高まる入居者の防災需要、マンション経営でのポイントは?防災設備や防災グッズ、注意点も

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日本は地震や台風、大雨による水害などの災害が発生しやすい国の一つであり、入居者の防災需要も年々増加してきています。

実物資産を運用するマンション経営においては、自身の資産運用という観点に加えて、こうした入居者の防災需要についても考慮し、防災設備や防災グッズなどの準備を進めることもポイントとなってきます。

そこで今回のコラムでは、オーナーができる防災対策の5つのポイントについて、実例も交えて紹介していきます。

目次

  1. 防災・減災に対する意識が定着
  2. マンション経営でオーナーができる防災対策
    2-1.防災に関する基礎知識を持つ
    2-2.入居者向けに防災に関する幅広い情報を提供する
    2-3.防災グッズを提供する
    2-4.豊富な防災ノウハウを持つ管理会社に委託する
    2-5.災害に強い物件を選ぶ
  3. マンション経営で行う防災対策に関する注意点
  4. まとめ

1 防災・減災に対する意識が定着

国土交通省が発表した「国土交通白書2021」によると、「自然災害への対策」では、「10年前から行っている対策」と「2〜3年前から行っている対策」について、国民の意識調査が行われています。下表よりそれぞれ確認してみましょう。

回答 10年前から行っている対策 2〜3年前から行っている対策
避難訓練への参加・実施 19.0% 15.4%
ハザードマップや避難場所・経路の確認 20.0% 37.9%
マイ・タイムライン(被災時に行う自分のための防災計画)の作成 2.9% 4.5%
防災情報の収集(アプリ、ポータルサイト等の活用) 6.6% 10.6%
震災が起こりにくい場所への転居や、防災のための住宅の改修(耐震化等) 3.5% 4.8%
家具などの転倒防止 22.2% 29.7%
食料・水等の備蓄や非常持ち出しバッグ等の準備 22.8% 35.8%
自身や家族への災害に関する学習・教育 8.8% 13.9%
何もしていない 52.0% 39.5%
その他 0.1% 0.1%

※参照:国土交通省「国土交通白書2021」より抜粋

10年前と2~3年前の比較で大きく増加したのが「ハザードマップや避難場所・経路の確認」「食料・水等の備蓄や非常持ち出しバッグ等の準備」という回答で、10年前から約2倍増となっています。

一方、「何もしていない」と答えたのは52.0%から39.5%に減少しています。つまり防災に関する意識が、国民の間で高まっているということが分かります。

また、どのようなことをしたら「防災や減災につながるか」という質問に対する回答をまとめたのが、下記の表です。

回答 割合
避難訓練への参加・実施 54.9%
ハザードマップや避難場所・経路の確認 52.5%
マイ・タイムライン(被災時に行う自分のための防災計画)の作成 30.5%
防災情報の収集(アプリ、ポータルサイト等の活用) 23.3%
震災が起こりにくい場所への転居や、防災のための住宅の改修(耐震化等) 22.5%
家具などの転倒防止 19.7%
食料・水等の備蓄や非常持ち出しバッグ等の準備 10.7%
自身や家族への災害に関する学習・教育 8.3%
特にない/何もしていない 14.2%
その他 0.6%

※参照:国土交通省「国土交通白書2021」より抜粋

「特にない/何もしていない」という回答が14.2%となっており、85%以上の人が防災や減災について「何かしらの対策をとったほうがいい」と考えていることが分かります。

このような防災需要の増加を受けて、マンションを提供するデベロッパーや不動産投資会社では耐震性能を向上させるなど防災機能を高めた物件の供給も行っています。

マンション投資を行うオーナーとしても、防災需要に応えることは物件の安全性を高めるだけでなく、入居需要を獲得する収益面や資産保全の観点からも重要なポイントとなっていると言えるでしょう。

2 マンション経営でオーナーができる防災対策

マンション経営におけるオーナーができる防災対策について、5つのポイントを具体例とともに紹介していきます。

2-1 防災に関する基礎知識を持つ

まずはオーナー自身が防災に関する知識を持つことが大切なポイントになります。

例えば、建物の耐震性能に関する知識について確認してみましょう。現行の建築基準法で定めている新耐震基準は、「震度6強~7の地震でも建物が倒壊しない程度の耐震性能」が基準となっています。つまり、現行の新耐震基準が定められた1981年以降に建てられたマンションであれば、この基準をクリアしていることになります。

しかし、耐震基準は法で定められた最低限の基準値になるため、物件によって実際の耐震性能は異なります。この違いを表しているのが耐震等級です。耐震等級は3段階に分かれており、そのレベルが下記になります。

  • 等級1:建築基準法のレベル
  • 等級2:建築基準法の1.25倍
  • 等級3:建築基準法の1.5倍

※参照:一般社団法人 住宅性能評価・表示協会「住宅性能表示制度について>地震などに対する強さ(構造の安定)

マンションを購入でより耐震性能を重視するのであれば、等級2や等級3の物件を購入することが望ましいということが言えます。

また、基礎工法や壁構造、防水性能、また免震構造なのか、制震工法なのかなどによっても防災性能は各物件で異なります。物件を比較する際は、耐震等級に加えてこれらの要素についても詳しく把握しておくと良いでしょう。

また、延べ床面積が150㎡以上の建物は消防法による防火対策が義務付けられています。防火対策とは、主に下記のような設備の設置や取り組みのことを指します。

  • 消火器やスプリンクラーなどの消火設備の設置
  • 火災報知器や非常ベルなどの警報設備の設置
  • 非常階段や避難はしご、誘導等などの避難設備の設置
  • 排煙設備などの消火活動上の設備
  • 半年に1回の消防用設備の機器点検
  • 1年に1回の消防用設備の総合点検
  • 3年に1回の管轄消防署への設備点検結果の報告、など

