2022年6月時点、円安の長期化や景気後退を懸念する声が日増しに強まっています。円安や景気後退は不動産市場にも密接に関係するため、不動産投資を進めて行くにあたり、どのように備えれば良いのか悩む方も多いのではないでしょうか。
本記事では、不動産投資初心者が気をつけたいポイントをまとめます。今後の経済市況を注視しながら、投資を進めていきましょう。
目次
- 2022年4月に起きた円安の背景
- 景気後退(リセッション)を懸念する声が高まった背景
- 不動産初心者が気を付けたい5つのポイント
3-1 建築、部材コストの値上がり、特に新築アパート投資に気をつけたい
3-2 海外投資家視点による、物件価格の値上がりに気をつけたい
3-3 将来の金利上昇リスクに気をつけたい
3-4 銀行の融資が閉じ始める可能性に気をつけたい
3-5 景気後退期における不動産投資のメリット - まとめ
1 2022年4月に起きた円安の背景
2016年1月のマイナス金利政策から、2022年6月時点でも日本では日銀が大規模な金融緩和を続け、企業の借り入れや住宅ローン金利の指標となる長期金利を低く抑えています。
一方、米国は2022年3月からインフレ抑制のために金融引き締めにかじを切っており、金利上昇が続いています。
このため日米の金利差が拡大し、より金利の高いドルで資産運用をしようと円を売ってドルを買う動きが強まっています。4月28日には約20年ぶりに1ドル131円台の円安水準となり、6月8日には一時134円台まで急落するなど円安の流れが加速しています。日銀総裁の黒田氏も、円安は日本経済にプラスに作用するという発言をしており、今後もしばらくは円安が続くと考えられます。(参考:ロイター「日銀総裁、家計値上げ許容発言を撤回 「全く適切でなかった」」)
2 景気後退(リセッション)を懸念する声が高まった背景
米国では3月の消費者物価指数(CPI)が、前年同期比8.5%上昇し、約40年ぶりの高いインフレ率を記録しました。(※参考:米国労働省「消費者物価指数(CPI)2022年4月」)この歴史的なインフレを抑え込むために、FRB(連邦準備制度理事会)は、3月から利上げをスタートし、5月には通常の2倍の0.5%の利上げを断行しました。
さらに6月、7月とも、各0.5%の利上げが行われることを株式マーケットは織り込んでいます。長期金利の上昇に伴い、金利とシーソーの関係にある株式マーケットは、5月20日にS&P500種指数がザラバ・ベースで高値から20%を超える下落となり、いわゆる弱気相場(ベアマーケット)入りしました。ベアマーケット入りしたことで、今後の景気後退(リセッション)のリスクを予測する声が高まっています。
株価は実態経済に先行する傾向があります。経済指標でまだ鈍化が確認できなくても、株式の先見性により未来を織り込んでいきます。つまり、これだけ株価が下がるということは、相場が「景気後退の可能性が高い」ということを鋭敏に感じ取っているということが伺えます。
3 不動産初心者が気を付けたい5つのポイント
円安・景気後退局面で気を付けたいポイントとして、下記の5つをあげました。一つずつ、詳しく見ていきましょう。
- 建築、部材コストの値上がり、特に新築アパート投資に気をつけたい
- 海外投資家視点による、物件価格の値上がりに気をつけたい
- 将来の金利上昇リスクに気をつけたい
- 銀行の融資が閉じ始める可能性に気をつけたい
- 景気後退期における不動産投資のメリット
3-1 建築、部材コストの値上がり、特に新築アパート投資に気をつけたい
円安になると、海外から輸入する木材や鉄鋼、原油などの原材料価格が上がります。これにより、既築アパート、マンションでは、給湯器、エアコン、クロス、クッションフロア等の値上がりが、原状回復コストの増加につながります。
新築では、上記に加え、様々なリスクが顕在化します。例えば、建築コスト、部材コストの上昇は、物件価格の値上がり(利回りの低下)に直結します。また、グローバルサプライチェーンの乱れも手伝い、キッチン、ユニットバス、トイレ等の部材が予定どおり届かないことによる工期の遅れも散見されます。
