今後の暗号資産(仮想通貨)業界の分岐点として注目されているのが、モノリシックとマルチチェーンである。モノリシック化が一つのチェーンを基盤とする構造であるのに対し、マルチチェーン化された世界では多数のチェーンを基盤にプロジェクトが構築される。
対照的な両者は、まだ成長途中の段階であり解決すべき課題を抱えている。今年後半頃からマルチチェーン化が優勢であるという見方が出始めているものの、まだ結論に達していない。
なぜマルチチェーン化が進むと期待されているのだろうか?本稿では、モノリシックとマルチチェーンの違いや課題と併せて、コスモスのクロスチェーンが注目を集める理由を解説する。
目次
1. モノリシックとマルチチェーンの違い
暗号資産の未来を具体的に想像したことがあるだろうか?未来へ繋がる分岐点として、「モノリシック」と「マルチチェーン」の違いに注目するべきだろう。
1-1. モノリシックとは?
モノリシックとは、日本語で「頑丈な一枚岩」と訳される。代表的なモノリシックブロックチェーンには、以下が挙げられる。
- Ethereum(イーサリアム)
- Solana(ソラナ)
- Avalanche(アバランチ)
- Binance Smart Chain(バイナンススマートチェーン)
- Fantom(ファントム)
これらのチェーンは、互換性を持たない。例えば、原則的にはイーサリアムを土台にするサービスでビットコインを使用することは不可能である。
つまりモノリシック化された環境では、ブロックチェーン同士が繋がることなく独立して成立することを意味する。
1-2. マルチチェーンとは?
マルチチェーンは、ブロックチェーンが一つではなく多数(マルチに)存在する構造だ。各プロジェクトが適したチェーンをデザインまたは選択できる環境をマルチチェーン化と呼ぶ。
さらに、マルチチェーン化された構造では、各ブロックチェーンやプロジェクト同士が相互運用される。多数のチェーンが繋がり、相互運用が可能となるため、プロジェクトは2つ以上の異なるブロックチェーンを基盤にすることも可能だ。
例えば、2021年のDeFiの盛り上がりにより、イーサリアムのガス代の高騰が問題になった。そこで、代替案として注目を集めたのは、より手数料が安く処理能力が高いチェーンだ。これは、プロジェクトが状況に適したチェーンを選択したことを表している。つまり、マルチチェーン化された構造である。
2. マルチチェーン化が期待される理由
暗号資産の基盤には、モノリシック化とマルチチェーン化どちらが採用されるのだろうか?完全な決着はついていない。一方で、マルチチェーン化に対する興味関心が高まっているように見受けられる。
例えば、暗号資産リサーチ企業Delphi Digitalは、「私たちの見解では、プロジェクトはより専門性を持ち、その結果、仮想通貨はますますマルチチェーンになるだろう。」と予想している。
なぜ「マルチチェーン化」への期待が高まるのか?その理由は、大きく分けて2つ存在する。
2-1. チェーンの負担軽減
ご存知の通り、全ての暗号資産の取引は、ブロックチェーンに記録される。ブロックチェーンでは各ブロック内にデータが記録され、容量が一杯になったら次のブロックが生成されるが、各ブロックには一定の生成時間がかかる。もし利用者が増えるとブロックの生成が追いつかず、取引スピードが大幅に低下し、それに伴いガス代と呼ばれる手数料が高騰する。
この手数料高騰に苦しむ代表的な例として挙げられるのが、イーサリアムである。以下のグラフは、Otherdeedsと呼ばれるNFTのミント(販売)開始時の手数料の増加率を表している。
Otherdeedsとは、猿のデザインで有名なNFT「BAYC(ボアード・エープ・ヤット・クラブ)」を運営するYuga Labsが手がけるメタバースの土地である。この土地が、NFTとして販売された時刻を見てみると、ガス代が著しく急増しているのがわかる。
このような問題は、イーサリアムに限った話ではない。現時点で、イーサリアムより高速かつ低コストで稼働しているチェーンであっても、何らかの原因で一つのチェーン上の取引が集中すれば、このようなガス代の高騰や取引の遅延が発生する。
暗号資産の基盤がマルチチェーン化された場合、チェーンの選択肢が増える分、特定のチェーンへの負担を軽減することにつながる。
2-2. カスタマイズの必要性
