遺産相続は親を亡くしたという精神的なショックがあるなかで、親が築いた遺産をしっかりと受け継いでいく重要な手続きです。
しかし、相続人が複数いる場合は遺産分割協議が必要になり、ちょっとした手続き上の問題が相続人間の大きなトラブルを招きかねません。
本記事では、親が亡くなった後の遺産相続の手順について、主に行われる共通の手順を確認したうえで、相続財産の種類ごとに異なる手続きについて説明していきます。
目次
- 遺産相続で主に行われる共通の手順
1-1.相続人の調査
1-2.相続財産の調査
1-3.遺産分割協議・遺産分割協議書の作成
1-4.各遺産の取得
1-5.相続税の申告・納付 - 現金預金の相続手順
2-1.調査・金融機関への連絡
2-2.遺産分割協議後、払い戻し・名義変更 - 有価証券の相続手順
3-1.有価証券の調査
3-2.遺産分割協議後、名義変更 - 不動産の相続手順
4-1.不動産の調査
4-2.遺産分割協議後、相続登記 - まとめ
1.遺産相続で主に行われる共通の手順
親が亡くなった後、遺産相続をする手順は遺産の種類によって手続きをおこなう機関や準備する書類などが異なります。
まずは主に行われる共通の手順を解説したうえで、遺産の種類によって異なる部分につき、詳細な手続きを解説します。遺産相続は、主に次のような流れで進められます。
- 相続人の調査
- 相続財産の調査
- 遺産分割協議・遺産分割協議書の作成
- 各遺産の取得
- 相続税の申告・納付
以下で、それぞれの項目について説明します。
1-1.相続人の調査
遺産相続手続きにおいて最初におこなう必要があるのが、相続人の調査です。民法では、法定相続人の順位や範囲が定められています。亡くなった親の遺産を相続する権利が誰にどれくらいの法定割合であるのかを調査します。
調査方法は、亡くなった親の出生から死亡までの戸籍によって親戚関係をたどっていきます。この際、本籍が所在する自治体が発行する戸籍謄本、除籍謄本などを取り寄せることになります。
1-2.相続財産の調査
相続人の調査と並行して、亡くなった親の相続財産の調査をおこないます。相続対象となる財産には、現預金、有価証券、不動産などのほか、事業にかかわる売掛金、貸付金などといったものが含まれます。
プラスの財産以外に、借入金や事業上の買掛金などマイナスの財産も相続対象となります。
1-3.遺産分割協議・遺産分割協議書の作成
相続人と相続財産の調査が終わった段階で、遺言書がなければ、相続人全員が、遺産を誰にどれくらい分けるか、について話し合いをおこないます。
これを遺産分割協議と言い、協議がまとまったら、その合意内容を遺産分割協議書として書面化して、後日トラブルが起きないようにします。下記、相続人の範囲と法定相続分の表を参考に、相続割合の話し合いを進めてみると良いでしょう。
相続人の範囲と法定相続分
区分 | 法定相続できる財産 |
---|---|
配偶者と子供が相続人である場合 | 配偶者1/2 子供(2人以上のときは全員で)1/2 |
配偶者と父母が相続人である場合 | 配偶者2/3 父母(2人以上のときは全員で)1/3 |
配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合 | 配偶者3/4 兄弟姉妹(2人以上のときは全員で)1/4 |
※国税庁「相続人の範囲と法定相続分」を参照
子供や父母など配偶者以外の被相続人が2人以上いるときは、原則として均等に分けます。
なお、遺言書があり、すべての遺産について誰が何を取得するのか指定されている場合、遺産分割協議は不要ですが、相続人全員の同意があれば、遺言と異なる内容で遺産分割することも可能です。
同様に、上記の法定相続分は相続人の間で遺産分割の合意ができなかったときの遺産の取り分となります。話し合いで合意している際や、遺書がある時は上表の割合で分割されなくても問題ありません。
1-4.各遺産の取得
遺産分割協議が合意に達したら、その分割協議の内容に従い、現預金、有価証券、不動産などの遺産を各相続人が取得します。
この際、名義変更が必要な財産については、その手続きに遺産分割協議書や戸籍謄本などの書類が必要になります。詳しくは、遺産の種類に応じた相続手順の項で説明します。
1-5.相続税の申告・納付
親が亡くなった日から10カ月以内に、遺産分割協議の内容に基づき、相続税の申告と納付をおこないます。
相続税額は、相続財産の課税価格―基礎控除額を、各法定相続人が法定相続分に従って取得したものとして、各法定相続人の取得金額を求め、それぞれに累進税率を乗じて算出されます。
遺産分割協議が終了していなくても、法定相続分をもとに手続きと計算をおこないます。ただし、遺産分割が終了していない場合、一部の税額控除の特例を利用できないため、特例を適用した税金計算をやり直す必要があるケースもあります。
2.現金預金の相続手順
預金の相続手順は、亡くなった人の預金口座を調査し、その金融機関に連絡します。
金融機関へ亡くなったことを伝えると遺産分割協議が合意するまで口座が凍結され、遺産分割協議終了後、協議書の合意に従って払い戻し等をおこなうという流れになります。
現金も相続財産の対象になります。タンス預金などがあれば、それについても遺産分割協議をおこなってから取得します。
2-1.調査・金融機関への連絡
