高齢者や単身世帯の増加などを背景に、賃貸契約の連帯保証人を立てることが難しいという方は少なくありません。このような事情を背景に、従来の連帯保証による担保ではなく、現在では「家賃債務保証」の利用率が拡大しています。
そこで今回は、家賃債務保証の仕組みや注意点を解説するほか、高齢者向けの家賃債務保証の申請手順についても紹介していきます。
目次
- 家賃債務保証とは
- 家賃債務保証の仕組み
2-1.一般保証型
2-2.支払委託型 - 家賃債務保証業者を選ぶ際のポイント
3-1.家賃債務保証業者の登録制度
3-2.家賃債務保証業者を利用する手順 - 家賃債務保証を利用する際の注意点
4-1.連帯保証人がいる方からは敬遠される可能性もある
4-2.入居者によって保証内容が異なるケースもある
4-3.家賃債務保証業者が倒産するリスクもある - 一般社団法人高齢者住宅財団の「家賃債務保証」
5-1.「家賃債務保証」の内容
5-2.物件オーナーが「家賃債務保証」を利用する際の手順
5-3.「家賃債務保証」を利用する際の注意点 - まとめ
1 家賃債務保証とは
アパートなどの賃貸住宅を借りる際に、入居希望者は家賃の支払いや身分を保証するために連帯保証人を立てることが従来の慣例でした。しかし、家族の関係性が希薄化していたり、高齢化によって保証人が立てられないケースが増えていることから、連帯保証人を依頼すること自体が難しいという社会的な背景があります。
そこで利用者が増えているのが家賃債務保証です。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会日管協会総合研究所の「日管協短観」によると、家賃保証会社を利用している割合は、全国で97.20%(2020年下期)となっており、ほとんどの賃貸借契約で用いられていることがわかります。
家賃債務保証とは、家賃債務保証業者が借主との間で契約を交わすことで連帯保証人に近い役割を果たす仕組みです。国土交通省の「家賃債務保証の現状」では、家賃債務保証業者について下記のように記載されています。
家賃債務保証業とは、賃借人の委託を受けて、当該賃借人の家賃の支払いに係る債務を保証することを業として行うもの。
具体的には、借主が家賃などの支払いができない状態に陥った場合に、家賃債務保証業者が家賃を一時的に立て替えることです。
この家賃債務保証によって入居希望者(借主)だけではなく、貸主にもメリットがあります。それぞれ見ていきましょう。
入居希望者(借主)のメリット | 貸主のメリット |
---|---|
・連帯保証人がいなくても希望の物件に入居することができる ・貸主に家賃滞納の不安を抱かせることがない ・家族や親族などに迷惑をかけなくて済む |
・入居希望者に入居してもらうことができる ・身元確認などの入居審査を保証会社が行ってくれる ・賃貸経営が安定的に行える |
特に入居審査に苦労してしまいやすい高齢者、障がい者、子育て世代、外国人の方などは住宅確保要配慮者とされ、家賃債務保証を利用することによって入居しやすくなります。一方、物件オーナーにとっても、家賃債務保証を利用することによって空室対策にもなり、入居者を確保しやすくなるメリットがあります。
2 家賃債務保証の仕組み
家賃債務保証は、借主と貸主(管理業者)、家賃債務保証業者の3者による契約になります。賃貸借契約の際に同時に保証委託契約を行い、その際に保証料についての取り決めも行います。
保証料は家賃債務保証業者や保証プランによって異なりますが、通常は毎月一定額を支払う方法と、保証委託契約を締結する際に所定の金額を支払う方法が用意されています。
また契約形態によって、下記のように「一般保証型」と「支払委託型」の2つの仕組みがあります。
2-1 一般保証型
主に用いられているのがこの一般保証型です。家賃などの支払いは借主が貸主(管理業者)に対して行い、何らかの原因で家賃の滞納があった場合は家賃債務保証業者が立て替える形式です。流れとしては、下記のようになります。
- 借主が家賃を滞納する
- 貸主(管理業者)が家賃債務保証業者に代位弁済請求を行う
- 家賃債務保証業者が貸主(管理業者)に代位弁済を行う
- 家賃債務保証業者が支払った弁済金を借主に請求する
- 借主が家賃債務保証業者に弁済金を支払う
