マンションの売却をして、譲渡所得税の計算・申告をする際、取得費を算出する際に、建物部分の減価償却費を差し引かなければなりません。マンションの譲渡所得計算では建物部分の価格割合が大きく、減価償却費の計算方法を間違えると税額が大きく変わることになります。
本記事では、マンション売却の際の、減価償却費の計算手順について、減価償却の意味から、建物価格の算出方法、減価償却費の計算例などを解説したうえで、確定申告をする際の注意点についても説明します。
※記事内の税制内容は2022年1月時点の情報となります。最新の情報については、国税庁などのサイトをご確認のうえ、税理士などの専門家へのご相談もご検討ください。
目次
- マンション売却時には「減価償却費」の計算が必要になる
1-1.譲渡所得の計算における「取得費」の算出
1-2.減価償却費とは - マンションの「減価償却費」の計算手順
2-1.建物部分の取得価格の算出
2-2.耐用年数は建物の構造、用途によって異なる
2-3.非業務用(自己居住用)マンションの減価償却費の計算例 - 中古マンションの減価償却費
3-1.業務用(投資用)マンションの中古見積耐用年数
3-2.業務用マンションを中古で取得した場合の減価償却費計算例 - マンション売却における確定申告の注意点
4-1.取得価格が不明な場合、概算取得費制度が適用される
4-2.譲渡所得税の確定申告では税額軽減措置が利用できることも - まとめ
1.マンション売却時には「減価償却費」の計算が必要になる
マンションを売却して利益が生じた場合、その利益(譲渡所得)につき譲渡所得税・住民税が課されます。譲渡所得は、マンションのオーナー自らがその金額と税額を計算し、売却した年の翌年2月16日から3月15日までの間に確定申告を行うか、税理士へ申告の代行を依頼する必要があります。
譲渡所得の計算では、譲渡価格から控除することができる費用の一つとして、マンションの「取得費」があります。「減価償却費」は、この「取得費」を計算する際に利用されることになります。
1-1.譲渡所得の計算における「取得費」の算出
譲渡所得税のかかる不動産売却の利益(譲渡所得)を計算する式は、次のようになります。
譲渡所得=譲渡価格-(取得費+売却費用)-特別控除
この譲渡所得における取得費は、次のように計算します。
取得価格+取得の際要した費用+取得後の改良費-減価償却費(建物の場合のみ)
取得価格とは、購入時の価格や建物であれば建築費用になります。取得の際要した費用は、仲介手数料・登記費用、登録免許税・不動産取得税・印紙税などの一定の費用となります。
※出典:国税庁「取得費となるもの」
1-2.減価償却費とは
「減価償却費」とは、建物の取得価格のうち、価値が減少した部分です。建物は、使用または経年によって劣化し、価値が減少していくと考え、その使用できる年数にわたって取得価格を費用化していきます。
具体的には、建物の取得価格を耐用年数で割って算出した1年ごとの「減価償却費」が、年数が経過するにつれて積み重なっていくことになります。
「減価償却費」の計算の目的は、事業における損益計算を適正におこない、その建物を使用することで得られる収益に適切に対応させるためのものです。 必ずしも、実際の市場価格の減少分と一致するわけではありません。また、事業用に使用している建物と非事業用の建物とでは、「減価償却費」の計算方法が異なります。
なお、土地については、価値が減少しないと考えられており、減価償却費は計上しません。
2.マンションの「減価償却費」の計算手順
現行税制では、マンションのような建物の「減価償却費」の計算方法は、定額法という方法によることになっています。次の算式によって計算します。
減価償却費=取得価格×定額法の償却率
※出典:国税庁「減価償却資産の償却限度額の計算方法(平成19年4月1日以後取得分)」
平成19年3月31日以前取得の場合、残存価格を考慮することとなるため、次の算式によって計算します。
減価償却費=取得価格×0.9×定額法の償却率
※出典:国税庁「減価償却資産の償却限度額の計算方法(平成19年3月31日以前取得分)」
また、償却率は建物の耐用年数に応じて決められており、建物の構造や用途によって変わってきます。
2-1.建物部分の取得価格の算出
マンション購入時の売買契約書から、建物部分の価格を確認して利用します。マンションの価格は、建物部分と土地部分の価格から構成されているため、建物部分の価格のみを抽出するようにしましょう。
ただし、購入時中古マンションとして購入している場合、建物部分の金額が明確に区分されていない場合もあります。そのような場合は、自分で建物部分の金額を推計することが必要になります。
建物部分の価格割合を把握する方法として最も多いのは、固定資産税の明細書に記載された土地と建物の評価額を基に、購入価格の総額を按分する方法です。その他、 建物建築時の標準的な建築価格単価に、建物の床面積を乗じて算出する方法もあります。
