2030年には日本の人口の30%が65以上の高齢者となり、人口減少も進行すると予想されています。このような少子高齢化や人口減少といった社会情勢の変化のほか、コロナ禍に伴う環境変化や、IoTをはじめとした技術革新および社会の持続可能性に対する意識の向上など、さまざまな要因を背景に入居者の方の不動産に対するニーズが変化していく見込みです。
今回の記事では2030年までを見据えて、今後想定される入居者の方のニーズの変化と、それを踏まえたマンション経営の対策について紹介します。
目次
- 2030年にかけて想定される不動産ニーズの変化
- 単身世帯向けにマッチしたコンパクトで利便性の高い住宅
2-1.対策:間取りや専有面積のほか付帯設備・立地の工夫 - 高齢者が住みやすい住宅
3-1.対策:バリアフリーや安全性、利便性への配慮 - 新技術を活用した便利な住宅
4-1.対策:IoTやデジタルマーケティングの積極的な導入 - ポストコロナの社会環境への適応
5-1.対策:リモートワークへの順応やIT環境の強化 - SDGsに配慮した住宅
6-1.対策:インパクトの大きい対策の導入 - 自然災害の脅威をふまえた防災性能の向上
7-1.対策:災害対策に配慮した物件の所有と管理 - まとめ
1 2030年にかけて想定される不動産ニーズの変化
まず、今後2030年にかけて想定される不動産ニーズの変化について6つの視点からまとめました。
- 単身世帯向け住宅
- 高齢者が住みやすい住宅
- 新技術を活用した便利な住宅
- ポストコロナの社会環境への適応
- SDGsに配慮した住宅
- 自然災害の脅威をふまえた防災性能の向上
日本は少子高齢化や人口減少が進行するものの、晩婚化・未婚化や長寿化の影響で、高齢者を含む単身世帯については増加する見込みです。そのため単身者向けの住宅ニーズは、家族向けと比較して相対的に底堅いと想定されます。また、特に医療の進歩により、健康な状態で長生きする単身高齢者が増加すると想定されます。高齢者同士の夫婦や単身でも住みやすい住宅の需要も今後さらに増えるでしょう。
新技術の実用化により利便性を高めた物件は、入居者需要を獲得しやすいと考えられます。足元ではIoTを導入して、スマートフォンアプリと連動した物件などが増えてきています。また、物件自体の性能ではありませんが、インターネット上でみつけやすい、情報収集しやすい物件、オンラインやARなどを活用した内見が可能な物件などが好まれるでしょう。
コロナ禍を経てリモートワークを導入する企業が増えました。また人々のニーズに沿う形で、買い物をはじめ、オンラインベースで利用できるサービスが飛躍的に増加しました。2023年現在ではコロナによる行動制限は大幅に緩和されていますが、利便性の高いサービスは今後も存続していくことから、リモートをうまく取り入れた生活様式は残ると想定されます。
そのため、自宅でも働きやすい物件や、オンラインのサービスや機能を快適に利用できる物件を希望する人が多くなるでしょう。
社会の持続可能性や環境保護への意識は近年急速に高まっています。政府が2030年までに温室効果ガスの排出を2013年比で46%削減する目標を定めており、現在温室効果ガスの削減に向けた取り組みを進めています。
また、過疎化や人口減少と同時進行する形で空き家や物件の老朽化といった問題も浸透しつつある状況に。こうした情報に触れることによる意識の高まりに加えて、環境性能が高く長期間使用できる住宅が普及してくなか、消費者はSDGsに資する住宅を希望するようになっていくでしょう。
そのほか、2011年の東日本大震災やたびたび発生する台風、豪雨を背景に、防災への意識が高まっています。地球温暖化と共に日本の気候が変動する中で、これまでよりも規模の大きな災害発生に対する不確実性が高まっている状況です。そのなかで、防災・減災性能の高い物件に住み、いざというときの安全を確保したいというニーズは一段と高まっています。
2030年に向けては以上のようなニーズの変化が想定されます。ここからはそれぞれのニーズを詳しく紹介するとともに、マンション経営において取るべき対策について紹介していきます。
2 単身世帯向けにマッチしたコンパクトで利便性の高い住宅
国土交通省が2020年に公表した「不動産業ビジョン 2030~令和時代の『不動産最適活用』に向けて~」によると、日本の人口は2008年の1億2,800万人がピークとなり、2030年には1億1,900万人に減少する見込みとなっています。
