災害の多い日本において、災害対策は不動産投資において重要な取り組みの一つです。災害対策をしっかり行い被災リスクを減らし、また被災時のダメージを軽減することが、入居者の安全とオーナーの資産価値の保全にも大きく影響があります。
また近年では一歩進んでBCP(事業継続計画)という考え方を不動産経営に導入する考え方も広がってきます。BCPとは災害リスクを含むさまざまな重大事態を想定して予防・対策を行い、想定外の重大事態が発生しても事業を継続できるようにしておく取り組みです。
今回は、不動産投資における災害対策・BCP対策の重要性や、取り組むべき8つのポイントについて紹介していきます。
目次
- 不動産投資における災害対策とBCP対策とは?
1-1.不動産投資の災害対策
1-2.不動産投資におけるBCP対策
1-3.不動産投資における災害対策・BCP対策の重要性 - 不動産投資の災害・BCPにおける8つの対策
2-1.地域特性をふまえた立地選び
2-2.所有物件を地域分散させる
2-3.火災保険や地震保険への加入
2-4.災害に強い物件の取得やリフォーム
2-5.セキュリティ対策への積極的な投資
2-6.潤沢な自己資金の確保
2-7.質の高い管理会社の選定
2-8.後継者や物件処分の早めの計画策定 - まとめ
1.不動産投資における災害対策とBCP対策とは?
不動産投資を長期継続するためには、災害対策とBCP対策に目を向ける必要があります。緊急事態や不測の事態の発生時に投資家自身の資産や投資事業を守るうえで役立つだけでなく、入居者をはじめとした利害関係者を守る役割も果たします。
まずは、不動産投資における災害対策とBCP対策それぞれのポイントと、対策を取る重要性について紹介していきます。
1-1.不動産投資の災害対策
不動産投資において災害リスクは時に重大な被害を及ぼすものです。そのため不動産の安定経営を実現するためには災害に対する備えが欠かせません。
災害といってもさまざまなものがあるので「100%完璧な災害対策」は困難ですが、気候特性も踏まえて日本では次のような災害への対策が重点的におこなわれます。
日本で対策が重視される災害の例
- 地震
- 火災
- 津波・洪水
- 台風(豪雨・暴風)
- (豪雪地帯の場合)降雪・積雪
これらの災害に対して、対策は大きく分けて次の3点に着目しておこないます。
- 災害の発生を予防する
- 災害発生時の被害を抑える
- 被災後の早期復旧を目指す
これらすべてをバランスよく行なうことが、不動産投資における災害対策のポイントです。
1-2.不動産投資におけるBCP対策
BCPとは日本語で「事業継続計画」を意味します。企業が災害への被災や、犯罪・トラブルに巻き込まれたとき、工場での事故発生などさまざまな想定外の事案発生時に事業運営が滞らないようにする、万が一滞った時には早期に回復できるようにするための対策を意味します。単にBCPという場合もBCP対策という場合もありますが、大きく意味は変わりません。
さて、不動産投資においては「事業の継続」というと、不動産経営を継続していくことを意味します。すなわち不動産投資におけるBCP対策の目的は「想定外の事態が発生しても不動産経営を破綻させずに継続できるようにしておく」ことにほかなりません。
不動産経営の継続を脅かす大きなリスクとしては、先に挙げた「災害」を含めて次のようなリスクがあります。
- 災害リスク
- 犯罪に巻き込まれるリスク
- オーナー自身のリスク
不動産経営における犯罪リスクは、住民同士のトラブル、侵入者と住民によるトラブル、そして侵入者もしくは住民による物件の汚損・破損などが考えられます。便宜上「犯罪」と書きましたが、過失によるトラブルの発生もありうるでしょう。
また意外に見落とされやすいポイントとして、オーナーの身にもしものことがあった時に、事業継続が難しくなるリスクです。想定外に早期にオーナーの死亡もしくは高度障害などによって不動産経営が継続できなくなる可能性はゼロとは言えません。
BCP対策では災害よりも対処範囲を広くとらえて、適切な対策を進めておく必要があるのです。
なお、BCPのスコープは、通常のビジネスサイクルの中で起こりえない事象によるリスクを対処するものです。不動産経営でいえば、例えば空室の発生や賃料の下落、不動産価格の変動に伴う損失などは、不動産経営のビジネスサイクルのなかで起こりえることからBCPとして対策を施すものではないため、今回の記事では基本的に触れません。
1-3.不動産投資における災害対策・BCP対策の重要性
現代の不動産投資においては、災害対策・BCP対策は、次のような理由から欠かすことができません。
- 災害や重大事案による損失リスクの抑制
