不動産相続で使える家族信託のメリット・デメリットは?仕組みや活用例も

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家族が財産を管理する「家族信託」という仕組みをご存知でしょうか?家族信託は財産管理をプロに任せずに家族で行う新しい仕組みです。

現在は少子高齢化が進み、高齢の親の財産を管理する必要が増えてきています。2019年のG20大阪サミットでは認知症がアジェンダとして取り上げられ、認知症患者の財産管理の方法は益々注目されている問題です。

その中で財産管理の方法として特に注目されているのが家族信託です。そこでこの記事では、家族信託の仕組みやメリット・デメリットをわかりやすく解説していきます。

目次

  1. 家族信託は財産管理の仕組み
  2. 家族信託のメリット
    2-1.本人が認知症になっても家族が財産を売買できる
    2-2.遺言の代用として利用できる
    2-3.不動産の管理がしやすい
  3. 家族信託の注意点
    3-1.歴史が浅く専門家が少ない
    3-2.公正証書にする費用がかかる
    3-3.認知症の発症後は家族信託を活用できない場合がある
    3-4.家族に財産管理の負担がかかる
  4. 家族信託の活用例
    4-1.高齢の親のために子供が財産を管理する
    4-2.代々承継している土地を孫に遺す

1.家族信託は財産管理の仕組み

家族信託とは財産を家族に信託する制度です。信託とは、財産を保有する委託者が、財産を管理する役目を担う「受託者」に財産を託す制度になります。

受託者は委託者との契約に基づいて財産を管理・運営し、得られた利益を受益者に渡す義務があります。

受益者が委託者自身の場合は「自益信託」、委託者と受益者が異なる場合は「他益信託」と言います。家族信託では自益信託・他益信託ともに用いられることがあります。

家族信託を理解するために、委託者・受託者・受益者の3者の関係を理解することがとても重要ですので覚えておきましょう。

従来は財産を管理する受託者は信託銀行等の財産管理のプロが担うことが多かったのですが、家族が財産を管理する受託者となるのが「家族信託」です。

次章に家族信託の詳細について見て行きましょう。

2.家族信託のメリット

家族信託のメリットは以下の通りです。

  • 本人が認知症になっても家族が財産を売買できる
  • 遺言の代用として利用できる
  • 不動産の管理がしやすい

詳しく解説していきます。

2-1.本人が認知症になっても家族が財産を売買できる

少子高齢化が進み世界的に問題となっているのが認知症です。認知症は判断能力が衰える病気で、加齢ととも発症する可能性が高い病気と言われています。

認知症になってしまった場合、不動産等の財産を売却するような行為はできなくなってしまいます。ただし、信頼できる家族とあらかじめ「家族信託契約」を結べば、その信頼できる家族が「受託者」となり財産を売却することが可能です。

そのため、家族信託は現在の高齢化社会で、高齢の家族の財産を管理する方法として注目されています。

2-2.遺言の代用として利用できる

家族信託は遺言の代用としても利用をすることが可能です。遺言は自分が亡くなった後、誰に財産を遺すか示すことができます。

一方、家族信託は生前から効力が発生し、委託者の死後も効力が継続します。そのため、より柔軟に財産を承継することができるのです。

例えば、財産を孫に一括ではなく少しずつ渡していきたいとしましょう。このようなケースでは受託者を子供に設定し、信託した財産を少しずつ孫に渡すという契約もできます。

このように、家族信託を活用することで、遺言の代用として財産の承継方法を決めることも可能です。

2-3.不動産の管理がしやすい

家族信託で信託される財産の代表例が不動産です。多くの不動産は高額であり契約の内容も複雑化しやすいうえ、現物資産であるために管理をしなければ資産価値が低下してしまうためです。

家族信託を利用することで、不動産であっても若い家族に信託することできます。そのため、受託者となった家族は高齢となった親に代わって、財産の管理・運営・売却が可能です。

不動産のように管理が難しい財産は家族信託に向いていると言えます。相続予定の不動産を親が所有しているのであれば、検討してみましょう。

3.家族信託の注意点

家族信託には以下の注意点があります。

  • 歴史が浅く専門家が少ない
  • 費用がかかる
  • 認知症の発症後は活用できない場合がある
  • 家族に財産管理の負担がかかる

それぞれ詳しく解説していきます。

3-1.歴史が浅く専門家が少ない

家族信託は2007年に『信託法』という法律が改正されたことにより生まれた民事信託の一種です。長年活用されてきた制度ではないため、まだ制度を熟知した経験豊富な専門家は多くありません。