借主が家賃を滞納しなければ、通常の賃貸借契約と家賃の請求および支払いに関する違いはありません。
2-2 支払委託型
一方、支払委託型は家賃滞納の有無に関わらず、家賃債務保証業者が家賃の立て替えをし、貸主(管理業者)に支払う仕組みになっています。具体的な流れは下記になります。
- 家賃債務保証業者が家賃を貸主(管理業者)に支払う
- 家賃債務保証業者が借主に立替金の支払いを請求する
- 借主が家賃債務保証業者に立替金を支払う
万が一、滞納があった場合は、家賃債務保証業者と借主の間で立替金の支払いに対する催促のやり取りなどが行われることになります。家賃債務保証業者から家賃が毎月支払われるため、借主が家賃を滞納しているかどうかは原則としてわからない仕組みになっています。
3 家賃債務保証業者を選ぶ際のポイント
家賃債務保証は、仲介業者や管理会社が家賃債務保証業者と取引を行うため、オーナーが直接関わるケースは稀と言えるでしょう。ただし、自己管理を行う場合や、あるいは家賃債務保証業者を指定したい場合は、自身で家賃債務保証業者を選定することができます。
その際の確認ポイントは下記になります。
- 家賃滞納以外のサービス内容(駐車場料金、更新料、原状回復費用、退去費用などの立て替えの有無)
- 保証料の金額および支払い方法
- 滞納があった場合に家賃が支払われるまでの日数
- そのほかに付帯されているサービスの内容
- 家賃債務保証業者登録制度への登録の有無、など
事前にホームページなどで詳細を調べておき、ご自身で基準を設けておくと選定しやすくなります。
3-1 家賃債務保証業者の登録制度
家賃債務保証業者を選ぶ際に参考になるのが、家賃債務保証業者登録制度への登録の有無です。元々は監督庁がありませんでしたが、2017年に国土交通省が家賃債務保証業者登録制度を創設しています。登録するには下記のような基準が設けられているため、登録している業者は基準を満たしていることになります。
- 暴力団員等の関与がない
- 安定した経営基盤のために純資産額が1,000万円以上ある
- 法令等遵守のための研修を実施している
- 業務に関する内部規則や組織体制を整備している
- 相談または苦情に応じるための体制を整備している
- 法人の場合は家賃債務保証業を5年以上継続している
- 事務所の代表は家賃債務保証業の経験が1年以上ある、など
そのほかの詳細は国土交通省の資料「家賃債務保証業者の登録制度の概要」で確認してください。国土交通省の家賃債務保証業者登録制度専用ページには、「登録家賃債務保証業者一覧」も用意されています。2023年3月14日時点では93社が掲載されていますので、参考にされると良いでしょう。
3-2 家賃債務保証業者を利用する手順
管理業者に管理を委託している場合は、管理業者や仲介業者が利用している家賃債務保証業者を使うケースがほとんどです。ただし、自主管理を行う場合は、仲介業者が利用している家賃債務保証業者を使うケースと、オーナー自らが家賃債務保証業者の代理店になって利用するケースが考えられます。
仲介業者に依頼する場合は、入居希望者の募集を依頼する際に保証制度の内容も確認しておきましょう。契約締結は、入居希望者(借主)と家賃債務保証業者の間を仲介業者が取り持つ形で行われます。
一方、代理店となる場合は、契約したい家賃債務保証業者に代理店契約を希望する旨を伝えます。その後、業者によって説明・研修などが行われ、代理店委託契約を交わすことで家賃債務保証が利用できるようになります。
4 家賃債務保証を利用する際の注意点
家賃債務保証には、オーナーと借主の双方にメリットがありますが、利用するには注意点があります。今回は下記の3つについて解説していきます。
4-1 連帯保証人がいる方からは敬遠される可能性もある
家賃債務保証を利用するには保証料がかかる上に、更新する際に更新料が必要になるケースもあります。そのため、身元がしっかりした連帯保証人が用意できる入居希望者にすると、余計な費用がかかることになります。「保証会社の利用必須」とした場合は、連帯保証人がいる方からは敬遠される可能性もあります。
4-2 入居者によって保証内容が異なるケースもある
家賃債務保証の内容は、業者やプランによって異なることも忘れてはいけません。例えば、10戸のアパートを所有するといった場合、立替金に上限が設定されている、退去時の鍵交換費用が含まれている、原状回復費用が含まれていない、といったように部屋ごとに保証内容が異なる可能性があります。