- 損失発生後の不動産経営の継続可能性を高める
- 入居者の安全や住環境の維持
- 周辺地域を中心とした安全への配慮
まず第一に投資家が災害その他の重大事案を原因とした損失を受けるリスクを減らせます。災害対策やBCP対策により、損害を受ける確率と損害額の双方を抑制する効果が期待されます。また、万が一被害を受けた後も不動産経営において致命的なダメージを避け、早期に元通りの不動産経営が再開できる可能性を高めることができます。
災害対策やBCP対策は入居者の安全や住環境の改善の観点からも重要です。災害や犯罪に強い不動産は、住民保護に役立ちます。セキュリティの行き届いた物件では、入居者がより快適に暮らすことにもつながるでしょう。長期で不動産経営を継続する体制が行き届いていれば、オーナーの変更によって管理に支障が出る心配もありません。
周辺環境に対する悪影響を抑える点でも重要です。火災の延焼や台風における飛来物の発生などにより、周辺の建造物や住民に被害を与えるリスクがあります。物件での犯罪発生などが、地域の治安悪化につながる恐れもあります。
こうした住民や地域社会への配慮は、ESGにおけるSやGの側面から、現代において不動産経営をおこなううえでは当然配慮しなければならない領域となっています。これらの配慮は資産価値の維持や物件に対する評価向上という形で、投資家にもプラスの影響を及ぼすものでもあるのです。
2.不動産投資の災害・BCPにおける8つの対策
災害対策とBCP対策はそれぞれ別々におこなうものではなく、ここから挙げるポイントに対応することで、災害とBCP双方に対する有効な対策となります。
災害対策・BCP対策
- 地域特性をふまえた立地選び
- 物件所有の地域分散
- 火災保険や地震保険への加入
- 災害に強い物件の取得やリフォーム
- セキュリティ対策への積極的な投資
- 潤沢な自己資金の確保
- 質の高い管理会社の選定
- 後継者や物件処分の計画の策定
それぞれのポイントについて順番に紹介していきます。
2-1.地域特性をふまえた立地選び
災害対策・BCP対策は投資を始める前段階の物件選びから始まっています。災害リスクの少ない地域・治安のよい地域の物件を選ぶことで、被災や犯罪に巻き込まれるリスクを避けることができます。
ただし、災害リスク・犯罪リスク共に完全にゼロにはできません。リスクが低い地域を選びつつも、ハザードマップや周辺施設などをみてどのようなリスクが存在するのか把握し、適切な対策を取っておくようにしましょう。
また、自治体によって建築基準などについて独自の不動産に関するルールがある場合が少なくありません。不用意に条例に違反した物件を取得して、後でトラブルに発展しないようにすることも大切です。
2-2.所有物件を地域分散させる
不動産投資は、可能であれば複数の物件を所有してリスク分散を図るのが有効です。いくら対策をしても、想定外の事態が発生して不動産経営が脅かされるリスクは絶対にゼロにはなりません。
複数の物件を所有しておけば、一つの物件にもしものことがあっても、残りの物件の経営が維持されることで賃料収入が継続します。その収入を原資に被害に遭った物件の復興に充てることもできるでしょう。
なお複数物件を所有するときには、それぞれの物件が立地する地域を分散させて、一つの災害で同時被災しないようにすることも大切です。
2-3.火災保険や地震保険への加入
物件に損害が及んだ時の対策として有効かつ重要なのは保険への加入です。保険に加入しておけば、被災により賃貸経営が継続できなくなったとしても、保険金を元に再建して、短期間のうちに不動産経営を再開できるようになります。
保険料は不動産経営において小さい出費ではありませんが、BCPの観点からは全損したときには物件の資産価値全体が守られるよう、充分な補償金額の火災保険に加入しておくのが有効です。
2-4.災害に強い物件の取得やリフォーム
いくつかの災害は強固な物件を購入したり、既存物件に工事を施すことでリスクを減らすことができます。日本の建造物は地震対策が進んでいるため、現行の耐震基準をクリアしてさらに、等級の高い物件を保有すれば、地震自体による物件の倒壊リスクはかなり減らせます。
設備の倒壊・破損への対策や、ガスおよび火の元の対策などを施せば、室内で被害が出るリスクもおさえることができます。
火災対策としては、燃えにくい素材で建築をしたり、火災報知機やスプリンクラー導入により被害を抑える工夫をしたりといった対策も考えられます。
まず第一に、購入時点・建設時点で災害対策の行き届いた物件へ投資するのが重要です。もし、保有している物件で対策の不備が見つかった場合には、リフォームによる改善を検討しましょう。
【関連記事】アパート経営で物件の耐震性を見極めるポイントは?築年数・構造から検証
