法人の代表や役員が亡くなり法人名義の不動産を個人が受け継ぐ場合、法人名義の不動産は法人の財産となりますので、個人から財産を相続する時と相続の方法や課される税金の種類が異なります。
本記事では、法人名義の不動産を相続した場合に課される可能性のある税金、不動産の名義変更の方法、建物と土地の名義が分かれているケースの注意点について解説していきます。
目次
- 法人名義の不動産を相続した場合に課される税金
1-1.一定の法人の理事が亡くなった時には相続税が課される可能性がある - 法人名義の不動産を取得する方法
2-1.必要書類を集める
2-2.所有権移転登記の手続きを行う
2-3.税金の申告を行う - 建物と土地の名義が分かれているケースの注意点
- まとめ
1.法人名義の不動産を相続した場合に課される税金
相続税法では個人間の取引が対象となることから、個人が法人から受け継いだ財産に対して基本的に相続税は課されません。不動産を法人名義にしており、個人に相続する場合には「不動産の譲渡」として相続税ではなく所得税が課されます。
所得は10種類に分類され、それぞれの所得で計算方法が異なりますが、法人から譲り受けた財産は「一時所得」に分類されます。ただし業務に関するもの、継続的に受けるものは一時所得には該当しません。
譲渡された方が法人の一員である場合には給与所得とみなされる可能性もあります。例えば、法人が不動産を役員(法人の取締役、執行役、監査役、理事など)に無償で譲渡した場合、実質的に給与を支給したと同様の経済的効果があったものとして「給与所得」に分類されます。
法人側には、所得税法により不動産を時価で売却したとみなされ、「みなし譲渡所得」として譲渡所得税が課される可能性があります。不動産の売却価格(時価)から取得に関わる費用(建築費や購入費)と印紙税といった譲渡に関わる費用を差し引いた金額が譲渡所得となり、所有期間によって一定の税率をかけ計算されます。
個人の確定申告だけでなく法人側の会計処置も必要となり、複雑な会計処理と税務上の知識が必要となります。誤って過少申告を行ってしまうと追徴課税などのペナルティを負う可能性もあるため、税理士や会計士など専門家への依頼も検討しつつ、相続を進めて行きましょう。
【関連記事】不動産の相続に強い税理士の探し方・選び方は?相場や相談方法も
1-1.一定の法人の理事が亡くなった時には相続税が課される可能性がある
人格のない社団や財団、持分の定めのない法人などに対して、一定の要件を満たした場合相続税が課される事があります。
一般社団法人又は一般財団法人の理事(理事でなくなった日から5年を経過していない者を含む)が亡くなった場合には、一定の金額が理事から遺贈により取得したものであり、一般社団法人・財団法人を個人とみなして相続税が課されます。
2.法人名義の不動産を取得する方法
法人名義の不動産を変更するためには、法務局で所有権移転登記の手続きを行います。
- 必要書類を集める
- 所有権移転登記の手続きを行う
- 必要に応じて税金の申告を行う
2-1.必要書類を集める
不動産の名義変更を行うためには、以下の書類が必要となります。
- 登記申請書
- 登記識別情報又は登記済証
- 登記原因証明情報:法人との贈与契約書又は登記の原因となった事実・行為、権利変動が生じたことを証明する情報
- 印鑑証明書(不動産を譲渡した者の印鑑証明書)※申請時に法務局に印鑑を登録している法人の代表者が記名・押印しており、会社法人等番号を申請情報の内容とする際には「印鑑証明書(会社法人等番号○○○○-○○-○○○○○○)」と記載することで、当該法人の代表者の印鑑証明書の添付を省略することができます。
- 不動産を取得する方の住民票の写し
- 委任状(代理人が申請する場合)
登記識別情報・登記済証を何らかの理由で提出できない際には、「不通知・失効・失念・管理支障・取引円滑障害・その他」から該当するものを選びチェックマークを付けます。
手続きの際には登記原因証明情報の提出が必要になりますが、法人からの不動産譲渡を贈与として「贈与契約書」を交わして書面化し、提出することで後のトラブルを防げる可能性が高くなります。
契約書を交わさない時には登記の原因となった事実・行為、権利変動が生じたことを証明する情報を提出します。なお書類を集める事が難しい時には、司法書士といった専門家に依頼することで収集できることがあります。
登録免許税は、贈与による土地・建物共に所有権移転登記の際には「役所で管理している固定資産課税台帳の価格×2%」が課されます。住宅用家屋の場合には一定の要件を満たすことで軽減される可能性があります。
登録免許税は、収入印紙を貼り付けた用紙を申請書と一緒につづることで納めます。
2-2.所有権移転登記の手続きを行う
必要書類を法務局に直接持参、郵送、オンラインの3つの申請方法から選びます。法務局は平日の8時30分~17時15分が業務の取り扱い時間で、窓口に書類を持参します。
法務局へ行くことが難しい方は、郵送・オンライン申請が可能です。郵送で申請する際には、申請書と必要書類を入れた封筒に「不動産登記申請書在中」と記載し、書留郵便で送付します。
還付を希望する書類で郵送による返却を希望する方は、宛名を記載した返信用封筒と書留郵便のための切手を同封しましょう。
オンラインでは「登記・供託オンライン申請システム」で専用のソフトをダウンロードし申請する事が出来ます。ただしアップロードできる書類が限られおり、郵送で送付する可能性がある点に注意しましょう。オンライン申請システムの利用時間は平日の8時30分~21時までとなっています。
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2-3.税金の申告を行う
税金の申告・納付を行います。サラリーマンの場合、所得(不動産の時価-取得に関わる費用)が20万を超える時には確定申告が必要となります。法人側にも譲渡所得税がかかる可能性があります。
3.建物と土地の名義が分かれているケースの注意点
土地と建物の所有者が個人と法人で別れている際には、個人と法人の間で土地の賃貸借契約が交わされ、借地権という権利が設定されています。借地権の設定の対価として「権利金」が支払われるような会計処理になっていることが多いでしょう。
借地権設定更新・更改・譲渡・返還の時には税金が課されますが、権利金の金額や地代の設定金額などによって異なります。よって建物と土地の所有権が個人・法人で異なる場合には、賃貸借契約の内容や土地の無償返還に関する届け出の有無、権利金や地代収入などを確認する必要があります。
ただし、法人によっては賃貸借契約を交わしていない、借地権・権利金に関する会計処理をしていないなどのケースがあります。このようなケースでは、弁護士や税理士などの専門家に相談してみると解決できることがあるため、依頼を検討してみましょう。
税理士ドットコム
税理士ドットコムは、全国5,900名の税理士の中から無料で希望に沿った税理士を紹介してもらえるウェブサービスです。複数の税理士を比較することができるうえ、「費用はいくら?」「どんな税理士を選ぶべき?」といった税理士を選ぶ際の相談も可能となっています。
4.まとめ
法人名義の不動産を受け継ぐ際には、基本的に所得税が課され、受け継ぐ方が法人の役員であり不動産が無償で譲渡された場合には給与所得とみなされます。
ただし一定の法人の理事が亡くなった時には要件を満たした時に相続税が課される点に注意しましょう。名義変更は、所有権移転登記の手続きを法務局の窓口・郵送・オンラインのいずれかの方法で行い、必要に応じて税金を申告・納付します。
この記事を参考に法人名義の不動産を受け継ぐ方法や税金などについて知り、今後に活かしていきましょう。
田中 あさみ
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