信託契約は高度な法律知識が必要で、専門家との相談が必要不可欠です。そのため、信頼できる専門家が少ないという点は、家族信託のデメリットと言えるでしょう。

3-2.公正証書にする費用がかかる

家族信託は家族が受託者となるため、財産を管理する受託者に報酬を支払うような取り決めはありません。しかし、それ以外にも様々な費用がかかります。

例えば、家族信託の契約内容を公正証書にする費用が必要です。また、信託契約には法律知識が必要ですので、弁護士等の専門家に相談する場合は契約書の作成費用が掛かります。

後のトラブルを避けるためにしっかりとした契約書を作成する場合には費用がかかる、という点は家族信託のデメリットの一つです。

3-3.認知症の発症後は家族信託を活用できない場合がある

家族信託は契約行為になるため、当事者が認知症で判断能力が失われている場合、不動産の売買契約と同じく契約自体ができないため活用することができなくなります。

軽微認知症で判断能力が失われていないケースであれば、家族信託契約を締結できることがありますが、後のトラブルを避けるためにも自己判断をせず、弁護士等の専門家に相談をするようにしましょう。

また、下記の記事では認知症になってしまった後の不動産売却について解説しています。こちらの記事もご参考下さい。

【関連記事】認知症になった親の不動産の売却手順は?成年後見制度を使った売却の流れや注意点

3-4.家族に財産管理の負担がかかる

家族信託は財産を家族が管理します。高度な知識を必要とする受託者を家族が担うということは、家族に財産管理の負担がかかるということです。

家族が財産を管理できるため、「家族」という身近な存在が財産を管理できるというメリットではあります。一方で老朽化した不動産を管理するには修繕や伐採などのメンテナンスや税金の支払い、売却する場合は不動産会社とのやりとりなど、様々な手間がかかります。

家族信託は余分な費用が発生しない一方で、財産を管理する家族には相応の負担がかかってしまう点には注意が必要です。

4.家族信託の活用例

ここまで家族信託のメリットや注意点について解説しました。家族信託の具体的な活用例を確認していきましょう。

4-1.高齢の親のために子供が財産を管理する

家族信託の代表例は、高齢の親の為に子供が財産を管理するという活用例です。

家族信託を活用すれば、面倒な手続きがなく、元気なうちから親の財産を子供が管理することができます。認知症になっていない間に管理を引き継ぐことで、これまでの管理方法や購入時の書類などをスムーズに引き継げる点はメリットと言えるでしょう。

家族信託を活用することで、仮に親が認知症になってしまっても子供が正しい判断で資産活用することが可能です。

【関連記事】放置している不動産、売却以外の有効活用方法は?5つの事例を紹介
【関連記事】相続した不動産を損せず売却する方法は?FPが解説する4つのポイント

4-2.代々承継している土地を孫に遺す

遺言を作成して財産の承継方法を決めた場合でも、財産を相続した人がどのように財産を活用するかまでは決められません。このような場合に家族信託を利用することで、孫の代まで財産の遺し方を決めることも可能です。

例えば、代々引き継いでいる土地を子供や孫へ遺していきたい場合、遺言を作成し、子供に土地を相続させた場合でも、子供が財産を孫に相続するどうかまでは決められません。

家族信託で事前に信託契約を結んでおくことで、信託された財産の引渡しの金額、タイミングを予め定めておくことができます。家族信託を利用することで財産を受け継ぎ、孫の代まで遺せる可能性を高めることが可能です。

まとめ

家族信託は財産管理をするための新しい仕組みです。財産の管理を家族で行えるという点は大きなメリットとなります。

今後、日本では高齢化が進み、高齢となった親の財産管理のニーズは更に増加することが予想されます。そのため、ますます家族信託の活用は広がっていく可能性が高いと言えるでしょう。

しかし、財産管理のプロではない家族が財産を管理することは大きな負担もかかります。家族信託を利用する際は、誰が管理を行うのか、どのような負担があるのか良く話し合い、慎重に信託内容を決めておく必要があるでしょう。

また、家族信託では様々な活用例があります。必要に応じて専門家と連携しながらご自身に一番あった活用方法を見つけることが大切です。

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中村 昌弘

都内の大学を卒業後にマンションディベローパーに就職。マンションディベロッパーでは、新築マンションの販売や中古不動産の仲介業務に従事する。 2016年に独立して、不動産関係の記事を中心としたライター業務としても活動。自身のマンションを売却した経験もあるため、プロの視点・一般消費者の視点と、両方の視点を持った記事が執筆できる点が強み。