※参照:総務省消防庁「消防法令における主な規制の概要

このほか収容人数が50人以上のマンションの場合、防火管理者を選任する必要があります。このような細かな防災に関するルールを把握してから物件を選ぶことも大切です。

2-2 入居者向けに防災に関する幅広い情報を提供する

入居者に向けて防災に関する幅広い情報を提供することも大切なポイントです。具体的には下記のような方法が考えられます。

  • 地域の避難場所に関して道筋や注意事項といった情報も提供する
  • 地理的にどのような災害が起きやすいか、ハザードマップを提示する
  • 災害が起きた際の行動指針などを提供する
  • 災害が起きた際の連絡先などの情報を提供する

このような防災に関する情報を冊子などにまとめたり、印刷物をファイルなどでまとめて提供することも検討できます。

2-3 防災グッズを提供する

入居者に対して防災グッズの提供を行うことも、オーナーができる防災対策の一つです。収納スペースの一角に防災グッズセットを置いておくなどして、いざという時の備えになります。

具体的には、下記のようなグッズを用意するといいでしょう。

  • 簡易消火器
  • カセットコンロ
  • ドライシャンプー
  • ペーパー歯ブラシ
  • 救急箱
  • ラジオ
  • ヘルメット
  • 懐中電灯
  • 簡易トイレ
  • 住宅用消火器、など

こうした備品の多くは、一度購入しておくと災害が発生して使用するまでは再度購入する必要はありません。ランニングコストをかけずに済むため、比較的に少額の設備投資で防災対策をすることができます。

2-4 豊富な防災ノウハウを持つ管理会社に委託する

管理会社によっては防災意識が高く、入居者に対して防災支援を行っているケースもあります。具体的なサポートには、下記のようなことがあります。

  • 防災ガイドブックの配布
  • 家具転倒防止グッズの提供
  • 防災訓練の実施
  • 防災対応マニュアルの整備
  • 防災セミナーや防災に関するイベントの開催、など

大規模な災害が発生した時のために、災害対策本部を設置し、災害状況の把握や入居者の安全確保などの情報を素早く集計できるよう訓練を行っている管理会社もあります。このような管理会社に委託すると、入居者の安全につながるだけでなく、早期の復旧につながることも考えられます。

2-5 災害に強い物件を選ぶ

防災に優れたマンションには、下記のような例があります。

  • ソーラーパネルや蓄電池を設置し、非常用電源を確保している
  • 防災用品の備蓄専用スペースを設けている
  • 屋上に避難場所を設置している
  • 浸水対策用のシャッターなどを採用している
  • 防災管理者(国家資格)、防災危機管理者(民間資格)、防災士(民間資格)、マンション防災推進アドバイザー(民間資格)などの資格保有者がいる
  • 支援物資として飲料を提供できる災害対応型自動販売機を設置している
  • 敷地内に災害用マンホールトイレを設置している、など

また、災害に強いマンションを認定する「マンション防災認定制度」を実施している自治体もあります。例えば、東京都住宅政策本部民間住宅部マンション課の「東京都マンションポータルサイト」では、中央区、墨田区、荒川区の3つの区における下記のマンション防災認定制度について紹介しています。

  • 中央区防災対策優良マンション認定制度
  • すみだ良質な集合住宅認定制度・防災型
  • 荒川区災害時地域貢献建築物認定制度

このほか、大阪市や横浜市、仙台市などでも同様の制度を取り入れており、認定されたマンションを一覧で紹介しているケースもあります。これらの情報をもとに、購入を予定している物件が防災に優れたマンションかどうか確認するのも良いでしょう。

3 マンション経営で行う防災対策に関する注意点

防災グッズの購入費や設備導入費は経費として計上できますが、防災上で必要なものを選択するという観点も重要なポイントです。高額のものではなく入居ターゲットのニーズの観点からも揃えみましょう。

最低限のものをオーナーとして提供し、あとは防災の情報提供によって入居者自身が必要なものを足してもらう、というスタンスも検討できるでしょう。部屋のスペースによっては防災グッズの置き場にこまり、居住空間を圧迫してしまうこともあるためです。

なお、災害が起きた場合、「被災者生活再建支援制度」によって受けた被害に応じて支援金が支給されます。しかしこの制度は住人に対して支給されるもので、賃貸物件の場合、修理のためにオーナーに支払われるものではありません。

災害によってマンション経営に大きな被害が出てくるケースもあります。災害に備えて火災保険に加入しておくことも忘れないようにしましょう。

火災保険は対象となる災害の範囲が異なっていることもあり、エリア内で発生しやすい災害の種類をハザードマップで確認して保険商品を選ぶことも大切です。特に地震の発生が懸念される地域では、地震特約をプラスしたり、新たに地震保険に加入するといったように必要に応じて対策をするようにしましょう。

まとめ

国民全体の防災意識は高まっている傾向にあり、マンション経営においても防災に対するニーズが増加すると推測されます。今後は防災をコストではなく投資と考え、入居者確保につながるように対策を講じるのも戦略の一つと考えられるでしょう。

今回のコラムでは、対策方法の一つとしてオーナー自身が防災の知識を身につけることや、防災に関するノウハウを持つ管理会社に委託するといったことなども紹介しました。ハードとソフトの両面で、防災対策を検討されていくと良いでしょう。

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倉岡 明広

経済学部経済学科卒業後、出版社や編集プロダクション勤務などを経てフリーライターとして独立。雑誌や新聞、インターネットを中心に記事を執筆しています。初心者が抱く不動産投資の疑問や質問を解決できるよう丁寧な記事を執筆していきます。