不動産の相続が発生した場合、その相続税申告に関する税務リスクは小さくありません。そのうえ、税金の専門家である税理士であっても相続税申告は得意不得意が分かれる分野です。
不動産の相続税申告に強い税理士はどのようにして探せばよいのでしょうか。
この記事では、不動産の相続に関する税務リスクを確認したうえで、不動産の相続税申告に強い税理士を探す判断ポイント、費用相場や相談方法について解説していきます。
目次
- 不動産の相続では税理士選びが重要
1-1.不動産の相続税額は税制の適用方法によって大きな差が生じうる
1-2.相続税申告は税務リスクが高い
1-3.相続税申告は税理士によって得意不得意が分かれる - 不動産の相続に強い税理士の探し方・選び方
2-1.相続税の申告実績が豊富であること
2-2.報酬体系が明確で適正であること
2-3.不動産評価算定や相続税の特例適用ができること
2-4.二次相続を見据えた相続税対策ができること
2-5.税務調査対応や書面添付ができること - 相続税の申告を税理士に依頼する費用相場
3-1.遺産総額ベースの報酬体系が多い
3-2.別途加算報酬となる業務 - 税理士に相談依頼する方法
4-1.ホームページ経由
4-2.セミナー、他の士業や金融機関の紹介
4-3.税理士紹介サイトの利用 - まとめ
1.不動産の相続では税理士選びが重要
不動産の相続税申告では、税理士選びが非常に重要になります。
不動産の相続税額の算定では、財産評価の際に相続税法の解釈や適用が複雑な取り扱いや、特例の適用が多く、適用の違いが税額に与える影響も大きくなります。
さらに、相続税の申告をした人のうち10人に1人に税務調査が実施され、追徴税額が課されているという統計があり、税務リスクが高い傾向があります。
このように、相続税では申告に関する影響、リスクが大きいうえ、税理士によって得意不得意が明確に分かれる分野であるため、税理士選びが非常に重要になるといえるでしょう。
1-1.不動産の相続税額は税制の適用方法によって大きな差が生じうる
不動産の相続税額の算定をする際、基礎となる財産評価には、相続税法の解釈や適用で認められている、評価額の減額方法があります。また、一定の条件を満たす場合に、不動産の財産評価額を大幅に減額することができる特例も設けられています。
このように、税法の解釈によっては適用できる評価額の減額方法や特例を利用しなかったり、あるいは別の解釈をすることで適用しなかったりすると、結果として相続税額が増えることになります。
不動産の財産評価額は数千万~数億円単位となる場合もあり、相続税の税率も10%~55%と財産評価額が大きくなるほど高率であることから、税制の適用方法によって生じうる相続税額の差は非常に大きなものになります。
1-2.相続税申告は税務リスクが高い
国税庁が令和元年に発表した「平成30事務年度における相続税の調査等の状況」によると、平成30事務年度における相続税の実地調査は、平成28年に発生した相続のうち、過少申告あるいは無申告と想定されるものについて、約12,000件おこなわれています。
「平成28年分の相続税の申告実績」は約106,000人であるため、約10%の割合で税務調査がおこなわれていることになります。
また、税務調査が入った場合、申告漏れ等の非違件数の割合は約86%であり、追徴税額は加算税を合わせて1件あたり568万円にも上っています。
このように、相続税申告は税務調査が実施される確率や追徴税が課される可能性が高く、その税額も高額であるといえます。すなわち、総じて税務リスクが高いといえるでしょう。
1-3.相続税申告は税理士によって得意不得意が分かれる
相続税の申告は、死亡した人の正味の遺産額が基礎控除額を上回るときに初めて必要となるものであり、令和元年の相続税申告件数は115,000件と令和元事務年度の法人税申告件数約300万件と比べると市場規模が限定されているといえます。
したがって、税理士によっては相続税申告の経験・実績が少ない場合もあり、得意不得意が分かれる分野であるといえます。
また、平成26年の税制改正以前は基礎控除額が大きく、相続税申告が必要な人の規模が現在の約半分であったことも影響しているといえるでしょう。国税庁の「平成27年分の相続税の申告状況について」によると、改正後の平成27年分申告から基礎控除額の引下げ等が行われ、課税対象被相続人数の前年比が約2倍になっています。
