高齢社会化が進む日本において、認知症の問題は大きな課題となっています。
厚生労働省の「認知症施策の総合的な推進について」によると「高齢者の約4人に1人は認知症または軽度認知障害(2012年時点)、約7人に1人は認知症(2018年時点)」という調査結果があり、認知症は日常に深く関わる身近な問題となったと言えるでしょう。
実家や空き地、アパート・マンションなどの不動産を親が所有している場合、名義人である親が認知症になってしまうと自由に売却や転用が出来なくなってしまう可能性があります。認知症が身近なリスクであると捉え、事前に準備・対策をしておく事が重要です。
この記事では、不動産を所有している親が認知症になってしまった場合にどのようなことが予測されるのかを解説したうえで、事前にできる準備や対策についてご紹介します。相続予定の不動産がある方はご参考ください。
目次
- 不動産を所有している親が認知症になってしまった場合
1-1.自由に不動産を売却・活用することが出来なくなる
1-2.成年後見人の費用がかかる
1-3.特定空き家に指定される可能性がある - 親が認知症になる前に準備・確認しておきたい3つのこと
2-1.相続を予定する不動産の資産性を確認する
2-2.相続方法について被相続人・相続人で相談する
2-3.具体的な対策(家族信託・相続時精算課税制度・遺言書)で備える - まとめ
1.不動産を所有している親が認知症になってしまった場合
不動産を所有している親が認知症になってしまうと、どのようなトラブルが予想されるのでしょうか?今回、予想される状況として下記の3点を取り上げています。
- 自由に不動産を売却・活用することが出来なくなる
- 成年後見人の費用がかかる
- 特定空き家に指定される可能性がある
それぞれ詳しく見て行きましょう。
1-1.自由に不動産を売却・活用することが出来なくなる
不動産所有者である親が認知症になり意思能力が無い状況となると、不動産売買などの法的な契約行為が無効となる可能性があります。この場合の意思能力とは「契約した後でどのような法律的な結果が出るか判断できるか否か?」という点です。
この法的な背景によって、認知症で意思能力が失われた方の資産を不当な契約から守るメリットがあります。しかし一方、家族間でも資産を移動させることが困難となるデメリットがあります。
相続によって所有権が移転するまで資産管理を行うことが出来ないため、介護や入院によって実家が空き家となった場合でも、不動産を売却したり、金融機関で融資を受けて他の用途に転用することが困難な状態となります。
1-2.成年後見制度の利用を検討することになる
認知症となってしまった方の資産を管理する方法として、選択肢となるのが成年後見制度の利用です。成年後見制度を利用することで、家庭裁判所の監督のもと、認知症により意思能力を失ってしまった方の資産を守りつつ、法的に支援・管理することが可能となります。
しかし、成年後見制度には注意しておきたい2つの大きなデメリットがあります。それは「家族ではなく弁護士や司法書士などの法的な専門家が専門職後見人として選出される可能性がある」、「専門職後見人が選出された場合、資産から報酬を支払わなければならない」という2点です。
成年後見人の選出には家庭裁判所に決定権があるため、不正行為の懸念から家族が選出されないケースも少なくありません。この場合、後見人の許可がなければ資産を移動させることが出来ず、親の了解を得ていた場合でも資産を家族のために自由利用することが出来なくなります。
また専門職後見人が選出されると、年間約24万円以上の報酬費用が発生します。この報酬は不動産の売却後も途中で打ち切ることは出来ず、親が亡くなるまで支払い続けることとなります。
1-3.特定空き家に指定される可能性がある
認知症によって実家の不動産が空き家となってしまった場合、特定空き家に指定される可能性が出てきます。
特定空き家に指定された場合、自治体から改善の「勧告」を受けると、固定資産税の優遇措置が適用されなくなり、固定資産税額が最大6倍となります。また、自治体からの「命令」に応じずに違反となった場合、最大50万円以下の過料が科せられることになります。
この特定空き家を回避するには、防犯対策や修繕、庭木の清掃などの対策が必要になり、活用していない・活用予定のない空き家であっても維持費用が掛かることになります。
前述のように売却やその他の用途への転用が困難であるために、これらの費用が発生し続けてしまう可能性があります。
2.親が認知症になる前に準備・確認しておきたい3つのこと
ここまで不動産を所有している親が認知症になってしまった場合に想定できる問題について解説しました。これらの問題を回避するためには、認知症となってしまう前に準備や対策を行っておくことがとても大切です。
今回、準備・確認しておきたいポイントとして下記の3つを取り上げています・
- 相続を予定する不動産の資産性を確認する
- 相続方法について被相続人・相続人で相談する
- 具体的な対策(家族信託・相続時精算課税制度・遺言書)で備える
こちらもそれぞれ詳しく見て行きましょう。
2-1.相続を予定する不動産の資産性を確認する
親が不動産を所有しており、相続予定であるのであれば、まずは不動産の資産性を確認しておきましょう。不動産の資産性を確認することで、後述する相続方法についての相談を具体的に進めることが出来るようになります。
また、不動産の資産性を確認する際は固定資産税の評価額ではなく、「いくらで売却できるのか?」という視点で検討することも重要です。現物資産である不動産は、公的な評価額と実際に売却した際の取引額に大きな差額が生まれることも少なくないためです。
不動産査定では1社の査定結果だけではなく、不動産一括査定サイトを活用して複数社の査定結果を比較することも検討しましょう。
不動産会社の中には、家の売却を促すために相場より高い査定金額を提示したり、利益獲得のために低い金額を提示する会社があります。複数社の査定を受けることで査定価格や査定の根拠を比較し、相場に沿った適正な価格査定を受けられるように工夫しましょう。
