親が山林・農地を保有している場合、「将来相続すべきか否か」「相続後はどうしたら良いのか」と悩まれる方も多いのではないでしょうか。山林・農地が不要であり相続を放棄する際には親の相続財産全てを放棄する必要があります。
相続したい財産がある時は、原則的には山林・農地も共に引き継ぐことになります。あらかじめ山林・農地を相続するメリット・デメリットを知り、いざという時のために検討しておくことが重要となります。
本記事では山林・農地を相続するメリット・デメリット、不要な山林・農地を処分する方法3つを解説していきます。
目次
- 山林・農地を相続するメリット
1-1.他の相続財産を放棄せずに済む
1-2.貸し出し・売却などで収益を得られる可能性がある
1-3.相続税の猶予措置がある
1-4.土地活用ができる - 山林・農地を相続するデメリット
2-1.相続の手続きに手間と時間がかかる
2-2.活用が難しいケースがある
2-3.維持費の支払いと管理義務がある
2-4.子孫にとって負担となってしまう事がある
2-5.法令の制限で活用が難しいことがある
2-6.活用するにはリスクやコストが大きいことがある - 不要な山林・農地を処分する方法3つ
3-1.売却
3-2.寄付・譲渡
3-3.相続土地国庫帰属制度の活用 - まとめ
1.山林・農地を相続するメリット
山林・農地を相続するメリットは以下の4つです。
- 他の相続財産を放棄せずに済む
- 相続税の猶予措置がある
- 貸し出し・売却などで収益を得られる可能性がある
- 土地活用ができる
1-1.他の相続財産を放棄せずに済む
山林や農地が不要な場合、相続放棄という選択肢がありますが相続放棄は親(被相続人)の相続財産全てを放棄しなければなりません。
相続放棄の手続きを行うことで、預貯金や有価証券などプラスの相続財産も相続ができなくなってしまいます。よってプラスの相続財産が多い場合は、相続放棄の手続きをせず相続を承認(単純承認)するメリットが大きいと言えるでしょう。
相続放棄・限定承認・単純承認
被相続人の相続財産に債務が多く、金額が分からない時にはプラスの相続財産の範囲内でマイナスの相続財産を受け継ぐ「限定承認」という選択も可能です。
限定承認・相続放棄は相続開始から3ヵ月以内に家庭裁判所に申し立てます。申し立てが無い時には相続を承認したとみなされ、自動的に相続開始となります。
相続放棄・限定承認・単純承認を検討する際には、相続財産の種類、不要な相続財産を相続する事でかかるコスト、プラスの相続財産の価額などを比考慮しながら相続人全員で検討することが重要です。
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1-2.貸し出し・売却などで収益を得られる可能性がある
エリアによっては、山林は主にキャンプ地として、農地は市民農園として貸し出しを希望する人が存在します。需要が見込めるエリアであれば、売却によって収益を得られる可能性もあります。
ただし、山林や農地の需要は限定的であり、マンションや戸建て住宅などと比較して売却のハードルは非常に高いと言えます。スムーズな貸し出し、売却が出来るとは限らないため、まずは不動産会社に需要や相場の価格帯なども含めて、売却可能かどうか相談してみましょう。
1-3.相続税の猶予措置がある
山林・農地は共に相続税の猶予特例があります。猶予措置を受けるためには、一定の要件を満たす必要があるため、それぞれ見てみましょう。
山林
山林の場合、「特定森林経営計画が定められている区域内」にある山林を相続又は遺贈により取得した相続人が自ら山林経営を行う時に限り、相続税のうち80%程度が「山林納税猶予税額」として猶予の対象となります。(※国税庁「山林を相続した場合の納税猶予の特例」
農地
農地の納税猶予の特例は、農業(又は特定貸付)を営んでいた被相続人から一定の相続人が相続や遺贈によって取得した農地を農業・特定貸付を行う場合が対象です。猶予となる税金の額は、取得した農地の価額のうち「農業投資価格」による価額を超える部分で、山林と同様に一定の要件を満たしたケースに限ります。(※参照:国税庁「委農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例」)
農業投資価格は、国税庁の「路線価図・評価倍率表」で、確認することが可能です。
1-4.土地活用ができる
山林を伐採・整地、農地を整地する事で、駐車場としての貸し出しやトランクルーム経営、太陽光発電装置の設置などの土地活用ができるケースがあります。
ただし、駐車場は人が多く集まる場所で需要が多くなるため、人口が少なすぎるエリアでは経営が成り立たない事があります。また、トランクルームや太陽光発電は設置にコストがかかる点に注意が必要です。
土地の形状によっても活用できない事がありますので、検討している方はまず業者へ相談してみるのも良いでしょう。例えば、「HOME4U(土地活用)」では、土地情報を登録することで複数業者から土地活用のプラン提案を受けることができ、効率的に土地活用方法を比較することが可能です。
HOME4U(土地活用)
HOME4Uはマンション経営やアパート経営、駐車場経営、賃貸併用住宅、大規模施設など土地の活用方法を選択することで、最大10社からの収益最大化プランを比較することできるサービスです。
また、土地の利用規制についてもHOME4Uを通して無料で診断できるため、土地調査の手間を省くことが出来ます。「どのような活用手段があるのか知りたい」「複数の活用手段を比較したい」という場合には、利用を検討してみると良いでしょう。
いずれも事業経営となりますので年間のコストやリターンを試算する必要があります。年間でかかるコストとリターンの収支シミュレーションを行い検討しましょう。
【関連記事】土地活用を始める流れと手順は?3つの成功・失敗事例も紹介
2.山林・農地を相続するデメリット
