シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社は3月3日、「不動産投資でネットゼロを達成するには?」と題したレポートの日本語版を発表した。不動産投資でネットゼロを達成するための方法を分析し、事例を紹介している。
不動産業界は、2030年までにオペレーショナル・カーボン(物件運営時の総排出二酸化炭素)のネットゼロ、2050年までにエンボディド・カーボン(建築時の総排出二酸化炭素)のネットゼロの両方を達成する必要があるとされる。2050年に存在すると予測される建物の40%、インフラストラクチャーの75%はまだ建設されていない。これらの新しい建物は、ライフサイクル全体を通してネットゼロ・カーボンにする必要がある。
ネットゼロ・カーボンには建築材料を作成する過程で発生する炭素も含まれ、30年までに少なくとも40%の削減、先進的な案件では少なくとも50%削減の達成が求められる。同年までに新築物件の100%が運営面でネットゼロ・カーボンとなることが求められているが、達成にはそれ以上のことが要求されることを意味している。
例えば、現在の欧州の物件の80%は、50年になっても現存するため、30年までにすべての物件のエネルギー効率を高めるための改修を完了させるか、少なくとも改修を進めていなければ、この目標を達成することはできない。
15年のCOP21では190カ国以上が気候変動枠組条約に合意したが、COP26ではこの合意を支持する実際の要件への解釈が広まったと結論づけた。結果、政府のガイドラインや不動産業界の基準はバラバラで、完全に整合がとれているとは言えず、シュローダーは「最悪の場合には、気温上昇を1.5度未満に抑えるためのネットゼロの実現は間に合わなくなる」と予測。「世界人口の85%を擁し、経済と人口の急激な成長が予測され、開発状況もそれぞれに大きく異なる新興国も含めて、より協調的かつ焦点を絞った行動が求められる」と提起する。
運営時の二酸化炭素排出量は、テナント、不動産管理者、オーナー、投資家の緊密な協力のもと、LED照明の設置、ビル管理システム(BMS)の最適化、暖房・換気システムのアップグレード、出力測定などのエネルギー効率化対策によって削減することが可能となる。一方、建築時の二酸化炭素排出量の削減には設計、建築材料、建設方法、納品、運用の委託にいたるまでバリューチェーン全体の炭素分析が必要だ。
レポートは「達成には、『建替えではなく改修』というように考え方を改める必要があり、また建物は『理論上』ではなく『運営面』を意識して、現実に即した形で設計されなければならない」と軌道修正を訴える。
そのうえで、エネルギー削減に向けた行動として、カーボン・オフセットの購入を挙げる。不動産ポートフォリオのネットゼロを達成するための最善の方法でないという業界の合意に異を唱え、「ネットゼロを達成するためにカーボン・オフセットを購入することは経済的利益を損なうため実行不可能という主張があるが、的外れ。炭素排出のコストは、事実上すでに存在し、気候変動による混乱を予測するための時間割引コストは莫大」という見解による。
不動産ポートフォリオに組み込まれた炭素排出に関連する「暗黙のコスト」の適切な代用手段は、市場で自主的に取引されているカーボン・オフセットの価格だと同社は主張する。調査から、暗黙の炭素コストをオフセット価格で資産化することは、家主が管理する炭素排出量を実際に約70%削減するために必要な設備投資の「非常に優れた代用手段」としている。
事例として、ドイツの不動産(主にオフィス)に投資し、4.5~5%を収入目標としている案件を例として紹介する。物件運営時の総排出二酸化炭素は、基準年に年間約7000トンだった。グリーン電力の契約は未締結で、建物からの排出にのみ焦点を当てるため、この数字はテナントによる消費分を除外している。
大半の物件で初回のエネルギー監査が実行済みであり、現実的な目標値とプロジェクト費用を設定することができた。資産効率の測定で、短期的には500トンの削減が可能で、グリーン電力の調達により排出量は3800トン削減する。そこから地域暖房を確保し、うち40%程度を再生可能エネルギーで賄う。残りの排出量の約5~10%は、オンサイトの再生可能エネルギーを導入することで対応し、推定2000トンの炭素排出量が残る。これらの炭素排出削減を実現するための設備投資額は推定約1200万ユーロ。ポートフォリオの実際の排出量を7000トンから2000トンへと70%以上削減するための投資額は、炭素市場で実際の炭素排出量の70%分の炭素クレジットを購入するコストと同程度だった。
業界に対しては「枠組みの先を行くのは避けたい」という考えから脱却し、すべての利害関係者にとって正しい結果をもたらすために自主規制を行い、短期的な利益を追求するのではなく、長期的な妥当性とパフォーマンスを重視すべきとして締めくくっている。
【関連サイト】シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社
HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム
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