法人の代表や役員が亡くなり法人名義の不動産を個人の相続人が受け継ぐ場合、単純に不動産名義を移転するだけでなく、不動産を法人に残したままその不動産にかかる実質的な権利を相続する方法が考えられます。方法によっては、税制の取扱いが複雑になるので注意が必要です。
この記事では、法人名義の不動産を相続する方法と課される税金の取扱い、建物と土地の名義分かれているケースの注意点について解説していきます。
※記事内の税制内容は2024年5月時点の情報となります。最新の情報については、国税庁などのサイトをご確認のうえ、税理士などの専門家へのご相談もご検討ください。
目次
- 法人名義の不動産を相続した場合に課される税金
1-1.法人の株式を相続人が相続する
1-2.法人から相続人に不動産を譲渡する - 法人の株式を相続人が相続する方法と手順・相続税
2-1.相続人、相続財産の調査
2-2.遺産分割協議
2-3.相続人への名義変更
2-4.相続税の申告納付を行う - 法人から相続人に不動産を譲渡する方法と手順・税金と申告
3-1.必要書類を集める
3-2.所有権移転登記の手続きを行う
3-3.法人から相続人に不動産を譲渡した場合の税金と申告 - 建物と土地の名義が分かれているケースの注意点
- まとめ
1.法人名義の不動産を相続した場合に課される税金
法人名義の不動産を相続する方法は、大きく2つの方法に分かれます。1つは、法人の株式を相続人が相続する方法、もう1つは法人から相続人に不動産を譲渡する方法になります。
- 法人の株式を相続人が相続する:株式に対する相続税
- 法人から相続人に不動産を譲渡する:不動産に対する所得税
相続税法では個人間の取引が対象となることから、個人が法人から受け継いだ財産に対して基本的に相続税は課されません。不動産を法人名義にしており、個人に相続する場合には「不動産の譲渡」として相続税ではなく所得税が課されます。
それぞれの違いを詳しく見て行きましょう。
1-1.法人の株式を相続人が相続する
不動産を所有している法人が、被相続人1人あるいはその親族のみで構成されるような同族会社である場合、法人名義の不動産を相続する方法としては、法人の株式を相続人が相続するという方法が主流です。
特に、不動産を所有している法人がその不動産をその法人の事業に利用している場合、その不動産を相続人同士で分割してしまっては事業運営に支障をきたすことがあります。法人の運営する事業を継続するという観点から不動産は法人に残し、相続人は法人の株式のみを相続し、不動産にかかる収益を受け取る権利や処分権を相続することになります。
この場合、相続人が相続した株式が相続財産になり、相続税が課されます。
1-2.法人から相続人に不動産を譲渡する
法人名義の不動産がその法人の主要な事業に関わらない不動産であり、その法人が被相続人の同族会社でもないような場合には、法人から相続人に不動産を譲渡してもらう方法もあります。
この場合、不動産の所有権が相続人個人に移転することになり、名義についても相続人個人に変更することになります。なお詳細は後述しますが、法人名義の不動産相続に関して相続税のかかるような相続は発生せず、相続税は課税されません。
社団法人・一般財団法人の理事が亡くなった時には相続税が課される可能性がある
人格のない社団や財団、持分の定めのない法人などに対して、一定の要件を満たした場合相続税が課される事があります。
一般社団法人又は一般財団法人の理事(理事でなくなった日から5年を経過していない者を含む)が亡くなった場合には、一定の金額が理事から遺贈により取得したものであり、一般社団法人・財団法人を個人とみなして相続税が課されます
2.法人の株式を相続人が相続する方法と手順・相続税
法人の株式を相続人が相続し、法人名義の不動産にかかる収益を受け取る権利や処分権を相続する場合、基本的には通常の相続手続きに沿って相続することになります。遺産分割協議がまとまった段階で、株式の名義移転を行い、最後に相続税の申告納付をすることになります。
2-1.相続人、相続財産の調査
遺産相続手続きにおいて最初におこなう必要があるのが、相続人の調査です。民法では、法定相続人の順位や範囲が定められています。被相続人の遺産を相続する権利が誰にどれくらいの法定割合であるのかを調査します。
調査方法は、被相続人の出生から死亡までの戸籍によって親戚関係をたどっていきます。この際、本籍が所在する自治体が発行する戸籍謄本、除籍謄本などを取り寄せることになります。
