相続時に被相続人(亡くなった方)の財産を調べている時に、「これは相続財産に含まれるのか?」と判断に悩むものがあります。特に不動産は専門知識が必要となりますので、難しいと感じる方も多いでしょう。
本記事では相続の流れと不動産相続の対象となるもの・ならないもの、不動産相続の注意点をお伝えしていきます。
目次
- 不動産相続の対象となる財産・ならない財産
1-1.不動産関連で相続財産となるもの
1-2.不動産関連で相続財産とならないもの
1-3.民法上相続財産ではないが、相続財産とみなされるもの(みなし相続財産) - 不動産とその他の財産を含む相続の流れ
2-1.相続開始
2-2.遺言書の有無を確認
2-3.遺言書の検認
2-4.相続財産の調査・把握・評価
2-5.相続放棄・限定承認の申し立て(3ヶ月以内)
2-6.準確定申告(4ヶ月以内)
2-7.遺産分割協議
2-8.相続税の計算・申告・納付(10ヶ月以内) - 不動産相続における注意点
3-1.墓地・墓石は相続人とは別に承継者を決める
3-2.被相続人の配偶者には「配偶者居住権」がある
3-3.複雑なケースは専門家へ相談を - まとめ
1.不動産相続の対象となる財産・ならない財産
不動産相続においては、建物や土地といった形のあるものだけではなく、借地権・借家権や賃借権などの権利も相続対象となります。
一方で、被相続人の一身に専属した権利・義務は相続の対象となりません。被相続人の一身に専属した権利・義務とは、被相続人のみが持つ事のできる固有の権利・義務を指し、国家資格や年金の受給権・著作権なども該当します。
例えば「隣の住民が被相続人に生前お世話になったので、被相続人に土地の一部を無料で貸していた」といったケースは一身専属権であり、相続の対象外となります。
以下より、民法上で不動産関連の財産として相続の対象となるもの、ならないものの分類をみて行きましょう。
1-1.不動産関連で相続財産となるもの
プラスの財産
- 自宅や土地
- 貸家・建物・店舗と土地
- 農地・耕作権
- 原野・立木
- REIT・株
- 借地権・借家権
- 賃借権
- 損害賠償請求権
マイナスの財産
- 住宅ローン
- 不動産投資ローン
- 未払いの固定資産税・都市計画税などの税金
- 滞納した家賃・地代
- 敷金・保証金
- 根保証契約による債務※
※根保証契約による債務とは一定の限度額(極度額)を定めた契約により借りたお金のことで、被相続人が事業経営を行っている際は契約を結んでいる可能性があります。なお個人の根保証債務は、極度額を定めていない場合には無効となります。
1-2.不動産関連で相続財産とならないもの
被相続人の一身に専属した権利・義務
- 建物・土地の使用貸借権
- 代理権
- 財産分与請求権など
- 墓地・墓石
1-3.民法上相続財産ではないが、税法上相続財産とみなされるもの(みなし相続財産)
- 被相続人が亡くなる3年前までに相続人へ贈与された財産(一定の特例を受けた場合を除きます)
※参照:国税庁「No.4105 相続税がかかる財産」
2.不動産とその他の財産を含む相続の流れ
不動産とその他の相続財産を含む場合の相続の流れについて解説します。大まかには下記のような手順を踏むことになります。
- 相続開始
- 遺言書の有無を確認
- 遺言書の検認
- 遺産の調査・把握・評価
- 相続放棄・限定承認の申し立て(3ヶ月以内)
- 準確定申告(4ヶ月以内)
- 遺産分割協議
- 相続税の計算・申告・納付(10ヶ月以内)
2-1.相続開始
被相続人が亡くなってから7日以内に、被相続人の亡くなった市町村・本籍地の役所か、届出人の住所にある役所に死亡届を提出します。
2-2.遺言書の有無を確認
遺言書の有無を確認します。遺言書は被相続人の自宅といった身近な場所、法務局、公証役場に保管されている可能性があります。
2-3.遺言書の検認
遺言書が公証役場・法務局以外に保管されている場合には、家庭裁判所で「検認」の手続きを行う必要があります。検認は遺言書の偽造・変造を防ぐためのもので、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に申し立てを行います。
2-4.相続財産の調査・把握・評価
相続財産の調査、把握、評価を行います。被相続人が生前取引のあった銀行・証券会社・不動産会社・保険会社などに連絡を行い、取引や財産の有無を確認します。
郵便物や年賀状、遺品(キャッシュカードや金融機関の封筒など)がきっかけで相続財産が見つかる事例もありますので、隅々まで調べておきましょう。
不動産は登記済証などの権利証や固定資産税の納税通知書もチェックしておくことで漏れがなくなります。詳細は管轄の法務局で取得できる登記事項証明書、市町村役場にある固定資産課税台帳などで確認しましょう。
全ての相続財産を把握した後は評価を行います。特に、不動産は相続税評価額と実際の売却価格に大きな乖離が出てくることがあるため、不動産査定や鑑定を受け、後の遺産分割協議に備えておくことが大切です。