2-2.耐用年数は建物の構造、用途によって異なる
主な建物の減価償却費の計算における定額法の償却率は、建物の構造、用途によって定められた耐用年数に応じて下表のようになっています。
業務用(投資用)の建物の耐用年数
構造 | 耐用年数 | 償却率 |
---|---|---|
木造(住宅用・店舗用) | 22年 | 0.046 |
木造(事務所用) | 24年 | 0.042 |
木骨モルタル造(住宅用・店舗用) | 20年 | 0.05 |
木骨モルタル造(事務所用) | 22年 | 0.046 |
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造(住宅用) | 47年 | 0.022 |
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造(事務所用) | 50年 | 0.02 |
れんが造・石造・ブロック造(住宅用・店舗用) | 38年 | 0.027 |
れんが造・石造・ブロック造(事務所用) | 41年 | 0.025 |
金属造(住宅用・店舗用)(骨格材4mm超) | 34年 | 0.03 |
金属(住宅用・店舗用)(骨格材3mm超4mm以下) | 27年 | 0.038 |
金属(住宅用・店舗用)(骨格材3mm以下) | 19年 | 0.053 |
金属造(事務所用)(骨格材4mm超) | 38年 | 0.027 |
金属造(事務所用)(骨格材3mm超4mm以下) | 30年 | 0.034 |
金属造(事務所用)(骨格材3mm以下) | 22年 | 0.046 |
※出典:国税庁「減価償却資産の償却率表」
非業務用(自己居住用)の場合の減価償却の計算方法と償却率
非業務用の建物、すなわち、自己居住用として利用していた建物の減価償却の計算式、償却率は、上述してきた計算方法、償却率とは異なり、次のようになります。
減価償却費=取得価格×0.9×定額法の償却率
構造 | 耐用年数 | 償却率 |
---|---|---|
木造 | 33年 | 0.031 |
木骨モルタル造 | 30年 | 0.034 |
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造 | 70年 | 0.015 |
れんが造・石造・ブロック造 | 57年 | 0.018 |
金属造(骨格材4mm超) | 51年 | 0.020 |
金属造(骨格材3mm超4mm以下) | 40年 | 0.025 |
金属造(骨格材3mm以下) | 28年 | 0.036 |
※出典:国税庁「「減価償却費」の計算について」
2-3.非業務用(自己居住用)マンションの減価償却費の計算例
マンションの減価償却費の具体的な計算例をみてみましょう。新築で購入し、自己居住用として10年利用していた場合で、次のような条件のマンションを考えてみます。
- 建物取得価格:2,000万円
- 経過年数:10年
- 構造・用途:鉄筋コンクリート・自己居住用
このマンションは自己居住用として利用していたため、耐用年数は、非業務用の表を用います。非業務用の耐用年数表によると、鉄筋コンクリート造建物の耐用年数は70年、償却率は0.015となっていることから、償却率はこの数字を用います。
取得価格、償却率の数字を、非業務用の減価償却費の算式に当てはめると、次のように計算できます。
減価償却費=2,000万円×0.9×0.015×10年=270万円
3.中古マンションの減価償却費
中古マンションの減価償却費の計算方法は、自己居住用(非業務用)として利用していた場合は、前述の計算例と変わりません。
しかし、賃貸用などの業務用として利用していた場合、法定耐用年数をそのまま用いるのではなく、中古として取得時の残存耐用年数を見積計算することによって耐用年数を求めます。
3-1.業務用(投資用)マンションの中古見積耐用年数
業務用マンションを中古取得した場合の耐用年数は、法定耐用年数(税法で定められた耐用年数表の耐用年数)と経過年数を一定の算式に当てはめて計算します。法定耐用年数以内の場合と、法定耐用年数を経過している場合とで計算式が異なります。
法定耐用年数を経過していない場合
中古マンションの経過年数が、法定耐用年数以内の場合、次の算式によって耐用年数を計算します。
中古見積耐用年数=法定耐用年数-経過年数+経過年数×0.2
なお、経過年数に0.2を乗じるときに発生した1年未満の端数は切り捨てます。
法定耐用年数を経過している場合
中古マンションの経過年数が、法定耐用年数を経過している場合、次の算式によって耐用年数を計算します。
中古見積耐用年数=法定耐用年数×0.2
なお、1年未満の端数は切り捨て、見積耐用年数の計算結果が2年に満たないときは2年とします。つまり、法定耐用年数を何年超過しているかに関わらず、中古見積耐用年数は2年以上となります。
