不動産小口化商品は小口不動産に投資できる新しい不動産投資方法の一つです。少額資金で投資ができるメリットがある一方、どのような仕組みであるのか、またどのようなデメリットやリスクがあるのか不安に感じる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、不動産小口化商品の仕組みをご紹介したうえで、任意組合型に焦点を当てて、そのメリット・デメリット・注意点について解説していきます。
※本記事は、2022年11月時点の情報をもとに執筆されています。国税庁の最新情報など、ご自身でもよくお調べの上でご判断下さい。
目次
- 不動産小口化商品とは
1-1.不動産特定共同事業法に基づいておこなう
1-2.任意組合型と匿名組合型の仕組みと違い - 不動産小口化商品(任意組合型)のメリット
2-1.一口100万円前後の資金で数千万円規模の不動産に投資できる
2-2.分散投資がしやすい
2-3.管理・運営・運用判断などを事業者に委任できる
2-4.現物不動産に投資した場合と同様の税制メリットを享受できる - 不動産小口化商品(任意組合型)のデメリット・注意点
3-1.運用・投資判断についての意思決定が制限される
3-2.損失が発生した場合には負担するリスクがある
3-3.ローンを受けて資産拡大することはできない
3-4.利回りが低くなる傾向がある
3-5.流動性が低く権利譲渡による現金化が難しい - まとめ
1.不動産小口化商品とは
まず、不動産小口化商品とはどのような商品なのかをみていきましょう。不動産小口化商品を規制する法律である不動産特定共同事業法と、不動産小口化商品の主なスキームである、任意組合型と匿名組合型について、その違いも含めて説明していきます。
1-1.不動産特定共同事業法に基づいておこなう
不動産小口化商品は、不動産投資の規模を小口化して出資者を募り、その資金を基に投資した不動産の賃料収入や売却益を投資額に応じて出資者に分配する商品です。
不動産特定共同事業法に基づき、国や自治体に許可または登録した事業者がおこなうことができます。投資家保護のため、小口化して出資を募り運用、分配する際のスキームや、事業者の資本金額などの事業基盤を含めた規制が同法に定められています。
1-2.任意組合型と匿名組合型の仕組みと違い
主な不動産小口化商品として、事業の形態や契約方法が異なる下記2つの類型があります。それぞれの類型の仕組みと違いについてみていきましょう。
- 任意組合型:共有持分によって実際に不動産を所有する
- 匿名組合型:実際には不動産所有せず運用益が間接的に分配される
任意組合型
任意組合型は、不動産特定共同事業者が、各投資家と組合契約を締結して、不動産を共有して運用し、各投資家に共有持分に応じた収益配分をおこなう方式です。
任意組合型では、各投資家は、直接不動産を所有し、事業に参加することになります。そのため、不動産の運用に際して、投資家が意思決定権を持つのが原則です。ただし、業務執行者に委任することも可能です。
運用によって生じた利益は投資家に帰属し、税務上も、現物不動産を賃貸・売買する場合と同様に取り扱うことになります。また、損失が生じた場合は、損失についても投資家が分担割合に応じて負担することになります。(※参照:国税庁「任意組合等の組合員の組合事業に係る利益等の帰属」)
匿名組合型
匿名組合型は、不動産特定共同事業者が、各投資家と匿名組合契約を締結して出資を受け、不動産特定共同事業者が取得した不動産を運用し、得られた収益を各投資家に配分する方式です。
匿名組合型では、不動産特定共同事業者が出資された資金や不動産を所有し、運用主体となるため、小口出資をした各投資家には意思決定権はありません。運用によって生じた利益は不動産特定共同事業者に帰属し、各投資家における税務上の取扱いは、分配された利益のみ雑所得として課税対象となります。
【関連記事】不動産投資型CF、任意組合型・匿名組合型・賃貸型の違いは?特徴を比較
なお、匿名組合型の不動産小口化商品は、不動産投資型クラウドファンディングという名称でインターネットを介して案件の募集が行われています。任意組合型と異なり実際に不動産を保有することはできませんが、1万円などの少額資金から投資ができるため気軽に利用検討されてみるのも良いでしょう。
【関連記事】どれがおすすめ?不動産投資型クラウドファンディング7社の利回りや最低投資額を比較
2.不動産小口化商品(任意組合型)のメリット
不動産小口化商品(任意組合型)のメリットとして、次のような点が挙げられます。
- 少額の資金で高額・希少な不動産に投資できる
- 少額なので分散投資ができる
- 管理・運営・運用判断などを事業者に委任できる
- 現物不動産に投資した場合と同様の税制メリットを享受できる
以下、それぞれについて詳しくみていきましょう。
2-1.一口100万円前後の資金で数千万円規模の不動産に投資できる
不動産投資を小口化して出資者を募る商品であるため、一口100万円の資金から数千万円の不動産に投資できるメリットがあります。
不動産小口化商品の投資対象となる不動産は、高額であるだけでなく、都心の優良マンションや大型ホテルの開発など、希少性の高い不動産であるケースもあります。個人投資家がなかなか投資することができない、希少性の高い不動産に投資できるのも、不動産小口化商品のメリットといえます。
2-2.分散投資がしやすい
不動産投資では、ローンの利用などによって調達した資金を特定の不動産に投資することになるため、投資資金がその不動産に集中してしまうことがリスクになり得ます。
一方、不動産小口化商品は一口ごとに設定されている資金単位から投資できるため、立地する地域や種類の異なった、様々な不動産に資金を分散投資することができ、リスクを分散させることが可能です。
2-3.管理・運営・運用判断などを事業者に委任できる
不動産小口化商品は、投資対象の不動産の管理・運営のみならず、運用判断についても事業者に委任できるのはメリットといえます。