一方で家族世帯が減少し、単身世帯が増加する見込みに。中でも65歳以上の高齢者の単身世帯が2015年~2030年で1.27倍に急増する予想となっています。こうした変化の中で、ファミリー向けのマンションのニーズは減少し、単身世帯向けのニーズは底堅いと想定されます。
日本の人口と高齢者率の推移(単位:万人)
*2019年は実績、2030年と2065年は予測
出典:厚生労働省「資料(人口の推移、人口構造の変化)」
マンション経営を安定的に進めるためには、単身世帯をターゲットとした物件所有を検討しましょう。例えば部屋数の少ない間取り、一人暮らしで家を不在にしても安心な設備、一人暮らしに便利な立地などを求める人が増えると想定されます。
2-1 対策:間取りや専有面積のほか付帯設備・立地の工夫
単身世帯をターゲットとする場合、まず工夫しておきらいポイントは間取りと専有面積です。
一人暮らしの場合はワンルームか1LDKを希望する人が多く、それ以上の部屋数の物件の入居需要が下がる可能性があります。
一方で都市部を中心に25平米以上など専有面積の最低基準を設ける地域が増えつつある中、過去の一人暮らし物件よりも広めの住宅を求める人が増えるでしょう。間取りや専有面積についてはあとで変更するのが困難なので、物件選びやマンション建設の時点で注意する必要があります。
その他、設備への対策も重要です。例えば、宅配ボックスがあると一人暮らしで不在にしていても荷物の受け取りがスムーズです。またオートロックや指紋認証で開閉するスマートキーなどセキュリティ性能の高い物件は、一人暮らしにより家を空ける時間が多くなりがちな人が安心して住むことができます。
こうしたセキュリティ関連設備の品質についても、マンション経営を行う際の物件選びの基準の一つとしてみましょう。また、すでにマンション経営を行っている方は、リフォーム時に導入を検討してみましょう。
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3 高齢者が住みやすい住宅
人口減少と共に、高齢者の比率のさらなる増加も予想されています。2030年には65歳以上の高齢者の比率は30%を超え、2040年には35%を超える見込みです。また、日本は世界で見ても、平均寿命や「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」を意味する健康寿命が共に長寿な国となっています。
2019年時点の先進国の平均寿命・平均余命比較
出典:厚生労働省「我が国の人口について」
今後も医療技術の進歩や健康意識の高まりなどにより、健康な状態で長生きする人が増えると考えられます。その結果、いわゆる「サ高住」のような高齢者向けではない一般の住宅に高齢者が住むケースも多くなってくるでしょう。
以上のような社会変化を踏まえると、高齢者が住みやすい住宅のニーズも増えると想定されます。高齢者が負担を感じることなく生活ができ、またケガや事故のリスクが少なくなるような工夫をすることで、高齢者の方の賃貸需要を期待できます。
3-1 対策:バリアフリーや安全性、利便性への配慮
高齢者が住むことを想定したバリアフリーや安全対策を施した物件でマンション経営を行うのが有効な選択肢の一つとなります。例えばエレベーターついている、段差が少ない、手すりが付いているといった、基本的なバリアフリー機能を備えた物件などが適しています。
また、事故を予防する工夫も検討しましょう。例えば台所をガスからIHに変える、性能の良いエアコンを導入して火の出るストーブを使用せずに済むようにする、床面を滑りにくい素材にして店頭を防止するなどの工夫が有効です。
また、孤独死の防止対策を施しておくことも重要に。管理会社と協調しながら、こまめな巡回をおこなう仕組みを導入できるとよいでしょう。近年は警備会社で高齢者向けの見回りサービスを行っているところもあるため、こうしたサービスを活用して孤独死の発生や影響を緩和するのも一案です。
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4 新技術を活用した便利な住宅
若年層に目を向けてみると、1990年代後半~2000年代に産まれた「Z世代」が大学生や社会人となり、賃貸暮らしをする人が増えてきます。この世代は物心ついたころにはインターネットが家庭で一般化しているデジタルネイティブの世代です。そのため、WebやSNSなどのデジタル媒体を通じた情報収集を好みます。
