相続不動産を売却する流れや手順は?遺産分割・査定・業者選び・税金を解説

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相続不動産を相続して売却するのは、ちょっとした手続きの差で、相続人同士の関係や資産形成に大きな影響が生じる可能性もあります。

本記事では、相続不動産を売却する流れや手順について、遺産分割・査定・業者選び・税金などを解説していきます。

目次

  1. 相続不動産の遺産分割
    1-1.相続人の調査
    1-2.相続不動産の調査
    1-3.遺産分割協議・遺産分割協議書の作成
    1-4.相続登記
    1-5.相続税の申告・納付
  2. 相続不動産の査定と売却手順
    2-1.相続不動産に瑕疵(欠陥)や問題があれば解決・改善する
    2-2.不動産業者に価格査定を依頼し、業者選びをする
    2-3.売却を依頼する業者と媒介契約を結ぶ
    2-4.売却活動をおこなう
    2-5.売買契約締結、決済引渡しをおこなう
  3. 相続不動産を売却する際にかかる税金
    3-1.譲渡所得税の計算方法
  4. まとめ

1.相続不動産の遺産分割

不動産の相続手順は、まず、相続人と相続の対象となる不動産の調査をおこないます。調査は、預金や有価証券と異なり、不動産の所在地の市区町村に問い合わせておこないます。そして遺産分割協議後、法務局で相続登記をおこないます。

  • 相続人の調査
  • 相続不動産の調査
  • 遺産分割協議・遺産分割協議書の作成
  • 相続登記
  • 相続税の申告・納付

以下で、それぞれの項目について説明します。

1-1.相続人の調査

遺産相続手続きにおいて最初に行うのが、相続人の調査です。民法では、法定相続人の順位や範囲が定められています。 遺産を相続する権利が誰にどれくらいの法定割合であるのかを調査します。

調査方法は、被相続人の出生から死亡までの戸籍によって親戚関係をたどっていきます。この際、本籍が所在する自治体が発行する戸籍謄本、除籍謄本などを取り寄せる必要があります。

1-2.相続不動産の調査

相続人の調査と並行して、被相続人の相続不動産の調査をおこないます。

「権利書(あるいは登記識別情報)」または市区町村から送付される「固定資産税の課税通知書」を探します。そして、その市区町村で不動産名寄(なよせ)帳と呼ばれている書類を取得し、その年の1月1日時点での所有情報を確認します。

最後に、法務局で登記事項証明書を取得することで、亡くなった時の所有関係を確定することができます。相続対象となる財産に、不動産以外の財産があれば、それらも調査します。

1-3.遺産分割協議・遺産分割協議書の作成

相続人と相続財産を調査した後、遺言書がなければ、相続人全員が、遺産を誰にどれくらい分けるか、について話し合いをおこないます。これを遺産分割協議と言い、協議がまとまったら、その合意内容を遺産分割協議書として書面化して、後日トラブルが起きないようにします。

不動産の遺産分割では、現物を分ける現物分割の他、不動産を取得した相続人が他の相続人にその分の現金を支払う代償分割、売却して得た現金を分割する換価分割の方法があります。

  • 現物分割:現物のままで相続分に応じて分ける
  • 代償分割:相続人のうち1人が大部分またはすべてを相続し残りの相続人に金銭や別の財産を与える
  • 換価分割:財産を売却し代金を分ける
  • 共有分割:持ち分割合に応じて共同名義にする

なお、不動産は評価が難しく分筆によって土地が不整形となると資産価値を大きく低下させてしまうことがあるため、不動産の現物分割は相続人間でトラブルを招きやすい分割方法です。弁護士などの専門家に相談するなどして、慎重に協議を進めましょう。

【関連記事】不動産相続で現物分割を行うメリット・デメリットは?手順や注意点も

また、遺言書がありすべての遺産について、誰が何を取得するのか指定されている場合、遺産分割協議は不要です。ただし、相続人全員の同意があれば、遺言と異なる内容で遺産分割することも可能です。