各分野やプロジェクトごとに、優先すべき機能が大きく異なる。例えば、ゲームを作る場合、セキュリティよりもパフォーマンスが重視される傾向がある。取引所やスワップのプラットフォームの場合は、取引に対応できる処理能力やセキュリティが重視されるだろう。
モノリシック化された環境では、ニーズが異なるプロジェクトが同じ基盤を使うことが強制されるため、妥協を強いられるのはチェーンを採用するプロジェクト側なのである。
例えば、ブロックチェーンゲームの場合、人気NFTプロジェクトの販売開始によりガス代が急騰したら、ゲームがプレイ不可能となる可能性がある。ゲーム運営者または利用者にとって回避しなければならない大きな問題となる。解決策として、2021年頃からレイヤー2のソリューションが注目を浴びている。
一方、マルチチェーン化によってプロジェクトのニーズに応じた独自のチェーンをカスタマイズして、最適な環境を構築することができる。つまり、取引所は、処理速度の高さを重視したチェーンを作り、ゲームの製作には求めるパフォーマンスに対応するチェーンを作ることが可能となるのだ。
3. クロスチェーンが注目される理由
上記で、モノリシックの抱える問題を解説したが、マルチチェーンはどうなのか?Delphi Digitalは、マルチチェーン化の必要性に同意した上で、次のような課題も指摘している。
まず、コスト面の課題だ。独自のチェーンを一から構築する場合、既存のチェーンを使うよりも費用がかかる。さらにそれらを構築する技術を持つエンジニアを確保する必要があり、プロジェクトはこれらにかかる時間を見込み、コストをカバーしなければならないのだ。
二つ目の課題は、マルチチェーン化された場合、それぞれのチェーンがDeFiのエコシステムに対応することが求められる点だ。モノリシックの場合、単独のチェーンを利用することから、それを利用する全てのアプリケーションが繋がりを持つ。一方のマルチチェーンは、分散することから各チェーンががエコシステムを再構築しなければならない。これには、非常に困難な作業となる。
ここで必要とされるのが、異なるチェーン同士をつなぐ「クロスチェーン」である。クロスチェーンでは、互換性を持たない異なるチェーン同士で取引が可能となる。
例えば、現在ビットコインを所有しているとしよう。これを使って、OpenSeaからNFTを購入したい場合、イーサリアムが必要となる。つまり、ビットコインをイーサリアムに変えなければならないが、唯一の手段は暗号資産取引所を利用してビットコインでイーサリアムを買うことだ。
チェーンが互換性を持たないことはマルチチェーンにおいての課題となる。これを解決するのが、クロスチェーンの技術である。クロスチェーンがソリューションとなり、ビットコインをイーサリアムのエコシステム内で使用することが可能となるのだ。
4. Cosmosのクロスチェーンの仕組みとは?
クロスチェーンの代表例の一つがCosmos(以下、コスモス)だ。コスモスには、クロスチェーンの構造を語る上で欠かせない4つの要素がある。
- Cosmos SDK(以下、コスモスSDK)
- Cosmosu Hub(以下、コスモスハブ)
- Zone(以下、ゾーン)
- IBCプロトコル
順を追って各要素の役割を解説する。
まず、「コスモスSDK」とは、ブロックチェーンを構築するブロックチェーン開発キットだ。また、コスモスの中心となるブロックチェーンを「コスモスハブ」または「ハブ」と呼ぶ。「ゾーン」とは、この「ハブ」に接続されたブロックチェーンである。
上の図を見てみると、コスモスで構築されたブロックチェーン「ハブ」が中央にあり、両サイドに「ゾーン」がある。異なるゾーン(つまり異なるブロックチェーン)が、中央のハブを通して繋がっているのがわかる。
この、ハブとゾーンの架け橋の役目を担うのが「IBCプロトコル」だ。IBCプロトコルは、ブロックチェーンから受け取った情報が正しいことを検証し、ブロックチェーン間のデータの転送を行う通信プロトコルである。
さらに、ゾーンと繋がるハブ同士をつなげることでより多くの相互運用をも可能となる。
異なるブロックチェーン同士をつなぎ合わせることから、コスモスが「Internet of Blockchains(ブロックチェーンのインターネット)」と呼ばれる理由だ。
5. コスモス vs ポルカドット
コスモスと類似するクロスチェーンに、Polkadot(以下、ポルカドット)が存在する。コスモスとポルカドットでは、どちらが有望なのだろうか?