亡くなった親の預金を相続するには、まず、どこの金融機関にいくら預金があるのか、調査を行いましょう。預金通帳やキャッシュカードなどがなければ、亡くなった親が利用していた可能性のある金融機関ごとに確認して口座を調べていくことになります。
口座があることが分かった場合、金融機関に口座の持ち主が亡くなった旨を伝えると口座は凍結され、その後は相続手続きが終わるまで原則として引き出しはできなくなります。
ただし、令和元年7月の民法改正により、遺産分割前でも一定の限度額までは相続人が払い戻しを受けることができるようになりました。必要に応じて、金融機関に問い合わせて利用方法について確認してみましょう。
亡くなった親の現金についても、勝手に使ってしまうことなく、遺産分割協議にかけることが必要です。預金の入出金をチェックすれば、亡くなった時にあった筈の現金額はおおよそ推計することができます。現金が多額の場合、相続人間トラブルの元となるだけでなく、相続税の税務調査で発覚し追徴税の対象となる可能性もあります。
2-2.遺産分割協議後、払い戻し・名義変更
遺産分割協議が合意に達したら、それに基づいて各相続人が取得する手続きを行います。
預金の場合、各金融機関で、払い戻し、もしくは名義変更によって取得することになり、手続きには、主に次のような書類が必要になります。
- 亡くなった親の出生から死亡までの戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑証明書
なお、遺言書がある場合は遺言書やその検認調書、家庭裁判所による調停・審判をおこなった場合は調停調書・審判書の謄本が必要になります。
3.有価証券の相続手順
有価証券の相続手順も、亡くなった親がどのような会社の株式をどれくらい保有していたか、調査をおこなってから遺産分割後、相続人が取得するという流れになります。
上場株式等であれば、証券会社や信託銀行の証券口座で管理されているため、預金口座の相続と同様の手順になります。
3-1.有価証券の調査
有価証券の調査は、上場株式等であれば、証券口座を開設している証券会社や信託銀行に問い合わせて調査することになります。
証券会社、信託銀行が分からない場合、取引報告書等の書類がないか探してみましょう。何も書類が見当たらない場合、証券保管振替機構に登録済加入者情報の開示請求をおこなって調査することができます。
3-2.遺産分割協議後、名義変更
遺産分割協議後、証券口座のある証券会社や信託銀行の相続手続きに沿って、各相続人が名義変更を行います。株式のまま取得するのであれば、相続人名義の証券口座を新しく開設する取扱いになるケースが多いでしょう。
また、その他にも売却して現金化するという取得方法があります。相続手続きで必要な書類は、各証券会社や信託銀行の取扱いによって異なるため個別に確認しておきましょう。
非上場株式の場合、管理ルールが決まっていないため、相続手続きは株式を発行した会社に問い合わせて名義変更を行うことになります。
4.不動産の相続手順
不動産の相続手順は、まず亡くなった親の所有していた不動産がどこにどれくらいあるのか調査します。調査は、預金や有価証券と異なり、不動産の所在地の市区町村に問い合わせておこないます。そして遺産分割協議後、法務局で相続登記をおこないます。
4-1.不動産の調査
亡くなった親が不動産を所有していた場合、まず、「権利書(あるいは登記識別情報)」または市区町村から送付される「固定資産税の課税通知書」を探します。これらの書類があれば、少なくとも過去にその不動産を所有していたことが分かります。
それから、その市区町村で不動産名寄(なよせ)帳と呼ばれている書類を取得し、その年の1月1日時点での所有情報を確認します。最後に、法務局で登記事項証明書を取得することで、亡くなった時に所有していたことが明らかになります。
【関連記事】相続不動産を査定する手順は?トラブルを回避する相続の注意点も
4-2.遺産分割協議後、相続登記
遺産分割協議によって、亡くなった親の不動産を取得する相続人が確定したら、法務局で相続登記を行います。法定相続分を超える取得の場合、相続登記をすることで、第三者にその不動産の所有権を主張できます。
相続登記に必要な書類は、以下の通りです。
- 亡くなった親の出生から死亡までの戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑証明書
- 亡くなった親の住民票除票
- 不動産を相続する相続人の住民票
- 固定資産税評価証明書
なお、遺言書がある場合は遺言書やその検認調書、家庭裁判所による調停・審判をおこなった場合は調停調書・審判書の謄本が必要になります。
【関連記事】遺産分割協議書を作る手順は?相続の開始から相続財産の確認方法まで解説
まとめ
相続は、相続人の調査、相続財産の調査、遺産分割協議・遺産分割協議書の作成、各遺産の取得、相続税の申告・納付という流れで行われます。
自身の親が亡くなった後の遺産相続も、この流れに沿って、現金預金、不動産、有価証券の財産の種類によって、財産調査をおこない、遺産分割協議後に相続人の取得手続きが必要です。
本記事では効率よく遺産相続を進める手順を説明しましたが、遺産相続では効率以上に相続人全員の合意を得ることが重要となります。相続人間でトラブルになることのないよう、各相続人の意思に十分配慮して手続きを進めて行きましょう。
佐藤 永一郎
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