また、実用性を重んじる傾向も相まって、利便性の高い技術やサービスを積極的に取り入れる傾向にあります。このようなZ世代の賃貸需要を捉えるためには、彼らの情報収集行動をふまえた物件情報の発信や、先進技術を取り入れた利便性の高い設備を進めるのが望ましいといえるでしょう。
4-1 対策:IoTやデジタルマーケティングの積極的な導入
Z世代が大学生や社会人になる段階では、多くの人がスマートフォンを所持しています。現代はIoT技術により、スマートフォンと居室内のさまざまな設備が連携していて、スマートフォンで操作ができる住宅が増えつつあります。
例えば鍵の開閉、照明や空調のON/OFFなどがスマートフォン一つで可能に。帰宅前に部屋の中の温度を調節したり、あらかじめ明るくしておいたりできるため、暮らしがより便利になります。スマートフォンでしか開閉できないオートロック式にすれば安全性の向上します。こうしたIoTを中心とした先進技術の導入を検討してみましょう。
また、管理会社選びにおいてはデジタルマーケティングや先進技術を導入した物件紹介に強みをもつ先を選ぶのも有効です。例えば次のようにZ世代の需要獲得につながりやすいサービスやマーケティングを行っている会社に着目して、管理会社を選定しましょう。
- AIを活用して物件と入居希望者をマッチングする仕組みを持つ会社
- アプリ、SNSや動画での物件紹介に強みを持つ会社
- AR(拡張現実)での内見など先進技術を入居者募集に積極的に取り入れる会社
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5 ポストコロナの社会環境への適応
2020年の新型コロナウイルスの感染拡大により、社会にさまざまな変革が起きました。2023年4月時点、ワクチンの普及などにより感染の脅威は後退し、行動制限もほとんどが解除されています。
しかし、全てがコロナ禍以前に戻るわけではなく、特にコロナ禍に普及した制度や技術のうち、人々の生活を便利にするものについては、今後も存続していくものと考えられます。
特にインパクトが大きいのはリモートワークの普及です。業種や企業によりスタンスにばらつきはあるものの、従来と比べて在宅で仕事をする機会が増えるでしょう。
また、オンラインショッピングや動画視聴、ZOOMなどWeb通話機能を活用した各種サービスなど、オンラインベースでのサービスの普及も進みました。今後も多くの人々が、これら自宅にいながら利用できるサービスを自分の生活に取り入れていくものと想定されます。
5-1 リモートワークへの順応やIT環境の強化
リモートワークを頻繁に行う人は、より働きやすい間取りをもつ居室を好むようになります。PCと仕事関連の書類などを置いて作業がしやすい書斎スペースの設置などは有効な選択肢となるでしょう。
家族向けの物件の場合は、夫婦共働きや、親と大学生など複数人がリモートワークやリモート作業をできるよう、複数個所の書斎スペースを設けるのも一案です。また、オンラインベースのサービスを多くの人が積極利用することをふまえると、高速通信が可能なIT環境の整備や、インターネット通信費用の抑制などの対策も入居者の方に好まれるでしょう。
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6 SDGsに配慮した住宅
SDGsは社会が持続的に発展していくための課題を17のゴールとそのもとに定められている169のターゲットにまとめたものです。現代ではさまざまな企業団体や169のターゲットを基にSDGsへの貢献を推進しているなか、個人においても、できるところからSDGsに貢献しようという動きが高まっています。
地球温暖化の進行を抑制するために、日本を含む世界各国が二酸化炭素の排出抑制の目標を掲げています。不動産においては地球温暖化により発生する気候変動や災害リスクの上昇への順応も求められています。
その他、少子高齢化・人口減少に伴う社会の衰退に伴う空き家の増加や老朽化の進行など、持続的な発展を脅かす課題は山積みです。不動産経営においてSDGsに資する物件の供給や管理をおこなうことは、入居者需要の獲得と安定経営につながると期待されます。
6-1 対策:社会的インパクトの大きい対策の導入
不動産経営にSDGsの考えを実践するうえでは、奇をてらった手法を取り入れる必要はなく、まずは社会で認知されている方法や普及している技術を積極的に導入しましょう。例えば物件の耐久性の向上です。
