所得税の金額は売却によって生じた利益に応じて多額になりますが、その計算と確定申告は、税理士に依頼するか自分で行う必要があります。
相続不動産では、譲渡所得税の計算手続きにおいて適用できる特別控除などの特例があり、それを利用することで納める税金が大きく軽減される場合があります。このような特例の適用可否に加えて、どれくらい税金が控除されるのかシミュレーションすることが大切です。
この記事では、相続不動産の売却にかかる税金について概要を説明したうえで、相続不動産の譲渡所得税にかかる計算についてシミュレーションをおこなって解説します。
※記事内の税金・税率などは2024年3月時点の情報となります。最新の情報については、国税庁などのサイトをご確認のうえ、税理士などの専門家へのご相談もご検討ください。
目次
- 相続不動産を売却したときにかかる税金とは
- 相続不動産の売却にかかる譲渡所得税の計算方法
2-1.譲渡所得税の概要
2-2.取得費が不明な場合は概算取得費の制度を適用できる
2-3.空き家等の特別控除
2-4.マイホームの特別控除
2-5.その他の特別控除
2-6.特別控除や特例を適用する際は併用の可否に注意 - 相続不動産の売却に関する譲渡所得税のシミュレーション
3-1.相続不動産の取得費が分かっている場合
3-2.取得費が不明で相続税の取得費加算がある場合
3-3.取得費が不明で空き家等の特別控除がある場合 - まとめ
1.相続不動産を売却したときにかかる税金とは
相続不動産を売却したときにかかる税金は、主に、印紙税、登録免許税、譲渡所得税、住民税の4つになります。
印紙税
売買契約時に、売買契約書の作成について、売買価格に応じた印紙税がかかります。印紙税は、売買価格が大きくなるにつれて非課税から、最高48万円まで価格帯ごとに定められています。たとえば、1,000万円超5,000万円以下の売買価格であれば、印紙税は1万円になります。
登録免許税
売買不動産の引渡時に、登記手続きが必要になれば、登録免許税がかかります。相続不動産の売却では、相続による所有権移転登記が未了の場合、完了させてから売却する必要があります。相続による所有権移転登記の登録免許税は、固定資産税評価額の0.4%となっています。(※参照:国税庁「登録免許税の税額表」)
譲渡所得税・住民税
また、売却について利益が出た場合、翌年以降、譲渡所得税と住民税がかかることになります。譲渡所得税と住民税の税率は、売却した不動産の保有期間に応じて次表のようになっています。
- 短期譲渡所得税=課税短期譲渡所得金額×30.63%(住民税9%)
- 長期譲渡所得税=課税長期譲渡所得金額×15.315%(住民税5%)
※参照:国税庁「譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」
譲渡所得税は、売却した年の翌年2月16日から3月15日までの間に確定申告をおこなって納税します。
2.相続不動産の売却にかかる譲渡所得税の計算方法
相続不動産の売却にかかる税金のうち、主要なものは譲渡所得税とそれに付随する住民税であるといえます。以下では、譲渡所得税の算定方法について、特に相続不動産に適用できる特例措置を含めて確認していきます。
2-1.譲渡所得税の概要
譲渡所得税のかかる不動産売却の利益(譲渡所得)を計算する式は、次のようになります。
譲渡所得=譲渡価格-(取得費+売却費用)-特別控除
譲渡価格は売却した価格です。取得費は不動産を入手するのにかかった費用、売却費用は売却するときにかかった費用であり、仲介手数料などが該当します。ただし、費用として計上できる項目はある程度決められています。(※参照:国税庁「取得費となるもの」)
また、建物を売却したときは、取得費から減価償却費を差し引いて計算します。
2-2.取得費が不明な場合は概算取得費の制度を適用できる
相続によって取得した不動産の場合、先祖伝来のものであったり、購入時の売買契約書を紛失してしまったりして、購入時の取得費が不明な場合もあります。その場合、売却価格の5%を取得費とできる概算取得費の制度があります。(※参照:国税庁「取得費が分からないとき」)
概算取得費の制度は、不動産の相続で納付した相続税分を、取得費に加算できる制度です。ただし、この特例の適用を受けるには、その相続した財産を、相続日から3年以内に譲渡する必要があります。取得費に加算できる相続税額は、次のように計算します。
その者の相続税額×売却した財産の価額/(その者の相続税の課税価格+その者の債務控除額)
2-3.空き家等の特別控除
譲渡所得の計算において適用できる特別控除のうち、相続不動産について特に適用を受けることができるのが、空き家等の特別控除です。
次のような条件を満たす相続した空き家を売却して利益が生じた場合、譲渡所得税の課税所得から3,000万円の控除を受けることができます。
- 被相続人が一人で居住していたこと
- 昭和56年5月31日以前築の一戸建てであること
- 相続によって取得した人が、その土地建物を耐震リフォームするか、あるいは取り壊して相続日から3年以内に売却すること
- 相続時から売却時まで空き家であること
※参照:国税庁「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
また2024年1月1日以降、空き家等の特別控除は売却後に買主が耐震改修するか、もしくは解体するケースにも適用できるようになりました。(※国土交通省「空き家の発生を抑制するための特例措置」)
2-4.マイホームの特別控除
マイホームの特別控除は、マイホームを、住まなくなってから3年以内に売却したときに、譲渡所得から3,000万円までの控除を認める特例です。 (※参照:国税庁「マイホームを売ったときの特例」)
マイホームを取り壊してその敷地を売却する場合、その敷地の売却契約が取壊した日から1年以内に締結されること、その敷地を他の用途に利用していないこと、などが条件となります。
2-5.その他の特別控除
その他の特別控除として、下記の2つがあります。