部屋ごとで保証内容が異なる場合、含まれていると思っていた保証が含まれていないといった事態になり、想定外の支出が増えることもあります。部屋ごとに保証内容を把握しておくことも、オーナーとして重要です。
4-3 家賃債務保証業者が倒産するリスクもある
保証委託契約をしていた複数の人が家賃の滞納をすると、家賃債務保証業者が倒産してしまうリスクもあります。倒産してしまった場合、滞納されている家賃が立て替えられないといったことも考えられます。
信用リスクについて判断することは難しいですが、自身で業者を選ぶ場合は、前述したように登録業者を優先的に検討するようにしましょう。また、仲介業者や管理業者などに、家賃債務保証業者について相談してみるのも一つの方法です。
5 一般社団法人高齢者住宅財団の「家賃債務保証」
家賃債務保証業者のうち、主に高齢者の住宅問題に取り組んでいるのが一般社団法人高齢者住宅財団(家賃債務保証業者登録制度登録番号 国土交通大臣(2)第4号)です。
同財団では、高齢者が居住を継続するために家賃債務保証業務やリフォーム融資に対する債務保証業務などを展開しています。中でも「家賃債務保証」は、高齢者世帯、障がい者世帯などの住宅確保要配慮者が住居を確保しやすいような保証内容となっています。詳しく見ていきましょう。
5-1 「家賃債務保証」の内容
一般社団法人高齢者住宅財団の「家賃債務保証」は、家賃債務保証制度の利用に関する基本約定を締結した賃貸住宅でのみ利用することが可能です。利用できる世帯、保証の対象など、具体的な保証内容は下記になっています。
- 対象世帯:高齢者世帯、障がい者世帯、子育て世帯、外国人世帯、解雇等による住居退去者世帯、登録住宅入居者世帯
- 保証の対象:滞納家賃(共益費および管理費を含む)、原状回復費用(残置物の撤去を含む)および訴訟費用
- 保証料:月額家賃の35%(2年間の保証の場合)
※参照:一般社団法人高齢者住宅財団「家賃債務保証」
5-2 物件オーナーが「家賃債務保証」を利用する際の手順
一般社団法人高齢者住宅財団の「家賃債務保証」を利用するには、物件オーナー(管理会社)と同財団が事前に基本約定を締結することになります。流れは下記のようになります。
- 同財団の申請フォームで利用を申請する
- 基本約定書を受け取る
- 入居希望者へ保証についての説明を行う
- 関連書類に署名をもらう
- 必要書類を同財団にFAXで送る
- 引き受け可否が審査される
- 引き受け可の場合、家賃債務保証委託申込書を送付する
- 保証料の振込が確認されると、保証の引受書が発行される
- 保証が開始される
一般社団法人高齢者住宅財団と基本約定を締結するには、200円の印紙代がかかります。住宅確保要配慮者をスムーズに迎え入れるために、事前に基本約定の締結をしておくのも良いでしょう。
5-3 「家賃債務保証」を利用する際の注意点
手続きが完了するまで時間がかかることもありますので、前述した基本的な流れを事前に確認しておくことがスムーズに進めるポイントです。
管理会社に委託している場合は管理会社が窓口となりますが、自主管理の場合はオーナー自身が入居希望者への説明なども行います。入居希望者との連絡を密にしておくなど、適切な対応を行いましょう。
入居希望者がいなくても、住宅確保要配慮者の受け入れを決めた時点で基本約定をあらかじめ締結しておくと、その後の流れが迅速に行えます。また身体障害や知的障害などを持つ入居者の方を受け入れる際は、要介護・要支援認定などについての基本的な知識も身につけておくと良いでしょう。
まとめ
賃貸住宅では家賃債務保証の利用者が増えています。オーナーにとっても、高齢者や障がい者、ひとり親家庭、外国人の方々の受け入れもしやすくなり、空室対策にもなるなどメリットがあります。
今回のコラムでは、高齢者や障がい者、ひとり親家庭、外国人などの住宅確保要配慮者の保証を引き受けている一般社団法人高齢者住宅財団の「家賃債務保証」についても紹介しました。連帯保証人がいない高齢者などを受け入れる際に、利用を検討してみましょう。
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