相続不動産の登記は、相続人全員から必要書類を集める必要などもあり、手続きが面倒です。また、いざ相続登記しようという段階になって、登記したことで相続税がかかるのではないか、と二の足を踏んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
相続人間で遺産分割の合意が得られていれば、敢えて登記する必要もないと考える方もいます。しかし、相続登記を未了のまま放置することは様々なリスクがあります。
本記事では、昔相続した不動産の相続登記をしたら相続税はかかるのかという点と、相続未登記のリスクについて解説します。
目次
- 相続した不動産の相続登記をしたら相続税がかかるのか
1-1.相続税の納税義務者と納付期限
1-2.相続登記の期限と令和6年改正 - 相続した不動産を未登記のままにしておくリスク
2-1.相続人が増えて権利関係が複雑になる
2-2.相続した不動産の売却が難しくなる
2-3.相続した不動産に担保設定をして融資を受けることができない
2-4.相続した不動産から発生する収益の一部を取得できない可能性がある
2-5.相続した不動産の所有権を第三者に主張することができない
2-6.令和6年改正後は過料が科される - まとめ
1.相続した不動産の相続登記をしたら相続税がかかるのか
以前相続した不動産の相続登記をしたら、その登記した時点で相続税がかかることはあるのでしょうか。
日本では、憲法の保障する租税法律主義の下、すべての租税については法律の定めるところにより課せられる必要があるとされています。(※憲法84条)そこで、相続した不動産にかかる相続税は、法令ではいつ誰に対して課せられると定められているのかをみていきましょう。
また、相続登記に関する法律の規定について、現行の取扱いと令和6年の改正にも言及します。
1-1.相続税の納税義務者と納付期限
相続税の納税義務者は、相続税法によって決められています。相続や遺贈により財産を取得した人で、財産をもらった時に日本国内に住所を有している人に対して、相続税がかかって来ます。(※参照:国税庁「相続税がかかる場合」)
相続税の納付期限も、相続税法によって定められています。相続税の納付期限は、相続税の申告期限と同じであり、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10カ月以内となっています。
つまり、相続税は相続税法に定められた人が定められたタイミングで納付する税金であり、相続登記をおこなうことは相続税の申告や納付の条件とはなっていません。したがって、昔相続した不動産について相続登記をすることと、相続税の納税とはまったく関係がないといえます。
1-2.相続登記の期限と令和6年改正
2022年3月時点、相続登記は法律で義務付けられているわけではありません。したがって、相続登記にはいつまでにしなければならないという期限もありません。
しかし、令和6年(2024年)4月1日以降、不動産登記法が改正され、相続登記が法律で義務付けられることになります。新しい制度では、不動産を取得した相続人は、取得を知った日から3年以内に相続登記をしなければならず、正当な理由なく相続登記をしなかった場合には過料が科せられることになります。(※参照:法務省「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し」)
【関連記事】相続登記の義務化はいつから?新制度の内容と不動産相続の注意点も
2.相続した不動産を未登記のままにしておくリスク
相続した不動産について、相続登記をおこなわないままにしておくことは、次のようなリスクがあります。
- 相続人が増えて権利関係が複雑になる
- 相続した不動産の売却が難しくなる
- 相続した不動産に担保設定をして融資を受けることができない
- 相続した不動産から発生する収益の一部を取得できない可能性がある
- 相続した不動産の所有権を第三者に主張することができない
- 令和6年改正後は過料が科される
以下、詳しくみていきましょう。
2-1.相続人が増えて権利関係が複雑になる
相続登記をせずに放っておいた場合、被相続人の相続人の一人が亡くなってしまうことがあります。そうすると、この亡くなった相続人の子などが相続人になります。
相続人の子が複数いる場合、相続人は増えることになります。このように、長期間相続登記をせずに放っておくと、代襲相続が進み、相続人が増えていく可能性があります。
このように次世代の相続が発生し相続人が増えると、権利関係が複雑化していき、相続手続きをおこなうための遺産分割協議がまとまりにくくなります。遺産分割協議をおこなっている間に、協議中の相続人が亡くなってさらに代襲相続がなされることもあり、相続人が増えるにつれて権利関係は複雑になっていく傾向があります。
2-2.相続した不動産の売却が難しくなる
相続不動産を売却する場合、買主に所有権移転登記をおこなうには、相続人への相続登記が必須となります。このため、相続登記が未了であると、買主側からすると、所有権移転登記ができるのかが不確定であり、購入しにくい物件となってしまいます。
不動産売買の媒介をおこなう不動産業者の立場からも、相続未登記の不動産は売主の特定や売却意思の確認が難しいため、扱いにくい物件です。ただし、相続登記が完了していなくても、遺産分割協議が完了していれば売却は可能です。
【関連記事】未登記の不動産を売却する方法は?手順やポイントを詳しく解説
2-3.相続した不動産に担保設定をして融資を受けることができない
相続した不動産を担保にして融資を受けようとする場合、融資をする金融機関はその不動産を担保とするために抵当権設定登記をおこないます。
不動産に抵当権設定登記をおこなうには、その不動産の所有権移転登記が完了していることが前提となります。このため、相続登記が未了であると抵当権設定登記ができないことになり、相続した不動産に担保設定をして融資を受けることができません。
2-4.相続した不動産から発生する収益の一部を取得できない可能性がある
相続した不動産が収益物件であった場合、その収益物件から生じる賃料などの収益が相続人同士でどのように分割されるのが問題となります。
遺産は、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属すると解されています。そのため、遺産分割前の相続不動産から生じる賃料は、法定相続分に応じた配分をすると考えられています。
すなわち、相続した不動産について相続人同士のトラブルが発生した場合、相続登記が未了であるとその不動産から生じる賃料などの収益についても、すべては取得できない可能性があります。
2-5.相続した不動産の所有権を第三者に主張することができない
相続した不動産の所有権を第三者に対して主張するには、登記をおこなう必要があります。相続した不動産が未登記であると、第三者に対して自分の所有権を主張できないため、様々なリスクが生じます。
たとえば、他の相続人に債務がある場合、その債権者から相続不動産の法定相続分を差し押さえられる可能性もあります。
2-6.令和6年改正後は過料が科される
前述したように、令和6年4月1日以降、相続人には、相続による取得を知った日から3年以内に、相続登記が義務付けられることになりました。正当な理由なく相続登記をしなかった場合、過料が科せられることになります。
まとめ
相続税の納税義務者と納付期限は、相続税法によって規定されています。相続税法では、不動産の相続登記が相続税の申告、納付の条件とはなっていません。したがって、相続登記したからといって相続税はかかりません。
2022年3月時点の現行法令では、相続登記に特に期限はありませんが、令和6年4月1日以降、相続登記は3年以内におこなうことが義務化されます。
相続登記を未了のまま放置することは、相続不動産の権利を第三者に主張することができず、様々なリスクがあります。また、代襲相続がおこなわれると、権利関係が複雑になってしまいます。
相続不動産の未登記は、リスクが大きいといえます。法令でも義務化され、未登記には過料も科せられるようになります。リスクを考慮し、早めの登記を心がけるようにしましょう。
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佐藤 永一郎
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