少子高齢化が進む日本において、被相続人(相続財産を遺し亡くなる方)は年々増加傾向にあります。(※国税庁「平成30年分の相続税の申告状況について」)このような状況の中、相続財産に不要な不動産があり、「相続登記は必要ないのではないか?」とお考えの方もいらっしゃいます。
本記事では、不要な不動産の相続登記が必要・不要である場合、相続時の不要な土地・建物の取り扱い4パターン、相続放棄に関する注意点を解説していきます。
目次
- 土地・建物・不動産の相続登記が必要・不要なケース
- 相続の際、不要な土地・建物がある場合の4つの取り扱い方法
2-1.相続不動産の売却
2-2.相続不動産の寄付
2-3.相続不動産の譲渡
2-4.不動産の相続放棄 - 不動産の相続放棄を行っても管理義務がある点に注意
- まとめ
1.土地・建物・不動産の相続登記が必要・不要なケース
たとえ要らない不動産でも、取得した後に売却・譲渡・寄付を行う場合には相続登記が必要となります。一方で、相続放棄をする際には登記の必要はありません。
相続登記を行うことで、売却・譲渡・寄付ができるようになりますが、不動産の相続登記は手続きの手間と費用がかかる点がデメリットです。
相続登記の費用としては法務局へ支払う手数料・登録免許税、司法書士へ依頼する場合には司法書士への報酬がかかります。相続登記の司法書士への報酬は地域や不動産の規模によって異なりますが、日本司法書士連合会が行った司法書士の「報酬に関するアンケート」によるとおおよそ6~8万円となっています。
法改正により相続登記が義務化
不動産登記法改正により、2024年4月から相続の登記が義務化となる予定です。2023年4月には「相続土地国庫帰属制度」が創設され、一定の要件を満たした場合相続により取得した土地を国庫に帰属させ手放すことができます。
上記2つの法案は2021年の4月に成立していますので、今後要らない土地を相続する予定の方は制度の内容をおさえておきましょう。
※出典:法務省民事局「所有者不明土地関連法の施行期日について」
2.相続の際、不要な土地・建物がある場合の4つの取り扱い方法
相続によって得た不要な不動産は、相続放棄を行う、登記手続きを行った上で寄付・譲渡・売却するという4つのパターンがあります。
- 売却
- 寄付
- 譲渡
- 相続放棄
2-1.相続不動産の売却
不要な相続不動産に資産的な価値がある場合、もしくは資産的な価値があるのかどうか分からない場合、まずは不動産会社へ査定を依頼し、おおよその売却価格や必要な売却期間について調査を行いましょう。
この時に重要なポイントは、査定依頼をする不動産会社を1社だけに限定するのではなく、3~5社の複数社へ依頼し、それぞれの査定結果や査定の根拠について比較を行うことです。
不動産会社によって得意とする不動産のタイプやエリア、販売力や顧客への対応力などが異なるため、最終的な売却価格や期間に大きな差が生まれることも少なくありません。
複数の不動産会社へ査定依頼をする際、便利に利用できるのが「不動産一括査定サイト」です。不動産一括査定サイトでは、物件情報を一度登録するだけで複数社に査定依頼ができ、売却するかどうかは査定結果を見てから判断することが可能です。
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【関連記事】不動産査定会社・不動産売却サービスのまとめ・一覧
2-2.相続不動産の寄付
土地は国や地方自治体に寄付を行うことができます。ただし、国へ寄付を行う場合、行政目的で使用できない際にはコストがかかるため寄付が出来ません。
財務省のホームページで公開されているQ&Aでは、以下のような回答がなされています。
寄付の申出があった場合、土地等については、国有財産法第14条及び同法施行令第9条の規定により、各省各庁が国の行政目的に供するために取得しようとする場合は、財務大臣と協議の上、取得手続をすることとなります。
なお、行政目的で使用する予定のない土地等の寄付については、維持・管理コスト(国民負担)が増大する可能性等が考えられるため、これを受け入れておりません。
※引用:財務省「国に土地等を寄付したいと考えていますが、可能でしょうか」
一方、地方自治体にも一定の要件を満たした場合に寄付が出来ます。例えば新潟市では、寄付の受け入れが出来る土地を以下のように規定しています。