通常、現物の不動産投資であれば、投資対象の不動産の管理・運営は管理会社に委任できますが、どのような方針に基づき投資をおこない、いつ売却するかなどの根本的な運用の部分に関わる判断は、投資家自身がおこなうことになります。
しかし、不動産小口化商品であれば、不動産特定共同事業者のおこなう事業に出資するため、これらの判断についても事業者に委任することができます。
2-4.現物不動産に投資した場合と同様の税制メリットを享受できる
任意組合型の不動産小口化商品では、出資した各投資家は直接不動産を所有し、事業に参加することになるのが特徴です。
小口とはいえ、税務上は現物不動産を所有するのと同様の取扱いになるため、現物不動産に投資した場合と同様の税制メリットを享受することが可能です。
たとえば、不動産小口化商品の賃貸料収入が事業的規模に該当する場合には、不動産所得の計算上、青色申告特別控除や損益通算などが認められることになります。また、相続時に、不動産小口化商品の持分の評価額については、不動産にかかる財産評価通達が適用されることになり、現金で相続するよりも評価額が低額になるというメリットがあります。
任意組合型の税制メリットにおける注意点
税法は毎年ごとに法改正が行われており、投資時点で適法だったものが新たに課税対象となる可能性があるという点に注意が必要です。
不動産小口化商品の中には現時点での税控除に焦点を当てたものも多く見られます。しかし、税務調査によって事業性が低いと判断されてしまう可能性があったり、投資実行のタイミングと相続が発生する時点で税法の解釈が異なる可能性もあるでしょう。
税制面でのメリットがあるという点は不動産小口化商品の特徴の一つですが、上記のリスクがあることに注意し、税負担の軽減のみを主な目的として投資を検討してしまわないよう慎重に検討することが大切です。
3.不動産小口化商品(任意組合型)のデメリット・注意点
不動産小口化商品(任意組合型)のデメリット・注意点として、次のような点が挙げられます。
- 運用・投資判断についての意思決定が制限される
- 損失が発生した場合には負担するリスクがある
- ローンを受けて資産拡大することはできない
- 利回りが低くなる傾向がある
- 流動性が低い
以下、それぞれについて詳しくみていきましょう。
3-1.運用・投資判断についての意思決定が制限される
不動産小口化商品であれば、不動産特定共同事業者のおこなう事業に出資するため、投資対象の不動産について、どのような方針に基づき投資をおこない、いつ売却するかなどの根本的な運用の部分に関わる判断を、事業者がおこなうことが多いといえます。
任意組合型であれば、その意思決定に参加することは可能ですが、他の投資者もいるため、原則として、意思決定は組合員の過半数多数決となります。このように、運用・投資判断についての意思決定が制限されてしまうのが、デメリットといえるでしょう。(※参照:国土交通省「小規模不動産特定共同事業を行うための実務手引書」)
3-2.損失が発生した場合には負担するリスクがある
任意組合型の不動産小口化商品では、各投資家は、直接不動産を所有し、事業に参加することになります。
そのため、運用によって損失が生じた場合は、投資家が分担割合に応じて負担することになります。投資家は思わぬ損失負担を強いられることにもなりかねず、リスクがあるのはデメリットといえます。
3-3.ローンを受けて資産拡大することはできない
不動産小口化商品は複数の投資家と共有持分になるため、不動産を担保設定する不動産投資ローンを受けて購入することはできません。そのため、不動産小口化商品は、投資家自身の現金投資となることが多く、ローンによるレバレッジ効果を活用して資産拡大することができなくなります。
現物不動産であれば、投資家自身の現金に加えて、投資対象の不動産を担保に差し入れることで不動産投資ローンを受けて、手持ち現金以上の資産に投資、運用することができます。同額の現金を投資するにあたり、ローンによるレバレッジ効果を活用する場合と比べて、資産拡大のスピードは遅くなるといえます。
3-4.利回りが低くなる傾向がある
不動産小口化商品では、投資対象の不動産の管理・運営・運用判断について、事業者に委任しておこなわれます。そのため、投資家が受け取る利益は、運用収益から事業者の手数料を差し引かれた分となり、投資資金に対して得られる利回りが低くなる傾向があります。
現物不動産に同額の資金を投資する場合には、より高い利回りを得られることが多く、その分収益性が落ちることになるでしょう。
3-5.流動性が低く権利譲渡による現金化が難しい
不動産小口化商品と類似する小口から不動産投資のできる商品に、J-REITがあります。J-REITも、投資家から資金を集めて不動産などに投資し、賃料収益や売買収益を投資家に分配する仕組みです。
J-REITは、不動産投資法人の投資証券を投資家に購入してもらい、その投資証券に対する配当という形で収益を分配します。J-REITは証券取引所市場で売買されているため流動性が高く、現金化が容易であるというメリットがあります。
一方、不動産小口化商品にこのような売買を行える市場はなく、流動性は低いといえます。投資資金を回収したい場合に、流動性が低く、現金化しにくいのはデメリットといえるでしょう。商品の購入前に、中途解約による払戻し条件について確認しておくことが大切です。
まとめ
不動産小口化商品は、不動産特定共同事業法に基づき、不動産投資の規模を小口化して個人でも投資しやすくした商品です。
任意組合型の商品は、匿名組合型のものと異なり、投資家が不動産の直接所有となるため、税務上、現物不動産に投資した場合と同様の取扱いになります。
少額の資金で様々な物件に投資できる不動産小口化商品ですが、手数料を差し引かれ、ローンを受けることもできないため、収益性は低くなります。任意組合型では、損失が発生した場合に、投資家が損失を負担するリスクもあるので注意しましょう。
佐藤 永一郎
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