2-5 セキュリティ対策への積極的な投資
部外者の侵入など外部からの犯罪を防ぐためには、セキュリティ対策が重要になります。防犯カメラやオートロック・スマートロック、侵入が難しい窓の設置など、部外者が許可なく入れない環境を構築するようにしましょう。自動点灯するライトや宅配ボックスなど、住環境の改善とセキュリティ対策を両立する設備もあります。
アパートのセキュリティ対策についてはこちらの記事でも以前紹介しているので、合わせて参考にしてみてください。
【関連記事】アパートオーナーができる防犯対策は?費用対効果の高い6つの方法を解説
2-6.潤沢な自己資金の確保
不動産の被災やトラブルへの対処、セキュリティや防災対策の不備など、さまざまな側面で資金が必要になります。不測の事態に適切に対応しておくようにするためには、潤沢な自己資金を確保しておくのが基本的ながら有効な対策となります。
賃料収入が滞ったときに経営再建ができるかどうかは、物件の再建や修繕のための自己資金の厚みに依存するケースも少なくありません。
自己資金が枯渇するような無理な不動産経営を避けることと、賃料収入をむやみに消費せずに、不測の事態に備えてプールしておくことなどが有効なBCP対策の一つとなります。
2-7.質の高い管理会社の選定
防災やBCPの観点からは、実は物件の管理会社選びも大事です。例えば照明器具や防災器具・セキュリティ設備のこまめなメンテナンスや更新が、防災や減災、犯罪などのトラブルのリスクを減らしてくれるでしょう。
また、入居者を募り、審査するのも管理会社の重要な役割です。支払い能力に問題がなく、また不審な点がない入居者を着実に集めることで、家賃の未払いリスクや、物件内で反社会的な活動、犯罪行為などがおこなわれるリスクを減らすことができます。
このような基本的で細かな気配りができる管理会社を利用することが、不動産経営を長期的に進めていくうえで重要なのです。
2-8.後継者や物件処分の早めの計画策定
BCPという観点からは、現在のオーナーにもしものことがあった時の備えができていることも重要です。まずローンに加入している場合は団体信用保険に加入していることが基本的なBCP対策の一つになります。
そのうえで、オーナーにもしものことがあった時の不動産経営の方針を明確にしておかなければいけません。理想としては後継者を明確にしておき、いざという時には不動産経営を引き継げるようにしておくことです。後継者が明確な場合には、不動産関連の情報や経営方針を日頃から連携しておきましょう。
後継者がいない時には物件を手放すことになりますが、その時の売却方針や相談先、手順などを整理しておけばオーナーが意思決定できない状態になっても、家族など関係者が冷静に対処できるでしょう。
不動産が遺産となった場合の対策も早めに行っておくのが有効です。特に一棟ものの物件が相続されると高額な相続税が発生するリスクもあります。不用意に相続した結果、税金対応のために物件を売却しなければならない事態に陥る可能性もあるでしょう。オーナーが元気なうちから早めに税理士などの専門家に相談して準備を進めておいてください。
オーナーが変わることによる入居者への影響は普段意識されにくいものですが、管理方針や品質の変化、賃料の急変、立ち退きの発生など、潜在的にはさまざまなリスクとなります。
BCPの本質は「事業を継続できるようにしておくこと」であることから、オーナーにもしものことがあっても不動産事業を継続できる状態を整えて置くのが理想です。どうしても物件を売却せざるを得ない状況ならば、家族・遺族が負担やダメージを受けることのないよう、あらかじめ事業継続ができなくなった時の対処を整理しておいてください。
【関連記事】不動産相続、親が認知症になる前に準備・確認しておきたい3つのこと
3.まとめ
元々、防災対策はオーナーの資産価値や不動産経営における収支を守るうえで重要な取り組みで、以前から不動産経営における重要な対策項目の一つでした。現代では単なる防災にとどまらず、事業継続の確実性を高めるBCPの側面からも対策が求められる時代になっています。
防災やBCP対策はオーナーの資産を守るだけでなく、入居者の生活を安全で安定したものにするうえでも欠かせません。安全・安心な住居を提供することは、ESG投資のS(社会)に対する貢献の意味合いもあります。すなわち、防災・BCP対策は、不動産のESG評価を高めるうえでも有効なのです。
自分の不動産経営において、今回紹介した中で足りない防災・BCP対策が見つかった人は、早めに追加の対策を検討しましょう。
伊藤 圭佑
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