1-4.相続登記

遺産分割協議が合意に達したら、その分割協議の内容に従い、不動産を含めた遺産を各相続人が取得します。不動産では、法務局で相続登記をおこなうことが取得手続きとなります。相続登記に必要な書類は、以下の通りです。

  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 遺産分割協議書
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 被相続人の住民票除票
  • 不動産を相続する相続人の住民票
  • 固定資産税評価証明書

なお、遺言書がある場合は遺言書やその検認調書、家庭裁判所による調停・審判をおこなった場合は調停調書・審判書の謄本が必要になります。

1-5.相続税の申告・納付

被相続人が亡くなった日から10カ月以内に、遺産分割協議の内容に基づき、相続税の申告と納付をおこないます。

相続税額は、[相続財産の課税価格 ― 基礎控除額]を、各法定相続人が法定相続分に従って取得したものとして、各法定相続人の取得金額を求め、それぞれに累進税率を乗じて算出されます。

遺産分割協議が終了していなくても、法定相続分を下に手続きと計算をおこないます。ただし、遺産分割が終了していない場合、配偶者控除の税額軽減などの税額控除の特例を利用できないため、特例を適用した税金計算をやり直す必要があるケースもあります。

2.相続不動産の査定と売却手順

相続不動産の売却の流れとしては、まずは、売却前の準備として、瑕疵(欠陥)や問題の解決、改善をおこないます。

その後、売却を依頼する不動産会社を選ぶことになりますが、この際、不動産会社に価格査定を依頼して売却戦略を練る、という流れになります。

不動産会社と媒介契約を締結して、ポータルサイトに掲載するなどして買い手を探してもらいます。買い手が見つかったら、売買契約を締結します。売買契約締結後、1カ月程度経過して引渡し、決済となります。

  • 相続不動産に瑕疵(欠陥)や問題があれば解決・改善する
  • 不動産業者に価格査定を依頼し、業者選びをする
  • 売却を依頼する業者と媒介契約を結ぶ
  • 売却活動をおこなう
  • 売買契約締結、決済引渡しをおこなう

以下で、それぞれの内容を詳しくみてみましょう。

2-1.相続不動産に瑕疵(欠陥)や問題があれば解決・改善する

売却しようとしている相続不動産について、権利関係が複雑であったり、土地の境界に争いがあったり、あるいは、建物に瑕疵があったりなど、問題があることがあります。そのような場合は、問題をできる限り解決・改善してから売却を依頼するようにしましょう。

相続不動産を売却して引き渡す際は、相続登記をおこなって売主に所有権を確定させる必要があります。売却活動を始める前に、少なくとも相続人間で売却の意志確認をおこなっておく必要があるでしょう。
また、登記簿謄本や購入時の資料、土地の境界に関する資料、建物の図面など、買取依頼時に必要となる書類を準備します。

2-2.不動産業者に価格査定を依頼し、業者選びをする

不動産一括査定サイトを利用したり、ネット検索や相続不動産周辺の地域を歩くなどして不動産業者を探します。この時、1社だけでなく複数社の不動産会社へ査定を依頼し、査定価格や査定の根拠、不動産会社の対応内容などを比較することが大切です。

悪質な不動産会社の中には、あえて相場よりも低い価格で買取を提案したり、高値の査定金額を出して売却を促してくるケースがあります。このような査定を行われないために複数社とやり取りし、それぞれ査定価格だけでなく査定の根拠も合わせて確認しておくことが重要となります。

下記、複数社へ査定依頼ができる不動産一括査定サイトの一覧です。下記のサイトは悪質な不動産会社の排除を積極的に行い、全国エリアに対応している特徴があります。

主な不動産一括査定サイト

サイト名 運営会社 特徴
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また、不動産会社による査定には、簡易査定と訪問査定があります。簡易査定は、所在地や土地・建物面積、築年などの机上のデータのみから査定する簡易的な方法です。訪問査定では物件の現地調査を行い、机上のデータに加えて、土地や建物のより詳しい状況を調査して査定価格に反映します。

