2021年4月に不動産登記法・民法の一部改正・相続土地国庫帰属法の創設が成立・公布され、相続登記の義務化、不要な土地を国に帰属する制度が発足することが決定しました。不動産登記法の改正により取得を知った日から3年以内に相続登記の申請が義務付けられます。
本記事では、相続登記義務化の背景、新しい制度の内容、不動産相続にあたっての注意点を解説していきます。
目次
- 相続登記義務化の背景
- 法改正と相続土地国庫帰属法の内容
2-1.相続登記の義務化・不動産登記制度の見直し
2-2.相続土地国庫帰属法の創設
2-3.所有者不明土地管理制度・管理不全土地管理制度の創設 - 法改正後の不動産相続の注意点
3-1.相続・遺贈の際は必ず登記を行う
3-2.相続土地国庫帰属制度の利用
3-3.管理不全土地管理制度について - まとめ
1.相続登記義務化の背景
2021年4月に不動産登記法の改正案が成立し相続登記・住所変更登記の申請義務化が実施されることになり、同時に相続土地国庫帰属法と土地利用に関連する民法の規律の見直しが成立・公布となりました。(※参照:法務省「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し」)
相続土地国庫帰属法と不動産登記法・民法の一部改正は2023年4月から施行され、2024年4月から相続登記が義務化されます。
相続登記義務化の背景には、所有者不明の土地が増加していることが挙げられます。2016年度の国土交通省「所有者不明土地の実態把握の状況について」によると、1,130地区(558市区町村)の地籍調査(土地所有者の調査)にて、 登記簿上では所在不明の土地が全体の約20%に及びました。
その内66.7%は、相続時に所有権移転の手続き(登記)を行っていないことが未登記の要因です。このような未登記の不動産は自治体で所有者を把握できず公共事業が進まないといった問題が生じます。加えて登記していない建物・土地は管理がされていない、管理不全のケースが多く、空き家増加の要因となっています。
管理不全状態の所有者不明土地の事例
2.法改正と相続土地国庫帰属法の内容
法改正と相続土地国庫帰属法の内容について詳しくみて行きましょう。要点は下記の3点となります。
- 相続登記の義務化・不動産登記制度の見直し
- 相続土地国庫帰属法の創設
- 所有者不明土地管理制度・管理不全土地管理制度の創設
2-1.相続登記の義務化・不動産登記制度の見直し
所有者不明の土地発生を予防するために、不動産登記法が一部改正となり相続登記や住所変更時には取得を知った日から3年以内の登記が義務化となります。
前述したように、現行の法律では相続が発生しても、相続登記の申請は義務ではないことから土地の価格が低い場合、相続登記を行わない事例が多いという問題があります。
相続登記の申請を義務付けると同時に、申請人の負担を軽減する手続きの簡素化、氏名・住所のみの相続人申告登記の新設などが検討されています。
現行の不動産登記法では、土地や建物の表題登記(土地・建物の所在・地番・家屋番号・面積などを登記情報として登録)、変更があった際の申請が義務づけられおり違反した者は10万円以下の過料(違反者への制裁金)を定めています。
過去の法務省・法制審議会(法務に関する事項を調査・審議する組織)の会議では、相続登記に関しても同様に過料を定めるという意見がありましたが、登記に関わる費用を考えると現実的ではないことから過料以外の不利益を課す案も出ています。(※参照:国土交通省「民法・不動産登記法部会資料 不動産登記制度の見直し(1)」)
2-2.相続土地国庫帰属法の創設
「相続土地国庫帰属法」という所有者不明土地の発生の抑制を図る法律が創設されました。相続又は遺贈により土地の所有権・共有持分を取得した人が、土地の所有権を法務大臣の承認を受けて国庫に帰属させることができる制度です。
既に条文が公開されており、土地を数人で共有する場合には承認の申請を全員が共同して行うと規定されています。(※令和三年法律第二十五号 相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律)
一方で、建物が建てられた土地、境界が明らかでない土地、崖があり管理に多くの費用・労力がかかる土地や管理・処分を阻害する工作物・車両・樹木などがある土地は承認されません。
申請者は、承認にあたって10年分の標準的な管理費用の額を考慮して定める「負担金」を納める必要があり、対象外の土地であることを知りながら申請・承認され国に損害が生じた場合は、国に対して損害賠償責任を負います。
2-3.所有者不明土地管理制度・管理不全土地管理制度の創設
現行の民法では、土地の所有者が不在である時に利害関係者が「不在者財産管理人」を家庭裁判所に申し立て、土地の管理、家庭裁判所の権限外行為許可を得て遺産分割・売却・譲渡を行うことができます。
改正後の民法では、所有者が不明又は行方不明(共有名義を含む)であり必要と認められた際には、利害関係者の請求によって「所有者不明土地管理人」を選任、管理の命令(所有者不明土地管理命令)を行う事が可能となります。
不在者財産管理制度は不在者の財産全般の管理・保全などを行いますが、所有者不明土地管理制度は特定の財産(土地)が対象であるため、管理人の負担軽減や業務の円滑化が期待できます。
さらに管理不全土地管理制度が創設され、所有者がいる土地でも管理が不適当とされ他人の権利・法律上の利益を侵害し、必要と認められる際には「管理不全土地管理人」を選任し「管理不全土地管理命令」を行う事が可能となりました。
3.法改正後の不動産相続の注意点
これら、相続登記にまつわる法改正を受けて、今後どのような注意や対応が必要なのか確認していきましょう。
3-1.相続・遺贈の際は必ず登記を行う
不動産登記法の改正により相続登記は義務化されます。相続・遺贈により不動産を受け継ぐ場合には、早めに相続登記を行いましょう。
3-2.相続土地国庫帰属制度の利用
「財産を相続したいものの、土地が遠方にある・低額であるなどの理由で相続や管理が負担」 というケースは少なくありません。このような場合、相続土地国庫帰属制度の創設により、相続した土地を国庫に帰属させることができるようになりました。
土地は一定のものに限られ負担金を支払う必要がありますが、管理・活用が難しい土地を手放すことができるというメリットがあります。
3-3.管理不全土地管理制度について
管理不全土地管理制度の創設により、取得した土地を適切に管理できなかった場合、隣人といった利害関係者が管理不全土地管理人を選任し、管理不全土地管理命令が下される事が可能となります。
管理不全土地管理人は該当する土地の管理・処分を行う事が出来ますので、最悪の場合土地は処分されてしまう可能性があります。土地を相続する際には定期的な管理が可能であるかを検討し、相続後は適切な管理を行う必要があります。
まとめ
法改正と相続土地国庫帰属法創設により、相続登記が義務化となり、相続で得た土地が不要の際に一定の条件を満たした場合国庫に帰属させられるなどの変更があります。
不動産相続の際には、早めに手続きを行う、土地を受け継ぐ際には定期的な管理ができるか検討するなどに注意しましょう。この記事を参考に新制度について知り、今後に活かしていきましょう。
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田中 あさみ
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