3-2.業務用マンションを中古で取得した場合の減価償却費計算例
賃貸用として利用していたマンションを、中古で取得した場合の減価償却費の具体的な計算例をみてみましょう。築10年経過時に購入し、賃貸用として5年利用していた場合で、次のような条件のマンションを考えてみます。
- 建物取得価格:2,000万円
- 経過年数(取得時経過年数):15年(10年)
- 構造・用途:鉄筋コンクリート・賃貸用
まず、取得時の耐用年数を見積ります。取得時は築10年で賃貸用として利用していたため、中古見積耐用年数の算式に当てはめると、次のようになります。
耐用年数=47-10+10×0.2=39年
耐用年数が39年の場合の定額法の償却率は、耐用年数表によると0.026となっているため、償却率はこの数字を用いて減価償却費を計算します。経過年数は、中古として取得した時からの年数を用います。
減価償却費=2,000万円×0.026×5年=260万円
4.マンション売却における確定申告の注意点
マンション売却の確定申告の注意点として、取得価格が不明である場合の申告と、譲渡所得税の確定申告で適用を受けることができる様々な税額軽減措置、についてみていきます。
4-1.取得価格が不明な場合、概算取得費制度が適用される
購入時の売買契約書を紛失してしまったり、相続や贈与によって取得したマンションであったりして、購入時の取得費が不明な場合もあります。その場合の取得価格は、売却価格の5%を取得費とする概算取得費の制度が適用されるのが原則です。 (※出典:国税庁「取得費が分からないとき」)
しかし、これでは譲渡所得がかなり大きくなってしまい、実態にそぐわないということも考えられます。そのため、合理的な計算方法によって推計された取得費であれば、認められる可能性もあります。
たとえば、国税不服審判所「(平12.11.16裁決、裁決事例集No.60 208頁)」では、土地取得価格については市街地価格指数、建物取得価格については着工建築物構造別単価を用いることを認めたケースもあります。
ただし、これは一事例であり税務慣行とまでは言えませんので、取得費が不明な場合は、税理士に相談するなどして慎重に計算するようにしましょう。
4-2.譲渡所得税の確定申告では税額軽減措置が利用できることも
譲渡所得税の確定申告では、税額軽減措置が設けられています。特別控除制度として、自分が居住していたマイホームを、住まなくなってから3年以内に売却した場合には、譲渡所得から3,000万円までを控除できる制度があります。 また、マイホームの所有期間が10年を超えている場合、譲渡所得のうち6,000万円までは税率が軽減されます。(※出典:国税庁「マイホームを売ったときの特例」)
買い換えの場合に譲渡所得課税を繰り延べる制度として、一定のマイホームを売却して、その売却価格よりも高い価格のマイホームに買い換えた場合、譲渡所得課税を繰り延べることができます。(※出典:国税庁「マイホームを売ったときの軽減税率の特例」)
譲渡損失が発生している場合、確定申告義務はありませんが、一定のマイホームの譲渡損失を、給与所得や事業所得などと損益通算し、控除しきれない部分を3年間繰越控除できる制度もあります。 (※出典:国税庁「住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき(特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)」)
このように、譲渡所得税の確定申告では、様々な税額軽減措置があります。適用条件を確認し、該当する場合には、適用を受けることを検討してみましょう。
まとめ
マンションを売却した場合に譲渡所得の取得費を計算する際、マンションの減価償却費を算出する必要があります。
減価償却費は、マンションの建物取得価格に償却率を乗じることによって計算します。償却率は耐用年数に応じて決められていますが、この耐用年数は、建物の構造、用途によって異なります。
売却するマンションの構造、用途から、耐用年数表を参照して償却率を求めるようにしましょう。自己居住用の場合と賃貸用の場合とで、減価償却費の計算式が異なる点に注意が必要です。また、賃貸用のマンションを中古で取得している場合、耐用年数の見積計算が必要になることにも留意しましょう。
確定申告の際は、適正に税額を抑えることができるよう取得価格が不明である場合の概算取得費制度や、譲渡所得税に適用することができる各種税額軽減措置に留意するとよいでしょう。
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佐藤 永一郎
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