認知症になった親の不動産の売却手順は?成年後見制度を使った売却の流れや注意点

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認知症になった方は判断能力の低下により、不動産の売買契約が困難となります。

不動産を所有する家族が認知症になってしまった場合、不動産の売却を行うには「成年後見人制度」を利用することとなります。

しかし、成年後見人制度を利用するには利益相反とならないように工夫しなければならず、実際の利用にはいくつかの注意点があります。

そこで今回は、認知症の方の不動産売却を検討している方向けに、成年後見人制度の詳細や制度を利用した不動産売却の流れ、注意点をご紹介します。

目次

  1. 親が認知症になる前に成年後見制度の相談を
  2. 成年後見制度とは
    2-1.成年後見制度には法定後見制度と任意後見制度がある
  3. 成年後見制度を使った不動産の売却手順
    3-1.親族内で後見人を誰にするか相談する
    3-2.申立書を作成・家庭裁判所へ申立てをする
    3-3.家庭裁判所の調査官が調査を行う
    3-4.家庭裁判所から後見人の選定を受け、成年後見制度の開始
    3-5.居住用不動産の場合は家庭裁判所の許可を得る
    3-6.不動産会社と媒介契約を結び、売却活動を開始
    3-7.売買契約を結ぶ
    3-8.不動産の決済・引き渡し
  4. 成年後見制度を利用した際の注意点
    4-1.成年後見人が希望通りに選出されないケースや「利益相反」の問題
    4-2.「利益相反」の状態になってしまったら
  5. まとめ

1.親が認知症になる前に成年後見制度の相談を

不動産は認知症という判断能力が低下している状態で、売却の契約をする事はできません。過去の裁判による判例で、認知症により意思能力が衰えた高齢者が不利な条件で不動産の売却をしてしまったケースでは契約が認められず無効となりました。

認知症になった親の権利が法的に守られる制度として「成年後見制度」があります。親が不動産を所有している場合は早めに成年後見制度について話し合っておきましょう。

既に認知症の場合は成年後見制度の法定後見制度、将来認知症になる心配がある場合は任意後見制度を検討してみましょう。

2.成年後見制度とは

成年後見制度は認知症や知的・精神障害などの理由で判断能力が不十分な方を保護する制度です。

判断能力が十分でない方は不動産や預貯金の管理や介護サービス・施設への入居、遺産分割の協議などが難しく、自身に不利益な契約を結んでしまう可能性があります。

悪徳商法の被害に遭う恐れもある事から、「成年後見制度」で認知症を始めとした知的・精神障害者等を保護し支援する必要があります。

2-1.成年後見制度には法定後見制度と任意後見制度がある

成年後見制度は法定後見制度と任意後見制度に分かれており、法定後見制度は更にその中で「後見」「補佐」「補助」の3つに分類されています。

分別の基準は主に判断能力で、判断能力が不十分の方は「補助」、判断能力が著しく不十分な方は「補佐」、判断能力が欠けている状態の方は「後見」となり、本人や配偶者、四親等内の親族などが家庭裁判所に申し立てをすることができます。

成年後見人に与えられる代理権の範囲は「補助」「補佐」が申し立ての範囲内で家庭裁判所が定める『特定の法律行為』であるのに対し、「後見」では財産に関するすべての法律行為となります。

一方、任意後見制度は本人が十分な判断能力があるうちに、自らが選んだ代理人(任意後見人)に自分の生活や療養看護、財産管理に関わる事務について代理権を与える契約(任意後見契約)を公正証書という公文書を作成し結んでおきます。

本人の判断能力が低下した際には、家庭裁判所が定める「任意後見監督人」の監督のもとで任意後見人が任意後見契約で定めた通りに代理で財産管理の業務を遂行することで、本人の意思を尊重した保護・支援を行うことができます。

親が認知症になる前に家族で任意後見制度について話し合っておくと、いざという時に適切な保護・支援を行う事が出来ますので覚えておきましょう。

3.成年後見制度を使った不動産の売却手順

成年後見制度を利用した不動産の売却手順を順番に見ていきましょう。

  1. 親族内で後見人を誰にするか相談する
  2. 申立書を作成・家庭裁判所へ申立てをする
  3. 家庭裁判所の調査官が調査を行う
  4. 家庭裁判所から後見人の選定を受け、成年後見制度の開始
  5. 居住用不動産の場合は家庭裁判所の許可を得る
  6. 不動産会社と媒介契約を結び、売却活動を開始
  7. 売買契約を結ぶ
  8. 不動産の決済・引き渡し