不動産査定を受ける際は、複数社の不動産会社で査定を受け、査定価格や査定の根拠などを比較してみましょう。例えば、不動産一括査定サービスを利用すると、効率的に査定依頼をかけることができ、実際に売却するかどうかは査定後に決定することができます。
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【関連記事】不動産査定会社・不動産売却サービスのまとめ・一覧
2-5.相続放棄・限定承認の申し立て(3ヶ月以内)
相続財産に債務が多い、引き継ぎたくないなどのケースでは相続放棄の申し立てが可能です。相続放棄では被相続人のマイナスの財産だけではなく、プラスの財産も含めた全てを放棄する事になります。
債務額が不明である際には、相続した財産の範囲内で債務を引き継ぐ「限定承認」の手続きを行うこともできます。
相続放棄・限定承認は共に基本的に撤回・取り消しができないため、慎重に検討しましょう。相続放棄・限定承認の申し立てを行わなかった時には、自動的に相続を承認したとみなされ(単純承認)、相続の手続きを行う事になります。
【関連記事】相続放棄のメリット・デメリットは?不動産活用・売却の手順も
2-6.準確定申告(4ヶ月以内)
被相続人が亡くなった年の、1月1日から亡くなった日までの所得税・住民税の確定申告を行います。
2-7.遺産分割協議
相続財産の相続人、分割割合や方法などを決める遺産分割協議を行います。基本的に相続人全員で行うこととされており、一人でも欠けていた場合は無効となり最終的に全員の合意を得た時に成立します。
実物資産である不動産の分割は難しく、金額も大きいために後のトラブルの要因となることもあります。分割方法や評価方法について慎重に協議し、公平な財産分与を行えるように対処していきましょう。
【関連記事】遺産分割協議書を作る手順は?相続の開始から相続財産の確認方法まで解説
2-8.相続税の計算・申告・納付(10ヶ月以内)
相続財産の評価額が、基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)を超えた時には相続税を納付する義務が生じます。
相続税を計算し、相続開始の日の翌日から10ヶ月以内に申告・納付しましょう。この時、誤って過少申告をしてしまうと後に追徴課税のペナルティを負う可能性があります。計算が難しい場合には税理士に依頼する事も検討してみましょう。
【関連記事】不動産の相続、税理士の探し方・選び方は?相場や相談方法も
3.不動産相続における注意点
不動産の相続では、相続財産ではない墓地・墓石の取り扱い、配偶者居住権に注意しましょう。イレギュラー・複雑なケースでは専門家に相談する事で解決ができる事があります。
3-1.墓地・墓石は相続人とは別に承継者を決める
墓地や墓石は「祭祀財産」とされ、相続人が相続する財産とは別個に考えられており、相続人とは別に「承継者」を決める事になります。仏壇・仏具や神棚・神具なども祭祀財産です。
民法897条では「慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。」と規定されており、「ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。」と続けて記載があります。(※2021年10月27日時点)
よって被相続人が遺言書で承継者を指定した場合には、指定された方が受け継ぐことになります。なお祭祀財産は相続税が控除されますので、税金の計算をする際にはおさえておきましょう。
3-2.被相続人の配偶者には「配偶者居住権」がある
配偶者居住権とは夫婦の一方が亡くなった際に、残された配偶者が被相続人所有の建物に亡くなるまで(又は一定期間)無償で住むことができる権利です。
建物の価値を「所有権」と「居住権」に分け、残された配偶者が建物の所有権を持っていない場合でも一定の要件を満たす際に居住権を取得することで、被相続人が所有していた建物に引き続き住み続けられるようにするものです。
3-3.複雑なケースは専門家へ相談を
不動産が相続財産になるか否か判断がつかないケース、イレギュラーな事例などは弁護士・税理士などの専門家に相談してみることでスムーズに解決できることがあります。報酬が必要となりますが、後のトラブルを避けるためにも相談を検討してみると良いでしょう。
まとめ
不動産の相続では建物や土地などの他に借地権・借家権などの権利も相続対象となり、ローンや未払いの固定資産税といったマイナスのものも引き継ぐことになります。
墓地や墓石、被相続人が無料で借りていた土地や建物(使用貸借権)は相続財産の対象外です。
この記事を参考に、不動産の相続財産の対象となるもの・ならないものを把握し、墓石・墓地の承継者などに注意しながら円滑な相続を行っていきましょう。
田中 あさみ
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