例えば、建物が出来上がっていてもトイレが届かなければ引き渡しができません。引き渡しが遅れれば、客付(入居者の募集)にも影響します。繁忙期に向けて建築したはずが間に合わず、絶好の客付タイミングを逃す可能性もあります。
その他、景気後退の局面においては、新築ではなくすでに完成している超築浅(築半年~2年ぐらい)を代替ターゲットにすることも戦略の一つと言えるでしょう。
土地から探してアパートを新築する場合等と比較すると、利回りは下がる傾向にありますが、その分、上述に対するリスクヘッジができます。新築の購入を考えている場合は、あわせて、築浅物件も検討してみるのも良いでしょう。
新築アパートで失敗してしまった実体験
筆者の友人の実体験をご紹介します。新築工事を依頼していた工務店の資金繰りが悪化した結果、建築が為されないまま連絡が取れなくなりました。部材調達費の値上がりと、引き渡し遅れによる最終金の入金遅延が、資金繰りの悪化要因だったとのことです。
こちらのケースでは、新たな工務店を見つけ、相応の追加コストをかけることで何とか完工まで漕ぎつけていましたが、利回りは当初見込みより大きく下落しています。
加えて、建築コストが値上がりする中、品質は二の次で安く建築して利回りを高く見せ販売する工務店を見抜くことも困難と言えます。新築物件への投資を検討する際は、建築コストの値上がりリスク、納期遅れのリスク、工務店リスクを踏まえて検討することが大切です。
3-2 海外投資家視点による、物件価格の値上がりに気をつけたい
円安ドル高が進むとどうなるでしょうか。ドル高は相対的にドルの購買力を高めるため、海外投資家が日本の不動産を購入するには有利となります。
わかりやすく計算できるよう、1億円の物件価格、利回り10%、為替レートが110円と130円の場合で考えてみましょう。
- 為替レートが1ドル110円の場合、909,090ドルにて購入可能
- 為替レートが1ドル130円の場合、769,230ドルにて購入可能
130円の場合110円と比較すると、金額にして139,860ドル、率にすると15.3%割安に購入することが可能となります。
仮に海外投資家の投資予算が、110円換算の909,090ドルとすれば、130円の円安時には、909,090ドルx130円=1億1,818万円まで物件価格が上がっても予算内におさまることになります。利回りは10%から8.46%(1,000万円の家賃収入/1億1,818万円)に下落しますが、利回りを許容すれば、予算内で物件を購入することができます。
つまり、海外投資家の視点にたつと、日本の不動産の割安感が増していることになります。海外投資家が日本の不動産市場に参入することで、物件価格が適正以上に値上がりする可能性があるということです。物件価格や利回りが本当に適正か、冷静な視点で、判断しましょう。
3-3 将来の金利上昇リスクに気をつけたい
物件を現在所有している人の関心ごとの一つは、今後の金利上昇の動向と言えるでしょう。
米国をはじめ各国の利上げに反して、日本では日銀が粘り強く金融緩和を続けています。そのため、長年に渡って、金利は上がらないだろうという暗黙のコンセンサスがありますが、はたしてこの金融緩和はいつまで続くのでしょうか。
ウクライナ紛争によるエネルギー価格の上昇、円安による輸入物価の上昇により、引き下げが実施された通信費の影響を差し引くと、日本においても実質的に2%程度の物価上昇が起きています。(※参照:総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数 全国2022年(令和4年)4月分」)内訳は別として、数字上は、日銀が掲げる2%の物価安定目標に到達していることになります。
10年物国債の金利は日銀の指し値オペにより、上限が0.25%に抑えられています。(※参照:日本銀行「当面の金融政策運営について(2022年4月28日)」)円安、輸入物価の上昇をとめるために、日銀が指し値オペをやめる可能性はないでしょうか。
黒田総裁も2023年4月で任期満了を迎えます。金融政策の正常化に向け、利上げへと政策スタンスを転換しても不思議ではない時期と考えることもできます。
金融緩和に区切りをつけ、正常化への道を歩み始めると、これまでの低金利環境は終わりを迎えることとなります。金利上昇はイールドギャップ(投資利回りと金利の差)を生み出しづらくなるため、基本的に不動産投資には逆風となります。