3-1.親族内で成年後見人を誰にするか相談する

基本的に親族が後見人になるケースが多いですが、弁護士や司法書士などの専門家、福祉関係の公益法人やその他の法人が家庭裁判所から選ばれる場合もあります。

複数の成年後見人を選ぶことも可能で、過去の事例では重度の認知症の方の長男と次女が近隣に住んでおり共同で世話を行っていたことから二人が成年後見人に認定されました。

また親族だけで財産管理を行う事が不安な場合は。専門家と共同で成年後見人として申し立てをする事も可能です。家庭裁判所に申立てをすることができるのは、本人や配偶者、四親等内の親族などに限られています。

3-2.申立書を作成・家庭裁判所へ申立てをする

成年後見制度の申立てには「後見開始申立書」や「親族関係図」「本人の財産目録」等の書類を提出します。

戸籍謄本や住民票、後見登記されていないことの証明書、医師の診断書も必要になりますので、事前に役所や法務局、医療機関で発行してもらいましょう。

収入印紙(申立て手数料・後見の場合800円+登記費用2,600円)や郵便切手(計3,700円分)の他、後見と補佐の場合は10万円程度の医師による鑑定費用もかかりますので、あらかじめ準備しておきましょう。

必要書類は各地域を担当する裁判所、もしくは裁判所のホームページからダウンロードする事が出来ます。書類の作成手続きが難しく感じる場合は、裁判所の窓口で相談してみましょう。

3-3.家庭裁判所の調査官が調査を行う

成年後見人の候補者と本人(被後見人)が家庭裁判所で調査官との面接を行います。面接では事情の聞き取り調査や成年後見制度に関する説明が行われ、調査官により候補者が成年後見人に適しているかを判断されます。

申立てから成年後見制度の開始までの期間は3~4ヶ月以内となっています。

3-4.家庭裁判所から成年後見人の選定を受け、成年後見制度の開始

家庭裁判所が審判を行い、適格と判断された場合は成年後見人として選定されます。法定後見の登記が行われ、正式に成年後見制度を開始する事ができます。

3-5.居住用不動産の場合は家庭裁判所の許可を得る

居住用の不動産の場合は成年後見人が家庭裁判所の許可を得る必要があります。居住用不動産にあたるかどうかは、本人の住民票に記載されているか、実際に生活をしているか等で判断されます。

被相続人が高齢者の場合、施設に入居していたり病院に入院しているケースが多く見られますが、現在だけではなく過去、未来においても本人の生活の拠点となる場合は「居住用不動産」と判断されますのでご注意ください。

家庭裁判所の許可を得ずに居住用の不動産を売却すると売買契約は無効になる可能性がありますので、必ず家庭裁判所に申立てを行いましょう。

申立てにあたっては申立書、不動産の全部事項証明書、売買契約書の案、評価証明書、不動産業者が作成した査定書、郵便切手(84円)と収入印紙(800円)が必要となります。

売却の必要性や本人の生活や看護の状況、売却条件や売却後の代金の保管などによって売却の可否を審判されます。非居住用不動産を売却する際は家庭裁判所の許可は不要です。

3-6.不動産会社と媒介契約を結び、売却活動を開始

不動産会社と媒介契約を結び、売却活動を開始します。媒介契約には三種類あり、それぞれ同時に売却を依頼できる不動産会社の数や、売却状況の報告義務の回数がことなります。

それぞれの契約には長所と短所がありますので、状況に合わせて契約する形態を選択しましょう。

項目 一般媒介契約 専任媒介契約 専属専任媒介契約
複数の不動産会社への依頼 × ×
自分で見つけた買主との単独契約 ×
指定流通機構への登録義務
販売活動の報告義務
契約期間 規制は無し 3ヵ月以内 3ヵ月以内

【関連記事】不動産売却を依頼する際の媒介契約、一般・専任・専属専任どれが良い?