一概に答えを言うことはできないが、Delphi Digitalは現時点ではコスモスに軍配をあげている。
Delphi Digitalがコスモスを有望視する理由は、以下の2つだ。
理由① コスモスSDKの開発環境
まず第一に、コスモスが独自のチェーンを開発するために提供するコスモスSDKが、ポルカドットの同様のツールキットより操作が簡単である点だ。
前述したように、コスモスSDKは、ブロックチェーンを構築するブロックチェーン開発キットである。
一方のポルカドットも開発ツールキットを持つが、パラチェーンのみで相互運用可能だ。パラチェーンとは、ポルカドットとKusamaエコシステム内で稼働する個別のブロックチェーンである。
このパラチェーンの数には上限があり、オークション形式の入札が行われる。入札されたチェーンのみ、パラチェーンになることができるのだ。
ポルカドットがパラチェーンとのみ相互運用が可能なのに対し、コスモスでは、パラチェーンへの承認を必要とせず、互いのブロックチェーンで直接的な相互運用が可能だ。
理由② IBCプロトコルのステータス
二つ目にコスモスが注目される理由として、IBCプロトコルがすでに稼働を開始している点があげられる。IBCプロトコルとは、異なるブロックチェーン間を繋ぐためのプロトコルだ。
このIBCプロトコルによりコスモスのネイティブトークンATOMは、IBCに対応する他のチェーンと相互運用が可能となり、異なるブロックチェーン間で取引ができるようになった。
さらに、IBCの特徴としてトラストレス(信頼関係が不要)であることがあげられる。一般的に、クロスチェーンでは、第三者を仲介人として、ブロックチェーンから受け取った情報が正しいことを判断する必要がある。この方法では、仲介人を信頼する必要があるため、リスクが発生する。
一方のIBCプロトコルでは、仲介人となる第三者機関が不要である。特殊なスマートコントラクトモジュールを介して、ブロックチェーンから受け取った情報が正しいことを検証する。
ポルカドットの場合、コスモスIBCと類似するプロトコルとしてXCMPを採用している。しかし、このXCMPは2022年の現段階では完全に機能していない。この点から、ポルカドットとコスモスでは、開発速度が異なり、コスモスがリードしていると言える。
6. まとめ
世界最大級の分散型取引所(DEX)であるdYdXは、来年6月に最終形態である「V4」のメインネット立ち上げが予定されているが、その際、イーサリアムを離れコスモスへの移行を計画していることを発表した。
dYdXは、分散性と高い処理能力、確かなセキュリティを備えた独自のチェーンの開発に取り組んでいる。イーサリアムレイヤー2を離れる主な要因となったのは、中央集権的要素を排除出来ず、処理能力においてdYdXが理想とするレベルに到達できないと判断したからだ。これらの課題をクリアすることが、コスモスには求められている。
Delphi Digitalは、コスモスの可能性について「Cosmosは、増加するアプリチェーンの恩恵を受け、最も高度なクロスチェーアーキテクチャを実現するのに最適な位置にあると感じています」と述べている。dYdXだけでなく、暗号資産業界が現在注目するチェーンと言えるだろう。
今後さらに暗号資産関連プロジェクトが多様化し、マルチチェーン化が進めば、コスモスの需要は高まるだろう。その一方、コスモスのエコシステムはまだ小規模であり、発展途上だ。スケーラビリティを含め解決しなければならない課題も残されている。今後の成長に注目が集まっている。
dYdX財団
最新記事 by dYdX財団 (全て見る)
- 原資はトレード手数料!dYdXチェーンのステーキングで気をつけるべきこと - 2023年11月2日
- 2023年はDAOの政治化に注目 要となるデリゲートとは? - 2022年12月21日
- DAO(自律分散型組織)で変化するNFT「ヘッジー」が秘めたポテンシャル - 2022年12月14日
- 分散型取引所(DEX)がバイナンスを越える日は来るのか? - 2022年11月30日
- コスモスに「隠れビットコイン信者」が多い理由 - 2022年11月28日