相続人の調査と並行して、被相続人の相続財産の調査をおこないます。相続対象となる財産には、不動産のほか、現預金、有価証券、事業にかかわる売掛金、貸付金などといったものがあります。プラスの財産以外に、借入金や事業上の買掛金などマイナスの財産も相続対象となります。
2-2.遺産分割協議
遺言の有無を確認し、公正証書遺言や検認を受けた自筆証書遺言などがあれば、その遺言にしたがって遺産分割をおこないます。
そのような遺言書がなければ、相続人全員が、遺産を誰にどれくらい分けるか、について話し合いをおこないます。これを遺産分割協議と言い、協議がまとまったら、その合意内容に相続人全員が署名押印し、遺産分割協議書として書面化して、後日トラブルが起きないようにします。
なお、遺言書がありすべての遺産について、誰が何を取得するのか指定されている場合、遺産分割協議は不要ですが、相続人全員の同意があれば、遺言と異なる内容で遺産分割することも可能です。
2-3.相続人への名義変更
株式を相続した相続人は、株主名簿の書き換えを行い、株式の名義を相続人に変更することになります。株式発行会社に株式を相続した旨連絡をして、名義書き換えの依頼をします。株式発行会社が株式名簿管理人を置いている場合には、株主名簿管理人に連絡をします。
おおむね、名義変更には以下のような書類が必要となります。
- 株式名義書換請求書
- 株券
- 相続関係を明らかにする戸籍謄本など
- 相続人全員の印鑑証明書
- 遺産分割協議書
2-4.相続税の申告納付を行う
相続開始を知った日から10カ月以内に、遺産分割協議の内容に基づき、相続税の申告と納付をおこないます。相続税額は、「相続財産の課税価格―基礎控除額」を、各法定相続人が法定相続分に従って取得したものとして、各法定相続人の取得金額を求め、それぞれに累進税率を乗じて算出されます。遺産分割協議が終了していなくても、法定相続分を下に手続きと計算をおこないます。
ただし、遺産分割が終了していない場合、一部の税額控除の特例を利用できないため、特例を適用した税金計算をやり直す必要があるケースもあります。
3.法人から相続人に不動産を譲渡する方法と手順・税金と申告
法人名義の不動産を変更するためには、法務局で所有権移転登記の手続きを行います。
- 必要書類を集める
- 所有権移転登記の手続きを行う
- 必要に応じて税金の申告を行う
3-1.必要書類を集める
不動産の名義変更を行うためには、以下の書類が必要となります。
- 登記申請書
- 登記識別情報又は登記済証
- 登記原因証明情報:法人との贈与契約書又は登記の原因となった事実・行為、権利変動が生じたことを証明する情報
- 印鑑証明書(不動産を譲渡した者の印鑑証明書)※申請時に法務局に印鑑を登録している法人の代表者が記名・押印しており、会社法人等番号を申請情報の内容とする際には「印鑑証明書(会社法人等番号○○○○-○○-○○○○○○)」と記載することで、当該法人の代表者の印鑑証明書の添付を省略することができます。
- 不動産を取得する方の住民票の写し
- 委任状(代理人が申請する場合)
登記識別情報・登記済証を何らかの理由で提出できない際には、「不通知・失効・失念・管理支障・取引円滑障害・その他」から該当するものを選びチェックマークを付けます。
手続きの際には登記原因証明情報の提出が必要になりますが、法人からの不動産譲渡を贈与として「贈与契約書」を交わして書面化し、提出することで後のトラブルを防げる可能性が高くなります。
契約書を交わさない時には登記の原因となった事実・行為、権利変動が生じたことを証明する情報を提出します。なお書類を集める事が難しい時には、司法書士といった専門家に依頼することで収集できることがあります。
登録免許税は、贈与による土地・建物共に所有権移転登記の際には「役所で管理している固定資産課税台帳の価格×2%」が課されます。住宅用家屋の場合には一定の要件を満たすことで軽減される可能性があります。
登録免許税は、収入印紙を貼り付けた用紙を申請書と一緒につづることで納めます。
3-2.所有権移転登記の手続きを行う
必要書類を法務局に直接持参、郵送、オンラインの3つの申請方法から選びます。法務局は平日の8時30分~17時15分が業務の取り扱い時間で、窓口に書類を持参します。
法務局へ行くことが難しい方は、郵送・オンライン申請が可能です。郵送で申請する際には、申請書と必要書類を入れた封筒に「不動産登記申請書在中」と記載し、書留郵便で送付します。