また、売却を依頼する不動産会社を探す際は、1社だけでなく複数社に問い合わせることが大切です。

1社だけに売却を依頼すると、不動産の査定価格や営業マンの対応内容を比較することが出来なくなります。出来るだけ複数の不動産会社に査定を依頼し、査定結果や査定の根拠を比較検討するようにしましょう。

複数の不動産へ査定依頼する場合は、不動産一括査定サービスの利用が便利です。下記に主なサービスを表にまとめていますので、ご参考下さい。

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3-7.売買契約を結ぶ

不動産を購入する買主と売買契約を交わします。売買契約を結ぶ際は、成年後見人と買主が不動産会社で契約内容を確認し署名と捺印をします。

3-8.不動産の決済・引き渡し

不動産の決済は買主や成年後見人、専門家に依頼した際は専門家と共に、買主から事前に受け取った内金や中間金等を差し引いた売却代金を金融機関で受け取ります。

司法書士に所有権移転登記の書類を渡し、成年後見人または不動産会社立ち合いのもと買主に鍵を渡し、売却活動は終了です。

4.成年後見制度を利用した際の注意点

成年後見人制度は申請しても家族が選出されないケースがあります。資産が不動産以外にもあり、相続時の資産が大きな金額となる場合には家族間での大きなトラブルになる可能性があります。

次に、成年後見人制度を利用する際の注意点について見て行きましょう。

4-1.成年後見人が希望通りに選出されないケースや「利益相反」の問題

成年後見人は基本的に親族間で話し合い決定しますが、必ずしも申立人が希望する人が選任されるとは限りません。親族を選出する場合もあれば、弁護士や司法書士などの専門家が選出されるケースもあります。

また親族を成年後見人にした場合、「利益相反」という事態が起こる恐れがあります。成年後見人と成年被後見人の利害が相反する行為をいいます。

例えば、認知症の父親を持つ長男が成年後見人となっている間に、母親が亡くなり、相続問題が発生した場合、長男は成年後見人かつ相続人となります。

成年後見人(長男)は被後見人(父親)の意思を尊重し本人の利益を図る一方で、相続人として自身の利益を最大化する権利も持っています。この状況が「利益相反」の状態で、親族の場合は個人的感情も影響してしまう可能性もあります。

4-2.「利益相反」の状態になってしまったら

「利益相反」の状態に陥ってしまった時には成年後見人を追加で選定する、成年後見監督人を選定する、特別代理人を選任するという方法があります。

「成年後見監督人」とは成年後見人を監督する家庭裁判所に選任された者のことで、実際にはほとんどが弁護士や司法書士等の専門職や社会福祉協議会となります。成年後見監督人が被後見人の立場になり、遺産の分割協議を行います。

特別代理人は「利益相反」の状態になってしまった時に家庭裁判所に選任される者のことで、成年後見監督人と同じく被後見人の立場で遺産の分割協議に参加します。

成年後見監督人、特別代理人共に資格は特に必要はありませんが、被後見人との関係や利害関係の有無を考慮して適格性を判断されます。

「利益相反」という事態を防ぐために、あらかじめ成年後見人を複数選定しておく、成年後見監督人や特別代理人を選定しておくといった方法を検討しておきましょう。

まとめ

認知症になった親の不動産を売却するには、成年後見制度を利用し売却する必要があります。成年後見人として希望した者が選出されるとは限らず、成年後見人が親族の場合は「利益相反」という事態に陥ってしまう事もあります。

成年後見制度は判断能力が不十分になってしまった親を守ってくれる制度でもありますので、制度の詳細や制度を利用した不動産売却の流れを把握しておきましょう。

居住用不動産の場合は家庭裁判所の許可を得る事を忘れず、制度を利用して親の資産である不動産を売却していきましょう。

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田中 あさみ

経済学部在学中に2級FP技能士(AFP)の資格を取得。ライターとして不動産投資を含む投資や年金・保険・税金等の記事を執筆しています。医療系の勤務経験がありますので、医療×金融・投資も強みです。HEDGE GUIDEでは不動産投資を始め、投資分野等を分かりやすくお伝えできるよう日々努めてまいります。