業者の提示した査定価格は、業者選びをする際のポイントの一つになります。高値で売却できるようにするために、複数の業者に依頼して比較検討するようにしましょう。業者選びに際しては、査定価格の他、売却しようとする不動産と類似した不動産の売却実績、売却戦略の合理性などを考慮して、不動産業者の販売力を判断するとよいでしょう、

2-3.売却を依頼する業者と媒介契約を結ぶ

売却を依頼する不動産業者が決まったら、その業者と媒介契約を結びます。媒介契約には、専属専任媒介、専任媒介、一般媒介の3種類があります。

項目 一般媒介契約 専任媒介契約 専属専任媒介契約
複数の不動産会社への依頼 × ×
自分で見つけた買主との単独契約 ×
指定流通機構への登録義務
販売活動の報告義務
契約期間 規制は無し 3ヵ月以内 3ヵ月以内

専属専任媒介と専任媒介は、売却の仲介業務を1業者のみに依頼する契約です。専属専任の場合は、売主自身が買い手を見つけた場合であっても、その業者を通して取引をすることが義務付けられます。一般媒介は、複数の不動産業者に同時に仲介業務の依頼をすることができる契約です。

一般媒介は不動産業者間の競争を促すことができますが、専属専任や専任媒介のような業務報告義務がありません。

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2-4.売却活動をおこなう

売却活動を開始するにあたっては、売出し価格と売却戦略を決めます。業者の査定価格を踏まえ、業者のアドバイスに参考にしながら最終的な売却希望価格を見据えた売却戦略を立て、売出し価格を決定します。

売却活動は、売却を依頼した不動産業者が、ポータルサイトに掲載したり、指定流通機構(レインズ)に登録したりするなどしておこないます。

買い手候補が、価格の値下げや契約不適合責任の期限延長など購入条件を提示してきた場合、条件交渉なども売却を依頼している不動産業者がおこないます。

2-5.売買契約締結、決済引渡しをおこなう

買い手候補との条件調整が完了し、お互いの売買の意志が固まったら、買い手候補者と売買契約を締結します。

買い手候補者が融資を利用して不動産を購入する場合は、売買契約前に融資仮審査がおこなわれることもあります。売買契約時には、手付金の授受がおこなわれるのが一般的です。手付金は、引渡し決済前の契約解除を条件付きで認め、取引の信頼性を担保するためのものです。

手付解除期限までの期間内であれば、手付金の倍返しまたは放棄による契約解除が認められます。売買契約後、買主が融資を利用する場合は融資審査を経て、1カ月程度経過してから不動産の引渡しと残代金の決済がおこなわれます。

3.相続不動産を売却する際にかかる税金

相続不動産を売却したときにかかる税金は、主に、印紙税、登録免許税、譲渡所得税、住民税の4つになります。

印紙税

売買契約時に、売買契約書の作成について、売買価格に応じた印紙税がかかります。印紙税は、売買価格が大きくなるにつれて非課税から、最高48万円まで価格帯ごとに定められています。たとえば、1,000万円超5,000万円以下の売買価格であれば、印紙税は1万円になります。

【関連記事】不動産売買の契約書、印紙税を減額する方法は?消費税の区分記載を解説

登録免許税

売買不動産の引渡時に、登記手続きが必要になれば、登録免許税がかかります。相続不動産の売却では、相続による所有権移転登記が未了の場合、完了させてから売却する必要があります。相続による所有権移転登記の登録免許税は、固定資産税評価額の0.4%となっています。(※参照:国税庁「登録免許税の税額表」)

譲渡所得税・住民税

相続不動産の売却で利益が出た場合、翌年以降、譲渡所得税と住民税がかかることになります。譲渡所得税と住民税の税率は、売却した不動産の保有期間に応じて次表のようになっています。