低未利用の土地等の特別控除とは、低未利用の土地等を長期間保有し一定金額以下で譲渡した場合は、譲渡所得から100万円を控除することができます。
平成21年及び平成22年に取得した土地の特別控除は、リーマンショック後の景気対策として創設された特例です。平成21年及び平成22年に取得した土地を長期間保有して譲渡した場合は、譲渡所得から1,000万円を控除することができます。
2-6.特別控除や特例を適用する際は併用の可否に注意
譲渡所得税の計算に関連して、適用できる特別控除や特例には、併用できるものとできないものがあります。
たとえば、空き家等の特別控除とマイホームの特別控除は併用可能ですが、同一年内に併用する場合は、2つ合わせて3,000万円が控除限度となります。
また、空き家等の特別控除と相続税の取得費加算特例は併用できません。マイホームの特別控除とマイホームの買換え特例も選択制となります。
特別控除や特例を適用する際は、それぞれの適用要件のみならず、併用の可否、そして併用できない場合はいずれの制度を選択した方がよいのかなどについて検討するようにしましょう。
※参照:国土交通省「他の税制との適用関係」
3.相続不動産の売却に関する譲渡所得税のシミュレーション
次に、相続不動産の具体例を用いて、譲渡所得税の計算のシミュレーションをしてみましょう。取得費に焦点を当てて、下記の3パターンで詳しく解説します。
- 相続不動産の取得費が分かっている場合
- 取得費が不明で相続税の取得費加算がある場合
- 取得費が不明で空き家等の特別控除がある場合
3-1.相続不動産の取得費が分かっている場合
相続不動産の取得費が分かっている場合の譲渡所得税の試算をしてみます。
相続不動産の取得費は、被相続人(亡くなった人)が取得した価格が引き継がれるのが原則となります。譲渡所得の税率適用について、長期か短期かの判断も、被相続人が取得した時から売却までの期間でおこないます。
これらを踏まえて、以下の条件の不動産を売却した時のシミュレーションを見て行きましょう。
構造、経過年数、用途 | 木造、築10年、賃貸用 |
---|---|
購入価格 | 土地:3,000万円 建物:2,000万円 |
購入時費用 | 200万円 |
譲渡価格 | 5,000万円 |
売却時費用 | 200万円 |
まず、取得費の要素を算定するため、建物から控除すべき減価償却費を計算します。賃貸用として利用していたため、償却率は法定通りです。
2,000万円×0.9×0.046×10=828万円
次に、取得費を計算します。
取得費=3,000万円+2,000万円+200万円-828万円=4,372万円
譲渡所得の要素が揃ったので、算式にあてはめます。
譲渡所得=5,000万円-(4,372万円+200万円)=428万円
譲渡所得は428万円になります。この428万円に対して長期所有の税率が適用され、譲渡所得税(復興特別所得税を含む)15.315%、住民税5%がかかります。したがって、譲渡所得税(復興特別所得税を含む)655,482円、住民税214,000円、と算定されます。
3-2.取得費が不明で相続税の取得費加算がある場合
相続不動産の取得費が不明で、相続税の取得費加算がある場合の譲渡所得税の試算をしてみます。以下が売却した不動産の条件とします。
構造、経過年数、用途 | 木造、築年不詳、居住用 |
---|---|
購入価格 | 不明 |
相続税の取得費加算 | 200万円 |
譲渡価格 | 3,000万円 |
売却時費用(解体費用含む) | 300万円 |
購入価格が不明であるため、取得費は概算取得費の制度を利用して計算します。
取得費=3,000万円×5%=150万円
したがって譲渡所得は、下記のようになります。
譲渡所得=3,000万円-(150万円+200万円+300万円)=2,350万円
この2,350万円に対して長期所有の税率が適用され、譲渡所得税(復興特別所得税を含む)15.315%、住民税5%がかかります。したがって、譲渡所得税(復興特別所得税を含む)3,599,025円、住民税1,175,000円、と算定されます。
3-3.取得費が不明で空き家等の特別控除がある場合
相続不動産の取得費が不明で、空き家の特別控除を適用できる場合の譲渡所得税の試算をしてみます。空き家の特別控除の適用を受ける場合、相続税の取得費加算は適用されません。以下が売却した不動産の条件とします。
構造、経過年数、用途 | 木造、築年不詳、居住用 |
---|---|
購入価格 | 不明 |
空き家等の特別控除 | 適用あり |
譲渡価格 | 4,000万円 |
売却時費用(解体費用含む) | 300万円 |
購入価格が不明であるため、取得費は概算取得費の制度を利用して計算します。
取得費=4,000万円×5%=200万円
したがって譲渡所得は下記のようになります。
譲渡所得=4,000万円-(200万円+300万円)-3,000万円=500万円
この500万円に対して長期所有の税率が適用され、譲渡所得税(復興特別所得税を含む)15.315%、住民税5%がかかります。したがって、譲渡所得税(復興特別所得税を含む)765,750円、住民税250,000円、と算定されます。
まとめ
不動産を売却したときにかかる税金の主なものは、譲渡所得税と住民税です。譲渡所得は、売却価格から取得費と譲渡費用を引いて計算し、プラスになればそれに対して税率を乗じて課税されます。
取得費の計算では、購入時の取得価格が不明であると多額の納税になるおそれがあります。可能な限り、購入時の契約書などを用意しておきましょう。相続不動産の場合、相続税の取得費加算や空き家等の特別控除を利用することで、税金が軽減できる可能性があります。
ただし、この2つの特例はいずれか一方しか適用できないため注意しましょう。譲渡所得税の計算において判断に迷うときや、自分で申告することが難しい場合は、税理士などの専門家に相談することを検討しましょう。
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佐藤 永一郎
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