還付を希望する書類で郵送による返却を希望する方は、宛名を記載した返信用封筒と書留郵便のための切手を同封しましょう。
オンラインでは「登記・供託オンライン申請システム」で専用のソフトをダウンロードし申請する事が出来ます。ただしアップロードできる書類が限られおり、郵送で送付する可能性がある点に注意しましょう。オンライン申請システムの利用時間は平日の8時30分~21時までとなっています。
【関連記事】親の土地を名義変更する手順は?必要書類や費用、税金についても
3-3.法人から相続人に不動産を譲渡した場合の税金と申告
相続税法では個人間の取引が対象となることから、個人が法人から受け継いだ財産に対して基本的に相続税は課されません。法人から個人に相続する場合には「不動産の譲渡」として相続税ではなく所得税が課されます。
所得は10種類に分類され、それぞれの所得で計算方法が異なりますが、法人から譲り受けた財産は「一時所得」に分類されます。ただし業務に関するもの、継続的に受けるものは一時所得には該当しません。
譲渡された方が法人の一員である場合には給与所得とみなされる可能性もあります。例えば、法人が不動産を役員(法人の取締役、執行役、監査役、理事など)に無償で譲渡した場合、実質的に給与を支給したと同様の経済的効果があったものとして「給与所得」に分類されます。
法人側には、不動産を時価で売却したとみなされ、法人税が課される可能性があります。不動産の売却価格(時価)から取得に関わる費用(建築費や購入費)と印紙税といった譲渡に関わる費用を差し引いた金額が譲渡益となり、法人税率をかけ計算されます。
個人の確定申告だけでなく法人側の会計処置も必要となり、複雑な会計処理と税務上の知識が必要となります。誤って過少申告を行ってしまうと追徴課税などのペナルティを負う可能性もあるため、税理士や会計士など専門家への依頼も検討しましょう。
なお、人格のない社団や財団、持分の定めのない法人などに対して一定の要件を満たした場合、相続税が課される事があります。一般社団法人又は一般財団法人の理事(理事でなくなった日から5年を経過していない者を含む)が亡くなった場合には、一定の金額が理事から遺贈により取得したものであり、一般社団法人・財団法人を個人とみなして相続税が課されます。
4.建物と土地の名義が分かれているケースの注意点
土地と建物の所有者が個人と法人で別れている際には、個人と法人の間で土地の賃貸借契約が交わされ、借地権という権利が設定されています。借地権の設定の対価として「権利金」が支払われるような会計処理になっていることが多いでしょう。
借地権設定更新・更改・譲渡・返還の時には税金が課されますが、権利金の金額や地代の設定金額などによって異なります。よって建物と土地の所有権が個人・法人で異なる場合には、賃貸借契約の内容や土地の無償返還に関する届け出の有無、権利金や地代収入などを確認する必要があります。
ただし、法人によっては賃貸借契約を交わしていない、借地権・権利金に関する会計処理をしていないなどのケースがあります。このようなケースでは、弁護士や税理士などの専門家に相談してみると解決できることがあるため、依頼を検討してみましょう。
税理士紹介エージェント
税理士紹介エージェントは、インターネットを活用した税理士紹介サービスです。エージェントに希望条件を伝えることでニーズマッチした税理士を探してもらうことができ、税理士の選定や面談の設定などもエージェントに任せることが可能です。
税理士ドットコム
税理士ドットコムは、全国5,900名の税理士の中から無料で希望に沿った税理士を紹介してもらえるウェブサービスです。複数の税理士を比較することができるうえ、「費用はいくら?」「どんな税理士を選ぶべき?」といった税理士を選ぶ際の相談も可能となっています。
まとめ
法人名義の不動産を相続する方法は、法人の株式を相続する方法と、法人から個人に不動産の名義を移転する方法とで、手続きが大きく異なります。
被相続人の法人への支配形態や、法人の事業状況、相続人の状況などに応じて、適した方法を選択しましょう。特に、法人から個人に名義を移転する場合には、所得税が課される可能性が高く、法人側でも法人税が課される可能性があり、税制面の取扱いが複雑になります。必要に応じて税理士に相談することを検討しましょう。
佐藤 永一郎
田中 あさみ
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