  • 長期譲渡所得:所得税15%・住民税5%
  • 短期譲渡所得:所得税30%・住民税9%

建物の所有期間が5年以下の場合には短期譲渡所得、5年超の場合には長期譲渡所得が適用されます。2037年までは上記所得税に復興特別所得税が加算されるため、短期譲渡所得は所得税と住民税を足して39.63%、長期譲渡所得は20.315%の税金が課されます。譲渡所得税は、売却した年の翌年2月16日から3月15日までの間に確定申告をおこなって納税します。

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3-1.譲渡所得税の計算方法

譲渡所得税のかかる不動産売却の利益(譲渡所得)を計算する式は、次のようになります。

譲渡所得=譲渡価格-(取得費+売却費用)-特別控除

譲渡価格は売却した価格です。取得費は不動産を入手するのにかかった費用、売却費用は売却するときにかかった費用、と考えることができますが、それぞれ、含めることができる費用は一定の範囲で定められています。また、建物を売却したときは、取得費から減価償却費を差し引いて計算します。 (※参照:国税庁「取得費となるもの」)

取得費が不明な場合

相続によって取得した不動産の場合、先祖伝来のものであったり、購入時の売買契約書を紛失してしまったりして、購入時の取得費が不明な場合もあります。その場合、売却価格の5%を取得費とできる概算取得費の制度があります。

※参照:国税庁「取得費が分からないとき

相続税の取得費加算

相続した不動産を売却した場合、その売却にかかる譲渡所得税の計算では、その不動産の相続で納付した相続税分を、取得費に加算できる制度があります。

ただし、この特例の適用を受けるには、その相続した財産を、相続日から3年以内に譲渡する必要があります。取得費に加算できる相続税額は、次のように計算します。

その者の相続税額×売却した財産の価額/(その者の相続税の課税価格+その者の債務控除額)

※参照:国税庁「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例

空き家等の特別控除

譲渡所得の計算において適用できる特別控除のうち、相続不動産について特に適用を受けることができるのが、空き家等の特別控除です。

次のような条件を満たす相続した空き家を売却して利益が生じた場合、譲渡所得税の課税所得から3,000万円の控除を受けることができます。

  • 被相続人が一人で居住していたこと
  • 昭和56年5月31日以前築の一戸建てであること
  • 相続によって取得した人が、その土地建物を耐震リフォームするか、あるいは取り壊して相続日から3年以内に売却すること
  • 相続時から売却時まで空き家であること

※参照:国税庁「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

まとめ

相続不動産を売却する流れ、手順では、遺産分割の際、分割方法を決める遺産分割協議と、相続税の申告納付がポイントになります。相続人間でトラブルにならず、かつ、相続税の負担も抑えられるように専門家に相談するなどして慎重に進めましょう。

相続税の申告納付についても、不動産のまま相続することによる税額軽減効果と、相続人などの条件で利用できる税額控除等の優遇税制に配慮するようにしてみましょう。

相続不動産の売却活動では、売却を依頼する業者選びがポイントになるといえます。価格査定の結果や売却実績、売却活動の提案などから、不動産業者の売却力を判断するようにしてみましょう。

相続不動産の売却後は、譲渡所得税の申告納付が必要になります。取得費が不明である場合、税額が大きくなる可能性があります。相続不動産を取得した時の売買契約書などの資料を用意しておくようにしましょう。

相続税や譲渡所得税の申告納付について不安な点がある場合や適正な税額軽減を図りたい場合は、税理士などの専門家に相談することを検討してみましょう。

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佐藤 永一郎

筑波大学大学院修了。会計事務所、法律事務所に勤務しながら築古戸建ての不動産投資を行う。現在は、不動産投資の傍ら、不動産投資や税・法律系のライターとして活動しています。経験をベースに、分かりやすくて役に立つ記事の執筆を心がけています。