- 相続の手続きに手間と時間がかかる
- 活用が難しいケースがある
- 維持費の支払いと管理義務がある
- 子孫にとって負担となってしまう事がある
2-1.相続の手続きに手間と時間がかかる
山林・農地の相続は、相続登記と役所への届け出が必要となります。
山林は都道府県が策定する地域森林計画の対象となっている場合、管轄の役所に届出書に権利を取得したことが分かる書類の写し(登記事項証明書や土地売買契約書など)、土地の位置を示す図面を添付して提出します。(※参照:林野庁「森林の土地の所有者届出制度」)
農地は地元の農業委員会に届け出を行います。農地は売却や賃貸、転用する際にもそれぞれ手続きが必要です。(※参照:農林水産省「農地の売買・貸借・相続に関する制度について」)
これらの手続きに加えて、不動産として法務局で所有権移転登記(相続登記)を行わなければなりません。必要書類を集め、法務局に直接持参・郵送・オンラインいずれかの方法で申請を行います。
2-2.活用が難しいケースがある
山林・農地を貸し出す場合、エリアの需要によっては収益が出ない事があります。また、土地として活用する際にも郊外にある山林・農地は活用方法が限られてしまい、管理の手間や設備のコストを勘案するとデメリットが大きいケースもあります。
活用を検討するのであれば、どのようなニーズが見込めるのか、管理をどのように行っていくのか、事前調査が重要となってきます。
2-3.維持費の支払いと管理義務がある
山林・農地といった土地を所有することで、固定資産税が課されます。
また所有者には管理義務があり、管理が十分でない場合には法律や条例に則り行政からの立ち入り調査があり、指導や勧告をされてしまう可能性があります。
自身で行う場合は管理に手間や時間がかかり、管理を委託する際には管理費用を支払わなければいけません。
2-4.子孫にとって負担となってしまう事がある
山林や農地を保有したまま自身が亡くなることで、子供や孫など相続人にとって負担となってしまう可能性があります。
活用して収益を得ているケースでも相続人に活用の意思が無いこともありますので、山林や農地を保有している方は推定相続人(将来相続人となる方)にあらかじめ確認しておくことが重要です。
2-5.法令の制限で活用が難しいことがある
山林や農地は、法令の制限があり活用することが難しい場合があります。たとえば、森林法に基づき、水源涵養や災害防止などの公益的機能のため、保安林制度があります。(※参照:林野庁「保安林制度」)
保安林の指定を受けていると、立木の伐採や土地の形質変更が制限されます。このような山林を開発し、活用するのは難しいケースもあります。
また、農地の転用についても、農地法に基づき規制がなされています。農地を農地以外に利用するには、農業委員会を通じて転用許可を得る必要があります。
2-6.活用するにはリスクやコストが大きいことがある
農地や山林を農業や林業に活用する場合、リスクやコストが大きいことがあります。農業や林業は、売上が異常気象のような自然の影響を受けやすいというリスクがあります。また、台風、河川の氾濫、がけ崩れなど、自然災害が発生して大きな損失を追うリスクもあります。
コスト面では、大規模な開発が必要であり、設備投資や開発作業そのものに多大なコストがかかる可能性があります。
3.不要な山林・農地を処分する方法3つ
山林・農地が不要な際の処分方法は主に以下の3つです。
3-1.売却
不要な土地は売却する事でコストの支払いや管理義務を負わずに済みます。
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【関連記事】不動産査定会社・不動産売却サービスのまとめ・一覧
3-2.寄付・譲渡
国では行政目的に使用できる土地の寄付を受け付けています。地方自治体でも自治体の定める基準をクリアした場合、土地の寄付が可能です。
農地や山林は、近隣の土地を所有している人にとって面積を拡張できるため、話し合いによって譲渡できる可能性もあります。ただし、土地の価額によっては譲渡所得税が課されてしまうことや、需要がない土地だと受け付けてもらえない可能性があることに注意が必要です。
3-3.相続土地国庫帰属制度の活用
2023年4月27日から「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が施行され、一定の要件を満たすことで相続・遺贈によって得た土地を国庫に帰属させる事が可能となります。建物が建っていない、権利関係の争いが無いなど条件を満たす土地は法務局に申請を行い、審査を通過した後10年分の土地管理費相当額の負担金を支払う事で国庫に帰属できます。
ただし、相続土地国庫帰属制度では、管理が大変な土地や有体物がある土地、所有権に基づく使用や収益が妨害されている土地などは、国庫帰属を認めておらず申請しても承認されません。また、負担金についても、帰属させたい土地の面積に応じて計算され、200㎡の宅地では79万3,000円、1,000㎡の田畑では112万8,000円と高額になります。(※参照:法務省「相続土地国庫帰属制度のご案内」)
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まとめ
山林・農地は相続によって他の相続財産を放棄せずに済む、相続税の猶予措置の特例があるなどのメリットがある一方で、活用が難しいケースがある、管理・維持に手間やコストがかかるなどのデメリットが存在します。
エリアによって需要や価値が異なりますので、相続する前に地元の不動産会社に相談し需要や相場を把握しておくと良いでしょう。需要が見込みづらい土地の場合は、相続放棄など様々な視点から慎重に検討されてみて下さい。
佐藤 永一郎
田中 あさみ
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