それはつまりローン返済額の上昇と同義で、不動産投資家の手残りの減少を意味します。金融引き締めが実行されるか否かは断言することが出来ないため、金利上昇に備え、どのぐらいの金利上昇までなら事業として耐えられるか、検証しておくことが大切です。
例えば、現在の金利が2%で借り入れしているなら、損益分岐点となる、金利は何%かを把握しておくということです。仮に損益分岐金利が4%とするなら、万が一、3%に金利が上昇した場合でも落ち着いて対応できることになります。不測の事態に備えておきましょう。
3-4 銀行の融資が閉じ始める可能性に気をつけたい
景気後退が意識されると、銀行の融資も閉じ始めます。融資が開いている時は、多くの人が購入できるため、物件価格は上がりますが、融資が閉じ始めると物件価格は下落します。資金調達の難易度が上がることで買える人が少なくなり、需要と供給のバランスが崩れるためです。
そのため、融資を使って購入を検討している人は、金融機関の融資が開いている時に購入しておき、不動産賃貸業の経験を積んでおくのも一つの選択肢と言えます。
なお、不況時は物件が安くなり利回りが上がるため、一つの仕入れタイミングとも言えます。現金を多く保有している方やより多くの頭金を投入できる方にとって、不動産の買い場ととらえる方もいます。
不況期に安く購入した物件は、数年後のキャピタルゲイン(売却益)を狙える可能性があります。例えば、リーマンショックの際に買い向かった投資家が、高値で売却して大きなキャピタルゲインを獲得している事例があります。
景気後退を見据え、買い場にそなえて経験を積み、できるだけ多くの現金を蓄えておくことも検討されてみると良いでしょう。
ただし、上記は過去の傾向であり、景気後退の局面で購入した不動産の値上がりが必ずしも起きるという保証はなく、物件のエリアによっても差があります。不動産投資を検討する際は、余裕資金で行えるか、生活に必要なローン利用のための与信を残せるか、慎重に判断することも大切です。
3-5 景気後退期における不動産投資のメリット
景気が後退する時期は、給料が減ってしまう人が増え、場合によっては職を失い無収入になる人も出てきます。このような景気後退期において不動産投資はリスクヘッジとしても有効です。例えば、収入が減少したり、無収入になったりした時のために、家賃収入があることで一時的に凌げる可能性があります。
また、景気が悪化すれば、株価や、給料の下落などはおこりますが、家賃水準は不動産価格の減少幅と比較して大きく変わらない傾向があります。(※参照:国土交通省「賃貸住宅市場の実態について」)
過去の景気後退期の傾向を見ると、家賃には価格の硬直性が見られます。どのような不況下でも人には住むところが必要であり、エリアを厳選すれば賃貸住宅の需要が全くなくなってしまうということは基本的にありません。
逆説的に、今後の景気後退を見越すのであれば、あえて今のうちに不動産を購入、家賃収入を確保して、景気後退に備えるという考え方もできます。ただし、これからはじめるという方は十分に勉強を重ねた上で、不動産投資をスタートするのが良いでしょう。
まとめ
多少、難しい内容も含まれていたかもしれませんが、円安・景気後退局面で不動産投資初心者が気をつけたい5点について解説してきました。物件の値上がり、金利上昇などに気をつけなければいけませんが、マイナス点ばかりを見るのも良くありません。
アメリカがリセッション入りすれば、日本も景気後退に入る可能性が高まります。将来の資産形成に備えるのであれば、不況時における不動産投資のメリットもあります。また、不動産投資はリスクのある投資方法であり、どの投資タイミングであってもリスクを完全に排除することは出来ません。
不動産投資に失敗してしまう事例には、勉強を怠りこれらのリスクを把握せずに、悪質な不動産会社の言われるがまま、不動産を購入してしまうケースも見られます。まずは上述のリスクや注意点を踏まえ、情報収集をしながら、不動産投資を検討されてみると良いでしょう。
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