2.不動産の相続に強い税理士の探し方・選び方
それでは、不動産の相続に強い税理士は、どのような点に注意して選ぶのがよいのでしょうか。以下で詳細を説明していきます。
2-1.相続税の申告実績が豊富であること
相続税の申告は税理士によって得意不得意が分かれる分野であることから、相続税の申告実績が豊富かどうかを確認することが大切です。
その際、相続税の相談実績ではなく、税金の計算をして税務署に対して書類を提出する、申告業務の実績がどれぐらいあるかを確認しましょう。
できれば、申告実績の内容について、遺産規模や資産の種類なども確認するとよいでしょう。法人税の申告を主要業務としている税理士の場合、顧問業務をおこなっている法人の社長などの相続税の申告が多く、株式の相続税申告は経験しているものの、不動産の相続税については経験が少ないケースがあります。
また、相続税専門の税理士の中には、他の税理士がおこなった相続税申告を修正し、納付済の相続税を取り戻す相続税還付申告を請け負う税理士もいます。還付申告の実績についても確認してみましょう。
2-2.報酬体系が明確で適正であること
相続税の税理士報酬は遺産総額の〇%というように決められていますが、相続税の申告では、個別の特殊事情によって手間がかる場合があり、その分の報酬が加算されることがあります。
報酬加算の対象となる事情とは、たとえば、土地の評価が必要である場合や、相続人が複数いる場合、非上場株式の評価が必要である場合、申告期限まで時間がない場合など、税理士事務所によって様々です。
このような、報酬体系が明確で適正な金額であることは、それだけ申告実績があり、業務フローが確立されているということでもあり、相続税の申告に強い税理士であることの目安であるといえるでしょう。
2-3.不動産評価算定や相続税の特例適用ができること
不動産の相続税の基礎となる財産評価の際、税法の解釈や適用方法によって、不整形地の評価を減額したり、小規模宅地等の特例に該当する土地の評価を8割減額したりすることができます。
このような、不動産の評価算定方法や特例を適用して、相続税の適正な減額をおこなってもらえるかどうか、という点も不動産の相続税申告の依頼をする際は、判断ポイントになるといえるでしょう。
特に、不動産の評価は個別性が高く複雑であるため、不動産の相続税申告に強い税理士事務所では、相続税申告と不動産評価サービスを分けておこなっていることもあります。
2-4.二次相続を見据えた相続税対策ができること
二次相続を見据えた相続税対策の提案があるかどうかも、不動産の相続税申告に強い税理士を探す基準になります。
二次相続では、配偶者に大きな非課税枠がある配偶者控除を利用できない場合が多く、法定相続人が減ることで基礎控除額も減少してしまいます。さらに、二次相続では、相続人である子が同居要件や所有要件を満たすことができず、小規模宅地等の特例を適用することが難しくなる場合もあります。
このように、二次相続で発生する相続税まで考慮した上で、相続財産の分割などについての対策の提案があると心強いといえるでしょう。
2-5.税務調査対応や書面添付ができること
上述したように、相続税の申告は税務リスクが高いといえます。相続税の申告について、税務署の税務調査にも対応してもらえる税理士であれば、税務リスクを軽減することができるといえるでしょう。
なお、税務調査対応については、多くの税理士事務所で相続税の申告業務とは別料金に設定されています。対応の可否、料金の目安を確認するとよいでしょう。
また、申告書に税理士がその申告書について計算、整理をし、相談を受けた事項を記載することによって、税務調査の際、事前にその税理士に意見聴取することを義務付ける、書面添付制度があります。
この書面添付制度を適用するサービスをおこなう税理士であれば、税務署対応を任せる際にも心強いといえるでしょう。
3.相続税の申告を税理士に依頼する費用相場
税理士に相続税の申告業務を依頼する場合の費用相場はいくらぐらいなのでしょうか。以下で確認してみましょう。
3-1.遺産総額ベースの報酬体系が多い