- 法定等に違反しない
- 行政の中立性、公平性等が確保できる
- 宗教的又は政治的団体からの寄附でない
- 将来に紛争や苦情が発生する恐れがない
- 将来に多額の維持管理費を要す恐れがない
- 市で管理することが不適当でない
- 新潟市公有財産規則第13条※に規定する、取得前の措置が済んでいる
- 行政活用価値又は換価価値が見込まれる
- 農地にあっては、宅地(住宅用の土地)への転用許可が受けられる
※参照:新潟市「土地の寄附について」
寄付は、不動産を管轄する自治体の問い合わせることで要件が確認できます。相続不動産のエリアを管轄している自治体に問い合わせてみましょう。
【関連記事】相続した土地を自治体に寄付(寄贈)する方法・手順は?注意点も
2-3.相続不動産の譲渡
隣地や近隣の住人・法人などに受け入れてもらえる場合には、不動産を譲渡することが可能です。特に農地は土地を広げる事がメリットに繋がるため、隣地の方が引き取ってくれるケースがあります。
郊外の土地で建設会社の近くに所在する時には、資材置き場として譲渡できることもあります。
なお、無償で不動産の名義変更を行う際には「みなし贈与」に該当するケースがあるため注意が必要です。みなし贈与とは法律的には贈与によって取得したとはいえない状態でも、課税の公平の観点から贈与によって取得したものとみなされ、贈与税の課税対象となる行為のことを言います。
親族間であれば相続時精算課税制度、夫婦間であれば贈与税の配偶者控除を適用できる可能性があります。贈与を検討している場合にはこれらの特例の適用条件に当てはまっているか確認しておくのも良いでしょう。
【関連記事】不動産相続で注意したい「みなし贈与」とは?贈与税の計算と回避方法も
2-4.不動産の相続放棄
被相続人のすべての相続財産を放棄することを相続放棄と呼びます。相続放棄は相続開始から3ヶ月以内に、被相続人の最後の住所にある家庭裁判所に申し立てることで手続きが可能です。
ただし、相続放棄は不動産だけではなく全ての相続財産を放棄しなければいけません。相続財産のほとんどが不動産であり、不動産の価額が低いというケースで利用する方が多い相続方法です。
【関連記事】相続放棄のメリット・デメリットは?不動産活用・売却の手順も
3.不動産の相続放棄を行っても管理義務がある点に注意
資産価値の低い負の財産の相続を回避できる相続放棄ですが、相続放棄を行っても管理義務がある、という点に注意が必要です。
民法第940条では、「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」と規定されています。よって相続放棄を行っても、不動産の管理を行う義務があります。
日本国内では適切な管理が行われていない空き家が社会問題化しており、周辺に悪影響を及ぼす可能性のある物件については「特定空き家」に指定されることがあります。
特定空き家に指定されると、指導が行われ、改善が見られない場合には固定資産税の優遇措置がなくなったり、罰金が科されたりするなどの懲罰的措置がとられます。場合によっては、行政代執行手続きによって強制的な措置がなされたりします。
【関連記事】実家や相続不動産が「特定空き家」になる可能性は?行政指導の多い都道府県
相続人全員が相続を放棄したケースでは、これらの管理義務を負う方を定めるため、家庭裁判所に「相続財産管理人」の選任を申し立て、管理人が管理を行う流れとなります。相続財産管理人は家庭裁判所が被相続人との関係・利害関係の有無などを考慮し、相続財産を管理するのに適任と認められる人を選びます。
場合によっては弁護士や司法書士等の専門職が選ばれることもあります。しかし、この場合には専門家への依頼費用を支払う必要があり、相続放棄をした経済的な効果が薄くなってしまうことから、相続人間での自主管理を行う方が多いと考えられます。
まとめ
相続登記は、不動産を売却・譲渡・寄付する際に必要となりますが、相続そのものを放棄する際には必要ありません。ただし、相続放棄では、①被相続人の相続財産全てを放棄する、②放棄した後も管理義務は残るという点をおさえて検討しましょう。
この記事を参考に不要な土地の登記の必要性や取り扱い4パターンを知り、実際の場面で活かしていきましょう。
田中 あさみ
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