下記は主な不動産一括査定サイトの一覧です。下記のサイトは全て無料査定が受けられ、全国エリアの物件に対応しています。
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【関連記事】不動産査定会社・不動産売却サービスのまとめ・一覧
2-2.相続方法について被相続人・相続人で相談する
不動産の資産性が確認できたら、次に不動産を含む資産の相続方法について被相続人(親)・相続人(子)で相談しましょう。不動産相続の話し合いでは、大まかに下記の4点がポイントとなります。
- 売却する
- 維持する
- 活用する
- 相続放棄する
不動産を売却する場合、不動産を現金化することで維持管理の手間を省き、認知症による将来的な取引不可の状況を防ぐメリットがあります。
一方、不動産を現金化してしまうことで、不動産特有の相続税控除(マイホームを売ったときの特例など)が受けられなくなるデメリットがあります。不動産の資産性が高く、税制上不利になる場合には慎重に検討する必要があるでしょう。
不動産を維持するのであれば、「維持管理を誰がどのように行うのか?」、「維持費用はどのくらい発生し、誰が負担するのか?」という点がポイントとなります。実際に相続人の誰かが居住するケースで検討しやすい方法と言えるでしょう。
不動産活用は建物の解体・再建築を伴う大がかりなものから、最低限のリフォームを行い賃貸物件や民泊などの収益物件に転用する方法など、その方法や手段は多岐に渡ります。初期費用を回収できない元本割れのリスクがあるため、事前のニーズ調査が重要となります。
【関連記事】放置している不動産、売却以外の有効活用方法は?5つの事例を紹介
相続放棄は遺産の相続を行わない代わりに、負債の相続も放棄できる方法です。相続した分に関してのみ借金を返済する限定承認という方法もあります。
相続放棄は不動産の売却が困難なほど資産性が著しく低い場合や、活用検討ができない場合、不動産購入時のローンが残っており売却費用を上回るオーバーローン物件である場合に検討したい方法と言えます。
ただし、相続人全員が相続放棄した場合は被相続人の親兄弟に権利が移ることや、相続放棄できた場合でも特定空き家となった際の管理責任が消失しない点には注意が必要です。
【関連記事】空き家を相続するか・相続放棄するかはどう判断すべき?ポイントを解説
2-3.具体的な対策(家族信託・相続時精算課税制度・遺言書)を検討する
相続方法について話し合いがまとまったら、まとまった内容で事前準備を行いましょう。具体的な事前対策として、下記3つの方法があります。
- 遺言書
- 家族信託
- 相続時精算課税制度
上記3つはどれも認知症対策として有効な手段ですが、用途や注意点が異なります。それぞれ詳細を確認しておきましょう。
遺言書を作り、認知症に備える
遺言書は被相続人(亡くなった方)の意思で相続方法について決定できる公的な証明書となります。遺言書を作成しておくことで、片方の親が亡くなってしまった際の相続トラブルを回避することが可能です。
例えば、両親のうち残された方が意思能力を失った認知症であった場合、署名や捺印ができないため金融機関は受け付けず、遺産分割協議や法定相続分による相続が困難となります。
一方、遺言書で遺言執行者を指定していた場合、任された人は遺言執行の目的において資産の管理を行う権利が与えられ、死亡後に遺産分割協議を行う必要がなくなります。遺言書は両親ともに作成し、遺言執行者に認知症リスクの低い方を設定すると良いでしょう。
家族信託で資産管理の権限を移す
家族信託とは、生前でも家族に財産の運用を任せることが出来る制度です。財産を託す人を委託者、管理を行う人を受託者といい、信託契約を締結することで生前に不動産管理を委託することが可能になります。
不動産管理を委託された受託者は委託者が認知症にかかっている場合でも不動産の売却が可能になります。家族信託で不動産売却を行う場合、所有権は委託者(親)に残っているままのため、贈与税がかからない点もポイントです。
また、信託契約で設定できる内容は自由度が高く、あらかじめ条件を設定しておくことで、所有権の移転が行えるようにすることも可能です。親が認知症になった場合に備え、家族信託の信託契約を結んでおくと良いでしょう。
一方デメリットとして、信託契約の作成に司法書士への報酬費用がかかる点が挙げられます。費用は資産の総額によって前後し、数十万円ほどかかるケースがあるため、遺言書の作成と比較してやや高額な対策となります。
相続時精算課税制度で不動産の名義を変更する
相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母や祖父母が20歳以上の字や孫に贈与する場合、2,500万円までの贈与税が発生しない税制度です。これを活用することで、2,500万円以下の家であれば贈与税が課税されずに名義変更を行うことが可能となります。
ただし、親の死亡後は贈与税とは別に相続税が課税される点には注意が必要です。2,500万円をこえる資産を贈与する場合には、贈与税と相続税の両方が課税されることとなります。相続税を減額したり回避する手段ではない点には留意しておきましょう。
まとめ
親が認知症になってしまった場合に予測される不動産相続の問題、事前にできる準備や対策についてご紹介しました。
不動産を所有している親が認知症を発症してしまうと、後から検討できる選択肢が非常に限られてきます。認知症が身近に起こり得る問題として捉え、事前に対策を進めておくことが大切です。
認知症はセンシティブな問題であるため、家族の話題として取り上げにくいテーマであると考える方も少なくないでしょう。しかし、大切な資産を守り家族へ受け継ぐためにも、健康なときにこそ対策を行い、将来に備えておきましょう。
HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム
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