不動産の頻繁な建設や取り壊しは資源を消費し、また廃棄物を増やすことで環境負荷を高めます。そのため、長持ちする物件の建設・所有やこまめな物件管理による建物の寿命の延長が、SDGsへ貢献する手段として有効です。
また、これから物件を所有する場合には、既存の築年数が経過したマンションをリノベーションして資産価値を向上させ、入居者の方にとって住みよい物件するのも有効な選択肢の一つです。
SDGsの観点からは、エネルギー使用の抑制や産出も重要なテーマとなり、入居者の方の関心も高い傾向にあります。高断熱・高気密で省エネ性能の高い物件での不動産経営を検討していきましょう。
一棟マンションで経営を行う場合には、太陽光発電の設置と自身の物件での使用もしくは売電の方法を検討してみましょう。エネルギーの抑制・創出は工夫次第で入居者の光熱費抑制にも役立つため、入居者にとってもメリットを感じやすい対策といえます。
入居者の方を募集する際には、以上の例をはじめとした対策について17のゴールと169のターゲットに照らしながら、SDGsへの具体的な貢献について積極的に情報発信していきましょう。
SDGsに対する関心の高い方は、住居選びにおいてもSDGsへの貢献度合いを選択基準の一つとすると想定されます。SDGsは持続可能な社会の発展や不動産経営に資するものですが、適切な情報発信によりSDGsへ関心の高い入居需要の獲得にも役立ちます。
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7 自然災害の脅威をふまえた防災性能の向上
SDGsやESGに対する取り組みは積極的に進められているものの、日本の気候は地球温暖化により変化し、自然災害の増加リスクが高まっています。また、日本はそもそも世界有数の震災リスクの高い国でもあります。
東日本大震災の発生以降、震災への防災意識は一段と高まっている状況です。自然災害とは異なりますが、火災への対策も人が安心して暮らすうえでは欠かせません。
こうした災害リスクを抑制するうえでは、人々の生活の基盤となる住居における防災・減災性能の向上が重要な役割を果たします。有事の時に人々の安全を守る防災・減災対策は重要な社会貢献といえるでしょう。
また、住居選びにおいて防災性能の高い物件を重視する人は多く、防災性能の向上が入居者の獲得につながると期待されます。
7-1 対策:災害対策に配慮した物件の所有と管理
まず、防災性能の高いマンション物件の所有から始まります。耐震構造や防火性の高い物件の建設や所有が有効な手段の一つとなります。また、標高が低い地域では、1階の基盤を高くして洪水発生時の浸水リスクに配慮するのも有効です。
津波については一つの物件の対策だけで防ぐのは限界があるため、これから物件所有を考えている人は、ハザードマップなどをチェックして相対的に水害リスクの低い地域で経営をおこなうのも一つの選択肢といえます。
また、不動産の管理にも目を向けてみましょう。消化器や避難グッズ、備蓄食料など基本的な防災・被災グッズをそろえておきます。また、非常灯がいざというときに機能するようにしておく、通りやすいように非常口をふさがないなど、基本的な管理にも目を向けましょう。
管理会社の質によってこうした細かな管理には差が出るため、管理会社選びの際の選別基準の一つとしてください。防災・減災対策は入居者に好感されるだけでなく、いざというときには入居者の安全を守り、またオーナーにとっても資産価値の維持や早期の物件の復興につながります。
建物の質や物件選び、物件管理それぞれに気を配って、入居者の方の安全にも配慮したマンション経営をおこないましょう。
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まとめ
2030年に向けてさまざまな社会変化や人々の意識変化が進む中で、入居者のニーズの変化に適応したマンション経営が求められています。家族構成の変化や高齢者の増加、環境対策や防災対策など、ニーズに沿った対策を取ることが、今後の入居需要の獲得につながります。
また同時に、資産価値の維持や災害・トラブルなどのリスク抑制を通じて、オーナーにとってもメリットのある取り組みとなります。長期的なマンション経営を実践するために、人々のニーズを参考にしながら、有効な対策を実践していきましょう。
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伊藤 圭佑
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