相続税の申告業務の税理士費用は、遺産総額規模に応じた報酬体系となっているケースが多いといえます。一般的に、遺産総額の0.5~1%程度が相場であるといえるでしょう。
ただし、相続税の申告は個別事情によって業務量が異なるため、遺産総額ベースの報酬は基本的な申告業務の範囲に限定されているケースが大半です。
その他、遺産総額規模が配偶者控除の範囲内であり、遺産分割が決定済であるなど、シンプルな申告業務と報酬体系を区分しているケースもあります。
3-2.別途加算報酬となる業務
相続税の申告業務は、遺産である財産の内容や相続人の人数などの個別事情によって、申告業務の複雑さ、手間などが大きく変わります。
そのため、遺産総額ベースの報酬を基本として、別途個別事情に応じた手数料を規定している税理士事務所が多いといえます。加算報酬の単価は事務所によって様々ですが、次のような個別事情がある場合、加算費用が発生することが多いでしょう。
- 土地の財産評価がある
- 非上場株式の財産評価がある
- 相続人が複数である
- 申告期限が近い
- 税務調査の立ち会いが必要である
4.税理士に相談依頼する方法
不動産の相続税申告に強い税理士を探して相談依頼するには、インターネットのホームページ経由、セミナー、他の士業や金融機関などの紹介、税理士紹介サイトの利用、などの方法があります。
なお、どのような手段で税理士を探す場合でも、できれば複数の税理士への相談や面談を通して、費用や対応内容について比較することが大切です。相続の状況に適した税理士を見つけられるよう、効率的にアプローチしていきましょう。
4-1.ホームページ経由
近年では、多くの税理士が事務所のホームページを持ち、業務内容の紹介をしています。インターネットで税理士事務所のホームページを検索し、業務内容を調査して相続税申告に強い税理士を探してみるのもよいでしょう。
興味を持った税理士がいたら、一度面談を設定してもらい、依頼内容と料金の確認をし、複数の事務所を比較検討してみましょう。
4-2.セミナー、他の士業や金融機関などの紹介
不動産の相続税申告に強い税理士事務所では、相続税対策についてのセミナーを開催していることがあります。セミナーでは、事務所の業務内容を紹介しているケースもあるため、セミナーをきっかけに税理士を探すのもよいでしょう。
また、弁護士や行政書士、司法書士など、相続に関する業務をおこなっている士業であれば、相続税の申告に強い税理士と接点を持っていることが多いでしょう。また、金融機関も業務の中で税理士との接点は多く、税理士を招いて相続セミナーなどを開催しているケースもあります。他の士業や金融機関などから紹介してもらうという方法もあります。
4-3.税理士紹介サイトの利用
税理士紹介サイトを利用して、不動産の相続税申告に強い税理士を紹介してもらうという方法もあります。
税理士紹介サイトでは、コーディネーターが、相談者のニーズに合った税理士をピックアップし、面談を調整してくれます。税理士との依頼内容の調整や、料金交渉などもコーディネーターに任せることが可能です。
税理士ドットコム
税理士ドットコムは、全国5,900名の税理士の中から無料で希望に沿った税理士を紹介してもらえるウェブサービスです。複数の税理士を比較することができるうえ、「費用はいくら?」「どんな税理士を選ぶべき?」といった税理士を選ぶ際の相談も可能となっています。
不安のある方は、このようなサービスの利用を検討するなどして、手間やリスクを省くことも選択肢の一つと言えるでしょう。
まとめ
不動産の相続税申告に強い税理士を探すポイントは、相続税申告の実績・経験が豊富かどうかというのが基本になるでしょう。不動産の財産評価や特例の適用をしてもらえるかどうか、二次相続対策、税務調査対応の可否も判断基準となります。
多くの場合、費用は遺産総額ベースとなっていますが、相続の個別事情によって加算費用がかかるケースもあるため、それぞれの事情に応じて報酬体系を確認しましょう。
不動産の相続税申告は、比較的税務リスクが高いといえます。複数の税理士事務所を比較して慎重に検討しましょう。
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佐藤 永一郎
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